蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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崩壊

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「弓矢がなくなった、と仰るのですか?」
 朝食の席で伯爵は眉をひそめた。
 そんな憂い顔すら、絵になる。ミリィはひそかにそう思った。朝食の席で、伯爵は失礼、目が弱いのでと断って、わざわざ窓のない部屋にミリィたちを招待した。朝の光は、目に悪いのですと言い訳をする。しかしほかの部屋からの間接光が開け放たれたドアから入ってきて、不自由はなかった。
 ふうむ、と伯爵はしばし黙った。
 やがて口を開いたかれは、意外な一言を発した。
「それでケイさん。その弓矢ですが、本当にお持ちだったのですか?」
 伯爵の言葉に、ケイはぽかんと口を開けた。
 そんなケイの顔を見て、伯爵は柔和な笑みを浮かべた。
「わたしはあなたの仰る、弓矢を見ていないのです。ですからなくなったと仰られても……」
「で、でもあたし昨夜は背中に弓矢を背負っておりましたし、それにミリィだって……ねえ、ミリィ。あんた見ていたでしょ、あたしが弓矢を持っているところ」
 ケイは必死に訴えた。ミリィは伯爵に向き直った。
「伯爵さま。あたしもケイの弓矢は見ています。それをエルフのお館さまからケイが受け取ったところも。ですから、かならずこの屋敷のなかに弓矢はあるはずです」
 伯爵はうなずいた。
「わかりました。ともかく、気の済むまで屋敷中をお探しになったらよかろう。しかしこの屋敷は広い。迷子になられたら困るので、だれか付き添いをつけましょう」
「それなら……」
 とミリィは口を開いた。
「そのかたに案内を頼みたいのですが」
 ミリィが指さしたのは、昨夜ミリィに向かって警告した召し使いだった。
 伯爵は無頓着にうなずいた。
「よろしい。それではバス。お前がこのかたがたを案内するのだ。判っているが、このかたがたの命令はわたしの命令と思って、従うのだぞ」
 召し使いの名前はバスというらしい。
 バスは深々と頭を下げた。
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