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13 謁見
しおりを挟む「陛下、おはようございます」
俺は臣下の礼を取って挨拶をする。けどシュリは……。
「あんたが今の王様?」
「シュリッ」
俺は咎める様に声を上げたが、陛下は軽く手をあげてそれを遮った。
「アレクシス、構わないよ。ああ、私がこの国を治めるルサディア・リヴァンテだ、よろしく。君が大魔術師エルサルの弟のシュリ君だね?」
陛下がシュリの名前を伝えるとシュリは驚いた顔を見せた。
「どうして俺の名前」
「部下から聞いていてね。私の事はルサディアと呼んでくれ」
「ルサディアだな。よろしく!」
シュリは恐れもなく陛下に告げ、俺はそれを隣で見ながら小さくため息をついた。
……大丈夫だろうか。
「ところでシュリ、昨日はアレクシスのところに泊まったようだね。どうだい? アレクシスと生活できそうかい?」
「うん、アレクシスは良い奴だ。ただ、ちょっと怒りっぽいけど。昨日、一緒に風呂に入った後もベッドで寝た、もごもごっ!」
これ以上余計な事を言われたら困る! と俺は咄嗟にシュリのお喋りな口を閉じた。でも遅かったようだ。陛下はほぉ? と楽し気に俺とシュリを見る。
「どうやら楽しい夜を過ごしたみたいだな。あんまり怒らないようにな、アレクシス」
「別に怒ってなどいません!」
つい口調が荒くなってしまったが、陛下は俺の言葉なんて気にしていなかった。にやにやしながら楽し気に俺を見ている。俺が焦っているのが楽しいのだろう。
そして、そんな折。口を塞いでいた俺の手をシュリがべろっと舌で舐めた。
「うわっ!!」
まさか舐められるとは思っていなかった俺は思わず大きな声を出して手を離す。そしてシュリを見ると、してやったり、といたずらっ子みたいな顔をしていた。
「へへーんっ、俺の口ばっかり塞ぐからだぞ」
「シュリッ……!」
してやられた俺は舐められた手の感触がなんとも言えなかった。柔らかくて生暖かいシュリの舌の感触が手にじっとりと残っている。でも顔を顰める俺に陛下は楽し気に声をかけた。
「お前のそんな顔をみるのは久しぶりだな」
そう言う陛下の目は生暖かい。俺とシュリのやり取りを楽しんでいる目だ。俺はそんな陛下にちょっとむっとしながらも居住まいを正して尋ねた。
「それより陛下、私達に御用があって呼ばれたのでは?」
問いかけた俺に陛下の答えはあっさりしたものだった。
「いや、五百年前から来た魔人と会ってみたくてね。何せあの大魔術師エルサルの弟だと聞いたものだから、どんな人物かと思って」
そう陛下は答え、俺は心の中で思わず呟く。
大魔術師エルサルは弟のシュリに変な事を教えている変人ですよ、そしてその弟は無邪気な子供みたいですよ、と。
「まあ、それとお前とシュリがうまくやっていけそうか、どうかと思ってね。でも無用の心配だったようだ」
陛下はにっこりと笑って俺とシュリを見た。
「アレクシス、シュリを頼んだよ? シュリ、ここにいる間はアレクシスと共に行動したらいい。アレクシスは頼りになる男だ。だから、離れてはいけないよ」
陛下はそうシュリに言い、シュリは「うん!」と笑顔で答えた。
俺はそんな二人のやり取りを見て、また小さくため息を吐いた。どうやら子守りは続行のようだ。
……はぁ。
◇◇◇◇
その後、謁見を終えて。
俺とシュリは王城から隣接している騎士集舎に続く、渡り廊下を歩いた。
「ルサディアはなんだか気のいい男だったな。俺の時代の王様とは全然違う」
シュリは俺の隣を歩き、楽し気に言った。それを聞いて俺は思い出す。
「シュリのいた時代の王か」
シュリがいた五百年前の時代は、まだそれぞれの種族が多く、小競り合いも多かったと聞く。けれど、その各種族をまとめたのが当時のルサカ・リヴァンテ国王。
ルサカ国王はまだ混血の方が珍しい時代、率先して彼らを保護し、それぞれの種族に協力関係を結ばせ、今のこのリヴァンテ王国の礎を作った。
だがそんな偉業を成し遂げた彼の事については多くの事が秘密にされていて、その人物像は王家の者しか知らされていない。なぜ、彼の事が極秘扱いされているのかわからないが、その昔、ルカサ国王自身が自分の事を後世に伝えないようにしたとか……。
そのせいで、ルサカ国王を支えたとされる王妃もどんな人物だったのか、わからないままだ。いや、王妃がいたのかすらも謎になっている。けれど、そんな謎に包まれたルサカ国王の事についてシュリがぽろっと言葉を零したから、俺はついつい興味本位で生き証人であるシュリに尋ねた。
「シュリは、ルサカ国王と会ったことがあるのか?」
「ルサカとか? 勿論! ルサカは俺とエルサル、ウィリアの四人で幼馴染って感じだからなー」
シュリはそう俺に教えてくれた。
何か知っているかもしれないと思ったが、まさか幼馴染だとは。
「ルサカ国王は一体、どんな人物なんだ?」
「ん? ルサカか? ……あいつはぁ、うーん、恥ずかしがり屋だってウィリアは言ってたかな。エルサルは面倒くさい男だって。俺には……いじめっ子だ」
シュリは頬を膨らませて、むすぅっとしながら答えた。何かを思い出したみたいだ。
「いじめっ子? 何かされたのか?」
「昔、背中にカエルを入れられたり、プレゼントだって渡された箱にカエルがいっぱい詰めてあったり、ベッドにカエルを仕込まれたりしたんだ」
シュリは言いながらますます不機嫌な顔をして言った。
……ルサカ国王。どれだけカエルが好きなんだ。
少々俺の中にあった偉人のルサカ国王のイメージが崩れたが、実際にはお茶目な人だったのかもしれない。
「とにかくルサカはそういう奴だ。まあ……良い奴ではあるけどな」
シュリは不機嫌な顔のまま呟いた。
……しかし王と幼馴染とは、シュリは一体何者なのだろう。
そして俺はふと思う。大魔術師エルサルは偉人として名が高いが、実際のところいくつもの便利な魔術式を作り出した人物、としか記述が残っておらず、詳しい人物像はあまり残っていない。
唯一あるのは。
「あっ、エルサル!」
シュリはそれを見つけて、駆けだした。
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