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第一章 覚醒
第6話 #姉弟 #胸糞 #地球存亡の危機
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梅雨入り宣言が発表されると、この間までのぐずついた天気が一変して、晴れた日が続いたりすることありますよね。
皆さんこんにちは。霧島悠斗十九歳です。
近くの大学へ通う一年です。
そして異世界人とのハイブリッドです。
二か月ほど前になるが、四月に唐突に告白されちゃいました。
改めて思い起こすと、これまで幾つか思い当たる事があったけどさ。
それを考えると俺ってどれだけ鈍感なのかと、残念な気持ちにもなる。
≪ホントにのーてんきなんだから! ≫
ちょいちょい妹の愛美にそう言われてるが、これでは否定出来ない。
ともあれ、この春から幼馴染の悠菜と大学へ通い始めた。
この悠菜ってのが、実は異世界の人。
俺が地球人として馴染んでいるかどうかを、監視役を含めて色々観察している訳だ。
見た目はまるで人間なんだけど、染色体構造だか何かが全くの別物らしい。
そして、彼女の母親だと思っていた沙織さんも、実は母親役をしていた異世界の人。
俺の成長経過を異世界へ報告したり、問題があれば迅速に対処するべく、いつも傍で待機していた。
こんな俺をこれまで育ててくれた母さんと、異世界人との混合種として試験的に創られたらしい。
ユーナとセリカさんの種の保存が目的らしいが、今の俺には詳しい事は良く分からない。
ま、俺という試験体の保護観察を沙織さんと悠菜がしてる訳だ。
それを打ち明けられてされてから、俺の生活は激変するだろうと思われた。
だがしかし、これが然程変化なく過ごして来ている。
まあ、これまで普通に生活してきたわけだし。
そんな訳で、今日も変わりなく保護監査官の悠菜と大学へ来ています。
♢
俺達は午後の講義が終ると、施設内にあるフードコートに来ていた。
悠菜が珍しく誘って来たからだが、その彼女はここへ来た時から携帯を弄っている。
この前の家族会議以降、彼女は髪を銀色に染め、目には銀色のカラコンをしている。
お洒落に目覚めたらしい。
これが大学デビューって奴?
しかし、この悠菜が理由も無く俺を誘ってここへ来る筈は無いのだ。
何か理由があるに違いない。
俺は適当な店で飲み物を買うと、中央のテーブル席一つに座って辺りを見回した。
ランチタイムも終わっているが、まだ多くの人が利用していた。
普段何やってる人たちなのだろうか。
イギリスじゃあるまいし、午後の紅茶タイムとでも言うのか?
「で、悠菜、ここへはどうして?」
「もうすぐわかる」
あ、彼女、愛想ないでしょ?
これはいつもだから気にしないでね。
(ん? これは……ルーナっ⁉)
突如、視界の端にルーナの位置情報が現れた。
間違いない、これは沙織さんだ。
するとその時、携帯を見ていた悠菜がその顔をゆっくり上げた。
「来た」
悠菜の視線の先を見ると、沙織さんがフードコートへ入ってくるのが見えた。
「あ、やっぱり沙織さんじゃん!」
スラリとしたスタイルと長い脚に、ショートパンツが良く似合っている。
そして、胸元が大きく開いたサマーセーターからは、胸の谷間がガッチリと見え、その大きさを容易に想像させる。
彼女とすれ違った人その殆どが振り返る。
中には、沙織さんの後ろ姿を舐める様に見ている奴もいた。
(ちょっ、あいつ見過ぎだろっ!)
実は、つい二か月前までは悠菜の母親だった沙織さん。
≪本当は悠菜の母親では無い≫
その事実を知った時は、勿論驚いたけどすぐに納得した。
見た目も若すぎだし、最初から設定に無理があったわ。
しかも俺の事を、私達の子供とか言いだした時には、沙織さんのお腹やらおへその下まで、かなり色々想像してしまった。
あの時はとち狂って、生まれた瞬間までを思い出そうとしてたし……。
実際には沙織さんと俺は姉弟に近い様だ。
「あー! いたいたー! おーい! 悠斗くーん!」
辺りをぐるっと見回していた沙織さんは、程なく俺達を見つけると嬉しそうに両手を振って駆け寄って来る。
だが、綺麗過ぎるし一際目立つんだよな……。
(しかも、そんな……子供みたいに呼ばないでよ)
声を聞いた他の人達が、一斉に沙織さんと俺らを交互に見ている。
かなり恥ずかしいが今は手を挙げておくか。
あえて人目を無視して軽く手を振ってみる。
ああ見えて沙織さんは拗ねたりもするのだ。
天然要素たっぷりの姉でもある。
「えとね、悠斗くん! 実は大変な事が分かっちゃったの~」
そう言いながら俺の横に座る沙織さんだが、その口調からは全く緊張感が無い。
しかも、満面の笑みである。
だが、彼女がここまで話に来るって事は、それなりに重大なのだろう。
急用でなければ、家で帰って来るのを待っていればいい訳で……。
「大変な事?」
「うんうん~!」
そうは言っても、大変な事の意味はまるで見当はつかない。
しかし、沙織さんと悠菜が居ると、どうしてもここでは目立つ。
他の人達が俺達を遠巻きに見てるじゃん。
まあ、俺だって異世界生まれだしそれなりに覚悟はしているが、彼女達こそ異世界の人ってバレたらいかんでしょ?
しかも、こっちを見ている人が多過ぎる。
なんせ、銀髪と金髪の綺麗なお姉様だからな。
大声出したりしたらここじゃ目立つ訳だ。
「あ、それより何か飲む~?」
俺の空いたグラスを指差しながら、沙織さんは辺りの店を見回した。
(え? 俺の追加オーダーよりも大変な事が起きたんでしょ? その大変な事って、後回しでもいい事なの?)
やはり拍子抜けする。
悠菜に目を向けると相変わらずの無表情で、こちらの様子をジッと伺ってる。
「俺はいいですけど、大変なことって?」
「ん~お姉さん、カフェ・ラテがいいかな~?」
「へ?」
「ユーナちゃんも飲むでしょ?」
「うん」
「あーはいはい。アイスですよね?」
「そうね~冷たいのがいいな~」
「はーい。で、悠菜も同じのでいい?」
悠菜は黙って頷いた。
はあ、まったく。二人共マイペースなんだから。
この辺りはこの二人、いいコンビなのかもな。
「愛美ちゃんに一度行った方が良いって言われて、いい機会だから来ちゃった♡」
「へ? それがここへ来た理由っ⁉」
「あ、大変な事が分かったからですよ~?」
「はいはい、そうですか。取り敢えず買って来ますね」
しかし、カフェ・ラテって言ってたが、ここにあるのかが疑問だ。
カフェ・オ・レなら何処にでもありそうだが、沙織さんはカフェ・ラテと言っていた。
カフェ・ラテはエスプレッソコーヒーにミルクを入れた物であり、カフェ・オ・レはドリップコーヒーにミルクを入れた物らしい。
そもそも、元になる珈琲の抽出方法に違いがあるのだ。
要は、前者はイタリア、後者はフランスって訳だな。
(お? あれは!)
意外にも、一番近い店にカフェ・ラテが売っているではないか。
店内を見回してみるが、エスプレッソマシーンの様な物は見当たらない。
が、メニューに書いてあるから信じるしかない。
ここにそう書いてあるんだから、この店ではカフェ・ラテなんだろう。
これがここではカフェ・ラテなんだ。
改めて俺は自分にそう言い聞かせ、店員さんにアイスカフェ・ラテを二つ注文した。
その時、ふと脳内にアラームが響いた。
(――っ⁉)
いや、実際には何も音は鳴ってはいないのだが、そう言う感覚。
だが、それが何なのかがすぐに理解出来た。
沙織さんと悠菜に話しかけている二人の男達が居るのだ。
『君達ここの学生さん?』
『違うよね? 見た事無いもんね~』
『え~? 私達ですかぁ~?』
こんなに離れていても俺の脳内には、その会話が聞こえて居るかの様に理解出来た。
沙織さんが受け答えをしているが、悠菜は男達には興味を示さず、その場から俺の方をジッと見ている。
ああ、俺の保護観察官ですからね……。
どうやら沙織さんがここへ来た時に、こっちを見ていた奴らに違いない。
(あいつら何者だ⁉)
そう思った瞬間、脳内に男二人のステータスが流れ、それが脅威では無いと判断出来た。
ログの一番上には彼らの名前がある筈なのだが、未知となっている。
だが、年齢は二十一歳らしい。
(やっぱ俺より年上か……)
すると、俺の心がざわざわと騒ぎ始めた。
凄く嫌な気分になったのだ。
瞬時に奴らを排除したいと言う衝動に駆られ、その手段を脳内のどこかで模索している感じだ。
まるで俺の中に別の何かが居る感覚でもある。
(これが犯罪心理⁉ 俺ってサイコパス⁉)
「お待たせしましたー」
「あっ! あ、ありがとうございますっ!」
唐突に店員さんに声を掛けられ、ハッと我に返った俺はアイスカフェ・ラテを二つ受け取ると、心逸りに沙織さん達が居るテーブルへ戻った。
「はい、お待たせです」
「――っ⁉」
「なっ、何だ。さっきの奴か……」
男の一人がそう呟いたのが聞こえたが、俺は動揺を隠しながら手に持ったグラスを彼女達の前にそっと置く。
「悠斗く~ん! ありがと~!」
「ありがとう」
早速、沙織さんはカフェ・ラテを飲み始めたが、俺は男二人に敢えて口頭で尋ねることにする。
何故、敢えて口頭かって?
その時の俺はどういう訳か、早くこの二人を彼女達から遠ざけたい衝動に駆られてしまって、今すぐにでも力尽くで跳ね退けたかったのだ。
それを堪えて訊いてみた。
「で、あなた達はここで何を?」
「はあ?」
「おいおい、野暮な事訊くんだなーはるとだってー?」
男達は怯む事無くニヤニヤと俺を見ている。
やはり気分が悪い。やっぱり弾き飛ばしていいですか?
だが男達は俺を無視する事にした様だ。
直ぐにまた彼女達に話しかけた。
「そうだ、二人共時間あったらドライブ行かない?」
「そうだね! 今日はいい天気だから絶好のドライブ日和だよー?」
俺の問いは華麗にスルーされている。
「んー今は身内のお話があるので~」
「み、身内?」
「え?」
沙織さんにそう言われて、再度男達の視線は俺に戻った。
「まあ、家族だから」
急に男達は媚びを売る様な表情となった。
「あ、何だ、そうだったのかー」
「そりゃ悪かったよ! はるとくーん」
何だか馴れ馴れしいのは良いとして、二人を傷付けるのだけは絶対阻止する。
「二人は姉妹か何か? こちらがお姉さんで……こちらは妹さん?」
「んー二人共君のお姉さん? 似て無いね~」
「あ、いや……」
何だか返答に困る。沙織さんと悠菜の染色体を使って生まれたしな。
「とにかく~今直ぐに家族で話がしたいの~」
「あ、ごめんごめん!」
「じゃさ、名前とアドレス教えてよ!」
「ん~困ったわね~早くお話ししたいのにぃ~」
そう言って沙織さんがチラッと俺を見た。
「あのね、困ってるんだからもう何処か行ってくれないかな?」
若干強い口調になってしまった。
「ちっ!」
「っんだよ、弟! ちっと黙ってろっ!」
男達が俺に噛み付いて来た。
(お、弟……)
こういう風に弟などと呼ばれた記憶がない。
何だか新鮮ではあるが、やっぱり気分が悪い。
「てめえ、口の利き方分かってねーなっ!」
「姉ちゃんが可愛いからって調子に乗んなよ?」
一人は声を荒げたが、もう一人は凄みを利かせた低音で威嚇している。
どうやら、俺の中の何かが冷静に分析している様だ。
確かに沙織さんは可愛い。
(何だか……変な感じ……)
二人がじりじりと俺に近寄って来る。
と、一人が俺の顔に自分の顔を近づけて来た。
「てめえ、ここの学生かー? あー?」
そう聞こえた時、既に俺は後方へ移動していた。
(え?)
無意識のまま後方へ数歩移動したのだ。
「おいっ! てめえ、こらっ!」
もう一人も俺にずかずかと歩み寄って来る。
交わされた男も一瞬たじろいだが、直ぐにこちらへ向かって来た。
「逃げんなっ! 小僧ーっ!」
(こ、小僧って……)
小僧とも呼ばれた記憶がない。
こいつらは俺に新鮮な言葉で罵倒する。
これが大学と言う場所なのか?
そして、男達が俺を捕まえようと手を伸ばした時、意識とは別に背後へ飛び退いた。
そしてその後も、後ろにあったテーブルや椅子を無意識ではあるが、綺麗に避けて移動している。
俺の脳内に後方のビジュアルがあって、瞬時にそれらの障害物をよける様に、意識しなくとも身体が動いているのだ。
次第に男達は、中々俺を捕まえる事が出来ずに苛立ち始めた。
(なっ、何だっ⁉)
気付くと悠菜が俺のすぐ傍に居た。
俺の動きを追って瞬時に移動して来ていたのだ。
(こいつ、流石だなっ!)
こんな状況でも顔色一つ変えずに、素早い俺の動きに合わせて来たのだ。
これがユーナの能力なのだと改めて思った。
「いい加減にして」
悠菜が無表情のまま、息を切らし始めた男達にそう言った。
「な、何だよお前っ!」
「すばしっこい奴だなっ!」
息を荒らしながらもそう俺に言い放つと、二人は顔を見合わせてそのまま離れて行く。
そのままフードコートから出て行く様だ。
(やっと行ったか)
俺と悠菜が沙織さんのテーブルへ戻ると、彼女は飲んでいたグラスをそっと置いた。
「あ、悠斗君凄いよ~!」
「え?」
「もう悠菜ちゃんの保護が要らない位かもね~」
「そうなの?」
「うんうん~」
「そ、それじゃ……」
もしかしたら、もう俺の保護任務は必要無いという事か?
「でも、観察は必要だから~」
「あ、そうですか……」
そうか、保護観察官から観察……いや、監察官とか言わないよな?
「でも、お姉さんびっくり~こんなに成長しただなんて~」
(お、お姉さんって……さっきの奴らの言葉が気に入ったらしい)
そう言えば、前に異世界へ連れて行かれた時に、地球で言えば姉弟とか言ってたっけ。
でも、このままこの人のペースにはまったら駄目だ。
ただでさえまったりで天然な人なのに、こんなに綺麗だから見てるだけで幸せを感じてしまう。
皆さんも好きな人がいれば些細な事なんか、どうでも良くなっちゃいません?
彼女はカフェ・ラテの入った大きなグラスを、両手で大事そうに支えて嬉しそうに喉を潤している。
ヤバい。見とれてる場合じゃない。
「で、沙織さん。大変なことって?」
すると沙織さんはハッと顔を上げ、思い出した様に話し出した。
「そうそう! 大変なのよ~」
(そうですか……全く緊張感は感じませんが?)
彼女は深く一息ついてから話し出した。
「実はね。異星人だと思うんだけど、地球にまた接触して来たんだよね~」
「え⁉ 異星人って、宇宙人⁉ しかも、またって言った⁉」
異星人という言葉と言うか、その存在を忘れていた。
改めて思うと、宇宙人とか居るとは思うけれど、勿論実際に見た事など無い。
故にリアル感は皆無だ。
「まあ、どちらも間違いではないけど、正確には地球外生命体かな~」
それを言ったらあなた方もでしょ。あ、俺もそうだった。
「あっちの話だと、かなり好戦的な種らしくてね。ここも危ないらしいの~」
「え? あっちの話? しかも危ないって……」
「これまでも、あちこちで略奪をしてきてる種だって~」
「りゃ、りゃくだつ?!」
(宇宙人の強盗団かよっ⁉)
危ないと言うその度合いが不明だが、かなり緊張しなければいけない事案だな。
この人のおっとりした口調に惑わされたらいけない。
「あっちって、エランドールだっけ?」
「あ、うんうん~。ね? 困ったでしょ~?」
そう言いながらカフェ・ラテを飲み干す。
困ってるように見えないんですけど……?
(どうするの⁉ 地球が危ないんでしょ⁉)
未曾有の宇宙戦争とか?
しかし宇宙戦争とか言っても、地球の防衛力で何とかなるものなのか?
今の技術って、やっと火星に有人ロケット飛ばそうとしてるくらいでしょ?
しかも、地球外生命体が居るとは、公には認識して無いでしょ?
居るだろうって暗黙の了解でしょ?
どこから来るのか分からないけど、宇宙人が略奪しに来るんでしょ?
相手はそんな事を繰り返す常習者でしょ?
(む、無理じゃないか……?)
パニック起こすどころか、地球人は為す術がないだろう。
「で、その、沙織さんの……そちらの世界ではどうしたら良いと?」
「あ~何だか他人行儀な言い方だ~ちょっと寂しくなっちゃうな~」
沙織さんは空になったカフェ・ラテのグラスを名残惜しそうに見つめていたが、更に寂しそうな表情になった顔を上げた。
「あ、ご、ごめんっ!」
「ん~基本的には、私たちがこっちの世界に大きな影響を与えるのはタブーなの~」
まあ俺の存在はちっぽけなものさ。
そんな俺を創ったんだよね、あなた達が。
こんな俺の危機なんて守るに値しないって訳?
ちょっと複雑な心境。
「でもね、悠斗くんの身が危ないとすれば、これは動く理由になるかも~」
「えっ?」
(おっ⁉ おおーっ!)
それでも俺の命は尊重されてはいるわけか。
これはこれで少し救われた思いだ。
「大切な検体でもあるし~あっちに訊いてみないと分からないけどね~」
「け、けんたい……」
そう言って沙織さんが微笑む。
そうですか、心配なのは検体だからですよね。
しかし、沙織さん達の世界、エランドールでの技術力ならこれに対抗できるのかも知れない。
あ、良く分からないけど。
「で、何とかなりそうなの?」
「でね、その手の専門に頼んでみるのもいいかな~って」
そう言って、沙織さんは悠菜を見た。
悠菜も沙織さんを見ていた様で、そのまま無表情で頷いた。
「その手の専門?」
その手の専門ってなんです?
略奪者を専門に対処する部隊でもあるの?
そんなの想像もつかないのですが?
「えとね~今はエランドールに居る人なんだけど~」
「うん……」
「その人なら、何とかいい方法を提案してくれるかな~って思うの」
その人って、エランドールの人って事だよね?
その人に頼むって事?
これがたらい回しってやつ?
お役所などが得意な奴?
「その人ってどんな人?」
何かまた異次元とか異星人とか言い出すんだろうけど、どんな人なのかは知っておきたい。
「元々は地球とも関係ある方ですよ~」
笑顔で沙織さんがそう言う。
(へ? 地球と関係ある?)
意外な回答に一瞬思考が止まった。
まあ、異次元の人が目の前にいて、この俺もそれのハイブリッドだからな。
もうあまり驚いてばかりはいられないが、異世界の人で地球に関係があるって事は、俺の親戚か何かにあたる人?
いや、簡単に言ってみたらですよ。
「その人って分類は、異星人系?」
「元々はそうかな~ でもね、昔は地球に生活していた事もあったんですよ~」
「へ? 地球で生活してたの⁉ どゆこと⁉」
「ん~ 何て言うのかな~ご先祖さま?」
「ご先祖さまー⁉ お、俺の⁉」
「あ~それはどうなのかな~啓子さんのご先祖様には見えないし~」
沙織さんがそう言ったところで、これまで黙って見ていた悠菜が口を開いた。
「今夜呼んだから、直接聞いたらいい」
(は? 呼んだって? サラッと凄い事言って無いですか? 悠菜さん)
「え? 今夜? どこへ?」
俺はおもわず突っ込み気味に聞いた。
「あなたの家」
「家かよ!」
「ええ」
勢いで突っ込んで見たが、まあ、いちいち驚くのもキリがないか。
「あ、そうですか」
(しかし待てよ……いいのか?)
得体の知れない異世界人ってか異星人を、家にサクッと招いちゃってるんだよな。
それこそ大問題に発展しないのか?
外交問題とかの次元じゃ無くなるぞ?
こういう場合、やっぱり事前に入国申請とか必要なの?
「あらユーナちゃん、もう呼んだの~? 久しぶりに会うの楽しみだわ~」
嬉しそうだな、沙織さんは……。あんなに可愛い笑顔で、本当に嬉しそう。
だったらいいか。
まあ、沙織さんも悠菜も異世界人だしな。
一人増えても今更問題無いだろ。
(て、ホントにいいのか?)
ふと沙織さんの言葉に引っかかった。
「あれ? 久しぶりって、沙織さんも良く知ってる人?」
「ええ! 古いお友達で、とても良い人なの~」
「良い人……ですか」
これは少し危険な匂いがしてないか?
【良い人】って、良く聞くけどさ。結構、当たり障りのない言い方じゃないか?
先ずは、見た目が酷い場合にも【良い人】って言ったりする。
他にも、特に特徴が無い場合にも【良い人】って使うよな。
最悪の場合、どうでも【良い人】って使い方もある。
沙織さんみたいな非の打ち所の無い完璧な女性が、他の人を【良い人】って言ってもさ、どうせあなたよりも劣るでしょ?
と、誰もが思うものである。
しかも、その手の専門って事は武骨な男だと思えるし。
「じゃあ、私は先に帰るけれど、二人とも気を付けて帰って来てね?」
「あ、はい。気を付けて帰ります」
「あ! 帰る前に少し見てこうかな~」
沙織さんはそう言って席を立つと、店の方へ軽快に歩いて行った。
スラッと伸びた足の上には形の良いお尻が……。
しかし、見た目はお姉さん系だけど、行動はまるで女子高生だな。
気を付けて帰って来いとか言ってたけど、俺からしたら沙織さんの方が心配になる。
だが、悠菜に言わせると人望も厚く、とても頼りになるらしい。
まだまだ未知の人だな、沙織さん。
「あ、まずい。愛美に教えとかなきゃな!」
そうだった。妹の愛美がいる。
愛美が家に帰った時、玄関先に宇宙人がいたら間違いなく驚くだろう。
しかもボディーガードの様な蜜柑が、その人に危害を加えないか心配だ。
パニックになる前に、彼女達と駅で待ち合わせて一緒に帰る事にしよう。
よし、そうしよう。
メールして置けばいいかな?
「悠菜、帰りに愛美達と待ち合わせて、そこから一緒に家へ帰る事にしよう」
「わかった」
彼女は頷きながら返事をするとスッと席を立った。
皆さんこんにちは。霧島悠斗十九歳です。
近くの大学へ通う一年です。
そして異世界人とのハイブリッドです。
二か月ほど前になるが、四月に唐突に告白されちゃいました。
改めて思い起こすと、これまで幾つか思い当たる事があったけどさ。
それを考えると俺ってどれだけ鈍感なのかと、残念な気持ちにもなる。
≪ホントにのーてんきなんだから! ≫
ちょいちょい妹の愛美にそう言われてるが、これでは否定出来ない。
ともあれ、この春から幼馴染の悠菜と大学へ通い始めた。
この悠菜ってのが、実は異世界の人。
俺が地球人として馴染んでいるかどうかを、監視役を含めて色々観察している訳だ。
見た目はまるで人間なんだけど、染色体構造だか何かが全くの別物らしい。
そして、彼女の母親だと思っていた沙織さんも、実は母親役をしていた異世界の人。
俺の成長経過を異世界へ報告したり、問題があれば迅速に対処するべく、いつも傍で待機していた。
こんな俺をこれまで育ててくれた母さんと、異世界人との混合種として試験的に創られたらしい。
ユーナとセリカさんの種の保存が目的らしいが、今の俺には詳しい事は良く分からない。
ま、俺という試験体の保護観察を沙織さんと悠菜がしてる訳だ。
それを打ち明けられてされてから、俺の生活は激変するだろうと思われた。
だがしかし、これが然程変化なく過ごして来ている。
まあ、これまで普通に生活してきたわけだし。
そんな訳で、今日も変わりなく保護監査官の悠菜と大学へ来ています。
♢
俺達は午後の講義が終ると、施設内にあるフードコートに来ていた。
悠菜が珍しく誘って来たからだが、その彼女はここへ来た時から携帯を弄っている。
この前の家族会議以降、彼女は髪を銀色に染め、目には銀色のカラコンをしている。
お洒落に目覚めたらしい。
これが大学デビューって奴?
しかし、この悠菜が理由も無く俺を誘ってここへ来る筈は無いのだ。
何か理由があるに違いない。
俺は適当な店で飲み物を買うと、中央のテーブル席一つに座って辺りを見回した。
ランチタイムも終わっているが、まだ多くの人が利用していた。
普段何やってる人たちなのだろうか。
イギリスじゃあるまいし、午後の紅茶タイムとでも言うのか?
「で、悠菜、ここへはどうして?」
「もうすぐわかる」
あ、彼女、愛想ないでしょ?
これはいつもだから気にしないでね。
(ん? これは……ルーナっ⁉)
突如、視界の端にルーナの位置情報が現れた。
間違いない、これは沙織さんだ。
するとその時、携帯を見ていた悠菜がその顔をゆっくり上げた。
「来た」
悠菜の視線の先を見ると、沙織さんがフードコートへ入ってくるのが見えた。
「あ、やっぱり沙織さんじゃん!」
スラリとしたスタイルと長い脚に、ショートパンツが良く似合っている。
そして、胸元が大きく開いたサマーセーターからは、胸の谷間がガッチリと見え、その大きさを容易に想像させる。
彼女とすれ違った人その殆どが振り返る。
中には、沙織さんの後ろ姿を舐める様に見ている奴もいた。
(ちょっ、あいつ見過ぎだろっ!)
実は、つい二か月前までは悠菜の母親だった沙織さん。
≪本当は悠菜の母親では無い≫
その事実を知った時は、勿論驚いたけどすぐに納得した。
見た目も若すぎだし、最初から設定に無理があったわ。
しかも俺の事を、私達の子供とか言いだした時には、沙織さんのお腹やらおへその下まで、かなり色々想像してしまった。
あの時はとち狂って、生まれた瞬間までを思い出そうとしてたし……。
実際には沙織さんと俺は姉弟に近い様だ。
「あー! いたいたー! おーい! 悠斗くーん!」
辺りをぐるっと見回していた沙織さんは、程なく俺達を見つけると嬉しそうに両手を振って駆け寄って来る。
だが、綺麗過ぎるし一際目立つんだよな……。
(しかも、そんな……子供みたいに呼ばないでよ)
声を聞いた他の人達が、一斉に沙織さんと俺らを交互に見ている。
かなり恥ずかしいが今は手を挙げておくか。
あえて人目を無視して軽く手を振ってみる。
ああ見えて沙織さんは拗ねたりもするのだ。
天然要素たっぷりの姉でもある。
「えとね、悠斗くん! 実は大変な事が分かっちゃったの~」
そう言いながら俺の横に座る沙織さんだが、その口調からは全く緊張感が無い。
しかも、満面の笑みである。
だが、彼女がここまで話に来るって事は、それなりに重大なのだろう。
急用でなければ、家で帰って来るのを待っていればいい訳で……。
「大変な事?」
「うんうん~!」
そうは言っても、大変な事の意味はまるで見当はつかない。
しかし、沙織さんと悠菜が居ると、どうしてもここでは目立つ。
他の人達が俺達を遠巻きに見てるじゃん。
まあ、俺だって異世界生まれだしそれなりに覚悟はしているが、彼女達こそ異世界の人ってバレたらいかんでしょ?
しかも、こっちを見ている人が多過ぎる。
なんせ、銀髪と金髪の綺麗なお姉様だからな。
大声出したりしたらここじゃ目立つ訳だ。
「あ、それより何か飲む~?」
俺の空いたグラスを指差しながら、沙織さんは辺りの店を見回した。
(え? 俺の追加オーダーよりも大変な事が起きたんでしょ? その大変な事って、後回しでもいい事なの?)
やはり拍子抜けする。
悠菜に目を向けると相変わらずの無表情で、こちらの様子をジッと伺ってる。
「俺はいいですけど、大変なことって?」
「ん~お姉さん、カフェ・ラテがいいかな~?」
「へ?」
「ユーナちゃんも飲むでしょ?」
「うん」
「あーはいはい。アイスですよね?」
「そうね~冷たいのがいいな~」
「はーい。で、悠菜も同じのでいい?」
悠菜は黙って頷いた。
はあ、まったく。二人共マイペースなんだから。
この辺りはこの二人、いいコンビなのかもな。
「愛美ちゃんに一度行った方が良いって言われて、いい機会だから来ちゃった♡」
「へ? それがここへ来た理由っ⁉」
「あ、大変な事が分かったからですよ~?」
「はいはい、そうですか。取り敢えず買って来ますね」
しかし、カフェ・ラテって言ってたが、ここにあるのかが疑問だ。
カフェ・オ・レなら何処にでもありそうだが、沙織さんはカフェ・ラテと言っていた。
カフェ・ラテはエスプレッソコーヒーにミルクを入れた物であり、カフェ・オ・レはドリップコーヒーにミルクを入れた物らしい。
そもそも、元になる珈琲の抽出方法に違いがあるのだ。
要は、前者はイタリア、後者はフランスって訳だな。
(お? あれは!)
意外にも、一番近い店にカフェ・ラテが売っているではないか。
店内を見回してみるが、エスプレッソマシーンの様な物は見当たらない。
が、メニューに書いてあるから信じるしかない。
ここにそう書いてあるんだから、この店ではカフェ・ラテなんだろう。
これがここではカフェ・ラテなんだ。
改めて俺は自分にそう言い聞かせ、店員さんにアイスカフェ・ラテを二つ注文した。
その時、ふと脳内にアラームが響いた。
(――っ⁉)
いや、実際には何も音は鳴ってはいないのだが、そう言う感覚。
だが、それが何なのかがすぐに理解出来た。
沙織さんと悠菜に話しかけている二人の男達が居るのだ。
『君達ここの学生さん?』
『違うよね? 見た事無いもんね~』
『え~? 私達ですかぁ~?』
こんなに離れていても俺の脳内には、その会話が聞こえて居るかの様に理解出来た。
沙織さんが受け答えをしているが、悠菜は男達には興味を示さず、その場から俺の方をジッと見ている。
ああ、俺の保護観察官ですからね……。
どうやら沙織さんがここへ来た時に、こっちを見ていた奴らに違いない。
(あいつら何者だ⁉)
そう思った瞬間、脳内に男二人のステータスが流れ、それが脅威では無いと判断出来た。
ログの一番上には彼らの名前がある筈なのだが、未知となっている。
だが、年齢は二十一歳らしい。
(やっぱ俺より年上か……)
すると、俺の心がざわざわと騒ぎ始めた。
凄く嫌な気分になったのだ。
瞬時に奴らを排除したいと言う衝動に駆られ、その手段を脳内のどこかで模索している感じだ。
まるで俺の中に別の何かが居る感覚でもある。
(これが犯罪心理⁉ 俺ってサイコパス⁉)
「お待たせしましたー」
「あっ! あ、ありがとうございますっ!」
唐突に店員さんに声を掛けられ、ハッと我に返った俺はアイスカフェ・ラテを二つ受け取ると、心逸りに沙織さん達が居るテーブルへ戻った。
「はい、お待たせです」
「――っ⁉」
「なっ、何だ。さっきの奴か……」
男の一人がそう呟いたのが聞こえたが、俺は動揺を隠しながら手に持ったグラスを彼女達の前にそっと置く。
「悠斗く~ん! ありがと~!」
「ありがとう」
早速、沙織さんはカフェ・ラテを飲み始めたが、俺は男二人に敢えて口頭で尋ねることにする。
何故、敢えて口頭かって?
その時の俺はどういう訳か、早くこの二人を彼女達から遠ざけたい衝動に駆られてしまって、今すぐにでも力尽くで跳ね退けたかったのだ。
それを堪えて訊いてみた。
「で、あなた達はここで何を?」
「はあ?」
「おいおい、野暮な事訊くんだなーはるとだってー?」
男達は怯む事無くニヤニヤと俺を見ている。
やはり気分が悪い。やっぱり弾き飛ばしていいですか?
だが男達は俺を無視する事にした様だ。
直ぐにまた彼女達に話しかけた。
「そうだ、二人共時間あったらドライブ行かない?」
「そうだね! 今日はいい天気だから絶好のドライブ日和だよー?」
俺の問いは華麗にスルーされている。
「んー今は身内のお話があるので~」
「み、身内?」
「え?」
沙織さんにそう言われて、再度男達の視線は俺に戻った。
「まあ、家族だから」
急に男達は媚びを売る様な表情となった。
「あ、何だ、そうだったのかー」
「そりゃ悪かったよ! はるとくーん」
何だか馴れ馴れしいのは良いとして、二人を傷付けるのだけは絶対阻止する。
「二人は姉妹か何か? こちらがお姉さんで……こちらは妹さん?」
「んー二人共君のお姉さん? 似て無いね~」
「あ、いや……」
何だか返答に困る。沙織さんと悠菜の染色体を使って生まれたしな。
「とにかく~今直ぐに家族で話がしたいの~」
「あ、ごめんごめん!」
「じゃさ、名前とアドレス教えてよ!」
「ん~困ったわね~早くお話ししたいのにぃ~」
そう言って沙織さんがチラッと俺を見た。
「あのね、困ってるんだからもう何処か行ってくれないかな?」
若干強い口調になってしまった。
「ちっ!」
「っんだよ、弟! ちっと黙ってろっ!」
男達が俺に噛み付いて来た。
(お、弟……)
こういう風に弟などと呼ばれた記憶がない。
何だか新鮮ではあるが、やっぱり気分が悪い。
「てめえ、口の利き方分かってねーなっ!」
「姉ちゃんが可愛いからって調子に乗んなよ?」
一人は声を荒げたが、もう一人は凄みを利かせた低音で威嚇している。
どうやら、俺の中の何かが冷静に分析している様だ。
確かに沙織さんは可愛い。
(何だか……変な感じ……)
二人がじりじりと俺に近寄って来る。
と、一人が俺の顔に自分の顔を近づけて来た。
「てめえ、ここの学生かー? あー?」
そう聞こえた時、既に俺は後方へ移動していた。
(え?)
無意識のまま後方へ数歩移動したのだ。
「おいっ! てめえ、こらっ!」
もう一人も俺にずかずかと歩み寄って来る。
交わされた男も一瞬たじろいだが、直ぐにこちらへ向かって来た。
「逃げんなっ! 小僧ーっ!」
(こ、小僧って……)
小僧とも呼ばれた記憶がない。
こいつらは俺に新鮮な言葉で罵倒する。
これが大学と言う場所なのか?
そして、男達が俺を捕まえようと手を伸ばした時、意識とは別に背後へ飛び退いた。
そしてその後も、後ろにあったテーブルや椅子を無意識ではあるが、綺麗に避けて移動している。
俺の脳内に後方のビジュアルがあって、瞬時にそれらの障害物をよける様に、意識しなくとも身体が動いているのだ。
次第に男達は、中々俺を捕まえる事が出来ずに苛立ち始めた。
(なっ、何だっ⁉)
気付くと悠菜が俺のすぐ傍に居た。
俺の動きを追って瞬時に移動して来ていたのだ。
(こいつ、流石だなっ!)
こんな状況でも顔色一つ変えずに、素早い俺の動きに合わせて来たのだ。
これがユーナの能力なのだと改めて思った。
「いい加減にして」
悠菜が無表情のまま、息を切らし始めた男達にそう言った。
「な、何だよお前っ!」
「すばしっこい奴だなっ!」
息を荒らしながらもそう俺に言い放つと、二人は顔を見合わせてそのまま離れて行く。
そのままフードコートから出て行く様だ。
(やっと行ったか)
俺と悠菜が沙織さんのテーブルへ戻ると、彼女は飲んでいたグラスをそっと置いた。
「あ、悠斗君凄いよ~!」
「え?」
「もう悠菜ちゃんの保護が要らない位かもね~」
「そうなの?」
「うんうん~」
「そ、それじゃ……」
もしかしたら、もう俺の保護任務は必要無いという事か?
「でも、観察は必要だから~」
「あ、そうですか……」
そうか、保護観察官から観察……いや、監察官とか言わないよな?
「でも、お姉さんびっくり~こんなに成長しただなんて~」
(お、お姉さんって……さっきの奴らの言葉が気に入ったらしい)
そう言えば、前に異世界へ連れて行かれた時に、地球で言えば姉弟とか言ってたっけ。
でも、このままこの人のペースにはまったら駄目だ。
ただでさえまったりで天然な人なのに、こんなに綺麗だから見てるだけで幸せを感じてしまう。
皆さんも好きな人がいれば些細な事なんか、どうでも良くなっちゃいません?
彼女はカフェ・ラテの入った大きなグラスを、両手で大事そうに支えて嬉しそうに喉を潤している。
ヤバい。見とれてる場合じゃない。
「で、沙織さん。大変なことって?」
すると沙織さんはハッと顔を上げ、思い出した様に話し出した。
「そうそう! 大変なのよ~」
(そうですか……全く緊張感は感じませんが?)
彼女は深く一息ついてから話し出した。
「実はね。異星人だと思うんだけど、地球にまた接触して来たんだよね~」
「え⁉ 異星人って、宇宙人⁉ しかも、またって言った⁉」
異星人という言葉と言うか、その存在を忘れていた。
改めて思うと、宇宙人とか居るとは思うけれど、勿論実際に見た事など無い。
故にリアル感は皆無だ。
「まあ、どちらも間違いではないけど、正確には地球外生命体かな~」
それを言ったらあなた方もでしょ。あ、俺もそうだった。
「あっちの話だと、かなり好戦的な種らしくてね。ここも危ないらしいの~」
「え? あっちの話? しかも危ないって……」
「これまでも、あちこちで略奪をしてきてる種だって~」
「りゃ、りゃくだつ?!」
(宇宙人の強盗団かよっ⁉)
危ないと言うその度合いが不明だが、かなり緊張しなければいけない事案だな。
この人のおっとりした口調に惑わされたらいけない。
「あっちって、エランドールだっけ?」
「あ、うんうん~。ね? 困ったでしょ~?」
そう言いながらカフェ・ラテを飲み干す。
困ってるように見えないんですけど……?
(どうするの⁉ 地球が危ないんでしょ⁉)
未曾有の宇宙戦争とか?
しかし宇宙戦争とか言っても、地球の防衛力で何とかなるものなのか?
今の技術って、やっと火星に有人ロケット飛ばそうとしてるくらいでしょ?
しかも、地球外生命体が居るとは、公には認識して無いでしょ?
居るだろうって暗黙の了解でしょ?
どこから来るのか分からないけど、宇宙人が略奪しに来るんでしょ?
相手はそんな事を繰り返す常習者でしょ?
(む、無理じゃないか……?)
パニック起こすどころか、地球人は為す術がないだろう。
「で、その、沙織さんの……そちらの世界ではどうしたら良いと?」
「あ~何だか他人行儀な言い方だ~ちょっと寂しくなっちゃうな~」
沙織さんは空になったカフェ・ラテのグラスを名残惜しそうに見つめていたが、更に寂しそうな表情になった顔を上げた。
「あ、ご、ごめんっ!」
「ん~基本的には、私たちがこっちの世界に大きな影響を与えるのはタブーなの~」
まあ俺の存在はちっぽけなものさ。
そんな俺を創ったんだよね、あなた達が。
こんな俺の危機なんて守るに値しないって訳?
ちょっと複雑な心境。
「でもね、悠斗くんの身が危ないとすれば、これは動く理由になるかも~」
「えっ?」
(おっ⁉ おおーっ!)
それでも俺の命は尊重されてはいるわけか。
これはこれで少し救われた思いだ。
「大切な検体でもあるし~あっちに訊いてみないと分からないけどね~」
「け、けんたい……」
そう言って沙織さんが微笑む。
そうですか、心配なのは検体だからですよね。
しかし、沙織さん達の世界、エランドールでの技術力ならこれに対抗できるのかも知れない。
あ、良く分からないけど。
「で、何とかなりそうなの?」
「でね、その手の専門に頼んでみるのもいいかな~って」
そう言って、沙織さんは悠菜を見た。
悠菜も沙織さんを見ていた様で、そのまま無表情で頷いた。
「その手の専門?」
その手の専門ってなんです?
略奪者を専門に対処する部隊でもあるの?
そんなの想像もつかないのですが?
「えとね~今はエランドールに居る人なんだけど~」
「うん……」
「その人なら、何とかいい方法を提案してくれるかな~って思うの」
その人って、エランドールの人って事だよね?
その人に頼むって事?
これがたらい回しってやつ?
お役所などが得意な奴?
「その人ってどんな人?」
何かまた異次元とか異星人とか言い出すんだろうけど、どんな人なのかは知っておきたい。
「元々は地球とも関係ある方ですよ~」
笑顔で沙織さんがそう言う。
(へ? 地球と関係ある?)
意外な回答に一瞬思考が止まった。
まあ、異次元の人が目の前にいて、この俺もそれのハイブリッドだからな。
もうあまり驚いてばかりはいられないが、異世界の人で地球に関係があるって事は、俺の親戚か何かにあたる人?
いや、簡単に言ってみたらですよ。
「その人って分類は、異星人系?」
「元々はそうかな~ でもね、昔は地球に生活していた事もあったんですよ~」
「へ? 地球で生活してたの⁉ どゆこと⁉」
「ん~ 何て言うのかな~ご先祖さま?」
「ご先祖さまー⁉ お、俺の⁉」
「あ~それはどうなのかな~啓子さんのご先祖様には見えないし~」
沙織さんがそう言ったところで、これまで黙って見ていた悠菜が口を開いた。
「今夜呼んだから、直接聞いたらいい」
(は? 呼んだって? サラッと凄い事言って無いですか? 悠菜さん)
「え? 今夜? どこへ?」
俺はおもわず突っ込み気味に聞いた。
「あなたの家」
「家かよ!」
「ええ」
勢いで突っ込んで見たが、まあ、いちいち驚くのもキリがないか。
「あ、そうですか」
(しかし待てよ……いいのか?)
得体の知れない異世界人ってか異星人を、家にサクッと招いちゃってるんだよな。
それこそ大問題に発展しないのか?
外交問題とかの次元じゃ無くなるぞ?
こういう場合、やっぱり事前に入国申請とか必要なの?
「あらユーナちゃん、もう呼んだの~? 久しぶりに会うの楽しみだわ~」
嬉しそうだな、沙織さんは……。あんなに可愛い笑顔で、本当に嬉しそう。
だったらいいか。
まあ、沙織さんも悠菜も異世界人だしな。
一人増えても今更問題無いだろ。
(て、ホントにいいのか?)
ふと沙織さんの言葉に引っかかった。
「あれ? 久しぶりって、沙織さんも良く知ってる人?」
「ええ! 古いお友達で、とても良い人なの~」
「良い人……ですか」
これは少し危険な匂いがしてないか?
【良い人】って、良く聞くけどさ。結構、当たり障りのない言い方じゃないか?
先ずは、見た目が酷い場合にも【良い人】って言ったりする。
他にも、特に特徴が無い場合にも【良い人】って使うよな。
最悪の場合、どうでも【良い人】って使い方もある。
沙織さんみたいな非の打ち所の無い完璧な女性が、他の人を【良い人】って言ってもさ、どうせあなたよりも劣るでしょ?
と、誰もが思うものである。
しかも、その手の専門って事は武骨な男だと思えるし。
「じゃあ、私は先に帰るけれど、二人とも気を付けて帰って来てね?」
「あ、はい。気を付けて帰ります」
「あ! 帰る前に少し見てこうかな~」
沙織さんはそう言って席を立つと、店の方へ軽快に歩いて行った。
スラッと伸びた足の上には形の良いお尻が……。
しかし、見た目はお姉さん系だけど、行動はまるで女子高生だな。
気を付けて帰って来いとか言ってたけど、俺からしたら沙織さんの方が心配になる。
だが、悠菜に言わせると人望も厚く、とても頼りになるらしい。
まだまだ未知の人だな、沙織さん。
「あ、まずい。愛美に教えとかなきゃな!」
そうだった。妹の愛美がいる。
愛美が家に帰った時、玄関先に宇宙人がいたら間違いなく驚くだろう。
しかもボディーガードの様な蜜柑が、その人に危害を加えないか心配だ。
パニックになる前に、彼女達と駅で待ち合わせて一緒に帰る事にしよう。
よし、そうしよう。
メールして置けばいいかな?
「悠菜、帰りに愛美達と待ち合わせて、そこから一緒に家へ帰る事にしよう」
「わかった」
彼女は頷きながら返事をするとスッと席を立った。
応援ありがとうございます!
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