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第二章 抗戦

第41話 #メイドの秘密 #温泉の効能

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 今、我が家自慢の露天風呂には、グラビアアイドル顔負けの巨乳女子大生、西園寺さんが入っている。

 そして妹の愛美とボディーガードの蜜柑、時空漂泊者イーリス、更にはメイドさん二人が入ってる。

 総勢五名の入浴姿がそこにあるって訳!

 そこは何てったって、うちは大浴場だからね!

 全く問題なく入れる訳よ!

 どんな巨乳・爆乳が集まって入ったとしても大歓迎!
 ↑(もう、やけくそ)

 男の俺以外は……ね。

 あ、総勢六名じゃないかって?

 敢えてイーリスの幼体はスルーしてます。



 皆が入っている大浴場にこの俺が参入する訳にもいかず、一階にある風呂場の湯船に独り浸かっていた。

 しかし、この風呂だって十分広いよ?

 俺は湯船に浸かりながら、改めて風呂場を見まわす。

 この浴槽だって、実家の四倍はあるじゃん……。

 何だかこの家って無駄に広く無いか?

 まあ、沙織さんのこだわりもあるんだろうけどさ。

 昨日の夜、ずっと一緒に暮らしてた二人が帰ってから、イーリスが残っているとは言え、愛美と蜜柑の四人で住むには広すぎると思っていたけど、今夜は西園寺さんがお手伝いさん二人を連れて来てくれた。

 だが、今夜は良いとして明日からは寂しくなるな。

 大学でも独りだしさ。

 いや、ちょっと待てよ?

 西園寺さん、今夜帰る気ある?

 もう夜だし?

 あの人が温泉に入ったら、ながくなるのは想定出来る。

 少なくても数時間は入っているだろう。

 それから帰ったとしても、完全に日付はかわるんじゃないか?

 親はそれでいいのか?

 普通に心配しない?

 あ、メイド兼ボディーガードが二人も付き添っていれば問題無い訳?

『おにーちゃーん! 今どこー?』

 ――っ⁉

 急に愛美の声がして、俺は浴槽内でビクッとしたが、すぐにインターフォンだと気づき、そのスイッチを探した。

 話すには例の色の違うタイルだ!

 そして、浴槽から手の届く壁に色の違うタイルを見つけると、それに触れながら叫んだ。

「まなみー? 今な、一階の風呂入ってるー! どしたー?」
『あーそうなんだ? てか、お兄ちゃん声でかいよ……。ね、そこも広いでしょ~?』
「あ、そう? うん、ここでも十分温泉気分だよ!」
『だって、そこも浴槽に溜まってるのは温泉だもん』
「へ? そうなの?」

 俺は浴槽内のお湯を凝視するが、その違いは分からない。

『そうなんだよ~? あ、でね! 友香さんとメイドさん、暫くここにお泊りするからね~?』

 え?

 そ、そうなの⁉

 暫く⁉

 爆乳の西園寺さんが⁉

 あんな綺麗でナイスバディーな女の子がここにお泊りか!

 棚ぼた的な急展開に、突然体の中で爆発的に何かが込み上げる。

 アバンチュールな夜があったりするのだろうか……実に待ち遠しい。

 オラ、ワクワクっすっぞ⁉

「そ、そうなんだ⁉ それは大歓迎だよー!」
『あ、お兄ちゃん、えっちな事考えたでしょ!』
「な、ないないない!」

 あいつ、エスパーかよっ!

『ま、そう言う事だから、友香さんのお部屋とか覗いちゃダメだよ~?』
「わ、分かってるわっ! 西園寺さん、ごゆっくり~」
『あ、友香さんね、今は温泉モード~』

 あ、そうですか……それじゃあ、返事は期待できないな。

『朝比奈さんと夜露さんには、一階のお部屋がいいかな~? って皆で話してたの』
『うん、私が前に使ってた部屋が良いと思って!』

 ああ、蜜柑の部屋、前は一階にあったんだっけね。

「そーか、その辺は愛美おまえ達に任せるよー!」
『はーい! じゃあ、イーリス寝かせて来るね~』
「ほーい!」

 そう言うと、湯船のお湯を両手ですくって、顔にパシャとかける。

 そうか、暫く三人も増える訳か~。

 何だか、寂しいとかそんな気分は吹っ飛んだぞ!

 つーか、あの西園寺さんがお泊りですか!

 い、良いのか⁉

 沙織さんが居なくなった途端に、同級生の女子大生を早速お泊りさせて良いのか⁉

 これって、連れ込んだみたいじゃない⁉

 本当に良いんですかーっ⁉

 何だか急にのぼせて来たぞ……。

 あ、待てよ?

 西園寺さんにはメイド兼ボディーガードがお付きなんだよな……。

 ま、まあ、夜這いする気なんて無いし?

 本当だってば!

 そりゃ、向こうから来たら断れないけど……。

 あ、もしかしたら……西園寺さん……。

 昨日、俺達が沙織さん達との別れを惜しんでいたから、それを想って泊まるつもりで来てくれたとか?

 愛美なんて大泣きしてたしな。

 温泉が好きだと言って、図々しいと思われるのを承知で、昨日の今日だけど早速来てくれたんじゃない?

 西園寺さんが温泉好きだという事に囚われて居て、俺はそこまで気づかなかった。

 何て優しい人なんだ……。

 ありがとね、西園寺さん。

 そう思うと、また少し西園寺さんの事を好きになってしまった。


   ♢  


 その後、風呂を出た俺がリビングのソファーでくつろいでいると、静かに朝比奈さんが入って来た。

「霧島さま、良いお風呂を頂きました」

 彼女はそう言って深々と頭を下げたが、俺にはその行為がどうもくすぐったい。

「あ、いえいえ! そんな、そこまでしなくてもいいですよ! それよりも、何か飲みませんか?」
「ありがとうございます。ですが先程脱衣場で、愛美さまに頂きましたので、わたくしは結構です」
「あ、そうなんですね」

 そうか、上にも冷蔵庫があったっけな。

 あそこのフルーツ牛乳はまだ未開拓だ。

 いずれ制覇しよう。

「先程、愛美さまとお話しされていた件でございますが、暫くの間お世話をさせて頂きたく思います」
「あー、うん、そうだってね! こちらこそ宜しくですよ」
「当方の主にかわりまして、お礼を申し上げます」

 そう言って、また深々と頭を下げられてしまう。

「あ、いえ、僕としても感謝してるんですよ。西園寺さんが僕たちに気を遣って、今夜は来てくれてると分かってます」
「霧島さま……何とお優しいお方でしょう……」

 そう言うと、朝比奈さんは深々とお辞儀をした。

「え? いや、優しいのは西園寺さんで……」
「いえ、お優しい方だからこそ、お気づきになられる事も多いのです」

 そう言って、朝比奈さんはまた深々と頭を下げる。

 そういうものなの?

 普通は優しくされたら分かるでしょ。

 そう思った俺は、頭を下げられては尚更くすぐったい。

「ですから、頭を上げて下さいよ~」
「はい、ありがとうございます」

 すると、リビングに愛美と蜜柑が入って来た。

「ちょっと、朝比奈さんどーしたんですか⁉」
「お兄ちゃんが何かしました⁉」
「お、おいおい! お前ら!」
「いえ、愛美さま、お兄様は本当にお優しい方で……」

 そう言って、また頭を下げる。

 ヤバいなこれは、本当に疲れて来るぞ?

 大体にして今までの環境とかけ離れ過ぎている。

 これまでも決して不自由など無かったが、基本的な育ち方が朝比奈さん達とは違うのだろう。

「え? お兄ちゃんが?」
「はい! 本当にお優しいお方です」
「そ、そうですか? でも、何か失礼があったら遠慮なく言って下さいね⁉」

 そう言って愛美は朝比奈さんに近寄ると、嬉しそうにその手を握った。

 俺って、そこまで優しい?

 特別って訳じゃない気がするが……。

 何だか妙に照れ臭いよ?

「あ、でね? 朝比奈さんと夜露さんのお部屋なんですけど~友香さんは、三階の空いているお部屋にしようと思うんですけど……お兄ちゃんの隣」
「はい、でしたら夜露は友香様の近くが好ましいと……」
「あ~やっぱり? じゃあ、友香さんの隣がいいですね! で、朝比奈さんは?」
「私は一階であれば、何処でもかまいません」
「そうなの? 一階がいいの?」
「はい。色々と都合が良いのです」
「あ、もしかして……玄関から近い方がいいのかな?」
「そうして頂けると助かります」

 そういうものなの?

「私が少しだけ使った部屋なんですが、凄く良いお部屋でした!」
「そんなに良いお部屋で無くても……」
「トイレとシャワーが付いてるお部屋ですよ~自由に使って下さいね?」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ、こっちです。案内しますね~」

 愛美と蜜柑はそう言って、朝比奈さんとリビングを出て行った。

 ちょっと、何⁉

 トイレとシャワー完備だと⁉

 そんな部屋もあるのか⁉

 俺の部屋にも無いトイレがあるだと?

 何だか羨ましいけど、それはそれで掃除が大変そうだな。

 無い方が正解かもしれん。

「あれ? お兄ちゃん、まだここに居たの?」
「あ、うん。なあ、愛美。一階の部屋にはシャワーとトイレ完備なのか?」
「うん、そうだけど? お兄ちゃんの部屋にだってあるじゃん」
「え? 俺の部屋に⁉ どこ⁉ まさか噴水とか言わないよな⁉」
「何言ってるの、噴水なわけ無いじゃん。てか、今まで気づいて無かったの?」
「あ、ああ……どこだ?」
「えー⁉ お兄ちゃんマジだったんだ……」

 そう愛美は驚いた表情で俺を見るが、俺は勿論大マジで訊いている。

 確かに広い部屋の真ん中に、でんと鎮座している噴水は嫌でも目に入るが、その他はクローゼット以外の扉には手を触れていなかった。

「お兄ちゃんの部屋のベランダ側に洗面台あるでしょ?」
「うん」
「そこの横だよ?」
「あ……あそこにあるのか⁉」

 愛美の言う通り、俺の部屋のベランダへ出る窓の横に洗面台がある。

 その横に大きなタペストリーが掛けられていた。

 それはただ単に沙織さんの趣味の装飾物だと思っていたが、どうもその奥がトイレとシャワールームらしい。

「知らなかった……お前の部屋にもあるの?」
「うん、あるけど? あ、アイス食べる? バニラでいいよね」
「あ、ああ、食べる……」

 そう言えばバニラアイスは沙織さんが好きだから、大量に買ってあったよな。

 チョコアイスはイーリスのお気に入りだし、これから暫くはバニラアイスを食べないと、そのまま残ってしまいそうだ。

「あ、さっき聞いてた? 友香さんの部屋は一応、お兄ちゃんの隣にしたよ? ちょっとだけ悠菜お姉ちゃんの部屋だったけど」
「ああ、分かった」

 愛美からバニラアイスを受け取りながら考えた。

 俺の隣は愛美の部屋と大きな穴で連結されてるし、反対の隣側は悠菜の部屋だった。

 俺と愛美がここに住む事になってから、悠菜が俺の部屋に移動したんだっけな。

 だから悠菜の部屋と言っても数日間だけだろうな。

「ねえ、お兄ちゃん。ここだけの内緒だよ?」
「ん? どした?」
「朝比奈さんと、夜露さんの身体ね……」

 な、なに?

 あの二人の身体と言われて、つい裸を想像してしまう。

 温泉、内緒と来れば、連想されるのは、やはり二人のシークレットな部分だろう。

 これが秘密の花園って奴?

 二人共綺麗だしドキドキする。

「身体のあちこちに……凄い傷痕があるの……しかも、結構大きな」
「え……そうなんだ?」
「うん……あたし、それ見て何だか悲しくなって来ちゃった」
「そ、そうか……」

 そう言えば、特殊訓練とか色々やって来たからだろうか。

 でも、まだ二人共まだ若いよね?

 朝比奈さんは三十歳手前辺りで、夜露さんはまだ二十代半ばだろうか。

 子供が居たら、この様な泊りの仕事は出来ないだろうし、未婚でそんな大きな傷跡とは難儀であろう。

 俺も何だか胸が痛くなった。

「だからお兄ちゃん、気を付けてね? 気にしてるかも知れないから」
「うん、分かった」

 そうだな。

 無意識に地雷踏んじゃうかも知れないよね。

 でもこれを知った事で、余計に気を遣って彼女らに違和感を与えそうだが。

「まあ、お前もあまり気を遣い過ぎないようにな?」
「うん……分かってる……」
「みかんも分かってるよね?」
「らじゃ!」

 その時だった。

「やはり、霧島さま……それに愛美さまもお優しいのですね」
「え?」

 急にそう言われ、俺達が声の方を振り返ると、朝比奈さんがにこやかな表情をして立っていた。

「あ、朝比奈さん!」
「すみません、お兄ちゃんが変な事言わない様にって思って……」
「そ、そうなんです! こいつは、俺が知らずに変な事言わない様にって……」

 この事を知らずに地雷を踏まない様に、前もって愛美が俺に伝えたのだろう。

 こいつに悪気など無いのは、この俺は十分知っている。

「いえいえ、そのお気持ちが嬉しいのです。友香様は本当に良いお友達をお持ちで……私は誇りに思います」

 そう言って、朝比奈さんは頭を深く下げた。

「あ、いえ、ホントにそう言うの俺達慣れてないのでっ!」
「うんうん、わたしも困っちゃう……」
「あ、すみません……」
 
 そう言って朝比奈さんは頭を上げると、ゆっくり話し出した。

「愛美さん、私も夜露も特殊な訓練と任務で、これまで数多くの傷を受けて来ました。そして、それはこれからも続くでしょう。ですが、身体の傷はいずれ癒えます。決して癒えないのは、大切な友を数多く失った心の傷です」
「あ……」
「この身体の傷は、私がまだ生きている証なのです。誇りにも感じていますが、失った友を思うと今でも傷が痛みます。傷を触っても何とも無いのですが、友を思うと心が酷く痛むのです」
「朝比奈さん……」

 俺の知らない危険な任務で、これまで数多くの仲間を失ったのだろう。

 それは身体の傷よりも、ずっと深く心を傷つけて来たのだろうな。

「ですが、不思議なんです。こちらのお風呂を頂いていると、その傷が癒えた様に感じたのです……こんな事は今までありませんでした」
「そ、そうですか……」

 俺はそれしか言えなかった。

 恐らく、朝比奈さんの感謝を込めての言葉だろうとそう思った。

 それ程までに良い温泉だという比喩なのだろうね。

 お風呂に入っただけで、心の傷が癒える筈は無いだろう。

 そう思っていると、急に愛美が声を上げた。

「わたしも……私もそうだったんです!」

 は?

 はい?

 どうしたって言うんだ、お前は。

「昔ね、近所に仲良くなった猫が居たんだけど、ある日突然死んじゃったの。その時に沙織お姉ちゃんがここのお風呂に入れてくれて……そしたら、その白い猫ちゃんとの楽しかった思い出を、どんどんどんどん思い出して来て、そしたら死んじゃった事が、それ以来余り悲しくならなくなったの!」
「そうなのですね……」

 そんな事があったの?
 
「あたしね、沙織お姉ちゃんがここの温泉にこだわるのには、何か絶対秘密があるとずっと思ってた!」
「へ? そうなの?」
「うん! お兄ちゃんは高い所苦手だから来なかったけどさ」
「あ、いや、まあ……」

 だが、愛美がそう思うのは勝手だが、風呂に入ったぐらいで心の傷がそんな簡単に癒えるとは思えないが……。

 今はそっとして置こう。

「そうですね。とても良いお風呂ですから、きっとそんな効果もあるのかも知れませんね」
「うん! だから、どんどん朝比奈さんも入って下さいね⁉」
「はい、ありがとうございます」

 愛美の子供染みた発言に、明るい表情まで見せて合わせてくれている。

 これが大人の対応って奴か。

 朝比奈さん、あなたやっぱり大人ですね。

「ところで、西園寺さんはまだ入ってそう?」
「ええ今はまだ浴場に。夜露を同道しておられます」

 どうどう?

 一緒に居るって事だよね?

「そっか、じゃあキッチンやらお部屋は自由に使って下さいね? 俺は部屋に戻りますから」
「はい、ありがとうございます」
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