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《ロスト・ワールド》の宝
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シャドウとエミリーは、じっと見詰め合っている。エミリーはすでに凛然とした態度を取り戻し、やや顎を挙げ、シャドウを軽蔑したように見返していた。
「あなたが何を企もうと無駄です! わたしの居場所は《蒸汽帝国》にしかないのです」
「くう……!」
怒りにシャドウは両拳を握りしめた。拳を口元へ近づけ、前歯でかりかりと噛む。
シャドウの心は疑問と、怒りで嵐のように乱れていた。
「なぜだ……なぜ、おれの思い通りにならない?」
「知りません! どっちにしろ、わたしはあなたの思い通りになんか、金輪際なりませんからね。諦めなさい!」
シャドウは低く「ううう……」と、狂犬のように唸った。まったく当て外れだ!
その時、シャドウの全身を、ある衝動が貫いた。シャドウは、歓喜に震える。
シャドウの突然の変化に、エミリーは眉を寄せた。
「やったぞ! 遂にやった!」
ぐるりとエミリーに向き直り、叫ぶ。
「おれの作り上げた〝門〟に、とうとう《蒸汽帝国》の馬鹿どもが根刮ぎ引っ掛かった! やつらのハビタットは、おれの物だ!」
エミリーは目を見開いた。
「《蒸汽帝国》が?」
ニタニタ笑いを浮かべ、シャドウはエミリーに近づく。シャドウの変化に、エミリーは恐怖の表情になって、後じさった。
「そうだ! お前を救出しに《蒸汽帝国》の連中がやってきたんだ。罠が仕掛けられていることも知らずにな! 来い!」
ぐいと腕を伸ばし、シャドウはエミリーの細い手首を万力のような力で掴む。エミリーは振り払おうともがく。が、シャドウの指はエミリーの柔らかな皮膚に、がっちりと食い込んでいる。エミリーの顔に、苦痛の表情が浮かんだ。シャドウは楽しげな声を上げた。
「どうだ、痛いか? 痛いだろう……この《ロスト・ワールド》では、苦痛は本物なんだ! お前は初めて、苦痛という感覚を味わっているのだ。どうだ、苦痛の味は?」
手首を掴まれたまま、エミリーはきっとシャドウの目を睨みつけた。
「苦痛など! 平気です!」
シャドウの両目は見開かれた。ふっと唇を舐め、首を振る。
「こい! お前を救出しに来た連中の間抜け面を、とっくり眺めてやろう!」
シャドウは陽気に叫ぶと、ぐっと全身に力を込める。
すとん、と二人の身体に落下の感覚があった。エミリーは足下を見て、驚愕の表情を浮かべた。二人の身体が床にめり込んでいる! 足が、腰が、更には胸までもが床に沈みこみ、二人の身体は底なし沼に沈み込むようにめり込んでいった。しかし、シャドウは平然とエミリーを見つめているだけだ。エミリーは声にならない恐怖の声を上げていた。
「あなたが何を企もうと無駄です! わたしの居場所は《蒸汽帝国》にしかないのです」
「くう……!」
怒りにシャドウは両拳を握りしめた。拳を口元へ近づけ、前歯でかりかりと噛む。
シャドウの心は疑問と、怒りで嵐のように乱れていた。
「なぜだ……なぜ、おれの思い通りにならない?」
「知りません! どっちにしろ、わたしはあなたの思い通りになんか、金輪際なりませんからね。諦めなさい!」
シャドウは低く「ううう……」と、狂犬のように唸った。まったく当て外れだ!
その時、シャドウの全身を、ある衝動が貫いた。シャドウは、歓喜に震える。
シャドウの突然の変化に、エミリーは眉を寄せた。
「やったぞ! 遂にやった!」
ぐるりとエミリーに向き直り、叫ぶ。
「おれの作り上げた〝門〟に、とうとう《蒸汽帝国》の馬鹿どもが根刮ぎ引っ掛かった! やつらのハビタットは、おれの物だ!」
エミリーは目を見開いた。
「《蒸汽帝国》が?」
ニタニタ笑いを浮かべ、シャドウはエミリーに近づく。シャドウの変化に、エミリーは恐怖の表情になって、後じさった。
「そうだ! お前を救出しに《蒸汽帝国》の連中がやってきたんだ。罠が仕掛けられていることも知らずにな! 来い!」
ぐいと腕を伸ばし、シャドウはエミリーの細い手首を万力のような力で掴む。エミリーは振り払おうともがく。が、シャドウの指はエミリーの柔らかな皮膚に、がっちりと食い込んでいる。エミリーの顔に、苦痛の表情が浮かんだ。シャドウは楽しげな声を上げた。
「どうだ、痛いか? 痛いだろう……この《ロスト・ワールド》では、苦痛は本物なんだ! お前は初めて、苦痛という感覚を味わっているのだ。どうだ、苦痛の味は?」
手首を掴まれたまま、エミリーはきっとシャドウの目を睨みつけた。
「苦痛など! 平気です!」
シャドウの両目は見開かれた。ふっと唇を舐め、首を振る。
「こい! お前を救出しに来た連中の間抜け面を、とっくり眺めてやろう!」
シャドウは陽気に叫ぶと、ぐっと全身に力を込める。
すとん、と二人の身体に落下の感覚があった。エミリーは足下を見て、驚愕の表情を浮かべた。二人の身体が床にめり込んでいる! 足が、腰が、更には胸までもが床に沈みこみ、二人の身体は底なし沼に沈み込むようにめり込んでいった。しかし、シャドウは平然とエミリーを見つめているだけだ。エミリーは声にならない恐怖の声を上げていた。
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