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17 弟のネイレン
しおりを挟む……意図的に隠したとしても、何の為かわからないな。そうせざる得なかった事情があったとか? だが。
うーんと考える俺に、シュリはその当時のことを詳しく教えてくれた。
「結婚式のウィリアはそりゃ、綺麗だったんだぞ。白のドレスに身を包んで、ふんわりしたベールを頭につけて……みんなでお祝いして」
シュリはふふっと笑って言った。
けれど笑った後。数分もしない内に段々悲しい表情を見せ、気が付くとうるうると瞳を潤ませていた。
「シュリ?」
俺が声をかけると、シュリは慌てて目を両手で擦った。
「ご、ごめんっ! みんなの事、思い出しちゃってさ。へへっ」
シュリはから笑いをした。でもどんなに取り繕っても俺にはわかる、寂しいのだろう。
……突然五百年後に送られて、いつ帰れるかわからないからな。
その気持ちがわかって普段だったら絶対にしないのに、気が付いたら俺は席を立ってシュリの隣に座り、慰める様に肩を抱き寄せていた。
「泣きたかったら泣け、無理して笑うな」
俺はぽんぽんっと肩を撫でると、シュリは少しだけ肩を震わせた後、俺にぎゅっと抱き着いてぽろっぽろっと泣いた。
「ごめんっ、アレクシス。ちょっと寂しくなっちゃった」
シュリは俺の胸にぎゅっと顔を押し付けて、鼻にかかった声で言った。それはまるで小さな子供のようで。
「大丈夫だ。お前は帰れる」
俺は確証もないのに、そうシュリに告げていた。口先だけの言葉だとわかっている、まだいつ帰れるのかも分からない状況だ。けれど言わずにはいられなかった。
そして俺の言葉を聞いたシュリはぐりぐりっと俺の胸に顔を擦りつけ、ぱっと顔を上げた。目元が少し赤いけど、そこには笑顔のシュリがいた。
「そうだよな。あんがとっ、アレクシス」
シュリは涙を潤ませながらも、にぱっと笑って俺に言った。
その顔が可愛くて、俺はなんだかその顔に触れたくなる。
「んっ」
俺がそっとシュリの頬に触れれば、シュリは小さく鳴いた。柔らかい頬が手に馴染む。
「アレクシス?」
上目遣いで問いかけられれば、俺は花に引き寄せられる蝶の様にフラフラと引き寄せられ、顔を近づけた。 でも近づいた瞬間、執務室のドアがノックもなしに開く。
「兄さん! エルサードさんの代わりに空から降ってきた魔人と一緒に住んでいるというのは本当ですかっ!?」
大声で怒鳴りこむように入ってきたのは弟のネイレンだった。
「ネイレン?」
「に、兄さん……っ!」
俺は入り口で立ち尽くしているネイレンに視線を向けた。けれどネイレンは俺を見て、まるでこの世の終わりみたいな顔をした。
なんで、そんな顔を? と思ったらすぐ傍から声が聞こえてきた。
「な、なぁ、アレクシス。ちょ、ちょっと離れてもいい?」
ほんのり顔を赤らめたシュリの顔が間近にあって、はっと自分とシュリの距離に気がついた。俺は気がつかない内にシュリの鼻先がくっつきそうなほど傍に寄っていたのだ。
「あ、ああ! 悪いッ!」
俺は慌ててシュリから離れた。だが、そんな俺達の元にネイレンはズカズカズカッと歩いてくると、シュリに指さした。
「おい、魔人! 兄さんを誑かそうなんて、俺が許さないぞッ!」
ネイレンは鼻息荒くシュリに言った。しかし今のを見てどうしてそう思ったのか。
「ネイレン、違うから」
俺は少々頭を抱えながらネイレンに言った。
だがネイレンの後ろから、カートにのせてお茶を持ってきたロニーもにやにやとした顔で俺を見る。
「隊長もすみにおけませんね~」
……何がだ!
でもそんな会話の中、シュリは首を傾げて俺に尋ねた。
「兄さん? ……もしかして、アレクシスの弟なのか?」
尋ねるシュリに答えたのはネイレンだった。
「そうだ! 兄さんに抱き着いて迫るなんて! 不埒な真似をっ!」
「ネイレン、そうじゃない。違うから、ちょっと落ち着きなさい」
「けど、兄さんッ!」
ネイレンはむっとした顔で言ったが、俺が「ネイレン!」とちょっと強めに名を呼べば、しゅんっと大人しくなった。まるで耳を垂れ下げた犬のようだ。
「う……すみません」
「わかればいいんだ。シュリ、騒がしくてすまないな」
俺が謝るとシュリは首を横に振った。
「大丈夫だ。それより、この子はアレクシスの弟なのか?」
そうシュリが尋ねると、この子呼ばわりされた事が癪に障ったのか、またネイレンは声を上げた。
「誰がこの子だ! 俺は!」
そこまで言いかけたが、俺はネイレンを視線で黙らせた。
「うっ、兄さん」
「ネイレン、落ち着け。シュリはこう見えても百歳を超えているんだ」
そう教えると、ネイレンは驚いた様子で目を見開いた。そして俺はシュリの問いにきちんと答える。
「シュリ、この子は俺の弟のネイレンだ。ネイレン、自己紹介を」
俺が促すと、ネイレンは不服そうな顔をしつつもちゃんと名乗った。
「ネイレン・クウォールだ。第二部隊の副隊長を務めている」
「ネイレンか、よろしくな。俺はシュリだ」
シュリは挨拶を済ませて握手を求めたが、ネイレンはふいっとそっぽ向いたままだった。どうやらネイレンはシュリの事が気に入らないらしい。
……全く、ネイレンの奴。
俺は小さくため息をついた。けれどそんなネイレンに怒りもせず、シュリはネイレンを見て小さく呟いた。
「ネイレンは人種寄りのなんだなぁ」
そうシュリはネイレンをまじまじと見て言った。
ネイレンは実の弟だが、俺とは違い人種寄りの獣人種だ。狼獣人の血は受け継ぎ、人より鼻が利くというところ以外、外見は人と変わらない。
母と同じ茶色の髪に青い瞳、すらっとした体形に爽やかな顔立ちは、まさに子供たちが憧れる騎士そのもの。今着ている隊服も俺と違って、よく似合っている。
そして俺はそんなネイレンと比較されることは日常茶飯事で。
だから、まじまじとネイレンを見るシュリを見て、俺と暮らすよりネイレンと一緒の方がいいと思っているのだろうか? という思いがよぎる。
だから俺は問いかけていた。
「なあ、シュリ。……シュリは俺と一緒に住むよりネイレンの方がいいんじゃないか?」
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