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7 ぐぅぅぅぅっ
しおりを挟む「ん……ウィリア?」
「起きたか」
俺は目を覚ましたシュリに近寄った。
あれからシュリはあの場で泣き疲れて眠ってしまい、俺はシュリを抱えて寮の自室に連れて帰っていた。外はもう夜が訪れ、星が顔を出し始めている。
「あれ? ウィリア?」
眠ていたシュリが目を覚まし、ベッドからむくっと体を起こして目を擦る。
「目を擦るな、腫れるぞ」
俺が声をかけると、シュリは「あれ? ウィリア、声」と呟いた後、すぐにここが五百年後の世界だと思い出したようで顔を顰めさせた。
「あ、アレクシス……ごめん」
「いや、いい。それより大丈夫か?」
落ち込むシュリに尋ねると、シュリは少し間を置いてから「うん」と答えた。だが、全然大丈夫そうじゃない。しかし俺にできることは何もなく、どうしたらいいんだ? と手をこまねいていると。
「アレクシス、ごめんな。あんな風に取り乱して、泣いたりして……。もしかして、ここまで俺を運んでくれた?」
シュリは申し訳なさそうに謝り、そして見覚えのない部屋を見回して俺に尋ねた。
「ああ、泣き疲れて寝てしまったからな。俺の部屋に運んだ」
「そうか……。ほんと、ごめん。アレクシス。俺、迷惑ばっかりかけてるな」
シュリは謝り、頭を下げた。その素直な姿を見ると怒る気など起きない。むしろ俺は誠実に謝罪するシュリに好感がもてた。何よりシュリも巻き込まれた側の人間だ。
「気にするな。誰だって、五百年後の世界に送り込まれたら驚くものだ」
俺がそう答えるとシュリは俺をじっと見た。なんだか疑り深く俺を見ている。
「……アレクシスでも、か?」
「ああ、勿論だ」
「うそだ。アレクシスなら、全然動揺とかしなさそうだよ」
「そんな事ないぞ。俺でも動揺する」
「ほんと? ……俺みたいに泣いちゃう?」
シュリに尋ねられて想像してみる、動揺はしても泣きはしないだろう。でも俺は小さな嘘を吐いた。
「……多分な。だから迷惑なんて思っていない」
俺が答えると、シュリは俺の心を覗くようにじっと見詰めてきた。小さな嘘を吐いたので気まずい。
それにエルフェニウムのようなシュリの瞳に見つめられると、何だか胸の奥がざわざわと騒めく。でも、そんな俺の気持ちも知らないでシュリはにかっと笑った。
「そっか。アレクシスでも泣いちゃうか、ふふっ」
笑顔で言われて、俺はなんだか胸がどっどっと変な音がした。
……どうしたんだ? 俺は。
妙な胸の動きに気を撮られていると、いつの間にかシュリはベッドからするりと降りて、窓から見える町を眺めた。夜の帳が落ちた王都には外灯の明かりが灯っている。寮は少し高台にある為、町の明かりが綺麗に見える。シュリはその明かりを眺めながらぽつりと呟いた。
「もう夜になったんだな」
シュリはそう言い、俺はその言葉に返事を返そうとした。けれど……。
ぐぅぅぅぅっ!!
突然どこからともなく盛大に大きいお腹の音が鳴った。
俺は一瞬何の音かわからなかったが、すぐにシュリの腹の虫だとわかり、そして音が鳴った事が恥ずかしかったのか、シュリはみるみる顔を赤くさせた。
「なっ、何でもないぞ!」
お腹を押さえて慌てて誤魔化すシュリがなんだかおかしくて、思わず俺はぷっと笑ってしまった。だって全然、誤魔化しきれてない。でも笑う俺にシュリは真っ赤な顔をしたまま言い訳をした。
「し、仕方ないだろ。俺、何も食べずにこっちに来ちゃったんだから!」
そう言い訳する間にも、ぐうぐうっとシュリのお腹は鳴り、お腹の音でさえ俺に抗議しているみたいで余計おかしくなった。
「くくくっ、そ、そうだな」
腹を抱えて笑いながら俺が言うと、シュリはむぅっとしたが、笑った俺をしばらく見てシュリは何気なく言った。
「何だよ、意外に笑い上戸なんだな。お前、そっちの方がいいぞ」
シュリに言われて、俺はハッとし、久しぶりに人前で笑った事に気がついた。子供の頃、笑った時に見える牙が怖いと言われて、人前で笑う事を控えるようになったからだ。
「悪い」
俺は口元を抑え、気を取り直して澄ました顔をした。あの頃のように牙が怖いと言われたくないから。でもそんな俺にシュリは首を傾げた。
「なんだよ、急に澄ました顔して」
俺が突然笑うのを止めたのを不思議に思ったのか、シュリはそう尋ねた。普段だったら何でもない、と答えるところだった。でも、なぜかこの時の俺は正直に答えていた。
「……笑うと牙が見えて怖いだろ」
俺がそう言うと、シュリはキョトンとした顔の後「なんで? 怖くないよ。仏頂面よりいいじゃん」と答えると、にっと笑った。そこにはお世辞も嘘もない。
そして、そんな風に言われると思っていなかった俺はただ驚いた。でも、またぐぅーっとお腹を鳴らすから、俺は折角澄ました顔に取り繕ったのに、表情が崩れてしまう。
「くくっ」
俺が笑うとやっぱりシュリは恥ずかしそうにした。
「むぅ……仏頂面よりいいけど、あんまし笑うな」
シュリは赤い顔をむすっとさせて俺に言った。その姿に俺はなんだかいつも無意識に入ってしまう体の身体が抜ける気がした。今日会ったばかりの奴なのに、そんな事を感じさせないくらい傍にいると居心地がいい。
「悪い。腹が減ってるなら飯にしよう。食堂から何か貰ってくるから待っててくれ」
俺は笑いを堪えながらシュリに言った、でもシュリは。
「え、本当? なら、俺もついてく! アレクシスに任せっきりっていうのも悪いからな!」
シュリは俺の傍に寄ってきてそう言った。二人分の食事を運ぶことなど俺にとって訳ないのだが、一緒に行く! というシュリの無邪気な視線を見ると、断る気にはなれなかった。
……シュリは俺を恐れないんだな。
「なら、一緒に行くか?」
「おぅ!」
シュリはそう元気に返事をした。
これから俺は陛下の命令に従って、この魔人の面倒を見なければならない。
見たこともない魔人の面倒などみれるか不安に思っていたが、意外とシュリとならうまくやっていけそうだ。
そう俺は早くも思ったのだった。
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