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第一章 覚醒
第12話 #帰らない妹 #思い切り走る
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入学して三か月目、遂に大学で初めての女友達が出来た!
しかも、とびっきりの美人が二人。
そう言う訳で、大学からのこの帰り道もルンルン気分な訳よ。
午後の講義を終えた俺と悠菜は、電車を降りてホームを歩いている。
そして、改札口から駅前へ出て来た所で思い出す。
今日、連絡先を交換した二人。
一人は活発そうでスタイル抜群、真っ赤なポルシェに乗るセレブなお嬢様。
もう一人は、清楚な感じのお淑やかで上品なお嬢様。
しかーし!
その下には、グラビアアイドル顔負けの隠されたポテンシャルを秘めている!
……に、違いない。
こちらも恐らくセレブであろう。
なんせ、お爺様が水族館を所有してるとかしてないとか。
どちらも、冷蔵庫を複数所有。←ここ重要。
俺の人生で、今までそんな人間と関係があった経験がない。
異世界の人とは関係大有りなんですけどね。
思えば、俺の周りの人って、普通の地球人少なくね?
高校からの友人は鈴木がいるけど、あいつもある意味普通の人間とは言い難い。
そう思って、ふと隣を見る。
いつもの悠菜が歩いている。
白に近い銀色の綺麗な長い髪。
髪と同じ色に光る澄んだ瞳。
改めて見ると、悠菜って結構綺麗なんだな。
物心ついた時には、いつも一緒に居た。
妹の愛美が一緒に遊べる位になる迄は、いつも二人で遊んでいたな。
そう言えば、いつも俺が遊んで貰っていたような気がしてきた。
悠菜、いつも大人しかったし。
今思うと、冷めた目で見られていたのかも⁉
うん、そうかも知れない……。
悠菜の中身はそのまま、身体だけが俺と同じ様に小さくしていただけだからな。
ちょ、ちょっと待て、恥ずかしくなってきたぞ。
顔が赤くなってきたのが、自分でもわかる。
……ヤバい!
ここは冷静にならないと。
今になって、幼い頃の失態を悔やんでも仕方ない。
だが、今の頭の中身そのままで、幼い姿になるって凄いな。
で、今はこの姿に成長しているのか。
歩きながらも俺は又、悠菜を見た。
最近は胸も大きくなった様に思える。
あ、そう言えば!
俺の成長に合わせて成長させているとか、沙織さんがさり気無く言ってたな。
こいつ、胸も成長させてるのか⁉
まあ、胸だって育って無いと、そりゃ違和感は出て来るよな。
ヒップラインも中々なものですよ、悠菜さん。
まてよ?
あれだよ、≪毛≫とか、どうなんだ?
脇の毛とかは、処理するってのが普通だから良しとして……。
あれだよ、あれ……下の毛。
……まてよ?
元々、髪の毛が銀色だから、も、も、もしかして⁉
下の毛も……銀色とか⁉
ついつい想像してしまう。
……やばい。
又、顔が赤くなって来たと思う。
自分でもわかる。
「ねえ」
急に悠菜が立ち止まり、俺に声をかけた。
「は、はいっ⁉」
咄嗟に返事をして俺は立ち止まる。
だが、赤くなった顔は、急に呼ばれてびっくりした拍子に一気に醒めた様だ。
悠菜を見ると、いつもの冷めた表情で……。
いや、違う!
いつもと違う表情だ!
普段から悠菜を見ている俺にしか、その変化には気づかないだろう。
何と言うか、恥じらいに似た、困惑した表情が少し見える。
悠菜、こんな表情するのか?
あ、この表情……。
昔、幼い頃に見た事があった様な記憶がある。
そのまま、じっとこちらを見ている。
何だか可愛い……ドキドキしてきた。
「な、なに?」
俺は動揺を隠しながら平静を装い、少しぎこちなくだが何とか聞き返した。
すると、悠菜は直ぐに俺から目を逸らして歩き出した。
「やっぱり、いい」
ちょ、ちょっと!
なになに?
「なんだよー言いかけて、それはないじゃんかー」
何だか悠菜が普段と違う表情で困惑したが、俺はそれ以上を追求出来ずに彼女の後を追った。
♢
今日から俺は、沙織さんの家で生活するのだ。
悠菜と俺の実家を通り過ぎると、そのまま裏にある彼女の家へ向かった。
「ただいまー! 沙織さん、いるー?」
玄関から声を掛けると、奥から沙織さんが出て来てくれた。
「は~い! 悠斗くん、おかえり~! ユーナちゃんもお疲れさま~!」
「ただいま」
「セリカちゃん、今夜来るって言ってましたよ~」
「あ、そうなんですね!」
「それと、悠斗くん、お部屋の準備したよ~」
「お部屋って、俺の部屋? 何か、すみません」
俺の部屋も準備してくれたのか!
「いいんですよ~愛美ちゃんのお部屋の隣ね~?」
「そうなんですね、どうもです」
「いえいえ~さてと、二人共何か飲む? まだ愛美ちゃん達は帰って来ないし~」
「そうですね~うん、冷たいの頂きます」
しかし、ここって沢山部屋がありそうだな、大きな家だし。
そうだよ、この家ってバカでかいじゃん!
今まで当たり前に見ていたから、特に気にしなかったけどさ。
普通に見たら、医者か政治家の家に思えるだろう。
もしくは、有名芸能人とか?
俺はふと気になった。
「ねえ、沙織さん、この家って冷蔵庫何台あるの?」
リビングへ来たところで、何気なく聞いていみた。
五十嵐さんと西園寺さんが、家に複数の冷蔵庫を保有していた事を思い出したのだ。
「冷蔵庫? 普通のは二つかな?」
「普通のって、そこにあるのは業務用じゃ無いの? 凄く大きいけど」
「あらそぉ? 大きなタイプなら下にあるけど……でも一体どしたの~?」
「え? 下? 地下室があるの⁉」
「うんうん~」
俺はこの家には余り来てなかったため、地下室の存在は知らなかった。
愛美は度々出入りしていたし、知っているのかも知れないが。
「てか、沙織さんちにも二台あるのか!」
俺の家だけか、一台なのは。
しかも、地下室があるとは知らなかった。
まあ、思えば、俺の家よりかなり大きいしな。
そうだな、建物だけでも五、六倍はありそうだし。
な、ちょっと待て、沙織さんって超セレブかよ!
まあ、異次元から来てる事だし、セレブとはちょっと違うか。
リビングのソファーへ座ると、俺は昨日買ったアイスが気になった。
「そう言えば昨日のアイス凄い量だったし、ここの冷凍庫に入るかちょっと気にはなってたんだよね」
「あ~流石にあの量はキッチンの冷凍庫占拠しちゃうわね~」
「そっか、入らない分は地下の冷蔵庫に入れたのか」
道理であんなに愛美達が買い込んだ訳だ。
大人買いを通り過ぎているのは、パーティー買いとか?
いやいや、あの量だと普通に仕入れって言うんじゃね?
「悠斗くんは、地下室知らなかったの~?」
「うん、知らなかったー」
「そっか~愛美ちゃんは知ってる筈よ~?」
そう言いながら、沙織さんがソファーに座った。
やっぱり愛美は知ってるんだな。
「ねえ、愛美ちゃんの帰り時間、悠斗くん知ってる?」
「んー、帰りの時間は聞いてないけど、どうなんだろう」
「そうなのね~? じゃあ、愛美ちゃんが来てからでいいかな」
「俺も高二の頃って、学校帰りに何かと色々あったかもな」
そう言えば、あいつ大学受験どうすんだ?
高校二年にもなると、進路とか決める時だろう。
愛美、受験とかする気あるんだろうか。
親に言われて無いのかな?
俺の場合は、今通っている大学の付属高校を両親に勧められて入ったけど。
「愛美は大丈夫」
急に悠菜がそう言って、キッチンから飲み物を運んできた。
「あ、サンキュー!」
俺は悠菜から手渡されたグラスを、口に傾けながらふと気になった。
あれ?
こいつ、愛美は大丈夫って言った?
俺はハッとして、悠菜を見た。
が、普通にリビングのソファーに座ってジュースを飲んでいる。
帰りは遅くないって意味で言ったのか?
ま、いっか。
「なあ悠菜、セレスティアが来るのは何時ごろ?」
「来る時間は聞いていない」
悠菜はそう言って立ち上がると、そのままリビングから裏庭へ出て行った。
「セリカちゃんね~どうかなぁ~ご飯食べるかな~?」
沙織さんも、そう言いながらキッチンへ向かった。
「今夜は何に~しようかな~」
キッチンのあるダイニングから、沙織さんの独り言が聞こえた。
この二人、異星人の襲来だというのに、結構のんびりしてるんだな。
その為の支度をして、セレスティアさんが来ると言うのに……。
悠菜はいつも淡々と行動するタイプだけどさ。
まあ、それを言ったら、沙織さんも慌てて行動するタイプじゃないか。
いつも、おっとりした感じだし。
そう思いながら悠菜の出て行った方を眺めていると、彼女はそのまま生垣へ向かって歩いて行く。
勿論あの生垣の向こうは俺の家に繋がって居る。
きっと、俺の母親に頼まれているプランターの水やり何だろう。
朝晩毎日、ご苦労様です。
本当に感謝している。
悠菜は、やっぱ凄いわ。
いいお嫁さんになるよ。
きっと。
♢
その後、暫くテレビを観て時間を潰していたが、携帯を見ると既に六時を過ぎていた。
愛美の帰り、少し遅くないか?
今日、セレスティアが来る事は愛美も知っている筈だ。
あ、そう言えば……。
愛美速攻で帰って来るから、とか言って無かったっけ?
昨日の夜、そんな事を言ってたと思う。
「沙織さーん! そう言えば昨日の夜、愛美が今日は速攻で帰って来るって言ってた!」
「あ~そ~なのね~? じゃあ、そろそろかな~?」
キッチンから沙織さんが答えるが、俺は少し胸騒ぎがしてきた。
俺は携帯の画面を震える指でスライドし、愛美の携帯へ発信した。
呼び出し音は緊張感のない今流行りのポップスに変更されている。
未だに曲が流れているが、中々電話には出ない。
電話に出られない状況だという事か?
何やってるんだよ愛美は……。
俺は、たまらずソファーから立ち上がる。
そして、意味も無くリビング内を歩き出した。
だが、不安はどんどんと大きくなる。
どうしたんだ!
何かあったのか?
「沙織さん、ちょっと出かけて来る!」
玄関へ向かいながらキッチンに居る沙織さんへ声を掛け、慌てて靴を履く。
「遅くなっちゃダメよぉ~? 気を付けてね~」
「うん! 行って来ます!」
沙織さんからの返事が聞こえると、間髪入れずにそう言い、俺は玄関から飛び出した。
どっちだ⁉
脳内レーダーに愛美の位置情報が記された。
だが、駅付近で動かない。
何してんだっ⁉
俺がさっき帰りに使った道を駆け戻る。
勿論普段から使っている道でもある。
日中に焼けたアスファルトの上を全力で走る。
うわっ!
車道を走行中の車を数台、いとも簡単に追い抜いてしまった。
……な、何だと?
どうなってんの、俺ーっ!
おもむろに立ち止まって自分の様子を伺う。
脳内に自分のモノらしきステータスが表示された。
良く分からんが、リミッター解除項目に数値の変化があった。
もしかしたらだが、普段はリミッターが働いている様だ。
その場で軽くジャンプしてみると、グンッと身体が上へと移動した。
一瞬でかなりな高さまで上がり、その視界に駅ビルを捉えた。
その時、脳内の情報が地表からの距離を表すと同時に、重力に対応した手段が幾つか表示された。
さ、三十メートルーっ⁉
どうしたものかと思ったのもつかの間、俺の身体は地表へ落下を始めた。
「うわっ!」
瞬時に脳内に落下速度が表示され、地表まで三秒弱だと理解した。
落下速度が一秒で二十三メートル⁉
下には見上げている人が数名見えた。
ヤバいっ!
そう思ったと同時に、俺は元の歩道へと着地を覚悟した。
三秒足らずではどうしようもない。
あ、いや、一時間あったとしても、俺にはここからの対処は思いつかないが。
だが突如、意図せずとも自分の状況とその対処を行った様だ。
タンっとアスファルトを叩いた様な音はしたが、俺の身体には何も衝撃は無い。
な、何とも無いのか⁉
こ、これが俺の能力⁉
これがハイブリッド⁉
辺りを見廻すと、不思議そうな表情の人が俺を見ていた。
この人達は突然何処からともなく飛び降りたこの俺を、当然不思議に思っているのだろう。
そりゃそうだよね?
上から見た時に見上げていた人の位置は、勿論脳内で把握している。
あの人とあの人と……げっ、あの人携帯で動画撮って無いか⁉
ヤバいと感じたその瞬間、バチッっと静電気の様な音が辺りに響いた。
どうやら、電子機器に障害を与えたのだと不思議と感じ取れた。
あちゃー、ごめんなさい、ごめんなさい!
この場から急いで離れなければいけない。
俺は全速力で駅へ走った。
走行中の車を何台も抜き去るが、この際どうでもいい。
駅に愛美が居ると確信している俺は、弾かれた様に更に速度を上げた。
直ぐに駅に到着すると、辺りを見回すが愛美は見当たらない。
どうしようも出来ない歯がゆさが押し寄せる。
愛美に、何が起きているんだろうか。
もしや、事故⁉
嫌な事を考えた瞬間、その時だった。
俺は袖を引っ張られる感触がしてそっちを見た。
え?
悠菜?
「ど、どうした⁉」
思わず、そう言ってしまった。
無表情で悠菜が立っている。
俺の袖を掴み、いつもの表情でこっちを見ている。
「大丈夫?」
悠菜はそう聞いてきたが、俺の焦った感情とはかなり温度差を感じた。
大丈夫と俺に聞いてきたが、俺が心配しているのは愛美であって、俺自身では無い。
え?
俺に大丈夫って?
しかも、何で悠菜がここに居るんだ?
しかも、とびっきりの美人が二人。
そう言う訳で、大学からのこの帰り道もルンルン気分な訳よ。
午後の講義を終えた俺と悠菜は、電車を降りてホームを歩いている。
そして、改札口から駅前へ出て来た所で思い出す。
今日、連絡先を交換した二人。
一人は活発そうでスタイル抜群、真っ赤なポルシェに乗るセレブなお嬢様。
もう一人は、清楚な感じのお淑やかで上品なお嬢様。
しかーし!
その下には、グラビアアイドル顔負けの隠されたポテンシャルを秘めている!
……に、違いない。
こちらも恐らくセレブであろう。
なんせ、お爺様が水族館を所有してるとかしてないとか。
どちらも、冷蔵庫を複数所有。←ここ重要。
俺の人生で、今までそんな人間と関係があった経験がない。
異世界の人とは関係大有りなんですけどね。
思えば、俺の周りの人って、普通の地球人少なくね?
高校からの友人は鈴木がいるけど、あいつもある意味普通の人間とは言い難い。
そう思って、ふと隣を見る。
いつもの悠菜が歩いている。
白に近い銀色の綺麗な長い髪。
髪と同じ色に光る澄んだ瞳。
改めて見ると、悠菜って結構綺麗なんだな。
物心ついた時には、いつも一緒に居た。
妹の愛美が一緒に遊べる位になる迄は、いつも二人で遊んでいたな。
そう言えば、いつも俺が遊んで貰っていたような気がしてきた。
悠菜、いつも大人しかったし。
今思うと、冷めた目で見られていたのかも⁉
うん、そうかも知れない……。
悠菜の中身はそのまま、身体だけが俺と同じ様に小さくしていただけだからな。
ちょ、ちょっと待て、恥ずかしくなってきたぞ。
顔が赤くなってきたのが、自分でもわかる。
……ヤバい!
ここは冷静にならないと。
今になって、幼い頃の失態を悔やんでも仕方ない。
だが、今の頭の中身そのままで、幼い姿になるって凄いな。
で、今はこの姿に成長しているのか。
歩きながらも俺は又、悠菜を見た。
最近は胸も大きくなった様に思える。
あ、そう言えば!
俺の成長に合わせて成長させているとか、沙織さんがさり気無く言ってたな。
こいつ、胸も成長させてるのか⁉
まあ、胸だって育って無いと、そりゃ違和感は出て来るよな。
ヒップラインも中々なものですよ、悠菜さん。
まてよ?
あれだよ、≪毛≫とか、どうなんだ?
脇の毛とかは、処理するってのが普通だから良しとして……。
あれだよ、あれ……下の毛。
……まてよ?
元々、髪の毛が銀色だから、も、も、もしかして⁉
下の毛も……銀色とか⁉
ついつい想像してしまう。
……やばい。
又、顔が赤くなって来たと思う。
自分でもわかる。
「ねえ」
急に悠菜が立ち止まり、俺に声をかけた。
「は、はいっ⁉」
咄嗟に返事をして俺は立ち止まる。
だが、赤くなった顔は、急に呼ばれてびっくりした拍子に一気に醒めた様だ。
悠菜を見ると、いつもの冷めた表情で……。
いや、違う!
いつもと違う表情だ!
普段から悠菜を見ている俺にしか、その変化には気づかないだろう。
何と言うか、恥じらいに似た、困惑した表情が少し見える。
悠菜、こんな表情するのか?
あ、この表情……。
昔、幼い頃に見た事があった様な記憶がある。
そのまま、じっとこちらを見ている。
何だか可愛い……ドキドキしてきた。
「な、なに?」
俺は動揺を隠しながら平静を装い、少しぎこちなくだが何とか聞き返した。
すると、悠菜は直ぐに俺から目を逸らして歩き出した。
「やっぱり、いい」
ちょ、ちょっと!
なになに?
「なんだよー言いかけて、それはないじゃんかー」
何だか悠菜が普段と違う表情で困惑したが、俺はそれ以上を追求出来ずに彼女の後を追った。
♢
今日から俺は、沙織さんの家で生活するのだ。
悠菜と俺の実家を通り過ぎると、そのまま裏にある彼女の家へ向かった。
「ただいまー! 沙織さん、いるー?」
玄関から声を掛けると、奥から沙織さんが出て来てくれた。
「は~い! 悠斗くん、おかえり~! ユーナちゃんもお疲れさま~!」
「ただいま」
「セリカちゃん、今夜来るって言ってましたよ~」
「あ、そうなんですね!」
「それと、悠斗くん、お部屋の準備したよ~」
「お部屋って、俺の部屋? 何か、すみません」
俺の部屋も準備してくれたのか!
「いいんですよ~愛美ちゃんのお部屋の隣ね~?」
「そうなんですね、どうもです」
「いえいえ~さてと、二人共何か飲む? まだ愛美ちゃん達は帰って来ないし~」
「そうですね~うん、冷たいの頂きます」
しかし、ここって沢山部屋がありそうだな、大きな家だし。
そうだよ、この家ってバカでかいじゃん!
今まで当たり前に見ていたから、特に気にしなかったけどさ。
普通に見たら、医者か政治家の家に思えるだろう。
もしくは、有名芸能人とか?
俺はふと気になった。
「ねえ、沙織さん、この家って冷蔵庫何台あるの?」
リビングへ来たところで、何気なく聞いていみた。
五十嵐さんと西園寺さんが、家に複数の冷蔵庫を保有していた事を思い出したのだ。
「冷蔵庫? 普通のは二つかな?」
「普通のって、そこにあるのは業務用じゃ無いの? 凄く大きいけど」
「あらそぉ? 大きなタイプなら下にあるけど……でも一体どしたの~?」
「え? 下? 地下室があるの⁉」
「うんうん~」
俺はこの家には余り来てなかったため、地下室の存在は知らなかった。
愛美は度々出入りしていたし、知っているのかも知れないが。
「てか、沙織さんちにも二台あるのか!」
俺の家だけか、一台なのは。
しかも、地下室があるとは知らなかった。
まあ、思えば、俺の家よりかなり大きいしな。
そうだな、建物だけでも五、六倍はありそうだし。
な、ちょっと待て、沙織さんって超セレブかよ!
まあ、異次元から来てる事だし、セレブとはちょっと違うか。
リビングのソファーへ座ると、俺は昨日買ったアイスが気になった。
「そう言えば昨日のアイス凄い量だったし、ここの冷凍庫に入るかちょっと気にはなってたんだよね」
「あ~流石にあの量はキッチンの冷凍庫占拠しちゃうわね~」
「そっか、入らない分は地下の冷蔵庫に入れたのか」
道理であんなに愛美達が買い込んだ訳だ。
大人買いを通り過ぎているのは、パーティー買いとか?
いやいや、あの量だと普通に仕入れって言うんじゃね?
「悠斗くんは、地下室知らなかったの~?」
「うん、知らなかったー」
「そっか~愛美ちゃんは知ってる筈よ~?」
そう言いながら、沙織さんがソファーに座った。
やっぱり愛美は知ってるんだな。
「ねえ、愛美ちゃんの帰り時間、悠斗くん知ってる?」
「んー、帰りの時間は聞いてないけど、どうなんだろう」
「そうなのね~? じゃあ、愛美ちゃんが来てからでいいかな」
「俺も高二の頃って、学校帰りに何かと色々あったかもな」
そう言えば、あいつ大学受験どうすんだ?
高校二年にもなると、進路とか決める時だろう。
愛美、受験とかする気あるんだろうか。
親に言われて無いのかな?
俺の場合は、今通っている大学の付属高校を両親に勧められて入ったけど。
「愛美は大丈夫」
急に悠菜がそう言って、キッチンから飲み物を運んできた。
「あ、サンキュー!」
俺は悠菜から手渡されたグラスを、口に傾けながらふと気になった。
あれ?
こいつ、愛美は大丈夫って言った?
俺はハッとして、悠菜を見た。
が、普通にリビングのソファーに座ってジュースを飲んでいる。
帰りは遅くないって意味で言ったのか?
ま、いっか。
「なあ悠菜、セレスティアが来るのは何時ごろ?」
「来る時間は聞いていない」
悠菜はそう言って立ち上がると、そのままリビングから裏庭へ出て行った。
「セリカちゃんね~どうかなぁ~ご飯食べるかな~?」
沙織さんも、そう言いながらキッチンへ向かった。
「今夜は何に~しようかな~」
キッチンのあるダイニングから、沙織さんの独り言が聞こえた。
この二人、異星人の襲来だというのに、結構のんびりしてるんだな。
その為の支度をして、セレスティアさんが来ると言うのに……。
悠菜はいつも淡々と行動するタイプだけどさ。
まあ、それを言ったら、沙織さんも慌てて行動するタイプじゃないか。
いつも、おっとりした感じだし。
そう思いながら悠菜の出て行った方を眺めていると、彼女はそのまま生垣へ向かって歩いて行く。
勿論あの生垣の向こうは俺の家に繋がって居る。
きっと、俺の母親に頼まれているプランターの水やり何だろう。
朝晩毎日、ご苦労様です。
本当に感謝している。
悠菜は、やっぱ凄いわ。
いいお嫁さんになるよ。
きっと。
♢
その後、暫くテレビを観て時間を潰していたが、携帯を見ると既に六時を過ぎていた。
愛美の帰り、少し遅くないか?
今日、セレスティアが来る事は愛美も知っている筈だ。
あ、そう言えば……。
愛美速攻で帰って来るから、とか言って無かったっけ?
昨日の夜、そんな事を言ってたと思う。
「沙織さーん! そう言えば昨日の夜、愛美が今日は速攻で帰って来るって言ってた!」
「あ~そ~なのね~? じゃあ、そろそろかな~?」
キッチンから沙織さんが答えるが、俺は少し胸騒ぎがしてきた。
俺は携帯の画面を震える指でスライドし、愛美の携帯へ発信した。
呼び出し音は緊張感のない今流行りのポップスに変更されている。
未だに曲が流れているが、中々電話には出ない。
電話に出られない状況だという事か?
何やってるんだよ愛美は……。
俺は、たまらずソファーから立ち上がる。
そして、意味も無くリビング内を歩き出した。
だが、不安はどんどんと大きくなる。
どうしたんだ!
何かあったのか?
「沙織さん、ちょっと出かけて来る!」
玄関へ向かいながらキッチンに居る沙織さんへ声を掛け、慌てて靴を履く。
「遅くなっちゃダメよぉ~? 気を付けてね~」
「うん! 行って来ます!」
沙織さんからの返事が聞こえると、間髪入れずにそう言い、俺は玄関から飛び出した。
どっちだ⁉
脳内レーダーに愛美の位置情報が記された。
だが、駅付近で動かない。
何してんだっ⁉
俺がさっき帰りに使った道を駆け戻る。
勿論普段から使っている道でもある。
日中に焼けたアスファルトの上を全力で走る。
うわっ!
車道を走行中の車を数台、いとも簡単に追い抜いてしまった。
……な、何だと?
どうなってんの、俺ーっ!
おもむろに立ち止まって自分の様子を伺う。
脳内に自分のモノらしきステータスが表示された。
良く分からんが、リミッター解除項目に数値の変化があった。
もしかしたらだが、普段はリミッターが働いている様だ。
その場で軽くジャンプしてみると、グンッと身体が上へと移動した。
一瞬でかなりな高さまで上がり、その視界に駅ビルを捉えた。
その時、脳内の情報が地表からの距離を表すと同時に、重力に対応した手段が幾つか表示された。
さ、三十メートルーっ⁉
どうしたものかと思ったのもつかの間、俺の身体は地表へ落下を始めた。
「うわっ!」
瞬時に脳内に落下速度が表示され、地表まで三秒弱だと理解した。
落下速度が一秒で二十三メートル⁉
下には見上げている人が数名見えた。
ヤバいっ!
そう思ったと同時に、俺は元の歩道へと着地を覚悟した。
三秒足らずではどうしようもない。
あ、いや、一時間あったとしても、俺にはここからの対処は思いつかないが。
だが突如、意図せずとも自分の状況とその対処を行った様だ。
タンっとアスファルトを叩いた様な音はしたが、俺の身体には何も衝撃は無い。
な、何とも無いのか⁉
こ、これが俺の能力⁉
これがハイブリッド⁉
辺りを見廻すと、不思議そうな表情の人が俺を見ていた。
この人達は突然何処からともなく飛び降りたこの俺を、当然不思議に思っているのだろう。
そりゃそうだよね?
上から見た時に見上げていた人の位置は、勿論脳内で把握している。
あの人とあの人と……げっ、あの人携帯で動画撮って無いか⁉
ヤバいと感じたその瞬間、バチッっと静電気の様な音が辺りに響いた。
どうやら、電子機器に障害を与えたのだと不思議と感じ取れた。
あちゃー、ごめんなさい、ごめんなさい!
この場から急いで離れなければいけない。
俺は全速力で駅へ走った。
走行中の車を何台も抜き去るが、この際どうでもいい。
駅に愛美が居ると確信している俺は、弾かれた様に更に速度を上げた。
直ぐに駅に到着すると、辺りを見回すが愛美は見当たらない。
どうしようも出来ない歯がゆさが押し寄せる。
愛美に、何が起きているんだろうか。
もしや、事故⁉
嫌な事を考えた瞬間、その時だった。
俺は袖を引っ張られる感触がしてそっちを見た。
え?
悠菜?
「ど、どうした⁉」
思わず、そう言ってしまった。
無表情で悠菜が立っている。
俺の袖を掴み、いつもの表情でこっちを見ている。
「大丈夫?」
悠菜はそう聞いてきたが、俺の焦った感情とはかなり温度差を感じた。
大丈夫と俺に聞いてきたが、俺が心配しているのは愛美であって、俺自身では無い。
え?
俺に大丈夫って?
しかも、何で悠菜がここに居るんだ?
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