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番外編
6 イサールの手紙
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――――それから。
ルイが目を覚ました後、イサールはサリアは勿論、帰りの見送りに来てくれたシオンとポールに挨拶をし、ルイを連れてコールソン書店への家路を歩いていた。
「イサちゃん、おしろおもちろかったねぇ!」
イサールの腕に抱かれているルイは、すっかり目を覚まして言った。
そして歩きながらイサールは「そうですね」と返事をした。
サリアとも有意義な話しができ、イサールにとってとても良い時間を過ごせた。
「おしろのおむらいしゅもおいしかったなぁー」
ルイは昼食を思い出したのか、頬に両手を当てて口をむぐむぐと動かした。どうやら城で出されたオムライスをお気に召したようだ。
……ルイは本当に卵料理が好きだな。俺もルークも好きだし……これは遺伝かな?
そんな事を思っていると、ルイがじっと自分を見ている事に気が付いた。
「どうしました?」
「……イサちゃん、おきず、まだいたい?」
ルイに聞かれて、イサールはハッとして足をその場に止めた。
昼食の時、ルイは何も言わなかったが気になっていたのだろう。大きな瞳がイイサールのマスクの下を見つめるように見ていた。きっと顔の傷を思い出しているのだろう。
「いいえ、痛くありませんよ。でもルイ様には少し怖かったですね。以後、隠しておきます」
イサールが言うと、ルイは首を振って「ううん」と言い、ぺたっとイサールの顔にマスクの上から小さな手で触れた。
「ルー、イサちゃんのお顔、こわくないよ。だって、れーちゃんもぱぱも大丈夫だっていってたもん」
「レイ様とルーク様が……?」
二人は何を言ったのだろう? とイサールは思ったがすぐにその疑問はルイによって解消された。
「れーちゃんがね。イサちゃんの傷はくんしょーなんだって! とってもだいじなものをまもるためについた、かっこいい証だって!! だから、ぱぱもこわくないよって、ルーにおしえてくれたの」
ルイの言葉にイサールはしばし言葉を失った。
この顔の傷を勲章だと、カッコイイ証だと言われるなんて思いもよらなかった。
あの時、ルークを守れなかった証として残った醜い傷痕。
もう二度と無力な自分でいないと、戒めとしてこの傷を何度も見て誓った。
それなのに、この傷をそんな風に思ってくれるなんて。
……俺は守れなかったのに。
イサールは涙が出そうになった。
「イサちゃん? どちたの? やっぱり、いたいの?」
「いえ、痛くありませんよ。ただ……嬉しくて」
イサールは涙を堪え、笑顔でルイに言った。
「ほんと?」
「ええ、本当ですよ。……心配してくれて、ありがとう」
イサールが言うとルイは安心したように、にこっと笑った。
けれどそんな二人に、道の向かいから聞きなれた声が飛んできた。
「あら、イサールさん、ルイちゃーん!」
イサールとルイが視線を向けると、道の向こうからフェインと共にルークが歩いてきていた。ルイはルークの姿を見つけると「あ、ぱぱだぁ!」と声を上げ、ぽんっと小竜に変わるとパタパタと小さな羽をはためかせてルークに向かって一直線に飛び、体当たりしていた。
……ルークも俺を見つけるとすぐに体当たりするように飛んできてたな。ふふ。
イサールは懐かしい事を思い出しながら、フェインとルークに歩み寄った。
「イサールさん、城から今おかえり?」
「ええ、シオン殿下とポール君には城を案内して頂いたり、昼食をご一緒させていただきました」
「あらぁ、そうなの?」
フェインがそう言うと、ルークの腕に抱かれている赤ん坊に戻ったルイがぴょいっと腕を上げた。
「あのね、あのね、おむらいしゅ、たべたよー!」
「あら、よかったわね~。またいつでも城に遊びに行ったらいいわ。サリアに伝えておくから」
「うん! でねでね、ルーはとちゅーでおねんねして、起きたらさっちゃんいたのー!」
「ルイちゃんの寝顔を見に来たのね~。ルイちゃんの寝顔、可愛いもの」
ふふっと笑って言うとルイは「うぅん、さっちゃんね、イサちゃんとえっと、なんか、おはなししてたー!」と素直に答えた。
「あら~、そうなの?」
フェインは呟いてイサールに視線を向けた。何の話をしたのかしら? と目が尋ねている。だから、イサールは素直に答えた。
「少し昔話と陛下にお礼を……。フェインさん、陛下は本当に素晴らしい方ですね」
イサールはサリアとの会話を思い出し、心からの賛辞を伝える。するとフェインは「あら、やっだぁ~ッ!」と照れた顔でバシンッとイサールの背中を叩いた。
さすがのイサールも体格にいいフェインからの一撃で身体がよろめく。
でもそれに気が付かずフェインはデレた。
「イサールさんもわかっちゃうー?! そうなのよぉー、うちのサリアって素敵なの! あ、でも恋しちゃ駄目よぉ。サリアは私のなんだからぁ♡」
胸やけしそうなほど甘ったるい声でフェインは言ったが、イサールはじんじんと痛む背中に声を失くしていたので、代わりにルークが声をあげた。
「そのサリアさんが城で待ってるんじゃないの、フェインさん。早く行ってあげなきゃ」
ルークの言葉でハッとしたフェインは「そうね!」と呟くと、三人を見て「じゃあね、みんな。また明日ね! んー、まっ♡」と投げキッスをして、ばびゅーんっと砂ぼこりを上げて城の方へ帰って行った。
フェインは町の中に喫茶店を持っているが、住んでいるのはサリアと同じ城の中なのだ。
「ふぇーちゃん、しゅごいね~。ぱぱ」
「うん、まあ、そうだね」
ルイは呆気に取られた様子で言い、ルークも何とも言えない表情で答えた。
「それより、ぱぱ。れーちゃんは?」
「レイはお家でご飯を作っているよ。だから早く帰ろう」
「うん! きょうのごっはんは、なんだろなぁ~~♪」
ルイはうふふっと笑いながら楽し気に歌っている。いつまでも聞いていたい歌だ。
だが、そんな風に思っていたところ、ルークに声をかけられた。
「イサール、今日もルイの面倒を見てくれてありがとう」
「いえ、今日もとても楽しく過ごさせていただきました。それにこれも護衛の仕事ですから」
そう、イサールは護衛官らしく答えた。
イサールはこの四年間、ルークの護衛として傍にいたが、まだルークに自分が母親だという事を告げていなかった。
あの日、あの時、自分の無力さゆえに手を離さなければ守れなかった命。
そして迎えに行くことも叶わず、結局大人になってから強制的に竜国に連れてきて、王になる道を歩ませてしまった。その間、親として何もしてあげられなかった。
そんな自分が今更、親だとは告げられなかった。気が付かれないのであれば、このままでいいと。ただ影ながらでも力になれば、とそう思っていた。
イサールの方は。
「イサール」
「はい?」
イサールが答えると、ルークはなんだか気まずそうに佇んでいた。
「ルーク様? どうされました?」
いつもと様子の違うルークにイサールが尋ねると、ルークは何やら覚悟を決めた顔でイサールをじっと見た。
なんだろう? とイサールが思っていると、ルークからかけられた言葉は意外なものだった。
「イサール、今日は家で夕飯を一緒にどうだろうか?」
「え?」
思わぬ言葉にイサールは驚いた。まさか誘われるとは思っていなかったから、思わずルークをじっと見てしまう。
でもルークはイサールから目を逸らして、言葉を続けた。
「いつも早々に帰るけど別に予定はないんだろう? だから今日は家で夕飯を食べたらいい。レイが今日は鍋にするから、ぜひイサールにも来て欲しいって言っていた……もう、その、あれだ。イサールは家族みたいなものだし。だからいいだろう?」
ルークは少々ぶっきらぼうに、でも照れくさそうに言った。けれど、これが今のルークの精一杯だった。
ルークは五歳からレイの元で育ったせいで、元竜国国王と護衛官としての距離の取り方はわかっても、息子としての距離の取り方がわからなかったのだ。
だが、少々言葉足らずであっても歩み寄りたいルークの気持ちはイサールに十分伝わっていた。イサールは嬉しさに微笑んだ。
「ありがとうございます。よろこんで、ご一緒させていただきます」
イサールはそう答え、その答えに喜んだのはルークよりもルイの方だった。
「わぁーーーい! イサちゃんもいっしょおー! イサちゃん、ぼくのおとなりにすわって一緒にごはん食べよーねぇ!」
無邪気に喜ぶルイにイサールは笑って「はい」と答えた。
「イサちゃんとごはん、うれしぃーー♪」
ルイは大喜びの様子で言い、その様子にルークは少々むすっとしてルイの柔らかいほっぺをぷにっとつついた。
「ルイは本当にイサールが好きだなぁ。パパ、寂しいぞ」
ルイの中のイサール人気の高さに、ルークが少しいじけて言うと、ルイは「んー」と考えた。でもすぐに手を伸ばしてルークの顔を掴むと、その頬にむちゅぅっと可愛いちゅうをした。
そして突然の可愛いキスに驚くルークに、ルイはにっこり笑顔を見せた。
「ルーね、れーちゃんもイサちゃんもみーんなだいすき! でもぱぱのこともすっごくだいすきだよぉ!」
えへへーっ。と笑顔で言い、ルークは一発で心を鷲掴みにされていた。
「僕もルイの事、大好きだよ! あーーー、なんでこんなに可愛いんだろ。やっぱりレイの遺伝子かなぁ?」
ルークはデレデレしながら言った。だがイサールはその言葉に思わず口元に手を当てて、くすりと笑ってしまう。
……自分だって、こんな時期があったのに。本人は忘れてるものなのか。
そんな事を思いながらイサールは二人を見守っていたが、ルイがにっこり笑顔でルークに思わぬことを尋ねた。
「でもぱぱもイサちゃんのこと、だいすきだよね? ぱぱ、イサちゃんがくる時はいっつもうれしそうだもんね!」
ルイの思わぬ言葉にルークが「る、ルイ!」と声を上げたが、ルイは首をこてんっと傾げて「ちがうの?」とくりくりお目目で尋ねる。この瞳に嘘はつけない。
「いや……ちが、わなくはない」
「じゃあ、ぱぱもイサちゃんだいすき?」
ルイの言葉に、ルークは思わずちらっとイサールを見て、少し恥ずかしそうにしながら答えた。
「う……うん、好きだよ」
「やっぱりぃ!」
ルイは嬉しそうにキャッキャッと喜んでいる。自分の好きとルークの好きが一緒で嬉しいのだ。けれど、ルークはただただ気まずそうだった。
でも、そんなルークにイサールが優しく声をかけた。
「私もルーク様の事、大好きですよ。勿論、ルイ様も」
イサールはにっこりと笑って言い、ルイは素直に喜んだが、ルークは少し顔を赤くして照れくさそうに顔を背けた。元竜国国王でも、親の前では形無しだ。
「もうさっさと帰ろう! レイが待ってる!」
ルークはこれ以上、照れくさい思いをしたくないからか、叫ぶように言った。そんな息子にイサールはくすりと笑みを零しながら頷いた。
「ええ、そうですね」
「おうち、かえろー!」
イサールとルイは返事をし、三人は仲良く並んで夕日の中を帰った。
そしてオレンジ色に染まる空の下、コールソン書店の前でレイが三人の帰りを待っていた。
「おかえり、もうご飯できてるぞ!」
そう笑顔で帰ってきた三人にレイは手を振って出迎えた――――。
ルイが目を覚ました後、イサールはサリアは勿論、帰りの見送りに来てくれたシオンとポールに挨拶をし、ルイを連れてコールソン書店への家路を歩いていた。
「イサちゃん、おしろおもちろかったねぇ!」
イサールの腕に抱かれているルイは、すっかり目を覚まして言った。
そして歩きながらイサールは「そうですね」と返事をした。
サリアとも有意義な話しができ、イサールにとってとても良い時間を過ごせた。
「おしろのおむらいしゅもおいしかったなぁー」
ルイは昼食を思い出したのか、頬に両手を当てて口をむぐむぐと動かした。どうやら城で出されたオムライスをお気に召したようだ。
……ルイは本当に卵料理が好きだな。俺もルークも好きだし……これは遺伝かな?
そんな事を思っていると、ルイがじっと自分を見ている事に気が付いた。
「どうしました?」
「……イサちゃん、おきず、まだいたい?」
ルイに聞かれて、イサールはハッとして足をその場に止めた。
昼食の時、ルイは何も言わなかったが気になっていたのだろう。大きな瞳がイイサールのマスクの下を見つめるように見ていた。きっと顔の傷を思い出しているのだろう。
「いいえ、痛くありませんよ。でもルイ様には少し怖かったですね。以後、隠しておきます」
イサールが言うと、ルイは首を振って「ううん」と言い、ぺたっとイサールの顔にマスクの上から小さな手で触れた。
「ルー、イサちゃんのお顔、こわくないよ。だって、れーちゃんもぱぱも大丈夫だっていってたもん」
「レイ様とルーク様が……?」
二人は何を言ったのだろう? とイサールは思ったがすぐにその疑問はルイによって解消された。
「れーちゃんがね。イサちゃんの傷はくんしょーなんだって! とってもだいじなものをまもるためについた、かっこいい証だって!! だから、ぱぱもこわくないよって、ルーにおしえてくれたの」
ルイの言葉にイサールはしばし言葉を失った。
この顔の傷を勲章だと、カッコイイ証だと言われるなんて思いもよらなかった。
あの時、ルークを守れなかった証として残った醜い傷痕。
もう二度と無力な自分でいないと、戒めとしてこの傷を何度も見て誓った。
それなのに、この傷をそんな風に思ってくれるなんて。
……俺は守れなかったのに。
イサールは涙が出そうになった。
「イサちゃん? どちたの? やっぱり、いたいの?」
「いえ、痛くありませんよ。ただ……嬉しくて」
イサールは涙を堪え、笑顔でルイに言った。
「ほんと?」
「ええ、本当ですよ。……心配してくれて、ありがとう」
イサールが言うとルイは安心したように、にこっと笑った。
けれどそんな二人に、道の向かいから聞きなれた声が飛んできた。
「あら、イサールさん、ルイちゃーん!」
イサールとルイが視線を向けると、道の向こうからフェインと共にルークが歩いてきていた。ルイはルークの姿を見つけると「あ、ぱぱだぁ!」と声を上げ、ぽんっと小竜に変わるとパタパタと小さな羽をはためかせてルークに向かって一直線に飛び、体当たりしていた。
……ルークも俺を見つけるとすぐに体当たりするように飛んできてたな。ふふ。
イサールは懐かしい事を思い出しながら、フェインとルークに歩み寄った。
「イサールさん、城から今おかえり?」
「ええ、シオン殿下とポール君には城を案内して頂いたり、昼食をご一緒させていただきました」
「あらぁ、そうなの?」
フェインがそう言うと、ルークの腕に抱かれている赤ん坊に戻ったルイがぴょいっと腕を上げた。
「あのね、あのね、おむらいしゅ、たべたよー!」
「あら、よかったわね~。またいつでも城に遊びに行ったらいいわ。サリアに伝えておくから」
「うん! でねでね、ルーはとちゅーでおねんねして、起きたらさっちゃんいたのー!」
「ルイちゃんの寝顔を見に来たのね~。ルイちゃんの寝顔、可愛いもの」
ふふっと笑って言うとルイは「うぅん、さっちゃんね、イサちゃんとえっと、なんか、おはなししてたー!」と素直に答えた。
「あら~、そうなの?」
フェインは呟いてイサールに視線を向けた。何の話をしたのかしら? と目が尋ねている。だから、イサールは素直に答えた。
「少し昔話と陛下にお礼を……。フェインさん、陛下は本当に素晴らしい方ですね」
イサールはサリアとの会話を思い出し、心からの賛辞を伝える。するとフェインは「あら、やっだぁ~ッ!」と照れた顔でバシンッとイサールの背中を叩いた。
さすがのイサールも体格にいいフェインからの一撃で身体がよろめく。
でもそれに気が付かずフェインはデレた。
「イサールさんもわかっちゃうー?! そうなのよぉー、うちのサリアって素敵なの! あ、でも恋しちゃ駄目よぉ。サリアは私のなんだからぁ♡」
胸やけしそうなほど甘ったるい声でフェインは言ったが、イサールはじんじんと痛む背中に声を失くしていたので、代わりにルークが声をあげた。
「そのサリアさんが城で待ってるんじゃないの、フェインさん。早く行ってあげなきゃ」
ルークの言葉でハッとしたフェインは「そうね!」と呟くと、三人を見て「じゃあね、みんな。また明日ね! んー、まっ♡」と投げキッスをして、ばびゅーんっと砂ぼこりを上げて城の方へ帰って行った。
フェインは町の中に喫茶店を持っているが、住んでいるのはサリアと同じ城の中なのだ。
「ふぇーちゃん、しゅごいね~。ぱぱ」
「うん、まあ、そうだね」
ルイは呆気に取られた様子で言い、ルークも何とも言えない表情で答えた。
「それより、ぱぱ。れーちゃんは?」
「レイはお家でご飯を作っているよ。だから早く帰ろう」
「うん! きょうのごっはんは、なんだろなぁ~~♪」
ルイはうふふっと笑いながら楽し気に歌っている。いつまでも聞いていたい歌だ。
だが、そんな風に思っていたところ、ルークに声をかけられた。
「イサール、今日もルイの面倒を見てくれてありがとう」
「いえ、今日もとても楽しく過ごさせていただきました。それにこれも護衛の仕事ですから」
そう、イサールは護衛官らしく答えた。
イサールはこの四年間、ルークの護衛として傍にいたが、まだルークに自分が母親だという事を告げていなかった。
あの日、あの時、自分の無力さゆえに手を離さなければ守れなかった命。
そして迎えに行くことも叶わず、結局大人になってから強制的に竜国に連れてきて、王になる道を歩ませてしまった。その間、親として何もしてあげられなかった。
そんな自分が今更、親だとは告げられなかった。気が付かれないのであれば、このままでいいと。ただ影ながらでも力になれば、とそう思っていた。
イサールの方は。
「イサール」
「はい?」
イサールが答えると、ルークはなんだか気まずそうに佇んでいた。
「ルーク様? どうされました?」
いつもと様子の違うルークにイサールが尋ねると、ルークは何やら覚悟を決めた顔でイサールをじっと見た。
なんだろう? とイサールが思っていると、ルークからかけられた言葉は意外なものだった。
「イサール、今日は家で夕飯を一緒にどうだろうか?」
「え?」
思わぬ言葉にイサールは驚いた。まさか誘われるとは思っていなかったから、思わずルークをじっと見てしまう。
でもルークはイサールから目を逸らして、言葉を続けた。
「いつも早々に帰るけど別に予定はないんだろう? だから今日は家で夕飯を食べたらいい。レイが今日は鍋にするから、ぜひイサールにも来て欲しいって言っていた……もう、その、あれだ。イサールは家族みたいなものだし。だからいいだろう?」
ルークは少々ぶっきらぼうに、でも照れくさそうに言った。けれど、これが今のルークの精一杯だった。
ルークは五歳からレイの元で育ったせいで、元竜国国王と護衛官としての距離の取り方はわかっても、息子としての距離の取り方がわからなかったのだ。
だが、少々言葉足らずであっても歩み寄りたいルークの気持ちはイサールに十分伝わっていた。イサールは嬉しさに微笑んだ。
「ありがとうございます。よろこんで、ご一緒させていただきます」
イサールはそう答え、その答えに喜んだのはルークよりもルイの方だった。
「わぁーーーい! イサちゃんもいっしょおー! イサちゃん、ぼくのおとなりにすわって一緒にごはん食べよーねぇ!」
無邪気に喜ぶルイにイサールは笑って「はい」と答えた。
「イサちゃんとごはん、うれしぃーー♪」
ルイは大喜びの様子で言い、その様子にルークは少々むすっとしてルイの柔らかいほっぺをぷにっとつついた。
「ルイは本当にイサールが好きだなぁ。パパ、寂しいぞ」
ルイの中のイサール人気の高さに、ルークが少しいじけて言うと、ルイは「んー」と考えた。でもすぐに手を伸ばしてルークの顔を掴むと、その頬にむちゅぅっと可愛いちゅうをした。
そして突然の可愛いキスに驚くルークに、ルイはにっこり笑顔を見せた。
「ルーね、れーちゃんもイサちゃんもみーんなだいすき! でもぱぱのこともすっごくだいすきだよぉ!」
えへへーっ。と笑顔で言い、ルークは一発で心を鷲掴みにされていた。
「僕もルイの事、大好きだよ! あーーー、なんでこんなに可愛いんだろ。やっぱりレイの遺伝子かなぁ?」
ルークはデレデレしながら言った。だがイサールはその言葉に思わず口元に手を当てて、くすりと笑ってしまう。
……自分だって、こんな時期があったのに。本人は忘れてるものなのか。
そんな事を思いながらイサールは二人を見守っていたが、ルイがにっこり笑顔でルークに思わぬことを尋ねた。
「でもぱぱもイサちゃんのこと、だいすきだよね? ぱぱ、イサちゃんがくる時はいっつもうれしそうだもんね!」
ルイの思わぬ言葉にルークが「る、ルイ!」と声を上げたが、ルイは首をこてんっと傾げて「ちがうの?」とくりくりお目目で尋ねる。この瞳に嘘はつけない。
「いや……ちが、わなくはない」
「じゃあ、ぱぱもイサちゃんだいすき?」
ルイの言葉に、ルークは思わずちらっとイサールを見て、少し恥ずかしそうにしながら答えた。
「う……うん、好きだよ」
「やっぱりぃ!」
ルイは嬉しそうにキャッキャッと喜んでいる。自分の好きとルークの好きが一緒で嬉しいのだ。けれど、ルークはただただ気まずそうだった。
でも、そんなルークにイサールが優しく声をかけた。
「私もルーク様の事、大好きですよ。勿論、ルイ様も」
イサールはにっこりと笑って言い、ルイは素直に喜んだが、ルークは少し顔を赤くして照れくさそうに顔を背けた。元竜国国王でも、親の前では形無しだ。
「もうさっさと帰ろう! レイが待ってる!」
ルークはこれ以上、照れくさい思いをしたくないからか、叫ぶように言った。そんな息子にイサールはくすりと笑みを零しながら頷いた。
「ええ、そうですね」
「おうち、かえろー!」
イサールとルイは返事をし、三人は仲良く並んで夕日の中を帰った。
そしてオレンジ色に染まる空の下、コールソン書店の前でレイが三人の帰りを待っていた。
「おかえり、もうご飯できてるぞ!」
そう笑顔で帰ってきた三人にレイは手を振って出迎えた――――。
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