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17 魔障病
しおりを挟むそれから侍女が迎えに来て、レイは部屋に、ニコラは自室に一旦戻った。
しかし部屋にはエルマンの姿はなくルークは一人掛けのソファに座っていた。
レイは自分からキスしようとした気恥ずかしさを隠し、気持ちを切り替えてルークに話しかけた。
「話はできたか?」
「ああ、うん」
生返事で答えるルークにレイはじっと視線を向け、ついつい親口調で聞いてしまう。
「ルーク。ちゃんと話し合ったのか?」
腰に手を当てたレイに聞かれ、ルークは今度はハッキリと答えた。ここで答えないと、いつまでも聞かれることを知っているからだ。
「話し合ったよ。ちゃんと」
「そうか。心は……決まったのか?」
「いや、もう少し時間を貰った……。やっぱりそうすぐには返事はできないよ」
「……そうか」
レイは顔には出さなかったが、ルークの言葉にちょっとだけほっとした。あれだけ、自分と離れて過ごしてみろ、と言ってはみたものの、やっぱりルークと離れるのはレイも寂しかった。
だがほっと息を吐くレイをルークはじぃっと見つめる。
「ん? なんだ?」
「……いや」
曖昧なルークの返事にレイは首を傾げた。でもそこへ侍女がやってきた。どうやらちょっと早めの夕食を報せに来たようだ。
……ルーク、何か言いたげだったけど、なんだったんだろう? エルマンとの話で、やっぱり何かあったのだろうか。
レイはルークと共に城の食堂に移動しながら思ったが、その予想は遠からず当たっていた。
◇◇◇◇
それからしばらくは特に変わったこともなく、レイとルークは数日を竜国で過ごすことになった。
途中までだった町案内もニコラにしてもらったり、王城の図書室に連れて行ってもらってファウント王国にはない書物を見せてもらったり、時にはニコラがルークの銀竜姿を見たがったり、と色々な事をしたが、レイは段々と体に倦怠感を覚え始め、早くも四日目の朝、とうとう起きられなくなった。
「レイ、大丈夫?」
「うーん……」
朝、ベッドから起きれなくなったレイはルークの問いかけに呻いた。
頑張れば起きられるのだが、とにかく体が怠い。
「朝ごはんはパスする……ルーク、俺の事はいいから食べに行ってきて」
レイはベッドに横になりながら言ったがルークはレイが横になるベッドに腰かけた。
「……もしかして、もう魔障病が出てるんじゃ」
ルークは額にかかったレイの前髪を指先で払いながら心配そうに呟いた。
「違うよ。ちょっと怠いだけだ、もう少ししたら起きるから」
レイはそう言って笑った。でも本当はレイも魔障の症状が出ているんじゃないかと思っていた。しかし、もし魔障の症状が発症したなら、レイは早く竜国を出なければいけない。だが、まだルークの答えが決まっていない内に出て行くことは躊躇われた。
「早くしないと、ニコラが迎えに来るぞ」
レイはそう言ってルークを送り出した。ルークは後ろ髪引かれながら部屋を出て行ったが、それを見送ってレイは一人になった途端、ほっと息を吐き、ぼんやりと天井を眺めた。
……これが魔障の症状。結構、きついもんだな。ルークには何か方法があるはずだっていったけど、見つけられるのか? これ。
レイはごろんっと横になって、少し不安に思う。ルークの傍にいたいと願っても、こんな状況ではルークの手助けもできないだろう。ただルークのお荷物になるだけだ。それは嫌だった。
……でも、この誤魔化しもいつまで続けられるか。
レイは小さくため息を吐いた。けれど、考えている内にうとうとと眠ってしまった。
◇◇◇◇
しかし、次にレイが起きた時。
……ん? なんか冷たくておいしい。
目は閉じたまま覚醒したレイは、口の中に冷たい水が流れてくる感触があった。それはちょっぴりレモンの味もする。レイは無意識にごくりっと喉を鳴らして飲み、もっと欲しくて口を開ける。すると、ふにっと柔らかい感触が唇に当たり、また水が口の中に入ってくる。同時にぬるっとした何かが舌に当たった。
……なんだろ? まあ、何でもいいや。水、もっと欲しい。
レイは口を開けて舌を伸ばした。ぺろっと舐めると何か柔らかいものに当たる。でも水は出てこない。
……ん? なんで水出てこないんだ? 水、もっと欲しい。
ぺろぺろと舐めるが何にも出てこない。むっとしたレイは、まだぼんやりとした意識の中、ゆっくりと目を開けた。すると青い宝石が見えた。
「レイ、目が覚めた?」
声をかけられて、至近距離にルークがいることにレイはやっと気が付いた。でもまだぼんやりしている。
「……るぅく?」
「水、まだ欲しい?」
ルークは目を細め、レイに尋ねた。けど色気たっぷりに言われて、さすがのレイもハッキリと目が覚めた。
「る、ルーク!? おま、なんで。ってか、水って……もしかして、お前が口移しで?」
ふにふにと柔らかく、ぬるっとした感触のモノ。それはルークの唇と舌だという事に今更ながらにレイは気が付いた。
「レイを起こしたけど目を覚まさなくて。でも水を飲む? って聞いたら、飲むって答えたから」
ルークはにっこりと笑って言い、レイは記憶を呼び起こすがそんな事を言った記憶はなかった。でも無意識で言ってしまったのかもしれない。確かに喉は渇いていたから。
「レイ、水、もっと飲む?」
再度水色の瞳に覗かれる様に見られて、レイは慌てて首を振った。
「や、いい! もう、大丈夫だから!」
レイが全力で言うとルークは「そ?」と少し残念な顔をした。一方でレイの顔は真っかだ。
……まさかルークに口移しで水を飲まされているとは。ルークの唇、舐めちゃったよー!……いや、まあ、もっと激しいキスをルークとした事があるけど。
レイはそう思い、ルークの唇の柔らかさと、いつの日かの激しいキスを思い出して、ますます顔を赤らめた。
でもそんなレイにルークは窺うように問いかけた。
「レイ。まだ体、怠い?」
ルークに尋ねられてレイははっと気が付く。起きた時よりも、ずっと体は軽かった。だから体を起こしてみる。でも、辛くない。
「いや、大丈夫だ」
レイが言うとルークはにこっと笑った。
「そう、よかった。朝ごはん、食べる? いくつかサンドイッチ、貰って来たんだ」
ルークに言われてレイは途端お腹が空いてきた。ぐぅっと小さくお腹が鳴る。その音を聞いてルークはくすっと笑った。
「空いてるみたいだね」
お腹の音を聞かれたレイは誤魔化せず、恥ずかしくて目を逸らす。
「サンドイッチ、ありがと。とりあえず、服に着替えるから」
「うん、わかった。お茶を用意してもらうよう声をかけてくるよ」
ルークは腰かけていたベッドから立ち上がった。
「悪いな」
レイが声をかけるとルークは「いいよ」と答え、部屋の外に出て行った。それを見送ってからレイはベッドから下りる。
朝起きた時の体の倦怠感はまるでない。むしろ、いつもより体調がいい。
……寝たからか? 魔障病って思い込んでたけど、きっとちょっと疲れが溜まってたんだな。なんだか体が軽い。
レイはるんるん気分で体を動かした。でもレイは知らなかった。本当に体調が良くなった理由と、部屋を出て行ったルークがある事に驚いている事を。
「……まさか、本当に良くなるなんて」
ルークは口に手を当てて、小さく呟いた。
◇◇
しかしその数十分後。
エルマンが一人、食堂に赴いていた。
「……おや、皆様は?」
朝食の時間が過ぎ、少し遅れてきたエルマンは片付けが行われている食堂で侍従達に尋ねた。
「もうお部屋にお戻りになられましたよ。レイ様は具合が悪いとかで、朝はお見えになりませんでしたが」
侍従の一人が教えてくれ、エルマンは「そうですか」とぽつりと答えた。
……来るのが少し遅かったか。
そう心の中で呟く、でもそれは一緒に食事をするためではない。挨拶がてら今日の予定を聞きに来ていたのだ。ニコラやルーク達の動きによってエルマンはそれにあった指示を、護衛や警備に伝えなければならない。だから朝食の時間に、毎回来ていたのだが、今日は少し来るのが遅かったようだ。
……しかし、レイ殿の具合が悪いとは。もう魔障病が? ルーク殿は私の言った方法を試していないのだろうか?
エルマンがそう思っていると、何やら廊下を走る足音が聞こえてきた。その足音は真っすぐ食堂に向かってくる。
一体、何事? とエルマンが思ったと同時に食堂のドアが開いた。そこに現れたのはルークだった。だが、その表情には困惑が浮かんでいた。
「ルーク殿、どうされました?」
何かあったのだろうか? とエルマンは怪訝な顔で、ルークに問いかけた。その問いにルークは端的に答えた。
「レイが消えた!」
その言葉にエルマンは「え?」と驚き、そしてエルマンは後にニコラも部屋にいないことを侍従達に聞くことになる。
レイとニコラの二人は、忽然と城から姿を消した……。
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