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22 エルマンの訪問
しおりを挟む「ルーク殿、レイ殿、エルマンです」
ドアの向こうから声をかけられてレイは慌てた。
「エルマンだ! ちょ、ちょっと待ってくれ!」
レイはドアに向かって大声を出し、ルークから離れて素っ裸で部屋のクローゼットを開けて、下着とシャツとズボンを取り出す。しかしルークはベッドの上に座ったままでむすっとしている。ちょうどいい時に邪魔されたからだろう。でもそんなルークにレイは声をかけた。
「ルークも早く部屋に戻って服を着てこい!」
レイがシャツを着ながら言うと、ルークは頭をくしゃくしゃっと掻いて「わかった」とベッドから下りた。
そしてレイの部屋と続き部屋である隣室に戻ると、ルークはシャツにズボンという格好で戻ってきた。ラフな格好だが、裸よりマシだろう。その間にレイも手早く着替え終え、外で待っているエルマンに声をかけた。
「もう入っていいよ」
レイが声をかけると、勢いよくドアが開かれた。そしてそこにいたのはエルマンだけじゃなかった。
「レイッ!」
二コラはレイの姿を見ると、ぴゅーっと駆け寄り、ぎゅむっと力の限り抱き着いた。その勢いにレイは倒れそうになったが、何とか踏ん張って堪えた。
「レイッ、無事でよかったよぉーっ!」
「ぐえっ!! に、二コラ、俺、潰れちゃうっ!」
レイはニコラの抱き着く強さに悲鳴を上げ、ニコラは慌ててパッと体を放した。二コラも竜人なので、レイよりもずっと力は強いのだ。
「ごめんっ! ついつい嬉しくて。……レイ、無事でよかったぁぁ」
二コラはほっとした顔でレイに言った。そんな二コラにレイは微笑んだ。
「もう大丈夫だよ。俺の事、助けてくれてありがとう。二コラは命の恩人だ」
「そんな、大袈裟だよっ」
二コラは照れたように言ったけれど、レイはその頭をぽんっと撫でた。
「大袈裟じゃないよ。二コラがいなかったら、俺は殺されてたかもしれない。だから、ありがとう。助けてくれて」
レイがお礼を告げると二コラは嬉しそうに笑った。でも、不意にレイをじぃっと見つめると、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「どうした?」
「うーん、なんか足りない……。あっ! 眼鏡だ! レイ、眼鏡どうしたの?」
二コラに尋ねられてレイもやっと気が付いた。
「あ、そう言えば捕まった時に眼鏡を落としてどっかにいっちゃったんだよな」
レイは思い出してくしゃっと頭を掻いた。
「大丈夫? 眼鏡がなかったら見えないんじゃないの?」
「いや、あれは伊達メガネだから大丈夫なんだけど」
「伊達?」
二コラの質問に、後ろからやってきたエルマンが答えた。
「度が入っていないただの眼鏡の事ですよ。でもレイ殿、どうして眼鏡を?」
エルマンに聞かれて、レイはむぐっと口を噤んだ。だから言いたくなさそうなレイの代わりにルークが答えた。
「童顔に見られるのが嫌なんだよね、レイは」
秘密をばらされたレイは「おい、ルーク!」と声を上げたが、ルークは素知らぬ顔をした。そしてルークの言葉を聞いてエルマンと二コラはじっとレイの顔を見た。
確かに、あの野暮ったい眼鏡がないとレイは随分と若い。二十代でも通りそうな顔だ。
そうエルマンと二コラの視線が如実に語っていたので、レイはむすぅっと目を据わらせた。レイにとって童顔はちょっとしたコンプレックスだった。
老け顔にする為に髭も伸ばそうとしたこともあるが、似合わないと周りから大ブーイングを受けて結局伸ばせず仕舞い。
なので長髪と眼鏡で何とか誤魔化していたが、その老けアイテムが一つなくなってしまった。国に帰ったらすぐに買わないとな、とレイは思ったが、二コラを見てある事を思い出した。
「でも、そう言えば……二コラ、竜になったな。しかも青い銀竜に」
レイが呟くように言うと、二コラより先にエルマンが声を上げた。
「ええ、そのおかげで町では大騒ぎですよ。それよりもレイ殿……元気になられてよかった」
エルマンはにっこり笑ってレイに言った。
「ありがと。でもエルマン、町が大騒ぎって?」
レイの質問にエルマンより先にルークが答えた。
「青銀竜は色々と伝説を残した竜なんだ。でも今まで一人として同じ青銀竜はいなかった……だから町では大騒ぎらしい。二コラは今まで竜になれていなかったし、その事も含めてね」
「へえ、そうなのか。でも、どうしてルークがその事を知ってるんだ?」
同じベッドで寝ていたはずなのに。という視線をレイはルークに向けた。ルークはその視線を受けて、少し気まずい顔をした。
「昨日、僕はちょっとベッドを抜け出してエルマンに話をね」
「話?」
「レイの容体が良くなったって。エルマンに魔草障害の治し方を聞いたから、その報告に」
ルークに言われてレイはエルマンに視線を戻す。
方法をエルマンに聞いたのか。そういえばそんなこと言っていたなぁ。とレイは能天気に思った。だが、すぐに竜人の体液の話を思い出して、カッと頬を赤らめた。エルマンはレイとルークがここで何をしたのか知っているのだ。
レイは恥ずかしさのあまり口を戦慄かせたが、そんなレイを見てもエルマンはにこやかな笑顔を崩さなかった。
知っていても、素知らぬ顔をしてくれるのはレイにとってとてもありがたかった。
「ともかく、レイ殿も元気になりましたし、話すこともあります。ですので、遅めの朝食としませんか?」
そうエルマンは笑顔のままで二人に告げた。
レイは黙ったまま赤い顔で、こくりと頷くしかできなかった。
――――それからレイとルークは食事を摂りながら、エルマンの話を聞いた。
男の取り調べがすでに始められている事。レイを男の元に手引きした侍女も同じく牢屋にいられている事。今回、貴族が関与し、今度の会議で追及する事。警備を一層厳しくした事など。
そしてどこから漏れたのか、二コラが青銀竜だった事が町を賑わせている事も教えてくれた。
だが、話の最後でエルマンはレイに謝った。
「レイ殿には本当に申し訳ありません。今回は完全にこちらの落ち度です。警備が行き届いておらず、レイ殿を危険な目に合わせました」
エルマンは頭を下げて謝った。だがエルマンのせいではないだろう。
「エルマンが謝る事じゃないよ。俺だってまさか誘拐されるとは思ってなかったし。それに助けに来てくれた。なにより、どうやっても人の悪意ってのは防ぎようがない。だから気にしないで」
レイがそう言うとエルマンは申し訳なさそうにしながらも、微笑んだ。それを見て、レイはエルマンの隣に座る二コラに視線を向ける。
「ところで、二コラはもう竜になれるのか?」
レイは用意された朝食を食べ終わり、二コラに尋ねた。二コラとエルマンはもうすでに朝食を食べ終えているらしく、今は紅茶だけを飲んでいた。
「うん、もうなれるよ。竜になりたい! て、強く思ったらね」
二コラはどうやらコツを掴んだようだ。本人は口には出さなかったが、それとなく竜になれない事に劣等感を抱いていたようだったから良かった、とレイは素直に思った。
「今日は休んで、明日僕がお墓に連れてってあげる!」
二コラはにこにこしながらレイに言った。
それは昨日、何事もなければ行く予定していたお墓参りの事だった。ルークの異母兄、父親、そして祖先が眠るお墓だ。城から少し離れた場所にあるらしい。
「ああ、よろしく頼むよ」
レイがお願いすると、二コラは嬉しそうに笑った。その後、食事は終わり、レイは部屋に戻ることになった。
だが、ルークは一緒じゃなかった。
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