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15 ロニー
しおりを挟む「ん、どした? アレクシス」
黙り込んだまま三人を見ているとシュリが俺に声をかけた。
「いや」
……シュリが一番年上だと思えなくて混乱していた、とは言えないな。怒りそうだ。
「そう言えばアレクシス、母から聞いたが君がシュリ君の面倒を見ているんだって?」
「ええ、まあ」
俺が曖昧に答えるとエルンスト副隊長は心配そうに「大丈夫かい?」尋ねてきた。
だが俺は思わず昨晩の事を思い出してしまう。あの滑らかで柔らかな肌の感触を。
「た、大変ですが、なんとか!」
俺は顔が赤くなりそうなのを何とか抑えて、答えた。
でもその俺の答えに、不満そうに声を上げたのはシュリだった。
「大変ってなんだよー? 俺、そんなに迷惑かけてないぞー? たぶん」
シュリは腰に手を当てて言い「それに昨日はアレクシスと一緒に」と言いかけたところで俺はシュリの口を早くもパフッと塞いで身体を持ち上げた。
二人にまで昨日の事を話されたんじゃ、堪ったものじゃない!!
「では、我々は用事がありますので、失礼しますッ!」
俺は「もごもごーっ!」と悶えるシュリを抱えて、そのままその場を後にした。
「……一体、どうしたのかしら、アレクちゃん」
そう頬に手を当てて驚くルクナ隊長と「さぁ?」と答えるエルンスト副隊長を残して。
――――そして。
「もー、口塞ぐの禁止!」
渡り廊下を過ぎて騎士集舎に入り、シュリを地面に下ろした。だが、口から手を外すなりシュリはぷはぁっと息をした後、そう俺に言った。
周りには王城と騎士集舎を行き来する、使いを頼まれたであろう若い騎士達が俺達の様子を不思議そうに見ていた。まあ、物珍しい魔人と獣人の俺がいるのだから仕方ないのだろう。
「余計な事はあまり口走るな」
周りの若い騎士達に聞こえないよう小声で俺がそう言うとシュリは首を傾げた。
「何が余計な事なんだよ?」
「さっき言いかけただろ」
俺はシュリに言い、さっきシュリが言いかけた言葉を思い出した。
『それに昨日はアレクシスと一緒に』
その言葉の続きはきっと、お風呂かベッドで、というつもりだった筈だ。でも予測した俺の考えとシュリは違っていた。
「なんだよ。一緒にいたけど、どこが迷惑だったんだ? って聞くつもりだったんだぞ?」
思わぬ返しに俺はむぐっと口を閉じる。
……俺の早とちりか。
俺がそう思っていると、シュリは心配げに俺を見上げた。
「なあ俺、迷惑なのか?」
シュリは申し訳なさ気に言い、そんな顔をされるとこっちが悪い事をしている気分になる。
「なあ、アレクシス。俺、迷惑ならお前のとこ」
言いかけたシュリの口をパフッとまた塞いだ。
「別に迷惑じゃない。大変だと言ったのは……その、他人と一緒に暮らすのが久しぶりだったからだ。シュリが嫌なわけじゃない」
俺はぼそぼそっとした声でシュリに言い、そっと手を離した。
「ホントに?」
「ああ、本当だ。俺が嫌がっているように見えるか?」
俺が問いかけると、シュリはにぱっと笑顔を見せた。
「そうか。なら俺、アレクシスのとこにいてもいい?」
「お前の面倒は俺が見ると言ったはずだ」
俺はハッキリとシュリに伝えた。
でもついつい照れくさくて顔を背けてしまう。しかし、シュリはそんな俺にいきなり飛びついた。
「ありがと、アレクシスッ!」
シュリは嬉し気に言い、俺をぎゅーっと抱きしめた。その様子を若い騎士達が驚いた顔で見ている。俺は恥ずかしくなって「おい、シュリ!」と慌てたが、シュリは何のその。
離れようとせず、俺はシュリの脇に手を入れて無理やり身体を引っ剥がした。
軽々と俺はシュリを持ち上げる。
「たくっ、お前は!」
「へへへー」
俺に持ちあげられたシュリはぶらんっとぶら下がりながらもニコニコし、俺はその顔を見たらなんだかそれ以上怒れなくなった。
「たく……っ」
そう言いつつ、俺はシュリを地面に下ろした。
「さっさと行くぞ」
俺が言えば、シュリは俺の後ろを「うん!」とついてきた。
◇◇◇◇
それから騎士集舎の一角、俺の仕事部屋である第一部隊・隊長室の中に入った。
だが、そこには一人の隊服を着た若い騎士がいる。小柄で細身の、まだ十五歳くらいの少年。
色白な肌に黒の短髪、くりっとした目が特徴的な少年だ。でも彼は第一部隊の騎士であり、俺の部下だ。
名はロニーと言う。
「あ、隊長、おはようございます!」
ロニーは元気に挨拶をし、そして俺の傍にいるシュリに目を向けた。
「隊長、この方……もしかして噂の方ですか?! エルサード副隊長の代わりに現れた方は!」
そう興味津々に俺に尋ねてきた。そして、シュリも誰だ? という視線を俺に向けてくる。俺は面倒くさいな、と思いつつ紹介した。
「ロニー、彼はシュリ、五百年前から来た魔人だ」
俺が紹介するとロニーは目を輝かせた。
「やっぱり! 僕、魔人の方に会うなんて初めてですッ!」
ロニーは少々興奮気味に「うわー、すごいなー!」とシュリを見ながら言った。そのロニーの様子に俺は、ちょっと騒ぎすぎじゃないか? とも思ったが、でもまあ当然の反応か、とも思った。
この町じゃ、生粋の魔人に会ったことがあるのなんて、長生きしている陛下かルクナ隊長、魔人の血を濃く受け継いで百歳近く生きている年配層だけだ。俺だって実は魔人を見るのはシュリが初めてだ。
けれど、俺は出会いが出会いだっただけで驚きをすっ飛ばしていた。だからもしもこんな風に身近に接していなかったら、ロニーと同じような反応をしていたかもしれない。
……いや、だがそれにしてもロニーははしゃぎ過ぎかもな。
だからか、驚いたシュリは俺の後ろに隠れながら俺の服をくいくいっと引っ張った。
「だ、だれ?」
「シュリ、彼はロニー。俺の補佐官をしてくれている。だから心配しなくても、お前を取って食ったりしない」
「ほさかん?」
シュリは聞きなれない言葉なのか、首を傾げたまま尋ねてきた。けれど、その質問に答えたのはロニー本人だった。
「あ、自己紹介が遅れて失礼しました! 恐れながらアレクシス隊長の補佐官をさせて頂いています第一部隊所属、ロニー・コニーと申します!」
ロニーはにっこりと笑ってシュリの質問に答えた。
「ロニー・コニー」
「どうぞ、僕の事はロニーでもコニーでも好きにお呼びください」
そうロニーは手を差し伸べて握手を求めた。その手をシュリはおずおずと握る。
「お、おう。俺はシュリ、よろしくな。でも、こんな若いのに騎士なんだな」
シュリが不思議そうな顔をして言うとロニーはにこっと笑った。
「ああ、それは僕が特技を持っているからですよ」
「特技?」
シュリが尋ねるとロニーは棚に飾られている花瓶に視線を向けた。
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