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エネミースレイヤーズ

2-20「うん、おにぃを信じてるから」

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 僕は救助者達を1階エントランスまで連れていく。【サーチ】で確認すると外には5人くらいの反応がある……人間だ、多分ギルドから派遣されたギルド員だと思う。

「その扉の向こうに救助の者が待機している……あとはそいつらに助けてもらえ」

 有無を言わさない迫力で説明すると僕はすぐに階段を上り始めた。

 2階を通り越して3階への階段を上る。先程は救助者を送り届けたらすぐに3階を探索する事をエントランスの紙に書いて置いたのでアイシャは分かるだろう。

 2階への階段より長く上ると3階に着く……階段はここで終点のようだ。左右の通路は同じようにあるが1、2階と違い、まっすぐ奥へ続く通路がある。

 3階のエントランスの壁にも2階と同じように紙を貼り付けておき、僕は最初は左側の通路を探索すると書き込んでおく……ゲームなんかでは中央の通路が当たりな気がするけれどこれは現実だ……そして僕は再び走り始めた。

 その間も高そうなティーポットや綺麗な装飾が施された4つ足のオットマン、薪を焼べる古いデザインのキッチンコンロ等が襲ってくる……いずれもLV30~35とかなり高くなっている。

 敵がLV35にもなると剣士の攻撃でも一撃で倒す事が難しく、スキルと魔法を駆使しながらの戦いになる。

 さすがに【ハードヒット】→【ハイスラッシュ】の2連撃を二刀で行う4連撃で攻撃すると一気に倒せるのは救いだね……でも、SPを結構消費するので多用は出来ないよ。

 1、2階と同じ作りで扉が続く通路を走り抜ける。【サーチ】では反応が無い……ここもハズレかな?

 なんて思っていたら通路の終点は行き止まりでは無く細めの通路が伸びていて、それを進んで行くと広い円形の広場に出る。

 壁に沿って螺旋階段があり壁に沿って上るようになっているようだ、外から見るとなんだっけ……タレットだったっけ? みたいになっているのだと思う。とりあえず【サーチ】を使ってい、かつ目視する限り敵はいないようなので階段を駆け上がった。

 しばらく上っていくと終点の天井に何かがぶら下がっているように見える。急いで上るとぶら下がっている何かは檻のようになっているようだ。階段を上りきった僕はそれを確認すると息をのむ。

「美百合!!」

「おにぃ!!」

 天井からぶら下がっている鳥かごのような檻の中に美百合がいた……安心したら今度は怒りがわいてくる。

 誰だか知らないけれど、僕の妹をこんな檻に閉じ込めるなんて許せない!!

 いや、落ち着くんだ僕、怒っても事態は解決しない……とりあえず美百合を安心させなきゃ。

「美百合、大丈夫か? 怪我とかしていないか?」

「うん、大丈夫……おにぃその格好は?」

「うっ、これは……囚われのお姫様を助ける勇者だよ」

「ふふふっ、おにぃ……おにぃ、ありがと……ううううっ」

 美百合は安心したのだろうか、泣き出してしまった。しまった! もっとうまい事言えば良かったのか。

「もう少し待ってて、助けるから……」

 だけど、どうやって助けよう? 天井の中央からぶら下がっている檻の周りには足場は無い。タレットの直径10メートルくらいあるので、どうにか檻にたどり着いて、どうにか檻を開ける必要がある。

 よし、僕なら出来るだろうからやってみるかな?

「美百合! 危ないから格子にしっかり捕まってて」

「え? うん、おにぃ、何をするの?」

 壁側ギリギリまで下がった僕を見て不思議そうな顔をする。それでも言われたとおり格子をしっかりと掴んでいるようだ。

「それは……こうするんだっ!!」

 僕はわずかな助走で高く飛び上がると、美百合の捕まっている檻の天井に取り付いた。檻が激しく揺れる。

「きゃあ!!」

「大丈夫だ、そのうち揺れは収まるから」

 僕は揺れが落ち着くのを待って格子を掴みながら下りると、檻の扉がどうなっているか確認する。鍵が付いているな……鍵周りを観察していると、格子を持つ手に美百合の手が触れた。

「お、おにぃ……凄い、こんな距離をびゅんって飛んだ!!」

「言ったでしょ、お姫様を助ける勇者だって……ちょっと離れていてね」

「うん、分かった、おにぃ凄い格好いいよ」

 美百合が離れたのを確認すると【スティールダガー+3】を取り出して、扉と鍵の継ぎ目の部分に思い切り突き刺す! ガギン! とかなり鈍く強い音が鳴ったが、鍵は壊れなかった……格子には傷一つ付いていない。

 これはダンジョンの構造扱いなのかな? でもダンジョンの壁とかは壊れるよね? 単純に攻撃力不足なのか……ふと天井を見ると鎖を巻き上げる滑車のような物が見える。ゲームみたいに仕掛けを解いて解放しろってこと? 鎖が続いている先には細い通路が続いている……あの先に行けば何とか出来るのか?

「美百合はどうしてここに閉じ込められたか説明出来る?」

「えっと、お城の列に並んでいたら急に目の前がグニャッてなって……」

 美百合の説明によると、城がダンジョン化した後に気付くと一人になっていたようだ。幸いな事にモンスターには会わなかったのだが、迷い込んだ部屋で大きな砂時計を見つけた……まるで『魔獣と美少女』に出てくる愛の砂時計のようだったらしい。

 それに手を触れた時にそれは現れた……映画で見た魔獣に見えたらしい。恐ろしさで気を失ったのか、気が付くと美百合は檻に入れられていたようだ。特に怪我はしていなかったようで、そのまま牢に入れられただけのようだ。

「美百合、待っていて……何とかそこから出る方法を見つけるから」

「お、おにぃ、気をつけて」

 僕は檻を吊している鎖を伝って天井から通路方向へ移動した。美百合が心配そうに見ている……急いで仕掛けを解かないと!!

 そのまま細い通路を進んで行くと、両サイドに等間隔で槍を装備した甲冑騎士が6体並んでいる……ようやく敵らしい敵が登場だね。

【甲冑の騎士 (魔獣化) LV:37 強さ:普通 弱点:雷】

 僕とレベル的にそこまで差は無いけれど6体は厳しいよね……バフをかけて戦ってみて負けそうになったらユニークスキルを使おう。

「真田無双流四連撃!! なんてねっ!!」

 魔法とスキルでバフをかけると僕から見て左側の騎士に先制攻撃、必殺技を叫ぶと二刀の4連劇で1体倒す……すると残りの5体が襲ってくる。

 先行した2体が乱れ突きのスキルで攻撃してくると僕は後方へ回避。

「そんな工夫も無い攻撃に当たるとでも!?」

 スキルの終わりを見計らって間合いを詰めるとスキルは使わず2刀の2連撃……いざという時の為にSPを節約しないとね。さすがにその攻撃では倒せず、騎士達は再び乱れ突きを放ってくる。

「さすがレベルが高いと堅いね……でも、それだけだ!!」

 以前戦ったエリザが従える光の騎士のように、交互にスキルを途切れさせないような連携はして来ないようなので何とかこのまま行けそうだ。後ろの騎士は前の騎士が邪魔で攻撃せずにウロウロしている。

「エリザの騎士の方がレベルが低くても強かったよ!!」

 いくらレベルが高くてもこんな狭い通路で連携せずに攻撃してくるのなら怖くは無い。最初の心配はどこへ行ったのやら、僕はそのまま騎士達を各個撃破することが出来た。

「さすがにこのレベルのドロップ品は取っておこうかな」

 先程と違い、美百合が見つかった事によって心にゆとりが出来ている。落ちているドロップ品を【アイテムボックス】に収納すると再び通路を進んだ。

 通路の終点には小部屋があった。壁には露骨に「これですよ!」とばかりにレバーがあり、天井の鎖もこの部屋に続いている。まぁ、これを引くしか無いよね? やばそうならすぐに戻せば良いし。

 上を向いているレバーを下げると、ガチャリ! と何かが嵌まる様な音がして、ガラガラ音が鳴り始める。天井を見ると鎖が元来た方向へ動いている……これでるはず……駄洒落では無いよ?

 僕は帰り道に敵がいないか索敵魔法で警戒しながら元来た道を走り出すとタレットまで戻ってくる。

 既に鳥かご型をした檻はそこに無く、鎖だけが下に向かって動いていた。螺旋階段の下を覗くと、檻はゆっくりと下の階へ向かっているようだ。それを確認すると僕は螺旋階段を駆け下り始める。

「美百合~!! 怖くないか~!?」

 下の檻に向かって叫ぶと……

「おにぃ~!! 平気~!!」

 ……と返事が返ってきた。よし、あとは扉を開ける鍵を探すだけだね! 僕は駆け下りる足を速めた。僕が階段を駆け下り終えたのは檻が下に到着するのと同時だった……直ぐ様、美百合の元に駆け付ける。

「おにぃ~!!」

「美百合、あと少しの辛抱だからな」

 僕は格子を掴んでいる美百合の両手に自分の手を重ねると妹を励ました。

「うん、おにぃを信じてるから」

「よし、美百合は強いね……そうだ、もしもの時のためにこれを渡しておこう」

 僕は【アイテムボックス】から鍛冶スキルで作成した【R:ファイヤーボム+3】を取り出した。取り出した瞬間を見て美百合は目を丸くしたが、それに構わず黒い球体から導火線が伸びているなデザインの爆弾を渡す。

 これは使用者のレベルに関係なく使える消耗品の攻撃アイテムだ。レアリティがレアの炎の魔石を素材に作った爆弾で更に錬成を使い効果を高めている。これならレベル40位の敵なら木っ端みじんだろう。導火線が付いているけれど火を付ける必要は無く、敵意を持って投げつければ爆発する代物だ。

「僕が離れている時にモンスターが来たら、これでやっつけてやる!! って気持ちで投げつければ倒せるからな」

「うん、みゅー爆弾なんか初めて見るよ」

 そりゃそうだよ、見慣れていたら恐ろしいから。

「あと、そうだ、協力してくれている仲間がいてね……」

 この後アイシャと合流する可能性も考えて、僕と金髪のお姉さんが一緒だった場合は、僕と美百合は他人のフリをして欲しいと伝える。

「よく分からないけれど、おにぃとここで初めて会った演技をすれば良いんだね」

「うん、事情は家に帰ってから説明するからね」

「わかった……おにぃ、悪いやつなんかに負けないでね!!」

「うん、あと少しだけ待っててね」

 僕は檻の中に手を伸ばして美百合の頭を優しく撫でた。心から安心した顔をする美百合を見るとずっと側にいてあげたいと思うけれど、ここにいても美百合を助ける事は出来ない……僕が頑張らないとけないよね!!

「……じゃあ行ってくるよ」

「うん、待ってる」



 ……僕は再び大切な妹を助けるために歩き出した。



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火、木、土(ストックにゆとりがあれば日)の週3~4回更新となります。

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