スライム牧場番外編

かかし

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ナチオルド子爵令息の華麗なる転落⑫(⑯)

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「団長があんなに空気読まない人だとは思わなかった!」

夜会を無事に乗り切り連れ立って馬車に乗った途端に、ジェームズはフーッフーッと怒りの声を上げ始めた。
猫妖精ケットシーのようで愛らしいなと思いながら、オズワルドはジェームズの膝の上に座らせて頭を撫でて宥めてやった。
憧れていた分、ショックが大きいのだろう。

「ほらほら落ち着いて。ジムの機転のおかげで無事に乗り切れてた訳だし、いつまでも他の男のことを考えるんじゃない。」

オズワルドに恥をかかせた!とかなりお怒りのジェームズだったが、そう言われてちょっとだけ機嫌を直した。
ぽんぽんと背中を叩かれ撫でられ、慣れない夜会での緊張に心が疲弊していたのかジェームズは少しうとうととし始める。
ここで眠いのか?なんて指摘をしようものならば意地になって起きてしまうので、オズワルドは気取られないように寝かしつけの体勢に入った。
イチャイチャとしたかったが、今日一番頑張ってくれたのはジェームズだ。
慣れない夜会。慣れないヒール。
浴びせられる好奇と嫌悪の視線。
本当に頑張ってくれた。

「ありがとう、ジム。」
「なにが。」
「頑張ってくれて。」

オズワルドが笑いながらそう言えば、ジェームズは嬉しそうに太い首に抱き着いた。
筋肉質で温かい身体に抱き締められて、頭がふわふわとしてくる。
麻薬か?
麻薬かもしれない。
オズワルドの肩に顎をぽんと乗せながら、ジェームズはふわりと一つ欠伸をする。
そのままぺっとりと頭を懐かせるものだから、オズワルドは興奮からの身体の震えを抑えるのに必死になる程度には悶えた。
俺のパートナーが、抜群に可愛い。

「俺は、」
「うん。」
「オズのパートナーだから。頑張るのは嫌じゃない。」

眠気でとろとろの声でそう言いながら、ジェームズはぐりぐりと首筋に頭を擦り付ける。
オズワルドはくすぐったいなと思いつつも、ジェームズの素直な愛情表なので何も言わずに受け入れながら撫でてやる。
暫くは【んー】だの【むー】だの唸っていたかと思えば、やがて眠ったのか呼吸が穏やかになった。
力が抜けたから、重さも感じる。
鍛えている成人男性一人分だ。
余裕ぶっていても重いものは重いのだが、不思議と苦ではない。

「おかえりなさいませ、旦那様。」
「ああ、ただいま。」

家に着いて馬車から降りれば、留守を任せていた使用人が出迎えてくれた。
通いの使用人の中で特に信頼している者だ。
余計な詮索はしないし、良い意味で主人に興味が無い使用人だ。
今も扉を開く程度の手伝いはしてくれるものの、全部終わったらとっとと帰り支度をしている。

「それでは。お休みなさいませ。」
「ああ。いつもすまないね。ゆっくりお休み。」

そうしてオズワルドがジェームズを夜着を着せてベッドに寝かしつけたのを見届けた後、さっさと帰宅していた。
いや、これ見届けじゃなくて見張りだなとオズワルドは思いつつ、全てを脱いで素肌のまま夜着用ローブだけを身に纏い布団に入る。
オズワルド自身も、夜会は得意ではなかったのだ。

「は?はぁぁぁあ!?」
「なっ!どうした、ジェームズ!?」

疲れからそのまま眠りについたオズワルドは、数時間後、ジェームズのつんざくような悲鳴によってたたき起こされた。
何事か。
泥棒か強盗か、刺客か。
何の気配がしなかった………オズワルドは無自覚に舌打ちをしながら飛び起きて―――

「は?」

ジェームズを見て、驚愕の声を上げた。
正確には、ジェームズにぴっとりと寄り添う存在に。
何度も言うが、何の気配もしなかった。
しかも戸締りだってキチンとしていたし、あの使用人だって帰る前に確認をしていた筈だ。

「す………スライム?」

それなのに、びっくりした様子でジェームズの後ろに隠れて居るのは、確実に前日までは居なかった筈のグリーンスライムとクリアスライムだった。
ウィルのところのハームンドよりも小さく見えるが………一体、どこから入った?

「焦った………寝返り打とうとしたら変な違和感があって起きたんだが………潰すかと思った………。」

ジェームズはそう言って、オズワルドを見ながら後ろに隠れているグリーンスライムをヒョイッと片手で抱き上げた。
掌よりは大きいが、持てない訳ではない大きさ。
ウィルやアーサーのところの子供達も今より小さかったとのことだったし、野生種はもっと大きさがある。
つまりこの子達は、赤ん坊なのだろう。

「どこの子だ?」
「さぁ?おいで、おチビちゃん。」

オズワルドが手を伸ばせば、クリアスライムはおずおずとその手の上に乗った。
拳を握ってグッと力を少し入れるだけで潰れてしまいそうな小ささに、ゾッとした恐怖が背中を走った。
儚い生命なんだから、もっと警戒心抱きなさい。

「迷子かもしれないな。」

スライム種は群れで行動する。
こんな赤ん坊だけを1匹にしておく訳が無いので、はぐれたか捨てられたか………或いは群れが消えたかのどれかだろう。

「オズ。」
「ん?」
「今日、ウィルの所に行きたい。保護するにしても、何を食うか聞かないと。」

母性が生えてきたのかなんなのか。
ジェームズはグリーンスライムを抱えたままそう言った。
まぁ元々、スライムを見下してはいたが嫌悪はしていなかったのだ。
更にジェームズにはハームンドに懐かれた記憶がある。
騎士団に居た頃ならまだしも、精神的に落ち着いている今、こんな小さな存在を無碍に扱うという思考が出てこなかったのだ。

「そうだね。俺から先触れは出しておこう。早馬を出せばすぐだ。昼頃に行きなさい。本当は付き合いたいのだが………。」
「いいよ。仕事の方が大事だ。」

オズワルドの言葉にジェームズはそう返すと、頬にキスをした。
最初は恥ずかしがっていたのに、今では当たり前のようにしてくれる。
調教の賜物………否、愛情の賜物である。
どこか誇らしい気持ちになりながら、オズワルドはジェームズの頬にキスを落とした。
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