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64 計画
しおりを挟むしばらくして気を失っていたシュリは、うっすらと目を覚ましていた。
目をぱちぱちっと開け、辺りを見回す。変わらない現状に、夢じゃなかったのか、と落胆しつつも部屋の中に誰もいない事に気が付く。
だが部屋の外から、二人の足音と会話が聞こえてきた。どうやらシュリの見張り役のようだ。彼らは昼食を何にするが話し合っていた。
……昼メシ、という事は今はお昼なのか。真っ暗過ぎて、今が何時なのかもわからない。
部屋は閉め切られ、明かりはぼんやりと光っている蝋燭一本だけ。
だが、段々意識がはっきりしてくると頬がひりひりと痛みだしてきた。イーゲルに殴られたからだろう。鎖につながれていて触れられないが、きっと腫れているに違いない。
そしてお腹はこんな状況でも正直で、ぐーっと盛大に鳴った。
……痛いなぁ、お腹も空いたし。ここがどこかもわかんないし……アレクシス、心配してるかな。うーん、怒ってそう。
シュリはそんなことを思いながらも、昨日の夜、イーゲルと頭領が話していた会話を思い出す。
詳しくは聞けなかったが、頭領の話だとこうだ。
明日、頭領の弟であるモリーという男をイーゲルがリーカン橋にあるらしい秘密の通路から奪還し、騎士達の人員がそちらに省かれている間、北の町に向かう大金を乗せた荷車を盗賊団が襲うということだ。
なんでもその大金は北にある町とインクラントに跨る大きな川に架ける橋の資金で、今後の交通を考えてルサディアが採決して国庫金から捻出したものらしい。
つまりは相当の金塊が乗っている。
だが勿論、そんな大金を御者のみで運ばせるわけもなく。移動は騎士団第三部隊の十数名が付く。だが、そこを盗賊団で襲うと言う話だった。
そして盗んだ金塊はイーゲルと山分け、それぞれが国外に逃げた後、シュリの居場所を騎士団に知らせる、という計画のようだ。
頭領はシュリが気を失ったと思い込んで、その場で計画についての流れをイーゲルに確認し、ぺらぺらと喋った。でもシュリは気を失ってはおらず、聞き耳立てて話を聞いていた。
……さすがの俺でも、別室で話すぞ。
シュリは心の中で呟き、そしてため息を吐いた。どうにかアレクシスにこのことを報せたいが魔力が封じられている今は何もできないのが事実だ。
一瞬、逃げる方法が一つだけあることを思いつく。
それは自分の中の魔力を放出すること。
でも、それは駄目だ、とシュリは首を振る。魔力を放出した後、自分で抑えられるかどうか自信がなかったからだ。
……どうしよう、アレクシス。
シュリは心の中で呟いたが、今のシュリにはどうすることもできなかった。
そして別の場所では、その二人。イーゲルと頭領が今晩の計画について詳細な練り合わせを行っていた。
「モリーをちゃんと奪還してくれよ、イーゲル」
「ああ、わかっている」
頭領の言葉にイーゲルは頷いたが、そんなイーゲルの様子に頭領は猜疑心を持つ。
「なあ、お前ひとりで本当にモリーを奪還できるのか?」
「ああ、リーカン橋にも抜け道がある。私一人で行けるだろう」
はっきりと答えるイーゲルに頭領は保険をかける。
「……やっぱり俺の部下を一人つける」
その言葉にイーゲルは反対した。
「前にも言っただろう。抜け道は二人通るのがやっとだと」
「もう一人ぐらいどうにかなるだろう? それとも、どうしても一人でいかないといけない理由でもあるのか?」
頭領が疑り深く尋ねると、イーゲルはぴくっと眉毛を上げた。
「そんなものない。一人なら……まあついてきてもいいだろう」
イーゲルは仕方なく了承し、頭領はにっと笑った。
「そうこなくっちゃよ。じゃあ、俺は仲間に計画を伝えてくる」
頭領はそう言って部屋を出て行き、イーゲルはその後を眺め、しっかりとドアが閉まったのを確認して小さく呟いた。
「馬鹿な兎め、何も知らないで……何が誰も殺さないのがポリシーだ。……まあ、いい。あいつは私がじっくり殺してやる」
イーゲルの目は黒く淀んでいた。
それからどれくらい時間が経っただろう。
どうやって逃げよう、と考えていたシュリの元に足音が近づいてきた。
ノックもなしにドアは開き「飯だ!」という声と共に、見張り役の二人の男が部屋に入ってくる。男達は自分達の昼食が終わり、シュリにもだいぶ遅い昼食を持ってきたのだ。
「ほら、食え」
男はシュリに人参がたっぷりはいったとろみのつきのミルクスープを器に入れたままシュリに差し出した。けれど、両手足を鎖で縛られているシュリに食べられるはずもない。
もう一人の男も「鎖につながれてるんだから、食べられんだろ」と突っ込んでいる。
「ちっ、しかたねーな」
男はそう言うとスプーンを手に取って、スープをシュリの口に無遠慮に突っ込んだ。しかしスープは熱く、昨晩殴られて口の中が切れていたシュリは思わずスープを吐き出した。
「げほげほっ!」
「おい、ちゃんと食べろ」
苛立ったように男は言ったが、たらりと口元から白いスープを吐き出したシュリを見た途端、ゴクリっと喉を鳴らした。それはもう一人の男もだ。
口から吐き出したスープは服にも垂れ、ぺたりとシュリの服に張りつく。
「な、なにすんだ。急にっ。そんな熱いの食べられるわけないだろ!」
シュリは訴えるように言ったが、男達はシュリの話を聞いてなかった。ここ最近は、こそこそと隠れて歓楽街にも行けず、二人は鬱憤も性欲も溜まっていた。
そんな中、シュリの口の端から白いスープがたらりと垂れ落ちる。
「なあ、こいつ……今日、返すんだよな?」
「ああ」
「傷さえつけなければいいよな?」
男たちはそんな会話をするとお互い目を合わせた。その瞳は欲に濡れていた。
その瞳にシュリはぞわっと背中に悪寒を感じた。
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