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43 謝罪
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シュリが目を覚ましたのは、それから夕暮れも過ぎ、日もすっかり落ちた頃だった。
「ん? ……アレクシス?」
シュリはゆっくりと目を開き、ベッドのすぐ傍の椅子に座っている俺を見た。シュリが目を覚ましたことに俺はほっと息を吐き、声をかける。
「シュリ、目が覚めたか」
俺は気まずい思いを抱えたまま声をかけたが、シュリは起きたばかりでまだぼんやりとしていた。
「あれ? ここアレクシスの部屋?」
シュリは辺りを見回して言った。そう、俺達はもう寮の部屋に戻ってきていた。
「ああ、俺が連れ帰った」
俺が言うとシュリはゆっくりと体を起こした。
「そうなのか? ……でもどうして俺ここに? 確かアレクシスの実家に行って、それから……エルフェニウムの木のところで……あ!」
シュリは何があったのか思い出したようで、ぼっと顔を赤くさせた。その顔を見て俺はいたたまれなくなる。
「あ、あ、あ、アレクシス? どうして俺に?」
シュリは顔を真っ赤にさせて、しどろもどろに俺に尋ねた。そんな反応をされると、俺も顔が赤くなってくる。でも俺は勢いよく頭を下げて謝った。
「すまない、シュリッ!」
謝って済むことじゃないとわかっていても謝らずにはいられなかった。いくらシュリの言葉が嬉しくて、無意識とは言え、同意もなしにしてはいけないことだった。
痴漢、いや、わいせつ行為も甚だしい。
恥ずかしさと、後悔、申し訳なさが俺の中に湧きあがってくる。
でもどうしてか、あの時はそうしたくなったのだ。
だた、この時の俺はその感情がなんという名前なのか気が付いていなかった。だから、ただ謝るしかできず……。
「本当にすまない、シュリ! あんなこと、勝手にして。本当にすまない……俺の事、気が済むまで殴ってくれ!」
申し訳なくて俺は殴られること覚悟で目をぎゅっと瞑った。だがシュリは慌てて両手を横に振る。
「あ、アレクシス、そんなに謝るなよ! ……その、あれだろ!? 俺が泣いてたから、その、したんだろ?」
「え?」
「『愛の魔法』にも書いてあったもんな。泣いている相手の涙を止めるのは、キスが一番だって! だから、俺にしたんだろ? もうびっくりしたよ! ま、まあ涙は止まったけど……っ」
シュリは全く見当違いな回答を出し「いや、そういうわけじゃ」と俺は言いかけたが、シュリは聞かなかった。
「でも、誰彼かまわずやっちゃ駄目だぞ! びっくりするから!」
誰彼構わずやるか。
そう言いそうになったが、今の俺にそんなことを言う資格はない。
「シュリ、申し訳ない。もう二度とあんなことはしない」
俺は再度頭を下げて謝った。するとシュリは小さい声でぽつりと呟いた。
「そんなに謝るなよ……。俺、嫌じゃなかったし」
「……え?」
シュリの思わぬ言葉に俺が頭を上げると、シュリは恥ずかしそうな顔をして強引に話を変えた。
「もー、とりあえずいいよ! 気にするな! それより、アレクシスはエルフェニウムの花が好きなんだな」
シュリはまだ顔を赤くしながら俺に言った。
でも俺の耳はシュリの言葉を聞きながらも、シュリがさっき言った言葉が耳から離れなかった。
『俺、いや、じゃなかったし』
……嫌じゃなかった?
それはどういう意味なのか。
恋愛経験が疎い俺にはその意味をまだ知ることはできなかった。でもなんだかすごく嬉しくて、思わず顔がにやけそうになってしまう。だから、俺は咄嗟に口元を手で隠した。
そんな俺に気がつかず、シュリは話を続ける。
「ウィリアもよく好きで、エルフェニウムの花を乾燥させた香り袋を持ってたな~。あの花、すごくいい匂いがするんだろ?」
「ああ、そうだな」
「俺も嗅いでみたいよ。あの花の匂い」
シュリは呟くように言い、俺はその言葉を聞いて不意にあることを思い出した。
「そう言えば……もしかしてシュリがこちらに飛ばされた時、そのウィリアは近くにいたのか?」
「え? あー、うん。傍にいたぞ。それがどうかしたか?」
「いや。シュリが空から落ちてきた時、あの花の匂いがしたんだ」
俺はシュリが空中から落ちてきた時、ほのかにエルフェニウムの匂いがしたことを思い出して言った。きっとエルフェニウムの匂いがしたのは、ウィリアという人物が持っていた香り袋から匂いがシュリに移ったからだろう。
「そうか。あの時はな、ちょうどウィリアが獣人から」
そう言いかけてシュリは突然「あっ!」と何かを思い出したように大きな声を上げた。その声に驚いて俺の尻尾はぴんっと立つ。
「な、急にどうした?」
俺が尋ねると、シュリは俺を見た後、にまーっと笑った。
「へへっ、俺、いいこと思いついちゃった!」
シュリはそう言ったが、どう見てもその顔は悪巧みをしているような顔だった。
嫌な予感しかしない。
「一体、何を思いついたんだ?」
そう俺が聞くとシュリは案の定「秘密!」と言って、俺に教えてくれなかった。
なので余計、嫌な予感が募る。
「……あまり変な事はするなよ」
俺は釘をさすように言ったが、シュリは笑ったまま俺の言葉なんて聞いていなかった。
……何も起こらなきゃいいが。
俺はそう願ったが、俺の気持ちとは裏腹にこの先起こる出来事なんか知る由もなかった。
そして、シュリが言った『『恋の魔法』にも書いてあったもんな。泣いている相手の涙を止めるのは、キスが一番だって!』という言葉の意味を知ろうと、俺は後日こっそりと『愛の魔法』を気が重いながらも読んだ。
そこには物語に出てくるネイズ(父)が泣きやまないアレーナ(母)にキスして涙を止まらせるシーンがあった。
『涙を止めるにはキスが一番だ☆』
というセリフ付きで。
きっとシュリはこのことを言ったのだろう。
しかしフィクションを織り交ぜて書かれたものだとわかっていても、キザすぎるセリフに俺は尻尾と毛を逆立てさせたのだった。
「ん? ……アレクシス?」
シュリはゆっくりと目を開き、ベッドのすぐ傍の椅子に座っている俺を見た。シュリが目を覚ましたことに俺はほっと息を吐き、声をかける。
「シュリ、目が覚めたか」
俺は気まずい思いを抱えたまま声をかけたが、シュリは起きたばかりでまだぼんやりとしていた。
「あれ? ここアレクシスの部屋?」
シュリは辺りを見回して言った。そう、俺達はもう寮の部屋に戻ってきていた。
「ああ、俺が連れ帰った」
俺が言うとシュリはゆっくりと体を起こした。
「そうなのか? ……でもどうして俺ここに? 確かアレクシスの実家に行って、それから……エルフェニウムの木のところで……あ!」
シュリは何があったのか思い出したようで、ぼっと顔を赤くさせた。その顔を見て俺はいたたまれなくなる。
「あ、あ、あ、アレクシス? どうして俺に?」
シュリは顔を真っ赤にさせて、しどろもどろに俺に尋ねた。そんな反応をされると、俺も顔が赤くなってくる。でも俺は勢いよく頭を下げて謝った。
「すまない、シュリッ!」
謝って済むことじゃないとわかっていても謝らずにはいられなかった。いくらシュリの言葉が嬉しくて、無意識とは言え、同意もなしにしてはいけないことだった。
痴漢、いや、わいせつ行為も甚だしい。
恥ずかしさと、後悔、申し訳なさが俺の中に湧きあがってくる。
でもどうしてか、あの時はそうしたくなったのだ。
だた、この時の俺はその感情がなんという名前なのか気が付いていなかった。だから、ただ謝るしかできず……。
「本当にすまない、シュリ! あんなこと、勝手にして。本当にすまない……俺の事、気が済むまで殴ってくれ!」
申し訳なくて俺は殴られること覚悟で目をぎゅっと瞑った。だがシュリは慌てて両手を横に振る。
「あ、アレクシス、そんなに謝るなよ! ……その、あれだろ!? 俺が泣いてたから、その、したんだろ?」
「え?」
「『愛の魔法』にも書いてあったもんな。泣いている相手の涙を止めるのは、キスが一番だって! だから、俺にしたんだろ? もうびっくりしたよ! ま、まあ涙は止まったけど……っ」
シュリは全く見当違いな回答を出し「いや、そういうわけじゃ」と俺は言いかけたが、シュリは聞かなかった。
「でも、誰彼かまわずやっちゃ駄目だぞ! びっくりするから!」
誰彼構わずやるか。
そう言いそうになったが、今の俺にそんなことを言う資格はない。
「シュリ、申し訳ない。もう二度とあんなことはしない」
俺は再度頭を下げて謝った。するとシュリは小さい声でぽつりと呟いた。
「そんなに謝るなよ……。俺、嫌じゃなかったし」
「……え?」
シュリの思わぬ言葉に俺が頭を上げると、シュリは恥ずかしそうな顔をして強引に話を変えた。
「もー、とりあえずいいよ! 気にするな! それより、アレクシスはエルフェニウムの花が好きなんだな」
シュリはまだ顔を赤くしながら俺に言った。
でも俺の耳はシュリの言葉を聞きながらも、シュリがさっき言った言葉が耳から離れなかった。
『俺、いや、じゃなかったし』
……嫌じゃなかった?
それはどういう意味なのか。
恋愛経験が疎い俺にはその意味をまだ知ることはできなかった。でもなんだかすごく嬉しくて、思わず顔がにやけそうになってしまう。だから、俺は咄嗟に口元を手で隠した。
そんな俺に気がつかず、シュリは話を続ける。
「ウィリアもよく好きで、エルフェニウムの花を乾燥させた香り袋を持ってたな~。あの花、すごくいい匂いがするんだろ?」
「ああ、そうだな」
「俺も嗅いでみたいよ。あの花の匂い」
シュリは呟くように言い、俺はその言葉を聞いて不意にあることを思い出した。
「そう言えば……もしかしてシュリがこちらに飛ばされた時、そのウィリアは近くにいたのか?」
「え? あー、うん。傍にいたぞ。それがどうかしたか?」
「いや。シュリが空から落ちてきた時、あの花の匂いがしたんだ」
俺はシュリが空中から落ちてきた時、ほのかにエルフェニウムの匂いがしたことを思い出して言った。きっとエルフェニウムの匂いがしたのは、ウィリアという人物が持っていた香り袋から匂いがシュリに移ったからだろう。
「そうか。あの時はな、ちょうどウィリアが獣人から」
そう言いかけてシュリは突然「あっ!」と何かを思い出したように大きな声を上げた。その声に驚いて俺の尻尾はぴんっと立つ。
「な、急にどうした?」
俺が尋ねると、シュリは俺を見た後、にまーっと笑った。
「へへっ、俺、いいこと思いついちゃった!」
シュリはそう言ったが、どう見てもその顔は悪巧みをしているような顔だった。
嫌な予感しかしない。
「一体、何を思いついたんだ?」
そう俺が聞くとシュリは案の定「秘密!」と言って、俺に教えてくれなかった。
なので余計、嫌な予感が募る。
「……あまり変な事はするなよ」
俺は釘をさすように言ったが、シュリは笑ったまま俺の言葉なんて聞いていなかった。
……何も起こらなきゃいいが。
俺はそう願ったが、俺の気持ちとは裏腹にこの先起こる出来事なんか知る由もなかった。
そして、シュリが言った『『恋の魔法』にも書いてあったもんな。泣いている相手の涙を止めるのは、キスが一番だって!』という言葉の意味を知ろうと、俺は後日こっそりと『愛の魔法』を気が重いながらも読んだ。
そこには物語に出てくるネイズ(父)が泣きやまないアレーナ(母)にキスして涙を止まらせるシーンがあった。
『涙を止めるにはキスが一番だ☆』
というセリフ付きで。
きっとシュリはこのことを言ったのだろう。
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