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崩壊と矛盾
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「おかしい…」
ルシファは数日間、屋敷に籠っていた。鏡の前に立ち、自分の姿を何度も確かめる。完璧だ。眉ひとつ乱れてない。肌は陶器。笑顔は天使。立ち振る舞いは王のそれ。
「…それなのに、なぜユウキは俺を?」
侍女たちに話を聞いても、返ってくるのは腫れ物に触れるような態度。
誰も正面から“お前が原因だ”とは言わない。
いや、言えないのだ、王子だから。
それがルシファの世界だった。
だが、ユウキだけは違った。
あの氷のような瞳は、王子などものともしない。
ひとりの“人間”として彼を突き放したのだ。
プライドが剥がされる。少しずつ、着実に。
花束を贈った。最高級の青薔薇。
だが、届けに行ったものはこう言った。
「ユウキ様は“花の世話は時間の無駄”と仰いました」
詩を贈った。自作だ。鏡を見ながら三時間練り上げた傑作。
だが、
「“ナルシストの痛い詩”と、令嬢方の間で回覧されております」
手紙は読まれずに返ってきた。
「“今さら人間性を演じられても”とのことです」
ーー俺は、ユウキを失ったのか?
“完璧な俺”が通じない世界が、こんなにも苦しいなんて。
やがてルシファは鏡を割った。
美しいはずの自分の顔が、ユウキに届かない無価値な面に見えてきた。
「どうすれば、彼女は俺を見てくれる…?」
今度は本を読み始めた。哲学、恋愛論、自己啓発。
臣下は震えた。勉強している王子は見たことがない。
だが、ユウキの態度は変わらない。
むしろ冷たく、事務的なやり取りすら避けるようになった。
そして、ルシファはついにーーー
「…ユウキ、お願いだ。俺を…捨てないでくれ」
膝をついた。
完璧であることしか価値がないと思っていた男が、その価値を失ってもなお、すがりつく存在がひとりだけできてしまった。
「やっと、その目線に立てたのですね。遅すぎましたけど」
そう言ったユウキは、優しくもない冷たい目瞳で微笑した。
「あなたは、他の誰にとっても“理想の王子”なのかもしれません。でも、私はただ…私を見て欲しかった」
涙が頬を伝ったのはルシファだった。
初めて“選ばれなかった王子”として彼は立った。
ーー彼女の隣にはもう立てないかも知れない。
それでも、それでも…
「俺は、変わる。変わらせてくれたのは…お前なんだ、ユウキ」
それは、傲慢さが剥がれた先に残ったただの青年の言葉だった。
ルシファは数日間、屋敷に籠っていた。鏡の前に立ち、自分の姿を何度も確かめる。完璧だ。眉ひとつ乱れてない。肌は陶器。笑顔は天使。立ち振る舞いは王のそれ。
「…それなのに、なぜユウキは俺を?」
侍女たちに話を聞いても、返ってくるのは腫れ物に触れるような態度。
誰も正面から“お前が原因だ”とは言わない。
いや、言えないのだ、王子だから。
それがルシファの世界だった。
だが、ユウキだけは違った。
あの氷のような瞳は、王子などものともしない。
ひとりの“人間”として彼を突き放したのだ。
プライドが剥がされる。少しずつ、着実に。
花束を贈った。最高級の青薔薇。
だが、届けに行ったものはこう言った。
「ユウキ様は“花の世話は時間の無駄”と仰いました」
詩を贈った。自作だ。鏡を見ながら三時間練り上げた傑作。
だが、
「“ナルシストの痛い詩”と、令嬢方の間で回覧されております」
手紙は読まれずに返ってきた。
「“今さら人間性を演じられても”とのことです」
ーー俺は、ユウキを失ったのか?
“完璧な俺”が通じない世界が、こんなにも苦しいなんて。
やがてルシファは鏡を割った。
美しいはずの自分の顔が、ユウキに届かない無価値な面に見えてきた。
「どうすれば、彼女は俺を見てくれる…?」
今度は本を読み始めた。哲学、恋愛論、自己啓発。
臣下は震えた。勉強している王子は見たことがない。
だが、ユウキの態度は変わらない。
むしろ冷たく、事務的なやり取りすら避けるようになった。
そして、ルシファはついにーーー
「…ユウキ、お願いだ。俺を…捨てないでくれ」
膝をついた。
完璧であることしか価値がないと思っていた男が、その価値を失ってもなお、すがりつく存在がひとりだけできてしまった。
「やっと、その目線に立てたのですね。遅すぎましたけど」
そう言ったユウキは、優しくもない冷たい目瞳で微笑した。
「あなたは、他の誰にとっても“理想の王子”なのかもしれません。でも、私はただ…私を見て欲しかった」
涙が頬を伝ったのはルシファだった。
初めて“選ばれなかった王子”として彼は立った。
ーー彼女の隣にはもう立てないかも知れない。
それでも、それでも…
「俺は、変わる。変わらせてくれたのは…お前なんだ、ユウキ」
それは、傲慢さが剥がれた先に残ったただの青年の言葉だった。
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