出来の悪い令嬢が婚約破棄を申し出たら、なぜか溺愛されました。

香取鞠里

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 レオンと会う日はすぐに決まった。

 約束の日、指定した時刻に私はレオンのお屋敷に出向いた。

 これまで散々レオンには来てもらっていたのに、私自身の逃げにより全て突っぱねていたのだから、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。


「まぁ、入ってよ」

 レオンに言われるがままに通されたのは、幼い頃、何度か訪れたことのあるレオンの自室だった。

 昔と家具の配置は変わらないものの、大人になったことでより小綺麗で整った部屋になっていた。


 テーブルの前の椅子に腰を下ろすと、すぐにレオンに頼まれた侍女に目の前に飲み物の入ったティーカップを差し出された。


「ありがとう」


 同じように向かいの席に腰を下ろしたレオンは、一口ティーカップに口をつける。

 そして、部屋から侍女が出ていくのを確認してからわたしを真っ直ぐに見つめた。


「今日は会ってくれてありがとう」

「いえ……。私こそ失礼な態度を取ってしまってごめんなさい」


 手紙の内容からレオンに婚約破棄の理由を問いつめられるかもしれないと身構えているところがあったが、思いの外レオンは優しい表情をしている。


「そんなことは気にするな。僕のことが、嫌になったのか?」

「……そうじゃ、ないけれど」

「じゃあ、なぜ」


 昔と変わらない優しい瞳を向けられて、ここに来る前まで胸のなかにあった毛羽だった気持ちはいつのまにか消えていた。


「……私に、レオンはふさわしくないと思うから」

「ふさわしくないとは?」

「私って、勉強もできないし、ダンスもダメ。何の取り柄もなければ特別美人なわけでもない。その上、あまりに不器用でこの前のパーティーなんて、レオンに恥をかかせてしまったわ。こんな私は、レオンの婚約者にふさわしくないと思うの」


 レオンの片眉がピクリと上がる。
 私は構わず続けた。


「私と結婚なんてしたら、またレオンに恥をかかせてしまうかもしれない。取り返しのつかない失敗をしてレオンの信頼まで失わせてしまうかもしれない女性より、レオンはもっと出来の良い、レオンにふさわしい女性と結婚するべきよ。レオンだって、こんな私のこと嫌いでしょう?」


 言ってて悲しいが、事実なのだから仕方ない。


「そうか。言いたいことはそれだけか?」

「……え? まぁ……」

「じゃあ、リリィは、僕のことが好きじゃなくなったわけじゃないんだな?」

「うん。そうね」

 一瞬答えに躊躇ったが、納得したようなレオンの瞳を見て思わずうなずいた。

 しかし次の瞬間、椅子から立ち上がったレオンの影がこちらに被さり、気づいたときには私の唇はレオンのものによって塞がれていた。


「……んっ」


 婚約が決まる前も、後も、幼馴染みだからある程度仲はよかったものの、キスすらしたことがなかった。

 それなのに、どうしてこのタイミングでキスなんてしてくるのだろう。

 唇を離すと、レオンは怖いくらいに真剣な瞳で私を見つめている。


「レオン、どうして……っ」

 乱れる息をしながらレオンを見つめ返す。

 すると、レオンは不敵な笑みを口許に浮かべた。


「つまり、僕の気持ちがリリィにないと思ったから婚約破棄を言い出したってことでしょう? それならわからせてあげるよ」

「……ちょっと、レオン」

 レオンは私を抱き上げると、部屋の隅にあったベッドの上に私を連れていく。


「僕がどれだけリリィを愛してるかわかったらやめる。けど、わかったら、婚約破棄はなかったことにして」

 レオンは私の耳元で囁くと、甘く口づけを落として私の身体を手でまさぐる。

「あ……っ」

 抵抗できないままにドレスを脱がされてしまったのは、私が今も本当はレオンのことが好きだからだ。

 レオンに身体の隅々まで愛される。

 信じられないけど、夢のような幸せな時間だった。

 ◇

 全てのコトを終えたあと、私はすっかりベッドの上でうごけなくなっていた。

 まどろみのなか、レオンに頭を撫でられる。


「……しばらくここで過ごして」

「え?」


 微かに聴こえた声に、今にも落ちてしまいそうな瞼を持ち上げながらレオンを見る。

 私の意識はそこで一旦、完全に途切れた。
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