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16 エルサルの事実
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「あちらをご覧ください」
「花瓶がどうしたんだ?」
シュリが尋ねるとロニーはおもむろに口を開いた。すると突然ガタガタッと動き始める。
「うわっ!?」
シュリが驚いて俺にぴょんっと引っ付いてきた。そんなシュリを見てロニーは口を閉じ、「これが僕の特技です」と告げた。
「魔術を使ったのか?」
問いかけたシュリにロニーは首を横に振った。
「いいえ。今のは超音波で、花瓶を振動させたんです」
「超音波?」
「はい、人の耳では聞き取れないほどの高音の事です。僕はその超音波を出せるんです。僕の祖先はコウモリ獣人ですから」
「コウモリ? コウモリって空を飛ぶ、あれか?」
シュリがパタパタと両手を動かして見せるとロニーは「ええ、そうです」と頷いた。
「へぇ。じゃ、その能力で騎士に?」
問いかけるシュリに俺が答えた。
「さっきの花瓶を見ただろう? もし人間に同じような事が起こったらどうなる? 見えない振動を送られたら?」
「うーん、身動き取れなくなるな」
「そう言う事だ。見えない攻撃なんて誰にでもできる事じゃないからな」
俺が説明をし終わるとロニーはにこっとシュリに笑いかけた。
「僕はこの特技を評価されて第一部隊の補佐官に任命されたんです。まあ他にも使い道はありますけど」
「へぇー、すごいんだなぁ」
シュリは感心したように言い、ロニーは「とんでもありませんよ」と謙遜して答えた。
だが実力なくして第一部隊には入れない。つまりロニーはそれなりの力を持っているという事だ。……しかし。
……二人が並んでいるとまるで同い年のようだな。だが……やはりどこかシュリの方が大人っぽくみえるのは実年齢のせいだろうか?
二人を見比べてそんなことを考えているとシュリに声をかけられた。
「ん? どうした?」
「あ、いや。……シュリ、とにかくそこに座れ。ロニー、お茶を淹れてきてくれないか」
「はい、畏まりました。隊長、机の上にお目通しして欲しい書類を置いていますので、ご確認お願いします」
ロニーはそう言うとささっと部屋を出て行った。
……書類か。
俺はロニーに言われた通り、机の前に立ち、書類を見ていく。第一部隊が管轄している区画の報告書や、騎士の休暇届や破損や紛失した備品の配給願い、その他、雑多な書類が少々。
エルサードが分担していたものもある為、今日は少々書類が多い。でも、まあ今日中には終えられるだろう。今日は隊員の勤務表や訓練メニューも作らなくてはな。
そんな事を考えながら書類を見ていくと、一枚の報告書に目が留まる。
そこには先日捕まえた兎の獣人種についての取り調べの報告がされていた。どうやら、取り調べや身辺調査で、あの犯人には余罪の可能があるようだ。
……まあ、あの身のこなしに手際からして初犯ではないだろうとは思っていたが。
そう思いながら書類を読んでいると後ろからシュリに尋ねられた。
「なあ、アレクシス。俺はここで何をしたらいいんだ?」
俺は声をかけられてシュリに振り返る。
「何って……別にそのソファに座ってゆっくりしていてくれたらいい」
「えー、それじゃあ、暇だよ~。なにか、俺にも出来る事ない?」
シュリはそう言ったが、シュリにできる仕事なんてない。ここに連れてきたのもシュリから目を離さない為だ。
「ないな。大人しく座っていろ」
「えー? それじゃ、つまらないよ」
「つまらなくても大人しくしてろ。それがお前の仕事だ」
俺がそう伝えて事務机の席に着くと、シュリは「ぶぅーっ」と明らかに不満な声を出した。
……この騎士集舎で、第一部隊の隊長を務める俺にそんな文句を言うのはお前ぐらいだぞ、シュリ。
そうちょっと呆れつつ、俺は引き出しからインクやペンを取り出して尋ねた。
「なら、シュリは何が出来るんだ?」
「俺? 俺は……うーん、そうだなぁ。お菓子つくりかな?」
思いもよらぬ答えに俺の手が止まる。
「お、菓子?」
「うん。よくウィリアと一緒に作ってたんだ!」
「ウィリア」
その名前はシュリと出会った時からよく聞く名前だ。
……確か俺に良く似ていう。狼の獣人……もしかしたら俺の祖先かもしれないな。
「ウィリアという人は俺と同じ獣人なんだよな? そんなに似てるのか?」
「うん、すっごい似てる! でもウィリアは女の子なんだ、可愛い女の子だよ!」
シュリはにこにこしながら俺に言った。でも、俺はどうにも想像しきれなかった。
……俺に似てる可愛い女の子? 一体、どんな女の子だ。
「ウィリアは性格もいいし、お菓子作りも上手なんだ。刺繍とか細かい作業は苦手だけど」
シュリはそのウィリアという人物を絶賛し、俺はなんだかむかっとした。誰かを称賛するシュリを見るのはなんだか気分が良くない。
「なんだ、シュリはその子が好きなのか? それとも彼女とか?」
俺は少々ぶっきら棒に尋ねた。でもそんな俺の言葉をシュリはケタケタと笑った。
「ははっ、ウィリアは好きだけど俺の彼女じゃないよー。だってウィリアはエルサルの奥さんだから!」
シュリの言葉に俺は驚いた。大魔術師エルサルが結婚していた事は知られていない事実だったからだ。
「エルサルには獣人の奥さんがいたのか?!」
「そうだよ。エルサルはウィリアが十六歳になるのを待って結婚したんだ。すっごく盛大な結婚式で、ルサカが二人の誓いの証人になったんだ。もー、その時はお祭りみたいだったよ」
シュリは笑いながら、そう俺に教えてくれた。
……大魔術師エルサルが結婚。しかも、その相手が俺と同じ狼の獣人だったとは。
だがシュリの話を聞いて、俺の中に大きな疑問が残る。
それは大魔術師エルサルが結婚していた事が、この後世に一切残っていない事だ。
……お祭り騒ぎというほどなら何かそう言った話が残っていてもいいようなものなのに。いや、そもそもエルサルは謎が多い。
大魔術師エルサルの功績や史実は山のように文献で残っているのに、その人物像や私生活などまったくもって記録に残ってないのだ。それはあまりに不自然すぎるほどに。
……弟がいた事さえ、記録には残っていない。だがシュリが嘘をついている、というのも違うだろうし。
「ん?」
シュリは無邪気な顔で首を傾げた。
……だがあまりに奇妙だな。もしかして誰かが意図的に隠した? 一体何の為に?
俺は眉間に皺を寄せて考えるが、答えは出なかった。
「花瓶がどうしたんだ?」
シュリが尋ねるとロニーはおもむろに口を開いた。すると突然ガタガタッと動き始める。
「うわっ!?」
シュリが驚いて俺にぴょんっと引っ付いてきた。そんなシュリを見てロニーは口を閉じ、「これが僕の特技です」と告げた。
「魔術を使ったのか?」
問いかけたシュリにロニーは首を横に振った。
「いいえ。今のは超音波で、花瓶を振動させたんです」
「超音波?」
「はい、人の耳では聞き取れないほどの高音の事です。僕はその超音波を出せるんです。僕の祖先はコウモリ獣人ですから」
「コウモリ? コウモリって空を飛ぶ、あれか?」
シュリがパタパタと両手を動かして見せるとロニーは「ええ、そうです」と頷いた。
「へぇ。じゃ、その能力で騎士に?」
問いかけるシュリに俺が答えた。
「さっきの花瓶を見ただろう? もし人間に同じような事が起こったらどうなる? 見えない振動を送られたら?」
「うーん、身動き取れなくなるな」
「そう言う事だ。見えない攻撃なんて誰にでもできる事じゃないからな」
俺が説明をし終わるとロニーはにこっとシュリに笑いかけた。
「僕はこの特技を評価されて第一部隊の補佐官に任命されたんです。まあ他にも使い道はありますけど」
「へぇー、すごいんだなぁ」
シュリは感心したように言い、ロニーは「とんでもありませんよ」と謙遜して答えた。
だが実力なくして第一部隊には入れない。つまりロニーはそれなりの力を持っているという事だ。……しかし。
……二人が並んでいるとまるで同い年のようだな。だが……やはりどこかシュリの方が大人っぽくみえるのは実年齢のせいだろうか?
二人を見比べてそんなことを考えているとシュリに声をかけられた。
「ん? どうした?」
「あ、いや。……シュリ、とにかくそこに座れ。ロニー、お茶を淹れてきてくれないか」
「はい、畏まりました。隊長、机の上にお目通しして欲しい書類を置いていますので、ご確認お願いします」
ロニーはそう言うとささっと部屋を出て行った。
……書類か。
俺はロニーに言われた通り、机の前に立ち、書類を見ていく。第一部隊が管轄している区画の報告書や、騎士の休暇届や破損や紛失した備品の配給願い、その他、雑多な書類が少々。
エルサードが分担していたものもある為、今日は少々書類が多い。でも、まあ今日中には終えられるだろう。今日は隊員の勤務表や訓練メニューも作らなくてはな。
そんな事を考えながら書類を見ていくと、一枚の報告書に目が留まる。
そこには先日捕まえた兎の獣人種についての取り調べの報告がされていた。どうやら、取り調べや身辺調査で、あの犯人には余罪の可能があるようだ。
……まあ、あの身のこなしに手際からして初犯ではないだろうとは思っていたが。
そう思いながら書類を読んでいると後ろからシュリに尋ねられた。
「なあ、アレクシス。俺はここで何をしたらいいんだ?」
俺は声をかけられてシュリに振り返る。
「何って……別にそのソファに座ってゆっくりしていてくれたらいい」
「えー、それじゃあ、暇だよ~。なにか、俺にも出来る事ない?」
シュリはそう言ったが、シュリにできる仕事なんてない。ここに連れてきたのもシュリから目を離さない為だ。
「ないな。大人しく座っていろ」
「えー? それじゃ、つまらないよ」
「つまらなくても大人しくしてろ。それがお前の仕事だ」
俺がそう伝えて事務机の席に着くと、シュリは「ぶぅーっ」と明らかに不満な声を出した。
……この騎士集舎で、第一部隊の隊長を務める俺にそんな文句を言うのはお前ぐらいだぞ、シュリ。
そうちょっと呆れつつ、俺は引き出しからインクやペンを取り出して尋ねた。
「なら、シュリは何が出来るんだ?」
「俺? 俺は……うーん、そうだなぁ。お菓子つくりかな?」
思いもよらぬ答えに俺の手が止まる。
「お、菓子?」
「うん。よくウィリアと一緒に作ってたんだ!」
「ウィリア」
その名前はシュリと出会った時からよく聞く名前だ。
……確か俺に良く似ていう。狼の獣人……もしかしたら俺の祖先かもしれないな。
「ウィリアという人は俺と同じ獣人なんだよな? そんなに似てるのか?」
「うん、すっごい似てる! でもウィリアは女の子なんだ、可愛い女の子だよ!」
シュリはにこにこしながら俺に言った。でも、俺はどうにも想像しきれなかった。
……俺に似てる可愛い女の子? 一体、どんな女の子だ。
「ウィリアは性格もいいし、お菓子作りも上手なんだ。刺繍とか細かい作業は苦手だけど」
シュリはそのウィリアという人物を絶賛し、俺はなんだかむかっとした。誰かを称賛するシュリを見るのはなんだか気分が良くない。
「なんだ、シュリはその子が好きなのか? それとも彼女とか?」
俺は少々ぶっきら棒に尋ねた。でもそんな俺の言葉をシュリはケタケタと笑った。
「ははっ、ウィリアは好きだけど俺の彼女じゃないよー。だってウィリアはエルサルの奥さんだから!」
シュリの言葉に俺は驚いた。大魔術師エルサルが結婚していた事は知られていない事実だったからだ。
「エルサルには獣人の奥さんがいたのか?!」
「そうだよ。エルサルはウィリアが十六歳になるのを待って結婚したんだ。すっごく盛大な結婚式で、ルサカが二人の誓いの証人になったんだ。もー、その時はお祭りみたいだったよ」
シュリは笑いながら、そう俺に教えてくれた。
……大魔術師エルサルが結婚。しかも、その相手が俺と同じ狼の獣人だったとは。
だがシュリの話を聞いて、俺の中に大きな疑問が残る。
それは大魔術師エルサルが結婚していた事が、この後世に一切残っていない事だ。
……お祭り騒ぎというほどなら何かそう言った話が残っていてもいいようなものなのに。いや、そもそもエルサルは謎が多い。
大魔術師エルサルの功績や史実は山のように文献で残っているのに、その人物像や私生活などまったくもって記録に残ってないのだ。それはあまりに不自然すぎるほどに。
……弟がいた事さえ、記録には残っていない。だがシュリが嘘をついている、というのも違うだろうし。
「ん?」
シュリは無邪気な顔で首を傾げた。
……だがあまりに奇妙だな。もしかして誰かが意図的に隠した? 一体何の為に?
俺は眉間に皺を寄せて考えるが、答えは出なかった。
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