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第五章 願い望んだ終わる夢
5-11.廃墟の塔と厄災の真実Ⅱ
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*
──美しい白亜の宮殿と肥沃な自然。優しい父母、煌びやかなシャンデリアの下奏でられる美しい弦楽器の音楽。
サーシャに似た侍女の笑顔に、リーアムに似た騎士の呆れ顔。そして、ジャスパーに似たアゲートと過ごす穏やかな日々……やがてそれらの幸せな記憶は真っ赤に塗り潰され、烈しく炎が燃え上がる音と怒号が鳴り響く。
視界いっぱいに広がる光景は地獄だった。
……地面に転がる父の首。母は裸体に剥かれ、腹は剣で串刺しにされており、鉄の器具で股が裂かれていた。
光を失った虚ろな瞳を瞠ったまま事切れたリーアムに似た騎士は四肢がない。サーシャに似た侍女は足があらぬ方向に曲がっており、眼球がえぐり取られて見る影もない。
見る限り……あちらこちらに死体が転がり落ちている。
「エルン・ジーアは我が手に落ちた、リグ・ティーナに栄光を! 全ては王女に取り入り隙を与えたアゲート殿下のお手柄だ!」
遠くで響き渡る歓声にシャーロットは震え上がる。
悲鳴をあげたい。泣き叫びたい。しかし、その唇は大きな手で塞がれていた。後ろから抱くアゲートの身体はガタガタと震えており、彼は『違うんだ』と何度も小さな声で呟き、頭を横に振り乱す。
二人は崩れ落ちた建物の陰に隠れて群衆の声に耳を傾けていた。
──しかし、違うとは何がだ。国を侵略する為に自分は彼に欺かれて、この結果。彼の手柄だと言っているじゃないか。
甘い言葉や彼の笑顔に騙された。自分の所為で国が一晩にして滅んでしまったのだ。自分が助かった理由は、その晩アゲートが逢瀬に来て連れ出されていたからだ。
逢瀬の場所は宮殿と離れた場所。森を抜けた先の納屋だった。
将来や愛を語り合い、干し草の上で抱き合って眠り……夜明け前に戻ってみれば宮殿の至る場所で煙が噴き、異常事態に陥っていた。
今戻るのは危険だろうと、アゲートに言われて納屋に戻ってほとぼりが冷めるのを待った。そして、落ち着いた頃合いに宮殿に近付けば自分の父母や側仕えたちが無惨な姿に変わり果てて野ざらしにされていたのだ。
それでも彼が自分を貶めただの信じたくもなかった。
自分に向ける笑顔も愛も何もかも本物だと思っていたのだから。虚無の涙は後から後へと伝い落ちる。
「……事実、俺がシャーロットに近付いたのは、初めは侵略の為だった。けどな、俺はこんな指示をしていない。そもそもこの地を奪っても誰も精霊なんて使役できない。計画の取り止めをただちに言って、早い段階で取り止めになった」
──誰がこんな事を企てたかは……間違いなく自分の父や兄に違いないだろうが。と彼は涙で震えた声で伝える。
返事なんてできなかった。どう答えて良いかも分からない。
頭に駆け巡るのは先程目にしてしまった死体ばかり。
自分がこれからどうしたら良いのかだって分からなかった。万が一にも見つかれば、同じように惨殺されておかしくないのだ。
……むしろ、彼の逢瀬に答えず自分も惨殺された方が幸せだっただろうか。
そんな思考さえ頭に過ってしまい、途切れる事もない畏怖に身は震えカチカチと歯が鳴る。
「お願いだ、信じてくれ。……望む事があれば、俺はあんたの為なら命に代えてでも何でもする。この愛に偽りはない」
正面に向き直されて、しなる程強く抱き寄せられるが、自分だってどうすればいいか分からなかった。
死者を蘇らせる事も、平穏な日々を返せといっても無理な事は分かる。もうみんな死んでしまったのだ。ならばその元凶を……。
──敵を取りたい、リグ・ティーナを滅ぼして欲しい。
願いとともに恨みの炎は一瞬にして燃え上がった。
彼も同じ気持ちを味わえばいい。しかし、彼の言う愛が真実かは分からない。
言葉では何ともでも言えるのだ。行動に起こせるか、本当に命をかける程の覚悟が彼にあるのか……。
ふと浮かびあがるのは、塔の聳える小高い丘。そうか。あの場所に行けば……。
シャーロットは彼に向き合い真っ青になって震えた唇を開く。
──美しい白亜の宮殿と肥沃な自然。優しい父母、煌びやかなシャンデリアの下奏でられる美しい弦楽器の音楽。
サーシャに似た侍女の笑顔に、リーアムに似た騎士の呆れ顔。そして、ジャスパーに似たアゲートと過ごす穏やかな日々……やがてそれらの幸せな記憶は真っ赤に塗り潰され、烈しく炎が燃え上がる音と怒号が鳴り響く。
視界いっぱいに広がる光景は地獄だった。
……地面に転がる父の首。母は裸体に剥かれ、腹は剣で串刺しにされており、鉄の器具で股が裂かれていた。
光を失った虚ろな瞳を瞠ったまま事切れたリーアムに似た騎士は四肢がない。サーシャに似た侍女は足があらぬ方向に曲がっており、眼球がえぐり取られて見る影もない。
見る限り……あちらこちらに死体が転がり落ちている。
「エルン・ジーアは我が手に落ちた、リグ・ティーナに栄光を! 全ては王女に取り入り隙を与えたアゲート殿下のお手柄だ!」
遠くで響き渡る歓声にシャーロットは震え上がる。
悲鳴をあげたい。泣き叫びたい。しかし、その唇は大きな手で塞がれていた。後ろから抱くアゲートの身体はガタガタと震えており、彼は『違うんだ』と何度も小さな声で呟き、頭を横に振り乱す。
二人は崩れ落ちた建物の陰に隠れて群衆の声に耳を傾けていた。
──しかし、違うとは何がだ。国を侵略する為に自分は彼に欺かれて、この結果。彼の手柄だと言っているじゃないか。
甘い言葉や彼の笑顔に騙された。自分の所為で国が一晩にして滅んでしまったのだ。自分が助かった理由は、その晩アゲートが逢瀬に来て連れ出されていたからだ。
逢瀬の場所は宮殿と離れた場所。森を抜けた先の納屋だった。
将来や愛を語り合い、干し草の上で抱き合って眠り……夜明け前に戻ってみれば宮殿の至る場所で煙が噴き、異常事態に陥っていた。
今戻るのは危険だろうと、アゲートに言われて納屋に戻ってほとぼりが冷めるのを待った。そして、落ち着いた頃合いに宮殿に近付けば自分の父母や側仕えたちが無惨な姿に変わり果てて野ざらしにされていたのだ。
それでも彼が自分を貶めただの信じたくもなかった。
自分に向ける笑顔も愛も何もかも本物だと思っていたのだから。虚無の涙は後から後へと伝い落ちる。
「……事実、俺がシャーロットに近付いたのは、初めは侵略の為だった。けどな、俺はこんな指示をしていない。そもそもこの地を奪っても誰も精霊なんて使役できない。計画の取り止めをただちに言って、早い段階で取り止めになった」
──誰がこんな事を企てたかは……間違いなく自分の父や兄に違いないだろうが。と彼は涙で震えた声で伝える。
返事なんてできなかった。どう答えて良いかも分からない。
頭に駆け巡るのは先程目にしてしまった死体ばかり。
自分がこれからどうしたら良いのかだって分からなかった。万が一にも見つかれば、同じように惨殺されておかしくないのだ。
……むしろ、彼の逢瀬に答えず自分も惨殺された方が幸せだっただろうか。
そんな思考さえ頭に過ってしまい、途切れる事もない畏怖に身は震えカチカチと歯が鳴る。
「お願いだ、信じてくれ。……望む事があれば、俺はあんたの為なら命に代えてでも何でもする。この愛に偽りはない」
正面に向き直されて、しなる程強く抱き寄せられるが、自分だってどうすればいいか分からなかった。
死者を蘇らせる事も、平穏な日々を返せといっても無理な事は分かる。もうみんな死んでしまったのだ。ならばその元凶を……。
──敵を取りたい、リグ・ティーナを滅ぼして欲しい。
願いとともに恨みの炎は一瞬にして燃え上がった。
彼も同じ気持ちを味わえばいい。しかし、彼の言う愛が真実かは分からない。
言葉では何ともでも言えるのだ。行動に起こせるか、本当に命をかける程の覚悟が彼にあるのか……。
ふと浮かびあがるのは、塔の聳える小高い丘。そうか。あの場所に行けば……。
シャーロットは彼に向き合い真っ青になって震えた唇を開く。
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