蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

文字の大きさ
124 / 279
崩壊

3

しおりを挟む
 伯爵が三人を広間に呼び、こう申し出た。
「あなたがたをお迎えした記念に、是非肖像画を描かせてもらいたい」
 思いがけない伯爵の言葉に、三人は顔を見合わせた。
「あのう、肖像画ですか?」
 ミリィの言葉に伯爵はうなずいた。
「さよう。もっとも描くのはわたしではない。わたしが抱えている絵師に描かせるつもりだ。腕のほうは保証する。どうかね?」
 ミリィは広間に飾られた無数の額を見上げた。その視線を追って、伯爵はにっこりとほほ笑んだ。
「その通り。この屋敷を訪れた客人は、すべて記念に肖像画を描かせてもらっている。ま、わたしの感傷のようなものだ。いつまでも楽しいときをすごした記憶をあらたに思い返したいと思ってね」
 ケイはミリィの袖をつかんだ。
「いいお話だわ。ねえ、ミリィ。描いてもらいましょうよ」
「ええ……」
 ミリィはヘロヘロを見た。
 ヘロヘロは眉をひそめ、険しい顔つきで伯爵を睨んでいる。
「どうしたの?」
 ヘロヘロに顔を近づけ、ささやいた。
「いよいよだな……いよいよ、あいつが正体を現した」
「え?」
「これは罠だ! 肖像画を描かせろ、と頼むのは罠だ!」
 まさか、とミリィは思った。肖像画を描かせろと頼むのが、どうして罠なのだろう?
 それでは、と伯爵は立ち上がり部屋を出て行った。いれかわり、絵師の格好をしたひとりの老人が姿を現す。ひどい年寄りで、背がまがり歩くにも苦労しているようだ。こんな年寄りがちゃんと絵を描けるのだろうか?
 かれは大儀そうにイーゼルをたて、木炭を手にキャンバスに向かった。
 三人のポーズを決めると、驚くべき速さで手を動かす。見る見るキャンバスに下絵が出来ていく。その顔は鬼気迫るといった形容がぴったりで、たちまち老人の顔には汗が噴き出した。
 あっという間に下絵を完成させると、パレットに絵の具をたらし、筆先でかき混ぜ、色を調整する。
 まるで殴り描くといった感じで老人の筆先はキャンバスを踊った。
 はあっ、はあっと激しい息遣いで老人は絵を描き進めていく。汗が滴り落ち、絵の具が飛び散った。
 夕日が広間を染めるころ、老人はがくりと首をたれた。
「これまでにしよう……仕上げは明日にする……」
 ぶつぶつとつぶやきながら老人は足を引きずるようにして部屋を出て行った。
 三人はキャンバスに駈け寄った。
「すごい! これをたったあれだけの時間で描いたなんて、信じられない」
 ケイは口をぽかんと開け、絵に見入っていた。ミリィもまた老人の絵に感嘆を隠しきれなかった。またたく間、といって短い時間に、老人は三人の肖像画をほとんど仕上げていた。
 背景は広間の窓辺で、三人が並んで立っている。絵を覗き込んだミリィは叫んだ。
「ケイ、あなた弓を持っているわ!」
「え?」
「これを見て!」
 ミリィは指さした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

婚約破棄された公爵令嬢は数理魔法の天才

希羽
ファンタジー
この世界では、魔法は神への祈りとされる神聖な詠唱によって発動する。しかし、数学者だった前世の記憶を持つ公爵令嬢のリディアは、魔法の本質が「数式による世界の法則への干渉」であることを見抜いてしまう。 ​彼女が編み出した、微分積分や幾何学を応用した「数理魔法」は、従来の魔法を遥かに凌駕する威力と効率を誇った。しかし、その革新的な理論は神への冒涜とされ、彼女を妬む宮廷魔術師と婚約者の王子によって「異端の悪女」の烙印を押され、婚約破棄と国外追放を宣告される。 ​追放されたリディアは、魔物が蔓延る未開の地へ。しかし、そこは彼女にとって理想の研究場所だった。放物線を描く最適な角度で岩を射出する攻撃魔法、最小の魔力で最大範囲をカバーする結界術など、前世の数学・物理知識を駆使して、あっという間に安全な拠点と豊かな生活を確立する。 ​そんな中、彼女の「数理魔法」に唯一興味を示した、一人の傭兵が現れる。感覚で魔法を操る天才だった彼は、リディアの理論に触れることで、自身の能力を飛躍的に開花させていく。 ​やがて、リディアを追放した王国が、前例のない規模の魔物の大群に襲われる。神聖な祈りの魔法では全く歯が立たず、国が滅亡の危機に瀕した時、彼らが頼れるのは追放したはずの「異端の魔女」ただ一人だった。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」 世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。 ”人類”と”魔族” 生存圏を争って日夜争いを続けている。 しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。 トレジャーハンターその名はラルフ。 夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。 そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く 欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、 世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。

処理中です...