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44 一週間後
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いつの間にか日が経ち、例のキスから一週間。
俺とシュリの関係は何も変わらず仲良く寮で暮らし、一緒に仕事場まで来る毎日が続いていた。
そして、未だ移転魔術が発動する気配もなく、街で大きな事件が起こることもなく、穏やかな日々が……と言いたいところだが、ちょっと嘘だ。
「ただいま戻りました」
ロニーは隊長室のドアを開けて入ってくるなり、むぐっと顔を顰めさせた。
「げほげほっ! なんです!? この匂いは」
ロニーはすぐに鼻をつまみ、悲鳴を上げる様に言った。俺はその様子を書類にサインをしながら見た。ただし、顔に頑丈なガスマスクを着けた状態で。
「ご苦労様、ロニー」
「隊長、そのマスク! 自分だけずるい!」
ロニーは俺がしている特注のガスマスクを見て羨まし気に言った。だが、鼻が利きすぎる俺がこのマスクをせずにここにいたら、きっと気絶してしまう。それぐらいきつい匂いが辺りを漂っていた。
その匂いの元はシュリからだ。いや、正確に言うとシュリが作っている”何か”から。
「この匂い、なんなんです?! 腐った卵のような、この異臭! ……大体、シュリさんはこの前からずーっと何をしてるんです? 何か作ってるみたいですけど……隊長、知らないんですか?」
ロニーは部屋のテーブルに実験道具を並べて何かを作っているシュリを横目に見て、俺に言った。シュリは実験に夢中なのか、ロニーが帰ってきたことに気が付いていない。そもそも匂いにすら気が付いていないほど実験に集中している。
「本人に聞いたらいいだろう」
「シュリさんに聞いたら、秘密だって言われました!」
「俺も同じだ」
俺は答えながら、書類に淡々とサインをしていく。
「うぅ、しかしこの匂い。……他の部隊から苦情が来ますよ」
「シュリ曰く、魔術でこの部屋から匂いが漏れないようにしているそうだ」
「そうですか、なんなら魔術で消臭して欲しいぐらいです。……でも魔術と言えば、また他の部隊からシュリさんに魔術指導をして欲しいという依頼が来ています。今回は第五部隊からですよ」
ロニーは鼻をつまんだまま、手に持っていたファイルから器用に一枚の書類を取り出して俺に手渡した。
それは第一部隊・隊長宛ての依頼書で、内容はシュリを魔術講師として貸し出して欲しいというものだった。俺はその書類をちらりと読み、マスクの下で軽くため息を吐く。
第十部隊の前でシュリが魔術を披露し、それが騎士団の中で広まって、今やシュリは引っ張りだこだ。もうすでに、ネイレンが所属する第二部隊と第三部隊から要請を受け、シュリは模範魔術を披露している。だから今回の依頼も来たのだろう。
恐らくシュリに『やってみるか?』と聞けば、今回も『いいぞ』と一言で返事をするだろう。けれど、他の部隊の者と関わるのかと思うと、俺の胸はなんだかモヤモヤした。
シュリはあの性格だ、誰とでも仲良くなってしまう。
第二部隊と第三部隊で模範魔術を披露した時、話しかけてくる魔術専攻の騎士たちにシュリは垣根なく話ていた。それを見たら俺はモヤモヤして、じわっと嫌な思いがした。
だから何となく俺はこの依頼を受けるのが嫌だった。けれど決めるのはシュリだ。きっと人のいいシュリは引き受けてしまうのだろうが……。
「まあ、魔人の魔術を見られるなんて、そうそうないことですからね。みんな、今の内に見ておこうというところなんでしょう」
ロニーの言葉に俺も「ああ」と頷く。そしてロニーは何気なく、もう一枚の書類を俺に差し出した。
「隊長、あとこれも。陛下の誕生祭のタイムスケジュールです」
「ああ、ありがとう」
俺が受け取るとロニーは「これで確定だそうです。まあ前年とほぼ変わらない流れですね」と言った。
だが、とうとう我慢の限界が来たのか「目を通しておいてください。僕もマスクを備品管理部から借りてきます!」と言って部屋を足早に出て行った。
むしろ、今までよく耐えたな、と俺は思いながらロニーを見送り、渡された書類に目を通す。そこには明後日行われる、ルサディア陛下の誕生祭の行程が書かれていた。
明後日はルサディア陛下の誕生日で、王都では祭りが行われる。
朝から城を開け、街はお祭りで賑わうのだ。近隣の村や町から人がやってきて、通りは人でごった返す。
そしてお昼を過ぎた頃には、城の一角から陛下が民の前に姿を出して、言葉を述べられる。その後、夕方からは貴族や役人、他国から祝いを述べに来た使者を迎え、王城の広間で誕生パーティー。
いつもなら陛下や城の護衛というのは、第二部隊、つまりネイレンの部隊の仕事だが、この時ばかりは人手が足りなくなるので、他の部隊も駆り出される。当然、第一部隊もだ。
こんな時、第一部隊は基本的に陛下や隣国の使者、宰相などの要人警護に当たることになっている。そして隊長である俺は、陛下の傍で護衛をする。
俺は去年とほとんど変わらない行程に目を通し、頭にスケジュールを入れこむ。毎年何事もなく誕生祭は終わっているが、気の緩みは事故の元だ。
俺は気合を入れなおし、何事も起こらないようにしなければ、と心の中で呟いた。
だが、その時……。
俺とシュリの関係は何も変わらず仲良く寮で暮らし、一緒に仕事場まで来る毎日が続いていた。
そして、未だ移転魔術が発動する気配もなく、街で大きな事件が起こることもなく、穏やかな日々が……と言いたいところだが、ちょっと嘘だ。
「ただいま戻りました」
ロニーは隊長室のドアを開けて入ってくるなり、むぐっと顔を顰めさせた。
「げほげほっ! なんです!? この匂いは」
ロニーはすぐに鼻をつまみ、悲鳴を上げる様に言った。俺はその様子を書類にサインをしながら見た。ただし、顔に頑丈なガスマスクを着けた状態で。
「ご苦労様、ロニー」
「隊長、そのマスク! 自分だけずるい!」
ロニーは俺がしている特注のガスマスクを見て羨まし気に言った。だが、鼻が利きすぎる俺がこのマスクをせずにここにいたら、きっと気絶してしまう。それぐらいきつい匂いが辺りを漂っていた。
その匂いの元はシュリからだ。いや、正確に言うとシュリが作っている”何か”から。
「この匂い、なんなんです?! 腐った卵のような、この異臭! ……大体、シュリさんはこの前からずーっと何をしてるんです? 何か作ってるみたいですけど……隊長、知らないんですか?」
ロニーは部屋のテーブルに実験道具を並べて何かを作っているシュリを横目に見て、俺に言った。シュリは実験に夢中なのか、ロニーが帰ってきたことに気が付いていない。そもそも匂いにすら気が付いていないほど実験に集中している。
「本人に聞いたらいいだろう」
「シュリさんに聞いたら、秘密だって言われました!」
「俺も同じだ」
俺は答えながら、書類に淡々とサインをしていく。
「うぅ、しかしこの匂い。……他の部隊から苦情が来ますよ」
「シュリ曰く、魔術でこの部屋から匂いが漏れないようにしているそうだ」
「そうですか、なんなら魔術で消臭して欲しいぐらいです。……でも魔術と言えば、また他の部隊からシュリさんに魔術指導をして欲しいという依頼が来ています。今回は第五部隊からですよ」
ロニーは鼻をつまんだまま、手に持っていたファイルから器用に一枚の書類を取り出して俺に手渡した。
それは第一部隊・隊長宛ての依頼書で、内容はシュリを魔術講師として貸し出して欲しいというものだった。俺はその書類をちらりと読み、マスクの下で軽くため息を吐く。
第十部隊の前でシュリが魔術を披露し、それが騎士団の中で広まって、今やシュリは引っ張りだこだ。もうすでに、ネイレンが所属する第二部隊と第三部隊から要請を受け、シュリは模範魔術を披露している。だから今回の依頼も来たのだろう。
恐らくシュリに『やってみるか?』と聞けば、今回も『いいぞ』と一言で返事をするだろう。けれど、他の部隊の者と関わるのかと思うと、俺の胸はなんだかモヤモヤした。
シュリはあの性格だ、誰とでも仲良くなってしまう。
第二部隊と第三部隊で模範魔術を披露した時、話しかけてくる魔術専攻の騎士たちにシュリは垣根なく話ていた。それを見たら俺はモヤモヤして、じわっと嫌な思いがした。
だから何となく俺はこの依頼を受けるのが嫌だった。けれど決めるのはシュリだ。きっと人のいいシュリは引き受けてしまうのだろうが……。
「まあ、魔人の魔術を見られるなんて、そうそうないことですからね。みんな、今の内に見ておこうというところなんでしょう」
ロニーの言葉に俺も「ああ」と頷く。そしてロニーは何気なく、もう一枚の書類を俺に差し出した。
「隊長、あとこれも。陛下の誕生祭のタイムスケジュールです」
「ああ、ありがとう」
俺が受け取るとロニーは「これで確定だそうです。まあ前年とほぼ変わらない流れですね」と言った。
だが、とうとう我慢の限界が来たのか「目を通しておいてください。僕もマスクを備品管理部から借りてきます!」と言って部屋を足早に出て行った。
むしろ、今までよく耐えたな、と俺は思いながらロニーを見送り、渡された書類に目を通す。そこには明後日行われる、ルサディア陛下の誕生祭の行程が書かれていた。
明後日はルサディア陛下の誕生日で、王都では祭りが行われる。
朝から城を開け、街はお祭りで賑わうのだ。近隣の村や町から人がやってきて、通りは人でごった返す。
そしてお昼を過ぎた頃には、城の一角から陛下が民の前に姿を出して、言葉を述べられる。その後、夕方からは貴族や役人、他国から祝いを述べに来た使者を迎え、王城の広間で誕生パーティー。
いつもなら陛下や城の護衛というのは、第二部隊、つまりネイレンの部隊の仕事だが、この時ばかりは人手が足りなくなるので、他の部隊も駆り出される。当然、第一部隊もだ。
こんな時、第一部隊は基本的に陛下や隣国の使者、宰相などの要人警護に当たることになっている。そして隊長である俺は、陛下の傍で護衛をする。
俺は去年とほとんど変わらない行程に目を通し、頭にスケジュールを入れこむ。毎年何事もなく誕生祭は終わっているが、気の緩みは事故の元だ。
俺は気合を入れなおし、何事も起こらないようにしなければ、と心の中で呟いた。
だが、その時……。
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