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第一章 運命の人
1-1.女神と秘密の文通相手Ⅰ
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薄暗い回廊にパタパタと忙しない足音が響く。向かい来るのは真っ白な装束を纏う小柄な娘だった。
彼女の動作と一緒に腰に巻いた金細工がしゃらしゃらと鳴り、目深にかぶったフードに付いたクリスタルの飾りは激しく揺れ動いていた。
(もしかしたら、今日なら来るかもしれないわ!)
自分はどこか勘が良い。
空を見るだけで明日の天気も大抵当てられるし、何か知らせが舞い込む時の予兆が何となく分かるのだ。その他にも奇妙な部分はたくさんある。
それはきっと見るからに異様な存在だから。としか良いようもないが……。
期待と自信を胸に彼女は軽やかに長い螺旋階段を駆け上る。
ぐるぐると回って辿り着く先は一つの部屋。
慌ててドアを開け、窓辺まで駆け寄ると勢いのまま床板によじ登って出窓を開く。そのついでとばかりに目深にかぶったフードを取り払った。
──はらりと溢れ落ちる亜麻色の髪はボリュームたっぷり。両耳の上で大きな団子状に纏めているが側面の髪はまだ余っており、団子を彩る装飾のように結ばれている。後ろ髪は腰を越える程に長く、ゆるく二つに結われているが随分とモフモフとしていた。
白磁の肌を彩るのは丸く大きな薔薇色の瞳と艶のある水紅色の小さな唇。その面持ちはどこか幼い少女のような稚さが残る。しかし……目尻や首筋他、露出した皮膚の至る部分に花片を散らしたように薔薇色の結晶が付着している様は異質だった。
異質さは外の景色もだ。
曇天の元、荒涼とした湖畔の景色に緑はない。どこを見ても青白い濁りを持つ巨大なクリスタルが剣山の如く突き出ており、四方八方ほぼ同じ景色が広がっていた。
その中でも少し印象が違うのは湖畔西側にある丸くなだらかな丘だ。
ここも植物は生えておらず巨大クリスタルが突き出ているが、上にいくほどにミルク色の霧が煙っており、周囲に霧を撒き散らす中心のようになっている。その丘の頂上に消え入りそうな程薄く崩れ落ちそうな塔が見える。幽霊のようにぼんやりといつもそこに佇んでおり、全ての全貌はまず見えない。
──荒涼と侘しいこの地の名は石英樹海。
ここで生まれ育った彼女からすれば目に映る何もかもが当たり前の景色だった。
彼女は腕を伸ばして深呼吸して間もなく。待ち詫びた存在を霧の向こうに見つけて、瞳を爛々と輝かせる。
「あぁ……! グウィン! 久しぶりね!」
向かって来た者は真っ白な鳩。鳩は窓の柵に留まると彼女に向かい合い、お辞儀するように頭を垂れる。
『久しぶりねぇ。アイリーンこそ元気だった?』
「見ての通り私は元気よ。今日なんて朝の儀式が終わった後に走って戻って来たんだから!」
得意になって言えば、鳩は『ふふ』と軽い笑いを溢す。
──鳥と意思疎通し会話が成り立つ。
端から見れば奇っ怪だが、彼女……アイリーンからすればこれも当たり前の事だった。それも鳥相手だけでない。気まぐれな精霊も、意地悪な妖精だって。アイリーンは物心付いた時から数多の声を聞き取る事ができた。
荒涼とした石英樹海は侘しい場所だと自覚はある。それでも、多くの声が聞けるので、決して寂しい場所でなかった。
「あ。そうよグウィン、お手紙を運んでくれたのよね?」
『ええ、それが私の仕事だもの。さぁさ取り出して』
グウィンの足元に括り付けられた筒から丸められた手紙を抜き取り、アイリーンは落ち着かない様子で丸められた紙を伸ばす。
彼女の動作と一緒に腰に巻いた金細工がしゃらしゃらと鳴り、目深にかぶったフードに付いたクリスタルの飾りは激しく揺れ動いていた。
(もしかしたら、今日なら来るかもしれないわ!)
自分はどこか勘が良い。
空を見るだけで明日の天気も大抵当てられるし、何か知らせが舞い込む時の予兆が何となく分かるのだ。その他にも奇妙な部分はたくさんある。
それはきっと見るからに異様な存在だから。としか良いようもないが……。
期待と自信を胸に彼女は軽やかに長い螺旋階段を駆け上る。
ぐるぐると回って辿り着く先は一つの部屋。
慌ててドアを開け、窓辺まで駆け寄ると勢いのまま床板によじ登って出窓を開く。そのついでとばかりに目深にかぶったフードを取り払った。
──はらりと溢れ落ちる亜麻色の髪はボリュームたっぷり。両耳の上で大きな団子状に纏めているが側面の髪はまだ余っており、団子を彩る装飾のように結ばれている。後ろ髪は腰を越える程に長く、ゆるく二つに結われているが随分とモフモフとしていた。
白磁の肌を彩るのは丸く大きな薔薇色の瞳と艶のある水紅色の小さな唇。その面持ちはどこか幼い少女のような稚さが残る。しかし……目尻や首筋他、露出した皮膚の至る部分に花片を散らしたように薔薇色の結晶が付着している様は異質だった。
異質さは外の景色もだ。
曇天の元、荒涼とした湖畔の景色に緑はない。どこを見ても青白い濁りを持つ巨大なクリスタルが剣山の如く突き出ており、四方八方ほぼ同じ景色が広がっていた。
その中でも少し印象が違うのは湖畔西側にある丸くなだらかな丘だ。
ここも植物は生えておらず巨大クリスタルが突き出ているが、上にいくほどにミルク色の霧が煙っており、周囲に霧を撒き散らす中心のようになっている。その丘の頂上に消え入りそうな程薄く崩れ落ちそうな塔が見える。幽霊のようにぼんやりといつもそこに佇んでおり、全ての全貌はまず見えない。
──荒涼と侘しいこの地の名は石英樹海。
ここで生まれ育った彼女からすれば目に映る何もかもが当たり前の景色だった。
彼女は腕を伸ばして深呼吸して間もなく。待ち詫びた存在を霧の向こうに見つけて、瞳を爛々と輝かせる。
「あぁ……! グウィン! 久しぶりね!」
向かって来た者は真っ白な鳩。鳩は窓の柵に留まると彼女に向かい合い、お辞儀するように頭を垂れる。
『久しぶりねぇ。アイリーンこそ元気だった?』
「見ての通り私は元気よ。今日なんて朝の儀式が終わった後に走って戻って来たんだから!」
得意になって言えば、鳩は『ふふ』と軽い笑いを溢す。
──鳥と意思疎通し会話が成り立つ。
端から見れば奇っ怪だが、彼女……アイリーンからすればこれも当たり前の事だった。それも鳥相手だけでない。気まぐれな精霊も、意地悪な妖精だって。アイリーンは物心付いた時から数多の声を聞き取る事ができた。
荒涼とした石英樹海は侘しい場所だと自覚はある。それでも、多くの声が聞けるので、決して寂しい場所でなかった。
「あ。そうよグウィン、お手紙を運んでくれたのよね?」
『ええ、それが私の仕事だもの。さぁさ取り出して』
グウィンの足元に括り付けられた筒から丸められた手紙を抜き取り、アイリーンは落ち着かない様子で丸められた紙を伸ばす。
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