スライム牧場番外編

かかし

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ナチオルド子爵令息の華麗なる転落⑩(⑭)

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少し時間を戻して会場入り前。

「腕を取って。抱き締めたいけど、流石に入場時には出来ないからね。」
「夜会の間我慢すれば良いのに。」

運命の夜会。
馬車を降りて早々にオズワルドはジェームズに手を伸ばした。
パートナーらしく、その手を恭しく取りながら馬車を降りる。
その際に少しだけヒールに足を取られてぐらついたけれど、それはオズワルドが自然な動作で支えてくれた。
こういうところ、悔しいけど本当に格好良い………。
ジェームズはそう思いながら、オズワルドの腕に手を乗せた。

「それは無理だな。愛した人が大衆の目に晒されると、囲いたくなってしまう。」
「心狭いな。」
「嫌いか?」
「いや………」

オズワルドの言葉にジェームズは呆れはしたが、嫌ではなかった。
寧ろ、今までの人生で誰にもそこまで想われたことがなかったから嬉しかった。
どうせ誰も見向きもしないのに。
多分、大勢の人間がじろじろと見るだろうけれど、きっとあまりの不釣り合いさと無様さが理由の筈だ。
だって侯爵領の一部を治めている市長が同性パートナーを連れて、挙句にそれが落ちこぼれの元子爵令息現平民なのだから。

「抱き着きたい位には、嬉しい。」

ちょっと伸びをして耳元近くでそう囁く。
人前だし素直じゃない言葉を言うだろうと思っていたジェームズの、(オズワルド的に)史上最高にあまりにも可愛らしい言動にオズワルドはカッと目を見開いた。
何この子、可愛い。
素直な言動を残ししつつ更に甘えることを覚えたジェームズは、オズワルドのツボを刺激しまくりである。
なんで外でそんなことするんだ。抱き締められないだろう。

「帰ったら抱き着いて。」
「良いよ。いっぱい抱き締めて。」

ジェームズはフッと微笑むと、真剣な顔で前を見据えた。
頭を切り替えて、パートナーとして相応しい立ち振る舞いをする為にスッと背筋を伸ばして立つ。
こういう場は苦手なんだと、言えないし言いたくなかった。
だって、オズワルドに選ばれたのだから。

ヒールを高らかに鳴らしながら、会場を歩く。
誰も彼もが好奇と嫌悪の目で、ジェームズを見て囀っている。
《ナチオルド子爵の落ちこぼれ》《転落した無様な親不孝者》
泣いて逃げ出したくなる。
でもジェームズはオズワルドの腕に添えた掌に力を込めるだけして、その衝動を抑えた。

「逃げたい?」
「少し。でも、オズが居るから大丈夫だ。………顔色、悪くなってないか?」
「全然。いつも通り可愛いよ。」

オズワルドの軽口はスルーして、ジェームズは共に参加者に挨拶をしていく。
じろじろと不躾な視線を浴びせてくる者は、オズワルドの視線次第で軽くあしらう。
勿論、益になる存在にはとびきりの愛想を振りまいたが。

「ジェームズ!」
「えっ………団長?」

そして漸く挨拶がひと段落ついたので少し休もうかとした時に、聞き慣れた声に呼ばれてジェームズは驚き目を見開いた。
王都の騎士団長が、まさかこんな場所に居るだなんて思わなかったからだ。
だが、ここはただコネクション獲得だけでなく愛人や配偶者を見繕う場にも使われるので、独身の彼が居るのもおかしくないかと思い直す。
ただ少し嫌だなと思ったのは、オズワルドのパートナーとして居るのに親し気に名前を呼ばれたことだ。
公の場だから、その辺の線引きが大事なことは分かるだろうに―――
思わずジェームズはムッとした表情をしてしまう。
要らぬ隙など与えたくないのに、隙そのものがこっちに来るのだから嫌になる。

「お久しぶりです、団長。どうかこの場ではモリス夫人とお呼びください。」
「あ、ああ………すまない………」

ジェームズの心底嫌そうな表情と凛とした言葉に、団長は一瞬怯んだ。
騎士団在籍時代に、こんな対応をされたことがなかったからだ。
どこかピリッとした空気に、周りの貴族や商人達の好奇心が増していく。
落ちこぼれを挟んだ三角関数か。或いは、モリス市長を挟んだものか。
どっちに転んでも、いいゴシップだった。
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