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第一章 覚醒

第12話 #帰らない妹 #思い切り走る

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 入学して三か月目、遂に大学で初めての女友達が出来た!

 しかも、とびっきりの美人が二人。

 そう言う訳で、大学からのこの帰り道もルンルン気分な訳よ。



 午後の講義を終えた俺と悠菜ゆうなは、電車を降りてホームを歩いている。

 そして、改札口から駅前へ出て来た所で思い出す。

 今日、連絡先を交換した二人。

 一人は活発そうでスタイル抜群、真っ赤なポルシェがいしゃに乗るセレブなお嬢様。

 もう一人は、清楚な感じのお淑やかで上品なお嬢様。

 しかーし!

 その下には、グラビアアイドル顔負けの隠されたポテンシャルを秘めている!

 ……に、違いない。

 こちらも恐らくセレブであろう。

 なんせ、お爺様が水族館を所有してるとかしてないとか。

 どちらも、冷蔵庫を複数所有。←ここ重要。

 俺の人生で、今までそんな人間と関係があった経験がない。

 異世界の人とは関係大有りなんですけどね。
 
 思えば、俺の周りの人って、普通の地球人少なくね?

 高校からの友人は鈴木がいるけど、あいつもある意味普通の人間とは言い難い。

 そう思って、ふと隣を見る。

 いつもの悠菜が歩いている。

 白に近い銀色の綺麗な長い髪。

 髪と同じ色に光る澄んだ瞳。

 改めて見ると、悠菜って結構綺麗なんだな。

 物心ものごころついた時には、いつも一緒に居た。

 妹の愛美が一緒に遊べる位になる迄は、いつも二人で遊んでいたな。

 そう言えば、いつも俺が遊んで貰っていたような気がしてきた。

 悠菜こいつ、いつも大人しかったし。

 今思うと、冷めた目で見られていたのかも⁉

 うん、そうかも知れない……。

 悠菜こいつの中身はそのまま、身体だけが俺と同じ様に小さくしていただけだからな。

 ちょ、ちょっと待て、恥ずかしくなってきたぞ。

 顔が赤くなってきたのが、自分でもわかる。

 ……ヤバい!

 ここは冷静にならないと。

 今になって、幼い頃の失態を悔やんでも仕方ない。

 だが、今の頭の中身そのままで、幼い姿になるって凄いな。

 で、今はこの姿に成長しているのか。

 歩きながらも俺は又、悠菜を見た。

 最近は胸も大きくなった様に思える。

 あ、そう言えば!

 俺の成長に合わせて成長させているとか、沙織さんがさり気無く言ってたな。

 こいつ、胸も成長させてるのか⁉

 まあ、胸だって育って無いと、そりゃ違和感は出て来るよな。

 ヒップラインも中々なものですよ、悠菜さん。

 まてよ?

 あれだよ、≪毛≫とか、どうなんだ?

 脇の毛とかは、処理するってのが普通だから良しとして……。

 あれだよ、あれ……下の毛。

 ……まてよ?

 元々、髪の毛が銀色だから、も、も、もしかして⁉

 下の毛も……銀色とか⁉

 ついつい想像してしまう。

 ……やばい。

 又、顔が赤くなって来たと思う。

 自分でもわかる。

「ねえ」

 急に悠菜が立ち止まり、俺に声をかけた。

「は、はいっ⁉」

 咄嗟に返事をして俺は立ち止まる。

 だが、赤くなった顔は、急に呼ばれてびっくりした拍子に一気に醒めた様だ。

 悠菜を見ると、いつもの冷めた表情で……。

 いや、違う!

 いつもと違う表情だ!

 普段から悠菜を見ている俺にしか、その変化には気づかないだろう。

 何と言うか、恥じらいに似た、困惑した表情が少し見える。

 悠菜こいつ、こんな表情するのか?

 あ、この表情……。

 昔、幼い頃に見た事があった様な記憶がある。

 そのまま、じっとこちらを見ている。

 何だか可愛い……ドキドキしてきた。

「な、なに?」

 俺は動揺を隠しながら平静を装い、少しぎこちなくだが何とか聞き返した。

 すると、悠菜は直ぐに俺から目を逸らして歩き出した。

「やっぱり、いい」

 ちょ、ちょっと!

 なになに?

「なんだよー言いかけて、それはないじゃんかー」

 何だか悠菜が普段と違う表情で困惑したが、俺はそれ以上を追求出来ずに彼女の後を追った。


    ♢   


 今日から俺は、沙織さんの家で生活するのだ。

 悠菜と俺の実家を通り過ぎると、そのまま裏にある彼女の家へ向かった。

「ただいまー! 沙織さん、いるー?」

 玄関から声を掛けると、奥から沙織さんが出て来てくれた。

「は~い! 悠斗くん、おかえり~! ユーナちゃんもお疲れさま~!」
「ただいま」
「セリカちゃん、今夜来るって言ってましたよ~」
「あ、そうなんですね!」
「それと、悠斗くん、お部屋の準備したよ~」
「お部屋って、俺の部屋? 何か、すみません」

 俺の部屋も準備してくれたのか!
 
「いいんですよ~愛美ちゃんのお部屋の隣ね~?」
「そうなんですね、どうもです」
「いえいえ~さてと、二人共何か飲む? まだ愛美ちゃん達は帰って来ないし~」
「そうですね~うん、冷たいの頂きます」

 しかし、ここって沢山部屋がありそうだな、大きな家だし。

 そうだよ、この家ってバカでかいじゃん!

 今まで当たり前に見ていたから、特に気にしなかったけどさ。

 普通に見たら、医者か政治家の家に思えるだろう。

 もしくは、有名芸能人とか?

 俺はふと気になった。

「ねえ、沙織さん、この家って冷蔵庫何台あるの?」

 リビングへ来たところで、何気なく聞いていみた。

 五十嵐さんと西園寺さんが、家に複数の冷蔵庫を保有していた事を思い出したのだ。

「冷蔵庫? 普通のは二つかな?」
「普通のって、そこにあるのは業務用じゃ無いの? 凄く大きいけど」
「あらそぉ? 大きなタイプなら下にあるけど……でも一体どしたの~?」
「え? 下? 地下室があるの⁉」
「うんうん~」

 俺はこの家には余り来てなかったため、地下室の存在は知らなかった。

 愛美は度々出入りしていたし、知っているのかも知れないが。

「てか、沙織さんちにも二台あるのか!」

 俺の家だけか、一台なのは。

 しかも、地下室があるとは知らなかった。

 まあ、思えば、俺の家よりかなり大きいしな。

 そうだな、建物だけでも五、六倍はありそうだし。

 な、ちょっと待て、沙織さんって超セレブかよ!

 まあ、異次元から来てる事だし、セレブとはちょっと違うか。

 リビングのソファーへ座ると、俺は昨日買ったアイスが気になった。

「そう言えば昨日のアイス凄い量だったし、ここの冷凍庫に入るかちょっと気にはなってたんだよね」
「あ~流石にあの量はキッチンの冷凍庫占拠しちゃうわね~」
「そっか、入らない分は地下の冷蔵庫に入れたのか」

 道理であんなに愛美達が買い込んだ訳だ。

 大人買いを通り過ぎているのは、パーティー買いとか?

 いやいや、あの量だと普通に仕入れって言うんじゃね?

「悠斗くんは、地下室知らなかったの~?」
「うん、知らなかったー」
「そっか~愛美ちゃんは知ってる筈よ~?」

 そう言いながら、沙織さんがソファーに座った。

 やっぱり愛美は知ってるんだな。

「ねえ、愛美ちゃんの帰り時間、悠斗くん知ってる?」
「んー、帰りの時間は聞いてないけど、どうなんだろう」
「そうなのね~? じゃあ、愛美ちゃんが来てからでいいかな」
「俺も高二の頃って、学校帰りに何かと色々あったかもな」

 そう言えば、あいつ大学受験どうすんだ?

 高校二年にもなると、進路とか決める時だろう。

 愛美あいつ、受験とかする気あるんだろうか。

 親に言われて無いのかな?

 俺の場合は、今通っている大学の付属高校を両親に勧められて入ったけど。

「愛美は大丈夫」

 急に悠菜がそう言って、キッチンから飲み物を運んできた。

「あ、サンキュー!」

 俺は悠菜から手渡されたグラスを、口に傾けながらふと気になった。

 あれ?

 こいつ、愛美は大丈夫って言った?

 俺はハッとして、悠菜を見た。

 が、普通にリビングのソファーに座ってジュースを飲んでいる。

 帰りは遅くないって意味で言ったのか?

 ま、いっか。

「なあ悠菜、セレスティアが来るのは何時ごろ?」
「来る時間は聞いていない」

 悠菜はそう言って立ち上がると、そのままリビングから裏庭へ出て行った。 
  
「セリカちゃんね~どうかなぁ~ご飯食べるかな~?」

 沙織さんも、そう言いながらキッチンへ向かった。

「今夜は何に~しようかな~」

 キッチンのあるダイニングから、沙織さんの独り言が聞こえた。

 この二人、異星人の襲来だというのに、結構のんびりしてるんだな。

 その為の支度をして、セレスティアさんが来ると言うのに……。

 悠菜はいつも淡々と行動するタイプだけどさ。

 まあ、それを言ったら、沙織さんも慌てて行動するタイプじゃないか。

 いつも、おっとりした感じだし。

 そう思いながら悠菜の出て行った方を眺めていると、彼女はそのまま生垣へ向かって歩いて行く。

 勿論あの生垣の向こうは俺の家に繋がって居る。

 きっと、俺の母親に頼まれているプランターの水やり何だろう。

 朝晩毎日、ご苦労様です。

 本当に感謝している。

 悠菜は、やっぱ凄いわ。

 いいお嫁さんになるよ。

 きっと。

     ♢
 
 その後、暫くテレビを観て時間を潰していたが、携帯を見ると既に六時を過ぎていた。
 
 愛美の帰り、少し遅くないか?

 今日、セレスティアが来る事は愛美あいつも知っている筈だ。

 あ、そう言えば……。

 愛美あいつ速攻で帰って来るから、とか言って無かったっけ?
 
 昨日の夜、そんな事を言ってたと思う。

「沙織さーん! そう言えば昨日の夜、愛美が今日は速攻で帰って来るって言ってた!」
「あ~そ~なのね~? じゃあ、そろそろかな~?」

 キッチンから沙織さんが答えるが、俺は少し胸騒ぎがしてきた。

 俺は携帯の画面を震える指でスライドし、愛美の携帯へ発信した。

 呼び出し音は緊張感のない今流行りのポップスに変更されている。

 未だに曲が流れているが、中々電話には出ない。

 電話に出られない状況だという事か?
 
 何やってるんだよ愛美あいつは……。

 俺は、たまらずソファーから立ち上がる。

 そして、意味も無くリビング内を歩き出した。

 だが、不安はどんどんと大きくなる。

 どうしたんだ!

 何かあったのか?

「沙織さん、ちょっと出かけて来る!」

 玄関へ向かいながらキッチンに居る沙織さんへ声を掛け、慌てて靴を履く。

「遅くなっちゃダメよぉ~? 気を付けてね~」
「うん! 行って来ます!」

 沙織さんからの返事が聞こえると、間髪入れずにそう言い、俺は玄関から飛び出した。

 どっちだ⁉

 脳内レーダーに愛美の位置情報が記された。

 だが、駅付近で動かない。
 
 何してんだっ⁉

 俺がさっき帰りに使った道を駆け戻る。

 勿論普段から使っている道でもある。

 日中に焼けたアスファルトの上を全力で走る。

 うわっ!

 車道を走行中の車を数台、いとも簡単に追い抜いてしまった。

 ……な、何だと?

 どうなってんの、俺ーっ!

 おもむろに立ち止まって自分の様子を伺う。

 脳内に自分のモノらしきステータスが表示された。

 良く分からんが、リミッター解除項目に数値の変化があった。

 もしかしたらだが、普段はリミッターが働いている様だ。

 その場で軽くジャンプしてみると、グンッと身体が上へと移動した。

 一瞬でかなりな高さまで上がり、その視界に駅ビルを捉えた。

 その時、脳内の情報が地表からの距離を表すと同時に、重力に対応した手段が幾つか表示された。

 さ、三十メートルーっ⁉

 どうしたものかと思ったのもつかの間、俺の身体は地表へ落下を始めた。

「うわっ!」

 瞬時に脳内に落下速度が表示され、地表まで三秒弱だと理解した。 

 落下速度が一秒で二十三メートル⁉

 下には見上げている人が数名見えた。

 ヤバいっ!

 そう思ったと同時に、俺は元の歩道へと着地を覚悟した。

 三秒足らずではどうしようもない。

 あ、いや、一時間あったとしても、俺にはここからの対処は思いつかないが。

 だが突如、意図せずとも自分の状況とその対処を行った様だ。

 タンっとアスファルトを叩いた様な音はしたが、俺の身体には何も衝撃は無い。

 な、何とも無いのか⁉

 こ、これが俺の能力⁉

 これがハイブリッド⁉

 辺りを見廻すと、不思議そうな表情の人が俺を見ていた。

 この人達は突然何処からともなく飛び降りたこの俺を、当然不思議に思っているのだろう。

 そりゃそうだよね?

 上から見た時に見上げていた人の位置は、勿論脳内で把握している。

 あの人とあの人と……げっ、あの人携帯で動画撮って無いか⁉

 ヤバいと感じたその瞬間、バチッっと静電気の様な音が辺りに響いた。

 どうやら、電子機器に障害を与えたのだと不思議と感じ取れた。

 あちゃー、ごめんなさい、ごめんなさい!

 この場から急いで離れなければいけない。

 俺は全速力で駅へ走った。

 走行中の車を何台も抜き去るが、この際どうでもいい。

 駅に愛美が居ると確信している俺は、弾かれた様に更に速度を上げた。
 
 直ぐに駅に到着すると、辺りを見回すが愛美は見当たらない。

 どうしようも出来ない歯がゆさが押し寄せる。

 愛美あいつに、何が起きているんだろうか。

 もしや、事故⁉

 嫌な事を考えた瞬間、その時だった。

 俺は袖を引っ張られる感触がしてそっちを見た。

 え?

 悠菜?

「ど、どうした⁉」

 思わず、そう言ってしまった。

 無表情で悠菜が立っている。

 俺の袖を掴み、いつもの表情でこっちを見ている。

「大丈夫?」

 悠菜はそう聞いてきたが、俺の焦った感情とはかなり温度差を感じた。

 大丈夫と俺に聞いてきたが、俺が心配しているのは愛美であって、俺自身では無い。

 え?

 俺に大丈夫って?

 しかも、何で悠菜こいつがここに居るんだ?
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