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第五回 鞍家二郎三郎江戸城へ登城するの巻
五
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酒巻源五郎の屋敷へ戻る途中、玄之介はぷりぷりと怒りを顕わにして俺に尋ねる。
「いったい、あの荏子田多門と申される御仁は、どのような人物なのです? 鞍家殿とお知り合いのようでしたので、我慢いたしたのですが、何たる無礼な侍なのでしょう!」
俺は玄之介に同意して、頷いてやった。
「あいつは、最初の対面の、僅か三秒で人に嫌われるという特技の持ち主なんだ。俺たち江戸創設の中心人物でね。プログラムの腕は抜群で、あいつがいなければ、江戸町人は存在しなかった……」
多門の説明をしているうち、俺の頭にある考えが閃いた。もしかすると《暗闇検校》と名乗る相手は、江戸創設メンバーの誰かかもしれない。江戸創設メンバーなら、プログラムに手を加え、《遊客》情報を消去するなど、簡単なはずだ!
しかし、相変わらず動機について、疑問が残る。《遊客》情報を消去したのはなぜかというのと、俺をわざわざ水死体にした理由。
俺を殺したのは、相手の秘密に近づいたためだろうが、依然として《暗闇検校》の動機が、さっぱり判らない。
源五郎の屋敷に近づくと、周囲が慌しい気配に包まれている。いや、もっと正確に表現すると、殺気立っていた。
屋敷の内部に入り込むと、多数の与力、同心たちが各々武器を点検し、手先の何人かは捕縛用の縄を用意している。刺股、梯子などを持ち出し、明らかに犯人捕縛の準備だ。
その中で、左内老人がせかせかとした足取りで歩き回り、声を張り上げている。
「よいか! 相手は名うての盗賊一味! おさおさ準備を怠るでないぞ! これ、縄は投げかけやすいよう、きちんと輪にして手に持たぬか! ええい、儂の若い頃なら、もっと手早い準備ができたものを……!」
苛々と両手を振り回し、顔を真っ赤に染めている。
騒然とした中で、晶が興奮した様子で駆け寄ってきた。
「あっ! やっと帰ってきた! ねえねえ、大変! 盗賊一味の《火祭り豆蔵》ってのを、今から逮捕しに行くんだって! あたしも岡っ引きの一人として、従いて行くんだ!」
晶は目をキラキラと輝かせ、一気に捲し立てた。
俺は呆れ果てた。
「お前が? 本気か?」
晶は、どこで憶えたのか、ぐいっと鼻頭を手の平で擦って、にっと笑った。
「当ったり前じゃん! あたしだって、ちゃんと岡っ引きの一人なんだもの!」
俺は玄之介を振り返った。
「《火祭り豆蔵》っての、知ってるか?」
玄之介は緊張した様子で頷く。
「ええ、お頭がこのところ没頭している捜査で、盗みに入った家に、かならず放火するという悪質な手口で有名な一味で御座る!」
厩の方角から嘶きが聞こえた。
捕り物の用意を整えた、酒巻源五郎が、手綱を握り締め姿を現す。頭には鉢金を被り、手にはぶっ太い特大の十手を握っている。
小者が源五郎の座乗する馬の口取りを務めているが、馬は興奮しているのか、しきりと足掻いて首を左右に振っている。
源五郎は馬上から俺たちに気付き、軽く頷いた。
「お城から帰って来たのじゃな。すまんが、お主たちの報告を受けるのは後じゃ!」
俺は源五郎を見上げ、叫んでいた。
「捕り物だってな! 俺の手伝いが必要かね?」
俺の言葉に、源五郎はにやっと笑った。
「お主が手伝ってくれるなら、有り難い。相手は凶悪な一味でな。手はいくらあっても、足りぬ!」
源五郎の言葉に、俺は奮い立った。
このところ、俺は自分でも似合わない地味な捜査で、ほとほと疲れ果てていた。やっぱり、身体を動かす、派手な場面に飢えていたのだ。俺は元々が猪突猛進型で、刑事の柄じゃない!
玄之介も、ずい、と一歩前へ出る。
「お頭! それがしも!」
源五郎は頼もしく頷く。
「おおとも! 玄之介、お主の手柄の立てどころじゃぞ!」
普段は地味で、これが火盗改かと思うような源五郎であったが、今は別人だ。両目は鋭く輝き、背筋がぴんと伸び、覇気が全身から立ち上っている。
かつかつかつ! と器用に輪乗りをすると、源五郎は馬の鼻先を、正門に向けた。
「開門──っ!」
左内老人がどこから出すのかと思われるような甲高い声を上げると、さっと屋敷の正門が左右に開け放たれる。
源五郎は馬の腹に、とん、と軽く蹴りを入れる。馬は、弾かれたように、正門から飛び出した!
「いったい、あの荏子田多門と申される御仁は、どのような人物なのです? 鞍家殿とお知り合いのようでしたので、我慢いたしたのですが、何たる無礼な侍なのでしょう!」
俺は玄之介に同意して、頷いてやった。
「あいつは、最初の対面の、僅か三秒で人に嫌われるという特技の持ち主なんだ。俺たち江戸創設の中心人物でね。プログラムの腕は抜群で、あいつがいなければ、江戸町人は存在しなかった……」
多門の説明をしているうち、俺の頭にある考えが閃いた。もしかすると《暗闇検校》と名乗る相手は、江戸創設メンバーの誰かかもしれない。江戸創設メンバーなら、プログラムに手を加え、《遊客》情報を消去するなど、簡単なはずだ!
しかし、相変わらず動機について、疑問が残る。《遊客》情報を消去したのはなぜかというのと、俺をわざわざ水死体にした理由。
俺を殺したのは、相手の秘密に近づいたためだろうが、依然として《暗闇検校》の動機が、さっぱり判らない。
源五郎の屋敷に近づくと、周囲が慌しい気配に包まれている。いや、もっと正確に表現すると、殺気立っていた。
屋敷の内部に入り込むと、多数の与力、同心たちが各々武器を点検し、手先の何人かは捕縛用の縄を用意している。刺股、梯子などを持ち出し、明らかに犯人捕縛の準備だ。
その中で、左内老人がせかせかとした足取りで歩き回り、声を張り上げている。
「よいか! 相手は名うての盗賊一味! おさおさ準備を怠るでないぞ! これ、縄は投げかけやすいよう、きちんと輪にして手に持たぬか! ええい、儂の若い頃なら、もっと手早い準備ができたものを……!」
苛々と両手を振り回し、顔を真っ赤に染めている。
騒然とした中で、晶が興奮した様子で駆け寄ってきた。
「あっ! やっと帰ってきた! ねえねえ、大変! 盗賊一味の《火祭り豆蔵》ってのを、今から逮捕しに行くんだって! あたしも岡っ引きの一人として、従いて行くんだ!」
晶は目をキラキラと輝かせ、一気に捲し立てた。
俺は呆れ果てた。
「お前が? 本気か?」
晶は、どこで憶えたのか、ぐいっと鼻頭を手の平で擦って、にっと笑った。
「当ったり前じゃん! あたしだって、ちゃんと岡っ引きの一人なんだもの!」
俺は玄之介を振り返った。
「《火祭り豆蔵》っての、知ってるか?」
玄之介は緊張した様子で頷く。
「ええ、お頭がこのところ没頭している捜査で、盗みに入った家に、かならず放火するという悪質な手口で有名な一味で御座る!」
厩の方角から嘶きが聞こえた。
捕り物の用意を整えた、酒巻源五郎が、手綱を握り締め姿を現す。頭には鉢金を被り、手にはぶっ太い特大の十手を握っている。
小者が源五郎の座乗する馬の口取りを務めているが、馬は興奮しているのか、しきりと足掻いて首を左右に振っている。
源五郎は馬上から俺たちに気付き、軽く頷いた。
「お城から帰って来たのじゃな。すまんが、お主たちの報告を受けるのは後じゃ!」
俺は源五郎を見上げ、叫んでいた。
「捕り物だってな! 俺の手伝いが必要かね?」
俺の言葉に、源五郎はにやっと笑った。
「お主が手伝ってくれるなら、有り難い。相手は凶悪な一味でな。手はいくらあっても、足りぬ!」
源五郎の言葉に、俺は奮い立った。
このところ、俺は自分でも似合わない地味な捜査で、ほとほと疲れ果てていた。やっぱり、身体を動かす、派手な場面に飢えていたのだ。俺は元々が猪突猛進型で、刑事の柄じゃない!
玄之介も、ずい、と一歩前へ出る。
「お頭! それがしも!」
源五郎は頼もしく頷く。
「おおとも! 玄之介、お主の手柄の立てどころじゃぞ!」
普段は地味で、これが火盗改かと思うような源五郎であったが、今は別人だ。両目は鋭く輝き、背筋がぴんと伸び、覇気が全身から立ち上っている。
かつかつかつ! と器用に輪乗りをすると、源五郎は馬の鼻先を、正門に向けた。
「開門──っ!」
左内老人がどこから出すのかと思われるような甲高い声を上げると、さっと屋敷の正門が左右に開け放たれる。
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