竜人息子の溺愛!

神谷レイン

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24 墓参り

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 翌日、晴れた空が広がる中で、二コラが声を上げた。

『ここだよーっ!』

 青銀竜となった二コラが翼をはためかせて降り立ったのは城から少し離れた、山の上だった。そこは開けた場所で、石の柱と石板が地面に埋め込まれているのが上空から見えた。

『レイ、下りるよ』

 空飛ぶ竜のルークが言い、その背に乗っているレイは落とされないようにルークの首に付けた手綱をしっかりと掴み、長い首を足で挟んだ。ルークはその感触を感じると、高度を下げてバサバサッと羽をはためかせて、地面にどすんっと下りる。
 だが地面に降りた後、するっとルークの首から下りたレイは地面にへたり込んだ。

「「レイ!?」」

 人化した二コラとルークがすぐに声をかけ、警護の為についてきていた護衛達も心配そうにレイを見た。その視線に恥ずかしさを感じながらレイは返事をした。

「だ、大丈夫。ちょっと足がふらついただけだ」

 レイが笑いながら言うとルークはレイの腕を掴んで立ち上がらせた。その力を借りながらレイは生まれた小鹿のように立つ。

「レイ、大丈夫?」
「ああ、ちょっと力が入らないだけだ。竜の背中に乗ってるのって結構大変なんだなぁ」

 レイは頑張って足を踏ん張りながら呟いた。
 ファウント王国から竜国に来た時はエルマンに眠らされ、荷物よろしく籠に入れられて運ばれたので、レイは初めて乗馬ならぬ、乗竜で足はフラフラだった。
 しかし、ちょっとすると足の感覚も戻り、何とか歩けるようになった。でも心配したルークがレイの手を自分の腕に絡ませた。

「倒れないように」

 ルークに言われて、まるで介護だな、とレイは思ったが、まだ足が若干ふらつき気味なので大人しく言う事を聞いた。そんなレイに二コラが手招いて呼ぶ。

「ここだよ」

 二コラは辺り一面芝生の中に立つ、石柱とその前に地面に埋め込まれている石板の前にいた。石の柱の周りには花が植えられ、静謐な空気が辺りには漂っている。
 そしてルークと共にレイも石版の前に立つ。石版には文字が書かれていた。
 『竜王よ、安らかな眠りに』という一文から、その下には歴代の王の名前であろう文字が刻まれていた。レイは最後に掘られた人物の名前に視線を向ける。

「ニール・フィル・エディランド……」

 レイが呟くと二コラは「僕の父様の名前だよ」と少し寂し気に呟いた。

「二コラのお父さん」

 つまりはルークの異母兄だ。そしてその上にある名前。それをルークが読み上げた。

「ルーファス・アリエス・エディランド」
「僕の爺様。父様と一緒にここに眠っているんだ」

 二コラはそう言って胸に手を当てると、目を瞑って祈りを捧げた。それに倣ってレイ達や護衛達も亡くなった王達に祈りを捧げる。そして祈りが終わった後、レイはそっと目を開けて、石版に刻まれた名前をじっと見つめた。

 ……ルークの父親と兄か。生きていたら、ルークを見て何と言っただろう? ルークはどう思っているんだろうか?

 レイはちらりと隣に立つルークに視線を向けた。その表情は悲しいとか嬉しいとかいう顔ではなく、感慨深いといった表情だった。だからレイは思わず口に出していた。

「ルーク、ごめんな。……俺がもっと早くお前を竜国に連れてきていたら、会えたかもしれないのに」

 申し訳なさそうに言うレイにルークは優しく笑った。

「レイが気にすることじゃないよ。僕も来る気なかったし。むしろ、来なかったからずっとレイと一緒いられた」
「それは、そうかもしれないけれど」
「レイが思っているほど、悲しくはない。僕にはレイって言う家族が傍にいてくれたから」

 にこやかに言われて、レイの中にある罪悪感が少しだけ消えていく。レイは「そうか」と小さく返した。でも石板を見て、レイはルークの異母兄を思う。彼はルークに会いたかったのではないだろうか? と。
 そんなレイにルークは今まで黙っていた事を伝えた。

「それに……レイには言わなかったけど、実は父と兄に、たぶん僕は会っているんだ」
「え?」

 初めて聞く話にレイは驚いた。ルークを保護した時、まだ幼かったこともあってルークは母親と傍で守っていた護衛官の事しか覚えていなかった。話を聞く限り、母親と二人で暮らしていたようだし、あまり昔の事を聞いて辛いことを思い出させたくなかった。だから、ルークに深く聞いたことはなかったが、まさか覚えているだけじゃなくて会っているとは。

「ルーク、どうして」

 今まで言わなかったんだ? と目で尋ねるとルークは悪さが見つかった子供のように視線を逸らした。

「レイに言ったら、竜国に戻されると思って。それにはっきりとは覚えていないんだ。ぼんやりとしか……。王だって知らなかったし」

 ルークは言いつつ石板に視線を向け、そこに刻まれている名前を見つめる。
 それは遠い記憶で、輪郭がなくぼんやりとしている。けれど貫禄あるおじさんが大きな手が頭を撫でてくれた事と、お兄さんが肩車してくれた事だけは、なぜだかずっと忘れずにいた。
 そして今だからわかる。顔は思い出せなくても、あの時自分に優しくしてくれたのは父と兄だったのだと。

「全く、お前って奴は」

 レイに呆れた様子で言われ、ルークは「ごめん」と素直に謝った。でも、そんなルークをレイは怒らなかった。むしろしょうがない奴だ、という風に笑った。

「もう内緒は駄目だぞ」
「勿論だよ」

 ルークが答えると、レイは傍にいた二コラに声をかけた。

「なぁ二コラ、ルークの母親もここに眠っているのか?」

 レイが尋ねると二コラは首を傾げた。

「うーん、それがね。ここにはいないってエルマンは言ってた」
「じゃあ、違うところ?」

 レイは尋ねたけれど、二コラは「わからない」としか答えなかった。

「そうか……」

 ……ルークの母親は一体どこに埋葬されたんだろうか?

 レイはそう思ったが、そんなレイの手をルークが突然掴んだ。

「ルーク?」

 唐突に手を握られて驚いたレイが名前を呼んで振り向けば、ルークはレイをじっと見ていた。

「レイ、話がある。二コラ、ちょっとあっちにいる護衛達のところに行っててくれないか?」

 ルークが言うと二コラは何だろう? という顔をしたが、素直にルークの言う事を聞いた。

「うん、わかった」

 二コラはそう返事をすると少し離れている場所にいる護衛達の元に駆けより、レイとルークは二人きりなった。

「二コラをあっちに行かせてまで、話ってなんだ?」
「レイ、昨日の僕の言葉を覚えている?」

 ルークに尋ねられてレイは首を傾げる。何のことを言っているのかレイにはわからなかったから。だからルークはもう一度告げた。

「レイ、僕の事、まだ息子にしか見えないかな?」

 ルークの問いにレイは途端に息を飲む。でもそんなレイの両手をルークは掴み、ぎゅっと握った。まるで祈るように。

「レイ、好きだ。愛してる……どうか、僕を一人の男と見て欲しい」

 ルークが告げる突然の愛の告白に、レイはいきなりすぎて戸惑ってしまう。

「な、何言ってんだ、こんな墓前でっ!」

 レイは慌てて言ったが、ルークの表情は変わらなかった。

「ここに僕の父と兄が眠っているからだよ。……レイをこれから一生大事にする。だから本当の事を教えて欲しい。……レイにとって僕はまだ息子にしかなりえない?」

 キラキラ輝く青い瞳でルークはレイを見つめた。レイの好きな目だ。でもレイはその瞳から目を逸らした。本当は心の言葉を言いたい、でも言えなかった。

「そりゃ……。そりゃ、そうだろ。お前は俺の息子だ。今も昔も」
「本当に?」
「っ……そうだっ!」

 レイが投げやりに言うとルークはレイの顎を掴み、くいっと顔を上げた。

「僕の目を見て言って。嘘、つかないで」

 ルークに言われ、顎を掴まれてレイは目を逸らせなかった。水色の青い瞳が追及するようにこっちを見ている。その目は嘘を許さない。それに嘘を吐いても、きっとバレてしまうだろう。レイはそう感じた。

「……ルーク、俺は」

 そこまで言って、レイは口を閉じた。
 きっと、ここで好きだと言ってしまうのはルークの為にならない。例え、両想いでも。
 ルークは新王になって、この地に住むのだから。
 だけど、明日には別れが待っている。もう二度と会えないかもしれない。ならば正直に伝えた方がいいんじゃないか? きっとこれが告白できる最後のチャンスだ。
 レイはそう思って、覚悟を決めるとルークの瞳を見つめて、ハッキリと本心を告げた。

「俺も……お前が好きだ。息子としてもだけど……お前自身も。男として惹かれてる」

 口の中が渇きそうになりながら、レイは何とか自分の想いを告げた。言ってよかっただろうか? と今更ながらに思うが、言ったことは取り消せない。
 でも目の前にいるルークの瞳は嬉しそうに細められた。

「やっと言ってくれた」

 そう言うとルークはレイを引き寄せて、ぎゅっとレイを抱き締めた。
 レイは突然の事に驚いたし、二コラや護衛の目が気になって離れようとしたが、そんなレイにルークは耳元で囁いた。

「でも……レイはまだ僕を信じていないよね?」

 小さな声で言われて離れようとしたレイはぴくっと動きを止めた。そして、動きを止めたレイからルークの方がそっと離れ、レイの顔を見た。

「僕が王になれば、国には戻れない。数年は離れる。……その間にレイは僕がレイを諦めると思ってる。誰かを娶るんじゃないかって考えてるでしょ?」

 心を読まれたように言われてレイは驚く。

「な、お前、どうして」
「レイの事ならわかるよ。何年一緒にいると思ってるの?」

 ルークはにっこりと笑った。そしてレイの左手を握った。

「でもレイ、僕はレイを諦めないよ。王になっても、離れ離れになってもレイの傍にいつか戻る。……これはその証だ」

 ルークはそう言うと、いつの間にか持っていたモノをレイの左薬指にそっと嵌めた。ルークの言葉と共にレイが自分の手を見ると、そこには金の指輪があった。婚約指輪だ。

「これっ!」
「どう? 気に入ってくれた? 昨日、わざわざ作りに行ったんだよ?」
「昨日? ……だから姿がなかったのか?」
「まあね。それよりどうかな? ぴったりだと思うけど」

 ルークはにこにこしながらレイに尋ねた。レイはじっと自分の左薬指に視線を向ける。細い婚約指輪。ぴたりと自分の指にはまり、指輪にはきらりと小さな宝石が入っている。
 それはルークと同じ瞳の色の宝石。

「帰ってもこの指輪を見て、僕の事を忘れないで」

 懇願するようにルークは言った。まるで小さな子供みたいに。

「ルーク……」
「レイ、愛してる。……愛してるよ、世界で一番。レイが好き……レイが不安なら僕は何度でも言うよ」

 ルークはレイの左手を持ち上げて、その指先にキスをした。柔らかい唇を押し当てられて、レイは堪らなくなった。未来も過去も、王であるとか、そんなものどうもいい。
 ルークがただただ愛しかった。

 自分をこんなにも真っすぐに見てくれる人に人生で何人会う事が出来るだろうか? 自分の事を何より一番に考えてくれる人に。

 そう思うと、胸がいっぱいになってレイの唇は自然と動いた。そして胸から溢れた思いを素直に言葉にする。

「ルーク……俺もお前が好きだ。指輪、ありがとう。俺、大事にするよ」

 レイは花が綻ぶように笑い、緑の瞳が揺らめき、煌めく。
 それは何度も思い描き、夢にまで見たレイの姿で、抑えていた何かがルークの中でプツンっと切れた。だが、それが理性の糸だと勿論レイは知らない。

「でも、俺の指のサイズよくわかったな、本当にぴったり……って、えッ!? ル、ルークッ!?」

 ルークが突然目の前で竜の姿に変身し、レイは驚きの声を上げた。だが、ルークは構わず翼をはためかせて宙に浮くと、無防備なレイの体をわしっと掴み上げた。

「うわああああっ、な、何するんだ!」

 足が地から離れ、レイは叫び声をあげた。しかしルークは気にしなかった。

「レイ! ルークおじさん!?」

 すかさず二コラが声をかけたが、ルークは二コラに一言だけ告げた。

『二コラ。僕とレイは先に城に戻るッ!』

 ルークは切羽詰まった様子で言うだけ言い、二コラ達を置いてルークはレイを掴んだまま上空を飛んだ。ルークの手に掴まれてるだけのレイは「放せーッ!」と叫んだが、ルークの翼の羽ばたく音と風を切る音でレイの声は掻き消えていた。
 そして来る時よりも速いスピードでルークは飛翔すると、あっという間に城の上空にたどり着き、レイを空中で手を放した。
 いきなり離されたレイは当然真っ逆さまだ。

「ぎゃあああっ! ルークッ、手を放せって言ったけどここじゃないーッ!」

 レイは背中から地面に落ちていき、悲鳴を上げた。しかしそんな中でルークも人の姿に変わり、レイをお姫様抱っこで腕に抱くと、客室のバルコニーにトンっと軽やかに降り立った。

「レイ、大丈夫?」
「はーはーっ、死ぬかと思った」

 顔を青ざめさせたレイはそう呟いたが、ルークはにこりと笑った。

「僕がレイを死なすわけないよ」

 ルークはにこやかに言ったが、危ない飛行をしたルークをレイはきっと睨んだ瞳を向けたが、そこに騒ぎを聞きつけたエルマンが侍従と共にやってきた。
 エルマンは慌てた様子でドアを開け、二人の姿を見つけて部屋の中に入ってきた。

「ルーク殿、護衛も付けず、どうされたのですか!? 二コラはどこですか!」

 そう聞くエルマンにルークはにっこり笑顔を見せた。

「二コラ達は後で戻ってくる。それよりエルマン、これから明日の朝、いや昼まで誰もこの部屋に来ないよう取り計らって欲しい」

 その言葉を聞いてエルマンは事情を察し、ちらりとレイを見た。その視線の意味が分からずにレイは首を傾げたが、それが同情の目だったと気が付くのは後の事。

「わかりました。でも、ほどほどにしてください。レイ殿は明日、帰られるんですから」
「わかってる。ありがとう、エルマン」

 ルークがにっこり笑顔でお礼を言うと、エルマンはやれやれという様子で部屋を出て行った。

 ……一体、なんだ? 今のやり取り。

 レイが能天気に思っていると、ルークはレイをベッドに下ろした。
 そしてレイに靴を脱ぐように言うと、その間に部屋の鍵を閉め、ランプに火をつけてカーテンを閉め切った。
 一体、何が始まるんだ? とレイは思いながらルークの言う通りに靴を脱ぐと、レイの元に戻ってきたルークは上着を脱ぎ、シャツと自分の靴も脱いだ。
 そして、上半身裸のルークがじっとレイを見つめる。その目は獰猛にぎらついていた。


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