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第一章 覚醒
第5話 #異世界行って見た #木と泉
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「ん~簡単ではありませんよ~? 今の悠斗君なら行けるかな~って思ったんだけど~」
そう言って沙織さんは悠菜を見た。
「愛美と蜜柑は私が一緒に居るから、悠斗に見せてあげたら良い」
そう言って悠菜は愛美と蜜柑の前に立った。
「え? もしかしてお兄ちゃん、今から異世界へ行くの⁉」
「愛美ちゃんは蜜柑ちゃんと待っていてね~? 今の悠斗君なら連れて行けるの~」
「う、うん……分かった」
愛美が心配そうに俺を見るが、悠菜に大丈夫だと言う様にそっと抱かれた。
「じゃあ、悠斗君ついて来て~」
「あ、うん」
俺が沙織さんについて行くと、そのまま家を出て沙織さんの家へ向かう。
家の前の道を曲がって暫く歩くと、沙織さんの敷地に植えた高い生垣に沿って暫く歩く。
間もなく沙織さんの家に着くが、俺はあまりここへ来た事が無い。
愛美は何度か来ている様だが、俺にはここへ来る用事など無かったのだ。
「で、でっけー!」
「あらそ~?」
やはり近くで見るとその家は大きい。
洋館の様だがその高さは四、五階建てのビル位ありそうだ。
「さ、入って~」
「あ、うん」
玄関へ入るとそこはホテルのロビーの様で、正面左には広い階段があった。
その階段を上がって二階へ来ると、沙織さんに勧められるがまま近くの部屋に入った。
そこには特に家具等は置いて無く、駄々っ広い広間だった。
そして直ぐに気づいたのは、床に描かれた魔法陣の様な幾何学模様である。
「沙織さん、これは?」
「うんうん~ここへ立ってね~」
そう言って俺の手を引くと、魔法陣の中央へ立った。
その時、沙織さんが祝詞を唱えると辺りの視界がパーッと光り輝き出した。
(なっ、なに⁉)
眩しさに一瞬目を閉じて、直ぐにその目を開けた時には辺りは一変していた。
目の前に遥か彼方まで広がる草原と、清々しく青い空が広がっていた。
「なっ、なにここっ⁉」
「ここがエランドールよ~そして、これが私と悠斗君が生まれた場所~」
「俺と沙織さんが……」
そう言われて見たその先には、見た事も無い大きな木とその根元に光り輝く泉がある。
「あ、あそこっ⁉」
沙織さんは微笑んで頷いた。
しかし、何と無くだがこの光景を見た記憶がある。
(デジャヴ?)
そして、ずっと向こうに真っ白な建物がある事に気付いた。
そこだけじゃない、向こうにも建物がある。
「沙織さん、あれは?」
「あれはそうね~神殿と言えば分かりやすいかな~?」
「神殿……?」
そう言えば、あんな建物の柱を見た覚えがある。
歴史書だったっけかな。
それよりも、空気が良い。
既に俺の脳内解析は済んでいる様で、潜在意識では目新しいとの判断はしていない様だ。
やはり、この場所は初めて来た場所では無いという事か?
俺はもう一度大きな木と泉を眺めた。
「あの泉で啓子さんの染色体と~私とユーナちゃんと、セリカちゃんの染色体も使って悠斗君は生まれたのですよ~」
「え……よ、四人の染色体っ⁉」
てか、セリカちゃんて誰よっ!
「あの泉は生命の泉って呼ばれてて~悠斗君のお母さんは誰かってなると、あそこになるのよ~?」
「そうだったんだ……」
不意に、さっき沙織さんの産道を思い出そうとしていた自分が恥ずかしくなった。
「私もあそこで生まれたから、地球で言えば悠斗君と私は姉弟って事になるね~」
「あ、そうなんだ……」
沙織さんは嬉しそうな笑顔でそう言うが、俺にとっては何とも複雑な気持ちだ。
沙織さんが憧れの女性だもん……お姉ちゃんに恋しちゃダメでしょ?
「あれあれ~? 何だか残念そうな表情ね~」
「あ、いやいや! 嬉しいってばっ!」
「ん~嘘は下手ね~悠菜ちゃんの様な無表情も覚えないとね~」
「え……あれを覚えるの?」
「うんうん~きっと必要になるわよ~?」
「そうかなぁ~」
あれが必要になるとは到底思えないが。
そんな事を話しながら、俺と沙織さんはゆっくりと泉の前まで歩いて来た。
「ね、悠斗君。ちょっとだけ、この泉に触れてみて~?」
「え? 触れるって、手を入れて良いの?」
何だか凄く神聖な気がしてならない。
俺が手を入れても良いのだろうかと躊躇してしまう。
「勿論ですよ~こんなに成長した悠斗君を報告してあげて?」
「あ、はい」
そう言われて泉にそっと手を入れてみた。
水……じゃない?
水よりももっとトロッとしている感じだ。
かと言ってベトベトしている感じでも無い。
そう思っていたその時、泉に触れた手がジンジンと何かを感じた。
(なっ、なにっ⁉)
次の瞬間、全身に強い衝撃が走る。
頭の中に行き成り数多くのファイルが、バタバタと絶え間なく開く様な感じ。
例えると、まるでPC画面が悪いウィルスに感染した様な現象?
いや、実際には見た事は無いんだけど、そんな感じがしてる。
頭のどこかでは凄く焦っているんだけど、俺本体は身を任せてたりと変な感じ。
「あ、きっとそれはギフトなのよ~」
「え? ギフト?」
「ええ~地球で例えると~成人のお祝いって言うのかな~?」
「そ、そうなの?」
ギフトと言われても、何を貰ったのかはさっぱり分からない。
「さてと、あんまり長居しちゃうと面倒だから~行きましょ~?」
「え、あ、はい!」
沙織さんはそう言って俺の手を取った。
その瞬間、全身に軽い電気が走った様な感覚があった。
(――っ!)
静電気の様な痛みは無い。
だが、直ぐに辺りの変化に気付いた。
沙織さんに手を繋がれたままの俺は、いつの間にか神殿の祭壇の前に居たのだ。
「じゃあ、戻りましょ~ここに入って~」
「こ、ここっ⁉」
「心配しないで大丈夫~」
(って、ここに入るのっ⁉ てか、ここに入れるのっ⁉)
祭壇の上の靄を見つめる。
微かに蠢いているが、沙織さんが俺に危険な事をさせる筈は無い。
意を決してその靄へ頭から上半身を突っ込んだ。
その途端、沙織さんに手を繋がれたのは分かったが、全身の重力が消えた。
(なっ! 何これっ!)
そう思った次の瞬間、俺はあの魔法陣の真ん中に沙織さんと立っていた。
「さーてと、お家へ戻りましょ~」
「あ、うん……」
沙織さんが俺の顔を見てそう言うが、もう何がどうなって異世界へ行ったのか理解出来ない。
動揺して足が縺れるのを悟られまいと堪えらがら沙織さんの後を追う。
理解出来無い事も多いが、まあ慌てる事は無いか。
これから追々訊くとしよう。
その後、愛美達の待つ部屋に来たのだが、彼女達はビックリした表情で俺と沙織さんを見た。
「えっ? お兄ちゃん、行かなかったのっ?」
「ん? 行って来たよ?」
「異世界だよねっ? 生まれた場所見に行ったんでしょ?」
「うんうん、見て来たよ? すっげー綺麗なとこ」
「そうなの? 何だかすぐ帰って来たからびっくりしたー」
「え? そうだった?」
そう言われて壁の時計を見たが、出て行った時間を見て無かったし、良く分からん。
「あ~理解出来ない所も多いとは思うけど~この世界とは別の次元にある場所なの~」
「こことは時間の概念が違う」
沙織さんの後に悠菜が付け加えたが、それでも俺達には理解出来ない。
「何だか、凄いんだね~!」
愛美は理解する事を諦めた様だ。
俺も同じ様なものだが。
「ま、まあ、なんだ。家族会議ってこの事だったのか~」
「ええ~そうです~」
「俺はてっきり悠菜も年頃だし、俺との同居に色々問題もあるのかなとか、あれこれ考えちゃってたよ」
「え~? あ、それって、繁殖行動とか~?」
「え?」
「は、はんしょくこーどー?!」
愛美がびっくりした表情で声を上げた。
しかし沙織さん、ハッキリ言うなあ。
まあ、地球人じゃないからかもな。
でも愛美はまだ高校二年生ですよ?
「あ、違った? えっと~生殖行為?」
「いや、沙織さん、言い方変えても……」
「せ、せいしょくこういって……」
「ん~性交? あ、セックス?」
「――っ‼‼」
沙織さんが追い打ちをかけてそう言うと、愛美はハッと悠菜を見たがすぐに下を向いた。
そのちょっとした間が、永い沈黙の様に感じた。
「ま、まあ、俺達も子供じゃないしさ! あれだよね!」
そう言って沈黙を破って見たが、あれって何だ?
何を言ってるんだか、俺は。
そもそも、言ってみたものの、あれってのが良く分からん。
「悠斗くんと悠菜ちゃんが良いなら、それもアリなのかな~?」
「え、えーっ!」
俺が声を上げる前に、愛美が声を上げた。
「そ、そんなのアリなのっ⁉」
あ、ありとかないとか、そこじゃないでしょ、愛美さん。
「その辺りは、本人同士の自由では~?」
「う……そ、それはそうだけど」
そう言われた愛美は言い返せない様だが、横の悠菜は相変わらずの無表情だ。
やっぱ、こいつすげーわ。
あー本当は年上だしな。
も、もしかしたら、もうあれは経験済みとか⁉
それも年上ならあり得るよな……。
「建て前は、ユーナちゃん達の種族存続が名目だしね~」
「だ、だからって、お兄ちゃんとお姉ちゃんが……」
愛美は絶句して下を向いているが、沙織さんは屈託のない笑顔で、愛美の顔を下から覗き込んでいる。
それに、建て前ってなにさ。
(あ、もしかして愛美を弄ってる?)
うん、あの表情は間違いない、沙織さん遊んでるわ。
(この流れで弄ぶんだ……)
「まあ、悠斗くんは男の子だけどね~ユーナちゃんとも仲良くして欲しいし、愛美ちゃんとも仲良くして欲しいから~」
「な、仲は良い……と思う」
俺は悠菜と愛美を交互に見ながらそう言った。
これまで喧嘩などした事無いしな。
そもそも、この二人と喧嘩になる原因が生じない。
「その辺りは、今まで通りでいいんじゃな~い? ね、ユーナちゃん?」
悠菜は無表情のまま頷いた。
「わ、わたしはお兄ちゃんと血が繋がってるんだよね?」
愛美が恐る恐る沙織さんにそう訊いた。
「悠斗くんと血縁関係が無いとは言えないかもだけど~こちらでの兄妹血縁とはかなり違いますよ~?」
「え? そうなの?」
「あ、悠斗くんと繁殖行為も問題なく出来る筈ですよ~? そもそも近親相姦とは~」
「ぶっ!」
「えっ! ちょ、ちょっと沙織さんっ! そんなことっ!」
思い切り飲み物吹き出しちまった。
鼻からも出たし、目頭と言うか鼻の奥がツンと痛む。
しかし、まさか沙織さんがこんなストレートに愛美を弄るとは……。
「でね、悠斗君」
「あ、はい?」
沙織さんが急に真面目な表情になって俺の目を見た。
「最近の身体の変化を教えてくれない~?」
「え? 変化?」
「うんうん~私には悠斗君の変化がハッキリと分かるんだけど~分かる範囲でいいので~口頭で教えて欲しいの~」
(え? 俺の変化分かるんだ⁉)
「そう言われても、何か変かあったかな……あっ、あれかな?」
俺は昼間感じたあの女性のログを話し始めた。
あれは確かに新しい変化と言える。
そして、目の前の沙織さんと悠菜の数値が見えるのもそうだ。
少し意識して沙織さんを見ると、新たにログが流れる。
(ルーナ……)
やはり沙織さんの別名が表示された。
だが、愛美のログと違って、沙織さんの全ては理解出来なかった。
見た事も無い言語で表示されてある箇所が多いのだ。
そしていい機会だと思い、毎朝感じる体温と室温の差や、外気中の成分を感じる事を話した。
これは前に話した事があったが、今ではハッキリと理解出来る様になっている事を話した。
他にも両親や愛美、悠菜や沙織さんが近くに居たらその方向や距離、自分の位置からの高低差等が分かる事等を付け加えた。
「今はその位かな?」
「ん~そっか~」
沙織さんは悠菜と目を合わせると、ニッコリと微笑んだ。
「って、なにそれー! お兄ちゃん凄いじゃん!」
それまで大人しく俺の話を聞いていた愛美がいきなり声を上げた。
「そっ、そう?」
「うんっ! やっぱり、お兄ちゃんエスパーだったんだっ!」
「はぁ? エスパー?」
「だってさ、昔あたしが迷子になっても、すぐにお兄ちゃんが見つけてくれたじゃん?」
「あーそんなこともあったなー」
「かくれんぼしても、後ろから脅かそうとしても絶対に気がついちゃうし」
「あーまあな」
「あの時、あたしは絶対にお兄ちゃんには敵わないって思った……」
「なんだそりゃ」
こいつはいつか俺と戦うつもりでいたのか?
ともあれ、こうして思いがけず真実を知った俺の、ハイブリッドな生活が始まった。
そう言って沙織さんは悠菜を見た。
「愛美と蜜柑は私が一緒に居るから、悠斗に見せてあげたら良い」
そう言って悠菜は愛美と蜜柑の前に立った。
「え? もしかしてお兄ちゃん、今から異世界へ行くの⁉」
「愛美ちゃんは蜜柑ちゃんと待っていてね~? 今の悠斗君なら連れて行けるの~」
「う、うん……分かった」
愛美が心配そうに俺を見るが、悠菜に大丈夫だと言う様にそっと抱かれた。
「じゃあ、悠斗君ついて来て~」
「あ、うん」
俺が沙織さんについて行くと、そのまま家を出て沙織さんの家へ向かう。
家の前の道を曲がって暫く歩くと、沙織さんの敷地に植えた高い生垣に沿って暫く歩く。
間もなく沙織さんの家に着くが、俺はあまりここへ来た事が無い。
愛美は何度か来ている様だが、俺にはここへ来る用事など無かったのだ。
「で、でっけー!」
「あらそ~?」
やはり近くで見るとその家は大きい。
洋館の様だがその高さは四、五階建てのビル位ありそうだ。
「さ、入って~」
「あ、うん」
玄関へ入るとそこはホテルのロビーの様で、正面左には広い階段があった。
その階段を上がって二階へ来ると、沙織さんに勧められるがまま近くの部屋に入った。
そこには特に家具等は置いて無く、駄々っ広い広間だった。
そして直ぐに気づいたのは、床に描かれた魔法陣の様な幾何学模様である。
「沙織さん、これは?」
「うんうん~ここへ立ってね~」
そう言って俺の手を引くと、魔法陣の中央へ立った。
その時、沙織さんが祝詞を唱えると辺りの視界がパーッと光り輝き出した。
(なっ、なに⁉)
眩しさに一瞬目を閉じて、直ぐにその目を開けた時には辺りは一変していた。
目の前に遥か彼方まで広がる草原と、清々しく青い空が広がっていた。
「なっ、なにここっ⁉」
「ここがエランドールよ~そして、これが私と悠斗君が生まれた場所~」
「俺と沙織さんが……」
そう言われて見たその先には、見た事も無い大きな木とその根元に光り輝く泉がある。
「あ、あそこっ⁉」
沙織さんは微笑んで頷いた。
しかし、何と無くだがこの光景を見た記憶がある。
(デジャヴ?)
そして、ずっと向こうに真っ白な建物がある事に気付いた。
そこだけじゃない、向こうにも建物がある。
「沙織さん、あれは?」
「あれはそうね~神殿と言えば分かりやすいかな~?」
「神殿……?」
そう言えば、あんな建物の柱を見た覚えがある。
歴史書だったっけかな。
それよりも、空気が良い。
既に俺の脳内解析は済んでいる様で、潜在意識では目新しいとの判断はしていない様だ。
やはり、この場所は初めて来た場所では無いという事か?
俺はもう一度大きな木と泉を眺めた。
「あの泉で啓子さんの染色体と~私とユーナちゃんと、セリカちゃんの染色体も使って悠斗君は生まれたのですよ~」
「え……よ、四人の染色体っ⁉」
てか、セリカちゃんて誰よっ!
「あの泉は生命の泉って呼ばれてて~悠斗君のお母さんは誰かってなると、あそこになるのよ~?」
「そうだったんだ……」
不意に、さっき沙織さんの産道を思い出そうとしていた自分が恥ずかしくなった。
「私もあそこで生まれたから、地球で言えば悠斗君と私は姉弟って事になるね~」
「あ、そうなんだ……」
沙織さんは嬉しそうな笑顔でそう言うが、俺にとっては何とも複雑な気持ちだ。
沙織さんが憧れの女性だもん……お姉ちゃんに恋しちゃダメでしょ?
「あれあれ~? 何だか残念そうな表情ね~」
「あ、いやいや! 嬉しいってばっ!」
「ん~嘘は下手ね~悠菜ちゃんの様な無表情も覚えないとね~」
「え……あれを覚えるの?」
「うんうん~きっと必要になるわよ~?」
「そうかなぁ~」
あれが必要になるとは到底思えないが。
そんな事を話しながら、俺と沙織さんはゆっくりと泉の前まで歩いて来た。
「ね、悠斗君。ちょっとだけ、この泉に触れてみて~?」
「え? 触れるって、手を入れて良いの?」
何だか凄く神聖な気がしてならない。
俺が手を入れても良いのだろうかと躊躇してしまう。
「勿論ですよ~こんなに成長した悠斗君を報告してあげて?」
「あ、はい」
そう言われて泉にそっと手を入れてみた。
水……じゃない?
水よりももっとトロッとしている感じだ。
かと言ってベトベトしている感じでも無い。
そう思っていたその時、泉に触れた手がジンジンと何かを感じた。
(なっ、なにっ⁉)
次の瞬間、全身に強い衝撃が走る。
頭の中に行き成り数多くのファイルが、バタバタと絶え間なく開く様な感じ。
例えると、まるでPC画面が悪いウィルスに感染した様な現象?
いや、実際には見た事は無いんだけど、そんな感じがしてる。
頭のどこかでは凄く焦っているんだけど、俺本体は身を任せてたりと変な感じ。
「あ、きっとそれはギフトなのよ~」
「え? ギフト?」
「ええ~地球で例えると~成人のお祝いって言うのかな~?」
「そ、そうなの?」
ギフトと言われても、何を貰ったのかはさっぱり分からない。
「さてと、あんまり長居しちゃうと面倒だから~行きましょ~?」
「え、あ、はい!」
沙織さんはそう言って俺の手を取った。
その瞬間、全身に軽い電気が走った様な感覚があった。
(――っ!)
静電気の様な痛みは無い。
だが、直ぐに辺りの変化に気付いた。
沙織さんに手を繋がれたままの俺は、いつの間にか神殿の祭壇の前に居たのだ。
「じゃあ、戻りましょ~ここに入って~」
「こ、ここっ⁉」
「心配しないで大丈夫~」
(って、ここに入るのっ⁉ てか、ここに入れるのっ⁉)
祭壇の上の靄を見つめる。
微かに蠢いているが、沙織さんが俺に危険な事をさせる筈は無い。
意を決してその靄へ頭から上半身を突っ込んだ。
その途端、沙織さんに手を繋がれたのは分かったが、全身の重力が消えた。
(なっ! 何これっ!)
そう思った次の瞬間、俺はあの魔法陣の真ん中に沙織さんと立っていた。
「さーてと、お家へ戻りましょ~」
「あ、うん……」
沙織さんが俺の顔を見てそう言うが、もう何がどうなって異世界へ行ったのか理解出来ない。
動揺して足が縺れるのを悟られまいと堪えらがら沙織さんの後を追う。
理解出来無い事も多いが、まあ慌てる事は無いか。
これから追々訊くとしよう。
その後、愛美達の待つ部屋に来たのだが、彼女達はビックリした表情で俺と沙織さんを見た。
「えっ? お兄ちゃん、行かなかったのっ?」
「ん? 行って来たよ?」
「異世界だよねっ? 生まれた場所見に行ったんでしょ?」
「うんうん、見て来たよ? すっげー綺麗なとこ」
「そうなの? 何だかすぐ帰って来たからびっくりしたー」
「え? そうだった?」
そう言われて壁の時計を見たが、出て行った時間を見て無かったし、良く分からん。
「あ~理解出来ない所も多いとは思うけど~この世界とは別の次元にある場所なの~」
「こことは時間の概念が違う」
沙織さんの後に悠菜が付け加えたが、それでも俺達には理解出来ない。
「何だか、凄いんだね~!」
愛美は理解する事を諦めた様だ。
俺も同じ様なものだが。
「ま、まあ、なんだ。家族会議ってこの事だったのか~」
「ええ~そうです~」
「俺はてっきり悠菜も年頃だし、俺との同居に色々問題もあるのかなとか、あれこれ考えちゃってたよ」
「え~? あ、それって、繁殖行動とか~?」
「え?」
「は、はんしょくこーどー?!」
愛美がびっくりした表情で声を上げた。
しかし沙織さん、ハッキリ言うなあ。
まあ、地球人じゃないからかもな。
でも愛美はまだ高校二年生ですよ?
「あ、違った? えっと~生殖行為?」
「いや、沙織さん、言い方変えても……」
「せ、せいしょくこういって……」
「ん~性交? あ、セックス?」
「――っ‼‼」
沙織さんが追い打ちをかけてそう言うと、愛美はハッと悠菜を見たがすぐに下を向いた。
そのちょっとした間が、永い沈黙の様に感じた。
「ま、まあ、俺達も子供じゃないしさ! あれだよね!」
そう言って沈黙を破って見たが、あれって何だ?
何を言ってるんだか、俺は。
そもそも、言ってみたものの、あれってのが良く分からん。
「悠斗くんと悠菜ちゃんが良いなら、それもアリなのかな~?」
「え、えーっ!」
俺が声を上げる前に、愛美が声を上げた。
「そ、そんなのアリなのっ⁉」
あ、ありとかないとか、そこじゃないでしょ、愛美さん。
「その辺りは、本人同士の自由では~?」
「う……そ、それはそうだけど」
そう言われた愛美は言い返せない様だが、横の悠菜は相変わらずの無表情だ。
やっぱ、こいつすげーわ。
あー本当は年上だしな。
も、もしかしたら、もうあれは経験済みとか⁉
それも年上ならあり得るよな……。
「建て前は、ユーナちゃん達の種族存続が名目だしね~」
「だ、だからって、お兄ちゃんとお姉ちゃんが……」
愛美は絶句して下を向いているが、沙織さんは屈託のない笑顔で、愛美の顔を下から覗き込んでいる。
それに、建て前ってなにさ。
(あ、もしかして愛美を弄ってる?)
うん、あの表情は間違いない、沙織さん遊んでるわ。
(この流れで弄ぶんだ……)
「まあ、悠斗くんは男の子だけどね~ユーナちゃんとも仲良くして欲しいし、愛美ちゃんとも仲良くして欲しいから~」
「な、仲は良い……と思う」
俺は悠菜と愛美を交互に見ながらそう言った。
これまで喧嘩などした事無いしな。
そもそも、この二人と喧嘩になる原因が生じない。
「その辺りは、今まで通りでいいんじゃな~い? ね、ユーナちゃん?」
悠菜は無表情のまま頷いた。
「わ、わたしはお兄ちゃんと血が繋がってるんだよね?」
愛美が恐る恐る沙織さんにそう訊いた。
「悠斗くんと血縁関係が無いとは言えないかもだけど~こちらでの兄妹血縁とはかなり違いますよ~?」
「え? そうなの?」
「あ、悠斗くんと繁殖行為も問題なく出来る筈ですよ~? そもそも近親相姦とは~」
「ぶっ!」
「えっ! ちょ、ちょっと沙織さんっ! そんなことっ!」
思い切り飲み物吹き出しちまった。
鼻からも出たし、目頭と言うか鼻の奥がツンと痛む。
しかし、まさか沙織さんがこんなストレートに愛美を弄るとは……。
「でね、悠斗君」
「あ、はい?」
沙織さんが急に真面目な表情になって俺の目を見た。
「最近の身体の変化を教えてくれない~?」
「え? 変化?」
「うんうん~私には悠斗君の変化がハッキリと分かるんだけど~分かる範囲でいいので~口頭で教えて欲しいの~」
(え? 俺の変化分かるんだ⁉)
「そう言われても、何か変かあったかな……あっ、あれかな?」
俺は昼間感じたあの女性のログを話し始めた。
あれは確かに新しい変化と言える。
そして、目の前の沙織さんと悠菜の数値が見えるのもそうだ。
少し意識して沙織さんを見ると、新たにログが流れる。
(ルーナ……)
やはり沙織さんの別名が表示された。
だが、愛美のログと違って、沙織さんの全ては理解出来なかった。
見た事も無い言語で表示されてある箇所が多いのだ。
そしていい機会だと思い、毎朝感じる体温と室温の差や、外気中の成分を感じる事を話した。
これは前に話した事があったが、今ではハッキリと理解出来る様になっている事を話した。
他にも両親や愛美、悠菜や沙織さんが近くに居たらその方向や距離、自分の位置からの高低差等が分かる事等を付け加えた。
「今はその位かな?」
「ん~そっか~」
沙織さんは悠菜と目を合わせると、ニッコリと微笑んだ。
「って、なにそれー! お兄ちゃん凄いじゃん!」
それまで大人しく俺の話を聞いていた愛美がいきなり声を上げた。
「そっ、そう?」
「うんっ! やっぱり、お兄ちゃんエスパーだったんだっ!」
「はぁ? エスパー?」
「だってさ、昔あたしが迷子になっても、すぐにお兄ちゃんが見つけてくれたじゃん?」
「あーそんなこともあったなー」
「かくれんぼしても、後ろから脅かそうとしても絶対に気がついちゃうし」
「あーまあな」
「あの時、あたしは絶対にお兄ちゃんには敵わないって思った……」
「なんだそりゃ」
こいつはいつか俺と戦うつもりでいたのか?
ともあれ、こうして思いがけず真実を知った俺の、ハイブリッドな生活が始まった。
応援ありがとうございます!
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