エルフェニウムの魔人

神谷レイン

文字の大きさ
15 / 81

15 ロニー

しおりを挟む

「ん、どした? アレクシス」

 黙り込んだまま三人を見ているとシュリが俺に声をかけた。

「いや」

 ……シュリが一番年上だと思えなくて混乱していた、とは言えないな。怒りそうだ。

「そう言えばアレクシス、母から聞いたが君がシュリ君の面倒を見ているんだって?」
「ええ、まあ」

 俺が曖昧に答えるとエルンスト副隊長は心配そうに「大丈夫かい?」尋ねてきた。
 だが俺は思わず昨晩の事を思い出してしまう。あの滑らかで柔らかな肌の感触を。

「た、大変ですが、なんとか!」

 俺は顔が赤くなりそうなのを何とか抑えて、答えた。
 でもその俺の答えに、不満そうに声を上げたのはシュリだった。

「大変ってなんだよー? 俺、そんなに迷惑かけてないぞー? たぶん」

 シュリは腰に手を当てて言い「それに昨日はアレクシスと一緒に」と言いかけたところで俺はシュリの口を早くもパフッと塞いで身体を持ち上げた。
 二人にまで昨日の事を話されたんじゃ、堪ったものじゃない!!

「では、我々は用事がありますので、失礼しますッ!」

 俺は「もごもごーっ!」と悶えるシュリを抱えて、そのままその場を後にした。

「……一体、どうしたのかしら、アレクちゃん」

 そう頬に手を当てて驚くルクナ隊長と「さぁ?」と答えるエルンスト副隊長を残して。

 


 ――――そして。

「もー、口塞ぐの禁止!」

 渡り廊下を過ぎて騎士集舎に入り、シュリを地面に下ろした。だが、口から手を外すなりシュリはぷはぁっと息をした後、そう俺に言った。
 周りには王城と騎士集舎を行き来する、使いを頼まれたであろう若い騎士達が俺達の様子を不思議そうに見ていた。まあ、物珍しい魔人と獣人の俺がいるのだから仕方ないのだろう。

「余計な事はあまり口走るな」

 周りの若い騎士達に聞こえないよう小声で俺がそう言うとシュリは首を傾げた。

「何が余計な事なんだよ?」
「さっき言いかけただろ」

 俺はシュリに言い、さっきシュリが言いかけた言葉を思い出した。

『それに昨日はアレクシスと一緒に』

 その言葉の続きはきっと、お風呂かベッドで、というつもりだった筈だ。でも予測した俺の考えとシュリは違っていた。

「なんだよ。一緒にいたけど、どこが迷惑だったんだ? って聞くつもりだったんだぞ?」

 思わぬ返しに俺はむぐっと口を閉じる。

 ……俺の早とちりか。

 俺がそう思っていると、シュリは心配げに俺を見上げた。

「なあ俺、迷惑なのか?」

 シュリは申し訳なさ気に言い、そんな顔をされるとこっちが悪い事をしている気分になる。

「なあ、アレクシス。俺、迷惑ならお前のとこ」

 言いかけたシュリの口をパフッとまた塞いだ。

「別に迷惑じゃない。大変だと言ったのは……その、他人と一緒に暮らすのが久しぶりだったからだ。シュリが嫌なわけじゃない」

 俺はぼそぼそっとした声でシュリに言い、そっと手を離した。

「ホントに?」
「ああ、本当だ。俺が嫌がっているように見えるか?」

 俺が問いかけると、シュリはにぱっと笑顔を見せた。

「そうか。なら俺、アレクシスのとこにいてもいい?」
「お前の面倒は俺が見ると言ったはずだ」

 俺はハッキリとシュリに伝えた。
 でもついつい照れくさくて顔を背けてしまう。しかし、シュリはそんな俺にいきなり飛びついた。

「ありがと、アレクシスッ!」

 シュリは嬉し気に言い、俺をぎゅーっと抱きしめた。その様子を若い騎士達が驚いた顔で見ている。俺は恥ずかしくなって「おい、シュリ!」と慌てたが、シュリは何のその。
 離れようとせず、俺はシュリの脇に手を入れて無理やり身体を引っ剥がした。
 軽々と俺はシュリを持ち上げる。

「たくっ、お前は!」
「へへへー」

 俺に持ちあげられたシュリはぶらんっとぶら下がりながらもニコニコし、俺はその顔を見たらなんだかそれ以上怒れなくなった。

「たく……っ」

 そう言いつつ、俺はシュリを地面に下ろした。

「さっさと行くぞ」

 俺が言えば、シュリは俺の後ろを「うん!」とついてきた。



 ◇◇◇◇



 それから騎士集舎の一角、俺の仕事部屋である第一部隊・隊長室の中に入った。

 だが、そこには一人の隊服を着た若い騎士がいる。小柄で細身の、まだ十五歳くらいの少年。
 色白な肌に黒の短髪、くりっとした目が特徴的な少年だ。でも彼は第一部隊の騎士であり、俺の部下だ。
 名はロニーと言う。

「あ、隊長、おはようございます!」

 ロニーは元気に挨拶をし、そして俺の傍にいるシュリに目を向けた。

「隊長、この方……もしかして噂の方ですか?! エルサード副隊長の代わりに現れた方は!」

 そう興味津々に俺に尋ねてきた。そして、シュリも誰だ? という視線を俺に向けてくる。俺は面倒くさいな、と思いつつ紹介した。

「ロニー、彼はシュリ、五百年前から来た魔人だ」

 俺が紹介するとロニーは目を輝かせた。

「やっぱり! 僕、魔人の方に会うなんて初めてですッ!」

 ロニーは少々興奮気味に「うわー、すごいなー!」とシュリを見ながら言った。そのロニーの様子に俺は、ちょっと騒ぎすぎじゃないか? とも思ったが、でもまあ当然の反応か、とも思った。

 この町じゃ、生粋の魔人に会ったことがあるのなんて、長生きしている陛下かルクナ隊長、魔人の血を濃く受け継いで百歳近く生きている年配層だけだ。俺だって実は魔人を見るのはシュリが初めてだ。
 けれど、俺は出会いが出会いだっただけで驚きをすっ飛ばしていた。だからもしもこんな風に身近に接していなかったら、ロニーと同じような反応をしていたかもしれない。

 ……いや、だがそれにしてもロニーははしゃぎ過ぎかもな。

 だからか、驚いたシュリは俺の後ろに隠れながら俺の服をくいくいっと引っ張った。

「だ、だれ?」
「シュリ、彼はロニー。俺の補佐官をしてくれている。だから心配しなくても、お前を取って食ったりしない」
「ほさかん?」

 シュリは聞きなれない言葉なのか、首を傾げたまま尋ねてきた。けれど、その質問に答えたのはロニー本人だった。

「あ、自己紹介が遅れて失礼しました! 恐れながらアレクシス隊長の補佐官をさせて頂いています第一部隊所属、ロニー・コニーと申します!」

 ロニーはにっこりと笑ってシュリの質問に答えた。

「ロニー・コニー」
「どうぞ、僕の事はロニーでもコニーでも好きにお呼びください」

 そうロニーは手を差し伸べて握手を求めた。その手をシュリはおずおずと握る。

「お、おう。俺はシュリ、よろしくな。でも、こんな若いのに騎士なんだな」

 シュリが不思議そうな顔をして言うとロニーはにこっと笑った。

「ああ、それは僕が特技を持っているからですよ」
「特技?」

 シュリが尋ねるとロニーは棚に飾られている花瓶に視線を向けた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

騎士は魔石に跪く

叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。 魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。 他サイト様でも投稿しています。

処理中です...