蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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孤立

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 どこをどう走り回ったのだろう。
 気がつくとサンディは城の上階へときていた。
 しん、とあたりは静まりかえっている。
 空気はひやりとして、あたりにはずっしりとした闇がわだかまっている。
 奇妙だ……と、サンディは思った。
 じぶんは宮殿のありとあらゆる場所をじぶんの手の平のように見知っているはずだったが、いまいるこの場所にはまるで見覚えがなかった。
 外から見た宮殿の様子が思い出される。
 宮殿の外見は、サンディの覚えていたそれではなくなっていた。
 なにか夢の中の建物のように歪み、無数のパイプが繋がって、しろい蒸汽に包まれていた。
 いまいる場所も、それによく似ている。
 通路のようだが、その壁は微妙に歪み、かっちりとした直角や、平面というのがなくなっている。くねくねとした曲線が支配し、どこか植物的といった雰囲気だった。
 もしここにミリィがいたら、ゴラン神聖皇国の聖堂の内部に似ていると指摘したはずである。
 窓はなく、かわりに壁に松明が明かりを投げかけている。
 ぞくぞくとサンディは寒気を感じていた。
 そっと壁に手をやると、じっとりと湿っていた。
 空気がいやに湿っぽい。
 ねっとりとした湿気に、温度は高めだったが、それでもサンディには奇妙な寒気を感じていた。
 用心深くサンディは歩き出した。
 くねくねと動物の内臓のような通路は歩きにくく、さらに床や壁からつきだしたパイプや配管が、気をつけていないと足もとをすくわれそうになる。
 前方が明るい。
 ふいにサンディは広々とした場所へ出ていた。
 しゅーっ……と、白い蒸汽が噴きあがり、あたりを蒙気につつんでいる。太いパイプが何本も天井から垂れ下がり、床にはいくつもの噴気孔がぽかりとうつろな穴を開いていた。
「誰だ……」
 ふいの誰何にサンディははっ、と顔を上げた。
 部屋の向こう側、蒸汽ににじむ向こうに玉座のような背の高い椅子がある。その椅子にも無数のパイプがつながり、盛大に蒸汽の柱をつくっていた。
 その椅子に、ひとりの男が腰かけている。男は軍服を身につけ、肩にはゆったりとしたマントを羽織っていた。軍帽をまぶかにかぶり、その表情は読めない。ただ、その軍帽から金色の髪の毛が伸びているのが目にとまった。髪の毛はかなり長く、肩までおおうほどである。
 すっ、と男は立ち上がった。
 背の高い、痩せた身体つき。しかしひ弱さはかけらもなく、獰猛な獣の雰囲気がまとわりついていた。
 軍帽のまびさしから見える顔の下半分は顎が奇妙に尖り、その唇はうすく、酷薄そうな笑いを浮かべていた。
「あなたはだれ?」
 サンディの声は恐怖でささやき声になっていた。それだけ言葉を発しただけでも、彼女の全精力を振り絞る必要があった。
「ギャン少佐……」
 その答えにサンディは飛び上がった。
「あなたが!」
 そう……と、ギャンはうっすらとうなずいた。
「おれがレディ・サンドラ・ドゥ・アンクル・コラル・カチャイ嬢の婚約者だ」
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