13 / 81
13 謁見
しおりを挟む「陛下、おはようございます」
俺は臣下の礼を取って挨拶をする。けどシュリは……。
「あんたが今の王様?」
「シュリッ」
俺は咎める様に声を上げたが、陛下は軽く手をあげてそれを遮った。
「アレクシス、構わないよ。ああ、私がこの国を治めるルサディア・リヴァンテだ、よろしく。君が大魔術師エルサルの弟のシュリ君だね?」
陛下がシュリの名前を伝えるとシュリは驚いた顔を見せた。
「どうして俺の名前」
「部下から聞いていてね。私の事はルサディアと呼んでくれ」
「ルサディアだな。よろしく!」
シュリは恐れもなく陛下に告げ、俺はそれを隣で見ながら小さくため息をついた。
……大丈夫だろうか。
「ところでシュリ、昨日はアレクシスのところに泊まったようだね。どうだい? アレクシスと生活できそうかい?」
「うん、アレクシスは良い奴だ。ただ、ちょっと怒りっぽいけど。昨日、一緒に風呂に入った後もベッドで寝た、もごもごっ!」
これ以上余計な事を言われたら困る! と俺は咄嗟にシュリのお喋りな口を閉じた。でも遅かったようだ。陛下はほぉ? と楽し気に俺とシュリを見る。
「どうやら楽しい夜を過ごしたみたいだな。あんまり怒らないようにな、アレクシス」
「別に怒ってなどいません!」
つい口調が荒くなってしまったが、陛下は俺の言葉なんて気にしていなかった。にやにやしながら楽し気に俺を見ている。俺が焦っているのが楽しいのだろう。
そして、そんな折。口を塞いでいた俺の手をシュリがべろっと舌で舐めた。
「うわっ!!」
まさか舐められるとは思っていなかった俺は思わず大きな声を出して手を離す。そしてシュリを見ると、してやったり、といたずらっ子みたいな顔をしていた。
「へへーんっ、俺の口ばっかり塞ぐからだぞ」
「シュリッ……!」
してやられた俺は舐められた手の感触がなんとも言えなかった。柔らかくて生暖かいシュリの舌の感触が手にじっとりと残っている。でも顔を顰める俺に陛下は楽し気に声をかけた。
「お前のそんな顔をみるのは久しぶりだな」
そう言う陛下の目は生暖かい。俺とシュリのやり取りを楽しんでいる目だ。俺はそんな陛下にちょっとむっとしながらも居住まいを正して尋ねた。
「それより陛下、私達に御用があって呼ばれたのでは?」
問いかけた俺に陛下の答えはあっさりしたものだった。
「いや、五百年前から来た魔人と会ってみたくてね。何せあの大魔術師エルサルの弟だと聞いたものだから、どんな人物かと思って」
そう陛下は答え、俺は心の中で思わず呟く。
大魔術師エルサルは弟のシュリに変な事を教えている変人ですよ、そしてその弟は無邪気な子供みたいですよ、と。
「まあ、それとお前とシュリがうまくやっていけそうか、どうかと思ってね。でも無用の心配だったようだ」
陛下はにっこりと笑って俺とシュリを見た。
「アレクシス、シュリを頼んだよ? シュリ、ここにいる間はアレクシスと共に行動したらいい。アレクシスは頼りになる男だ。だから、離れてはいけないよ」
陛下はそうシュリに言い、シュリは「うん!」と笑顔で答えた。
俺はそんな二人のやり取りを見て、また小さくため息を吐いた。どうやら子守りは続行のようだ。
……はぁ。
◇◇◇◇
その後、謁見を終えて。
俺とシュリは王城から隣接している騎士集舎に続く、渡り廊下を歩いた。
「ルサディアはなんだか気のいい男だったな。俺の時代の王様とは全然違う」
シュリは俺の隣を歩き、楽し気に言った。それを聞いて俺は思い出す。
「シュリのいた時代の王か」
シュリがいた五百年前の時代は、まだそれぞれの種族が多く、小競り合いも多かったと聞く。けれど、その各種族をまとめたのが当時のルサカ・リヴァンテ国王。
ルサカ国王はまだ混血の方が珍しい時代、率先して彼らを保護し、それぞれの種族に協力関係を結ばせ、今のこのリヴァンテ王国の礎を作った。
だがそんな偉業を成し遂げた彼の事については多くの事が秘密にされていて、その人物像は王家の者しか知らされていない。なぜ、彼の事が極秘扱いされているのかわからないが、その昔、ルカサ国王自身が自分の事を後世に伝えないようにしたとか……。
そのせいで、ルサカ国王を支えたとされる王妃もどんな人物だったのか、わからないままだ。いや、王妃がいたのかすらも謎になっている。けれど、そんな謎に包まれたルサカ国王の事についてシュリがぽろっと言葉を零したから、俺はついつい興味本位で生き証人であるシュリに尋ねた。
「シュリは、ルサカ国王と会ったことがあるのか?」
「ルサカとか? 勿論! ルサカは俺とエルサル、ウィリアの四人で幼馴染って感じだからなー」
シュリはそう俺に教えてくれた。
何か知っているかもしれないと思ったが、まさか幼馴染だとは。
「ルサカ国王は一体、どんな人物なんだ?」
「ん? ルサカか? ……あいつはぁ、うーん、恥ずかしがり屋だってウィリアは言ってたかな。エルサルは面倒くさい男だって。俺には……いじめっ子だ」
シュリは頬を膨らませて、むすぅっとしながら答えた。何かを思い出したみたいだ。
「いじめっ子? 何かされたのか?」
「昔、背中にカエルを入れられたり、プレゼントだって渡された箱にカエルがいっぱい詰めてあったり、ベッドにカエルを仕込まれたりしたんだ」
シュリは言いながらますます不機嫌な顔をして言った。
……ルサカ国王。どれだけカエルが好きなんだ。
少々俺の中にあった偉人のルサカ国王のイメージが崩れたが、実際にはお茶目な人だったのかもしれない。
「とにかくルサカはそういう奴だ。まあ……良い奴ではあるけどな」
シュリは不機嫌な顔のまま呟いた。
……しかし王と幼馴染とは、シュリは一体何者なのだろう。
そして俺はふと思う。大魔術師エルサルは偉人として名が高いが、実際のところいくつもの便利な魔術式を作り出した人物、としか記述が残っておらず、詳しい人物像はあまり残っていない。
唯一あるのは。
「あっ、エルサル!」
シュリはそれを見つけて、駆けだした。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる