上 下
61 / 66
第二章 抗戦

第61話 #見えない保護者 #新たな決意

しおりを挟む
 俺が脳内の対策案を見ていると、退屈そうにイーリスがふわぁと欠伸をした。

「さてと、んじゃあたしは寝るからー」
「あ、ああ」
「ハルトのせいで寝なおしだー」

 そう言ってイーリスはリビングへ入って行く。

 あんな事を言っているが、イーリスが俺のSOSを察して駆けつけてくれた事は分かっている。

「イーリス、ありがとな!」

 彼女の背に向かって声を掛けると、イーリスはこっちも見ずに片手を上げて振って見せた。

 照れて動揺しない所を見ると、本気で眠いらしい。
 
「あ、イルちゃん! 未来お姉ちゃんが一緒に行くから! 友香ちゃん、先に行くねー」

 すると、その後を慌てて五十嵐さんが追いかけて行く。

 あの人、自分の事未来姉ちゃんとか言ってたよ。

 ホントに妹が欲しいんだなー。

「あ、未来ちゃん今夜はあたしと一緒かな? あのベッドとても大きいし」

 その様子を見ていた友香さんが、そう言って俺に聞いて来た。

「ああ、友香さんが良ければ一緒でもいいのかな? 夜露さん、どうなの?」
「ええ、お嬢様とご一緒でも問題は無いと思います」

 夜露はそう言って朝比奈さんを見ると、彼女は頷いてから俺を見た。

「そうですね、今夜はそうしましょうか? 一応、友香お嬢様の向かいにお部屋をご用意してございますが」
「あ、そうでしたか! どうもありがとうございます」
「いえ、昼間の内にそうご連絡を承っておりましたので」

 流石、朝比奈さんは抜かりが無い。

「では、先にお部屋へ失礼致します」

 友香さんが丁寧にお辞儀をして部屋へ向かうと、その後を夜露さんがついて行く。

 あんなに頭下げられてもなぁ……何だか距離を感じちゃうよね。

 ふと気づくと、その様子をメアリーさんが微笑んで見ていた。

「あ、メアリーさんはどうします?」
「私は本部へ戻って、グレイ達に今夜の事を報告するわ」
「そうですか」
「ええ、悠斗くんがイーリスに話してた事は録音してあるし、イオにも聞かせて置くね?」
「あ、そうだったんですか!」

 いつの間に録音っ⁉

 これが諜報員って奴っ⁉

「その辺りは抜かりは無いわよー」
「さ、流石です……」
「じゃあね、悠斗くん」
「はい、気を付けて!」

 メアリーさんが帰った後、俺は残った朝比奈さんと二人、リビングのソファーに座った。
 
「ふー何とか対策も決めたし、来週末迄には何とかなりそうだ……」

 そう、自分に言い聞かせる様に言ったつもりだったが、悪気なく向かいに座っている朝比奈さんの視線に気づいた。

 彼女は不安そうに俺を見ていた様だったが、俺と目が合うとスッとその視線を落とした。

「そうでございますか……」
「あ、大丈夫ですよ! 絶対何とかしますから!」

 彼女にしてみたら、意味の分からない話が進んでて、自分はただ見守るだけだなんてな。

 俺にもそんな経験があったから、その不安な気持ちはよくわかる。

 セレスが来てからそんな事があったっけな。

 その後も沙織さんや悠菜が、セレスさんとエランドールへ一度戻った時もだ。

 あの時の俺は、何も出来る事など無いとすっぱりと諦めちゃってたけどね。

 あまり心配させちゃ可哀そうだよな……。

 そんな事を思いながら、もう一度朝比奈さんを見るとまた目が合った。

 すると、朝比奈さんは姿勢を正して俺をジッと見つめた。

「霧島様がイーリス様と何をなさるのか、私には理解出来ていませんが、私共に何かお役に立てる事はあるのでしょうか?」

 やっぱり思い詰めてるのか?

 でも、あの時諦めちゃってた俺と違って、自分に出来る事を今も模索してくれている。

「あ、ありがとうございます朝比奈さん! 色々家事を手伝って貰ってるだけで、俺達随分と助かってるんですよ?」
「そう……でしょうか」
「ええ、ホントに凄く助かってます!」

 そう言うと朝比奈さんは少しだけ安堵した表情になった。

 朝比奈さんと夜露さんの二人には、俺達本当に助かってる。

 しかも、いざと言う時には愛美や友香さん達を守ってくれる。

「さてと、朝比奈さんもたまには早く休んで下さいね?」
「はい、お心遣いありがとうございます」
「じゃ、僕も部屋のシャワー浴びて、今夜はもう寝ますよ」
「はい、おやすみなさいませ」

 サッと立ち上がった朝比奈さんは、そう言って頭を深々と下げた。

 やっぱりこういうの慣れないんだよな~。

 
 ♢

 その後、部屋に戻った俺はシャワーを浴びてバスタオルで頭を拭いていた。

 しかし、異星人襲来は何とか対策出来そうだけど、問題はあれだよな……。

 友香さんの許婚問題……。

 思えば、友香さんに許婚が居るとか聞いて、無性に納得いかなかったのって、つい昨日の夜じゃない?

 いや、あの時は決まった許婚は居なくて、将来は許婚と結婚させられるとか言う話だったっけ?

 そりゃ、結婚相手を親が決めるとかは、今でも納得出来ないけどさ。

 それが、今の俺の状況どーよ!

 何だか既成事実の様になってない?

 このまま行ったら友香さんと俺が結婚っ⁉

 マジか……。

 まあ、友香さんは嫌々ここに居る訳じゃ無さそうだから、そこはまあいいとしてもさ。

 俺、こんな流されていいの?

 今まで女の子と付き合った事も無いし、この後どうしたらいい?

 タオルを首に掛けるとそっとベランダに出た。

 夜空には半月程の月が見える。

 そりゃあ、あの友香さんと付き合えたら嬉しいけどさ。

 何だかさ、なし崩し的に一緒に住む事になったけど、見極めるとか何なの?

 あー、お嫁さんとして友香さんはどうかって事だよね?

 そりゃ申し分ないだろうけど……。

 父さんだったら何て言うのかな。

 誰かに相談したいけど、あの鈴木に相談出来る訳ないよなー。

 そんな事を考えながらベッドに横になって携帯を見た。

 あれ?

 誰かからメールが来てる?

 しかも、知らない人から二件。

 一つは灰原さんからだった。

 おお! 灰原さん!

 そう言えばメアリーさんが言ってたじゃん!

 灰原さんが俺に会いたがってるって。

 俺も会いたいわー!

 もう一つは……オトミ・イイヅカ?

 だれ?

 俺は灰原さんのメールをウキウキしながら開いた。



【悠斗くん、成人&覚醒おめでとう!

 君が無事に成人したと聞いて、先ずは早速メールしたよ。

 悠斗くんが高校生の時に何度か会ってはいるけど、大学生になってから覚醒を済ませたんだってね。

 沙織さんや悠菜さんとの別れは辛いだろうけど、俺らがいつも居るからさ。

 新JIAの総力を挙げて、君らの家族を守る覚悟はとっくに出来てる。

 いつでもこっちに連絡してくれよな!】

 その下には直通電話番号とアドレスが書かれていた。

 そのかなり下の方――。
 
 P.S

 あまり派手に暴れないでくれよ?

 揉み消すだけの仕事はごめんだぜ(笑)



 は、灰原さん!

 メアリーさんの話通り、あいつらの処理は灰原さんがしてくれたんだ!

 嬉しくて自然に涙が溢れて来る。

 やっぱり俺は皆に護られているんだよな。

 そして、もう一件のメールを開いた。

 オトミ・イイヅカって誰だろ。



【悠斗くん! 成人おめでとー!

 イオです!

 ずっとモニター越しに見守らせて頂いてましたー!

 グレイがメールするって言うから、あたしもアドレス聞き出して、個人的に送っちゃいました!

 突然でびっくりしたでしょ?

 サプライズですっ!

 悠斗くんへのJIAの守秘義務は解除されたので、これからはいつでも連絡出来ますよ!

 いつでもいいので連絡下さいね⁉

 これがあたしの携番とアドレス♡】



 下には番号とアドレスが明記してあった。

 こ、この人がストーキングしてたのか!

 そう言えば、メアリーさんがイオって言ってたわ。

 オトミ・イイヅカ……イイヅカ・オトミ?

 げっ!

 頭文字だ!

 やっぱコードネームって安易じゃん!


 だが、本当に知らない人までが、こんな俺の事を見守ってくれてるんだな。

 こりゃ、絶対に皆を護らなきゃ駄目じゃん!

 今度は俺が護る番だよね?

 俺しか出来ない事をやるんだ。

 恩を返すとかそんな大それた事じゃ無くて、皆を護りたいだけ……。

 ヤバい、興奮して眠れなくなって来た。

 喉も乾いて来たけど……。

 部屋をぐるっと見回すと、噴水の水に目がとまった。

 いや、あれを飲むつもりないけどさ。

 五十嵐さんの部屋には冷蔵庫あるとか言ってたよね?

 この部屋には無さそうだけど、洗面所に水道はある。

 普通は自分の部屋にシャワーとか洗面台無いよねー。

 勿論、噴水もね。

 それで噴水に目がとまった訳よ。

 そんな事を考えながらまたベランダに出ると、脳内レーダーに夜露さんが接近して来るのを確認した。

「あ、夜露さん?」
「霧島様、まだお休みにならないのですか?」
「いや、ちょっと寝られなくてねー」

 暗闇でも俺には彼女の姿がハッキリと見える。

 月明かりがあるとはいえその明るさは僅かなもので、部屋の明りの逆光で実際は見難い筈だ。

 まあ、俺は目を瞑っていても脳内センサーと、説明しにくいが察知する能力が発達しているんだけどね。

「そうでしたか……あの、少しだけお話を宜しいでしょうか?」
「え? ああ、うん。そこへ座ろうか?」
「はい、ありがとうございます」

 俺達は部屋の外にあるベンチへ腰掛けた。

「で、お話とは?」
「はい、友香お嬢様の許婚の件です」
「ああ、妙な事になっちゃったね……」
「いえ! 実は先日、霧島様が友香お嬢様の事を想い、納得いかないと話して頂いた事です」
「あ、ああ……あれが実は僕だなんてね。間抜けな話だよね……あははは」

 ホント、間抜けだよね。

 笑っちゃうよ。

「いえ、あの時の霧島様は、本当にお嬢様の為を想って戴けたと、私もお嬢様も分かっております!」
「そうですかぁ? それなら少しは救われますけど……あははは」

 そうは言っても間抜けでしょ?

「実は、会長ご夫妻が帰られた後、友香様が本当に嬉しそうにしていらっしゃいましたので……」
「え?」

 あ、もしかして、五十嵐さんと友香さんが話してた事かな?

 あれは確かに、俺に聞こえる筈の無い会話だったけど、意識を研ぎ澄ました俺の聴力は、二人のその会話が聞こえちゃってたんですよ。

 聞いちゃいけない会話だった気がして、改めて言われると何だかちょっと気まずいじゃん……。

 でもそれを俺に教えてくれるって事は……夜露さん……。

 もしかしたら、夜露さんも友香さんと俺をくっつけようとしてるのか?

「許婚の件がお嬢様に伝えられてから、お一人になられるととても寂しそうにされていたお嬢様が、あんなに嬉しそうにご結婚のお話をされる時が来るとは、私も朝比奈も思いも寄りませんでした」
「ご、ご結婚っ⁉ そんな話でしたっけっ⁉」

 つい訊いてしまったが、結婚話じゃ無かったと思いますけどっ⁉

 ご奉公の話だけだったと思いますけどっ⁉

 あ、まあ、俺の事を気になってるって言ってくれてたけどさ……。
 
「はい。あの夜、霧島様はおっしゃいました」
「え?」
「結婚相手を自分が選べないなんて、と……」
「あ、ええ、まあ」

 まさか許婚が自分だなんてさ、あの時は思いもよらなかったもん。

「その事はお嬢様も諦めていた様なのですが、霧島様とお知り合いになってからは、出来る事なら霧島様と少しでもご一緒出来たらと、いつもおっしゃっておりました」
「そうなんですか……」
「今、友香お嬢様がご結婚相手として思い描いているお相手は、間違いなく霧島様だと思います」
「そ、そうなんですかっ⁉」

 やっぱり友香さん、俺の事そこまで気にしてくれてたんだ!

 すっげー嬉しいぞ⁉

 俺だって沙織さんが居なかったら、間違いなく一目惚れしてただろうよ。

 どことなく沙織さんぽい所もあるからね、友香さんって。

 温泉好きだし?

「ですが今夜、会長に霧島様がお話を切り出して頂けたお陰で、許婚の件は誤解だと判明し、更にはお嬢様の霧島様へのご奉公が言い渡されるとは……」
「あ、そうでした……」
「お嬢様にとってはとても喜ばしい事と、私共は存じ上げております」
「そ、そうですか」

 何だか、そう言われると本気で照れ臭いけど……。

「本当に偶然が偶然を呼び込む様に、思いもよらずこの様な経緯になられている事に、お嬢様も私も本当に嬉しく思っております」
「あははは……ホントにびっくりですけどねぇ」
「どうか、幾久しく友香お嬢様を宜しくお願い申し上げます」
「そ、そんな、夜露さん……」

 こりゃ、俺って友香さんとホントに結婚とかしちゃう訳っ⁉

 まだ誰とも付き合った事も無いのに⁉

「私も朝比奈も霧島様と出会えた事を、本当に心から感謝しております」
「そ、それは僕もですよ? こんなに友香さん想いで優しくて、任務に忠実なメイドさん、他には居ませんよ?」
「霧島様……」
「それに、友香さんが家に来てくれたお陰で、夜露さんと朝比奈さんがいつも居てくれるしね。ホントに助かってます! ありがとうございます」
「いえ!」

 それは心からそう思ってる。

 こんな広い家、俺達だけじゃ掃除出来そうも無いし。

「しかも当分の間、友香さんも夜露さんも新しい家族になった訳だしね。あ、朝比奈さんもね」
「はい、霧島様」
「僕ね、本気で皆を護るからね! 戦闘訓練とかは夜露さんの方が詳しいだろうけど、今回の敵は僕の出番なんですよ」
「はい……」

 奴らは今の地球の防衛力ではどうしようもない相手だ。

 戦闘訓練を何年やってようが、宇宙空間を向かって来ている宇宙船では、文字通り手も足も出ないだろう。

「何てったって、宇宙空間をこっちへ向かって来てますからね。しかも二十二隻の大きな宇宙船だし、孵したら面倒な卵もあるし」
「ええ。それでも私は霧島様を信じております」
「夜露さん、ありがと!」

 夜露さんがそう言って俺を見つめているが、やっぱりこういうのは照れ臭い。

 彼女は暗闇に乗じて俺を見つめている。

 だが、暗闇でも彼女の瞳の模様まで見える俺は、思わず夜露さんから目を逸らしてしまった。

 女の人とこんなに見つめ合うのに慣れてないんですよ。

「では霧島様、おやすみなさいませ」
「うん、夜露さん。おやすみなさい」

 その後、彼女は友香さんの部屋にそっと入って行った。

 恐らく友香さんと五十嵐さんが寝てるんだろうけど。

 気になるけど覗ける訳ないじゃん。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

取り残された聖女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:391

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,271

目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:413

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:6,274

最弱勇者は世界を壊す「いや、壊さねぇよ!?」

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:47

私のアレに値が付いた!?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:67

【完結】転生貴族の婚約 転生した乙女ゲーム世界はバグだらけ!?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:101

処理中です...