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番外編

至って普通の初々しい番のイチャイチャ

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「ふぁー!疲れた!!」
「お疲れ様です、和麻さん。」

メールΩとメールβが結婚出来るシステムはこの世界のどこにもない。
それでもそういう幸せはあるんだと証明したくて、高校中退してからずっと引き籠りだった俺は、養子となってくれか淳也くんと共に社交界へと再び足を踏み入れることにした。
連日連夜のパーティー。
中位・下位の家から向けられる嘲笑の視線。
それらを耐えられたのは他らなぬ淳也くんの存在と―――

「案外、上位の家は俺と淳也くんのことに好意的でしたね。」

そう、好意的に受け入れてくれた、上位の家の存在だ。
皆口々におめでとうと祝福の言葉をくれた。
特に上位Ωの方々が。
勿論、社交辞令的なのが殆どだろうが、それでも素直に嬉しいと思ってしまった。

「まぁ、上位の方々は殆どがご学友ですし。」

スーツを脱いで普段着に着替えながら淳也くんが言った言葉に、はてさてそうだったっけと首を傾げる。
学生時代のことはあまり覚えてない。
正直ボッチだったし、一学年下だった淳也くん以外とあまり関わった記憶が無い。
そんな俺に着替え終わった淳也くんは苦笑すると、そっと頭を撫でて俺の着替えを手渡してくれた。

「スーツが皺になるので、着替えましょう。」
「はーい。」

もぞもぞと言われた通り着替えながら、ふわっと一つ欠伸をする。
普段は早寝早起きしてるから、日付変わると眠い。
しかも連日だし………今日でひと段落ついて、もう暫くはパーティーは無いらしいのが幸いだ。
まぁ、暫くってことはまたあるんだろうけど。

「………なぁに?」
「いいえ。あの、ぎゅっとしても?」

そう思いながらもぞもぞ着替えていると、ジッと視線を感じる。
この別宅はお手伝いさんも入れていない、俺と淳也くんの二人きりの空間なので当然見ているのは淳也くんだ。
着替え終わった後にスーツをスーツハンガーに掛けながらそう問えば、少しもじもじとしながら俺に向かって腕を伸ばす。
もう!可愛い!

「していいに決まってるでしょ!俺は淳也くんのお嫁さんですよ!」
「そうでした。もう和麻さんは俺のお嫁さんでした。」

すっとぼける淳也くんをぎゅうぎゅうと抱き締めれば、淳也くんはひどく嬉しそうに笑うから俺も嬉しくなる。
夢みたいな、幸せな時間。
ずっとずっと淳也くんと二人で欲しかった、幸せな時間。
嬉しくて鼻を鳴らしながら首筋に擦り寄れば、淳也くんが俺の項を優しく撫でてくれる。
嬉しい。
すごく好き。

「ねぇ、淳也くん。」
「はい?」
「好きですよ。」
「俺の方が好きです。」

抱き締める腕の力を込め、何故か俺の言葉に張り合ってくる。
本当に可愛い。
何で俺に張り合うんだよ、負けず嫌いなのかな?
可愛い。

「好きというよりも、愛してます。ずっと傍に居ますので宜しくお願い致します。」

俺を遠慮なくぎゅうぎゅうと抱き締めながらそんな事を丁寧に言うもんだから、ギャップが可愛くてたまらない。
こんな格好良くて可愛い人が旦那様とか、俺恵まれ過ぎでは?
嬉しくなって俺もギュッと抱き締め返す。

ずっとずっと、諦めてた温もり。

俺はメールΩで、彼はメールβだから。
彼にはきっと相応しいフィメールβが現れるから、好きになるだけ無駄だと思ってた。
でも淳也くんが甘やかしてくれるから。
そんなことを言い訳にして明確に距離を置くことも出来ず、ずるずると傍に居続けたけど、今なら思える。
手放さなくて、良かったと。

「俺も淳也くんを愛してるので、ずっとずっと宜しくお願い致します。」

俺の言葉に淳也くんは嬉しそうに笑って、俺の顔中にキスの雨を降らせてくれた。
好きって気持ちが溢れたキス。
じゃあ俺もお返しにと同じように何度もキスをしたら、何故か途中でスイっと顔を反らされる。
………え?俺調子に乗った?

「あ、いや、違うんですよ坊ちゃん!」
「………【坊ちゃん】じゃない。」
「ごめんなさい、和麻さん。あ、いやそうじゃなくて、違うんですよ………」

淳也くんは俺をぎゅうぎゅうと抱き締めると、またそっと俺の項を撫でた。
何故だろう。
さっきは平気だったのに、ぞくぞくとした【ナニカ】が背中を走ったように感じた。
思わず身体を震わせると、淳也くんが俺の首筋に鼻を埋めて思いっきり息を吸った。
鼻息を感じて、ぞくぞくする。
でもそれは不快感じゃなくて寧ろ―――

「はい、おしまい。」
「ふぇ?」

もっともっとと思っていると、淳也くんがそっと身体を離した。
何で?
思わず恨めしい表情を浮かべたら、何故か苦笑されて唇の端にキスをされた。
何だ。
一体何なのだ。

「あのですね、和麻さん。」
「はい。」
「俺達、夫夫なんですよ。分かります?」

そんなの分かってる。
分かってるのに、何で今更そんなことを言うのか理解出来ずに首を傾げる。
そうしたら何故か仕方ないなと顔をして、それから俺の頬にキスをしてくれた。
嬉しい。
もっとと思って顔を向ければ、淳也くんの表情がガラッと変わる。
ぺろりと舌なめずりをして、俺の目を見て来るそんな顔、見たことなくて―――

「………ひゃんっ!」

そう思っていたら、グッと腰を抱かれて更にお尻を軽く揉まれる。
びっくりしたのに甘えるような声が出てしまい、ここで俺は漸く淳也くんが言いたいことが分かってしまった。
そうだ、俺達は夫夫だから………しかもお互い好き合ってなった夫夫だからそう思って、当たり前なんだよね。

「じゅんや、くん」
「はい………」

ぺろっと淳也くんが俺の唇を舐める。
色っぽいって、こういうこというんだろうなと思った。
心做しかいつも感じているシトラスの匂いが濃くなっていつもより複雑になったような気がする。
その匂いを嗅いだ瞬間、俺は単純にもすごくえっちしたいって………思ってしまった。

「じゅんやくん。」
「はい、何でしょう和麻さん。」

でもとても口には出せなくて、甘えるように淳也くんの名前を呼ぶことしかできない。
腰から下がなんだか落ち着かなくて、もじもじとしてしまう。
そんな俺を分かってるのに、淳也くんは何だか微笑ましそうな表情をするだけで動いてくれない。
いじわるだと言いたかったけど、どうして?なんて聞かれたらますます恥ずかしいから俯いて誤魔化す。

「和麻。」

そうしたら、腰を抱いたまま更に淳也くんが顔を近付けて来る。
聞いたことない低く大人っぽい声で、俺の名前を呼んで。
キスされるんだと思った。
多分、いつもと違うやつ。
そう分かった瞬間、どうしたら良いか分からずに身体が固まってしまうのが自分でも分かった。
嫌って訳じゃ絶対ない。
でもどうしていいか本当に分からなくて、俺は思わず目を閉じた。

かぷっ
「………えっ?」
「ふはっ」

本でしか読んだことない未知の刺激に構えていたが、実際にされたのは鼻を噛まれただけだった。
かーるく、戯れみたいに。
何が起きたか分からずにぽかんとする俺に、淳也くんは耐え切れないといった感じで吹き出した。
なっ………
ななっ!

「からかったなぁ!」
「いえいえ、そういう訳じゃないですよ。ははっ。」

怒る俺を宥めるように抱き締めながら、淳也くんは否定する。
でも笑いっ放しだから、全然否定出来てないんだよ!
子供っぽいと分かってるけど、思わず頬を膨らませてしまう。
淳也くんはツボに入っているらしく、ひぃひぃと笑いながらそんな俺の頬を指で突く。
そんな笑い方する淳也くんも初めて見たが、こんな状況で見たかった訳ではない。
笑いが止まらない淳也くんを暫く放置していると、漸く落ち着いて来たのか深呼吸を一つしてから淳也くんは言った。

「………からかってる訳ではなく、本当にそうしたいと思ってますよ。」
「どうだか。」
「当たり前じゃないですか。初恋の人と結ばれて、しかも一生を約束する仲になれて、興奮しない訳がないです。」

初恋。
そんなの初耳だ。
折角引いた熱が、またぶり返してしまうじゃないか。
恐らくまた顔を赤くしたであろう俺の頬にキスを落とすと、淳也くんはゆっくりと、少しだけ距離を取った。
寂しいけど、ありがたい。

「でもね、ヒートになってないΩとの【そういうの】は、和麻さんが思ってるよりΩ側は恥ずかしくて負担が大きいんですよ。ですから慣れるまでおあずけです。貴方も、俺も。」

俺のことばかり考えている言葉に、何だか恥ずかしいけど嬉しい。
淳也くんも我慢するって言葉も。

「結構待たせちゃうかも。」
「構いませんよ、今更。俺がどれだけ我慢し続けたと思ってるんです。今まで我慢してたんだから、一日だろうが十年だろうが同じです。」
「んん?」

んんん???
あっさりと言われたけど、何か聞き逃せないこと言われた気がするんだが?
思わず首を傾げる俺の唇は、ぱっくりと食まれて舐められた。
………えっちじゃん!

「惚れた人と一緒に風呂入って寝て、ムラムラしなかった訳ないだろバーカ。まあ、止めませんけどね。」

さあ寝ますよと言われ、手を引かれる。
俺は返事をして大人しく着いて行くけど、頭の中ははてなでいっぱいだ。
そもそもこの短時間に見たことない淳也くん見過ぎてキャパオーバーなんだが。
しかも全部恰好良いのズルい。
淳也くんだから仕方ないか。

てか止めないって何を?
一緒にお風呂入るのと一緒に寝るのを?
考えれば一緒にお風呂入るのってめっちゃ恥ずかしくない?
え?今まで何で俺平気で出来てたの?

「和麻さん。」
「ひゃい!」
「明日も明後日も明々後日も、ずーっと一緒にお風呂入るので覚えておいてくださいね。」

にっこり。
そんな擬音が付きそうな程の笑顔で、淳也くんは俺の逃げ道を塞ぐ。
嬉しいやら、止めて欲しいやら。
どういう感情と返事が正解なのか分からなくて、結局俺は真っ赤な顔で頷くより他にはなかった。
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