悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第十八話 アルメリアの気苦労

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 アルメリアはスパルタカスに微笑む。

「そこにいる彼はわたくしの部下ですの」

 そう言って部下を見た。

「ギル、こちらイキシア騎士団城内統括のスパルタカス閣下ですわ。貴方の初めてのお仕事です。城内統括の案内をよろしくお願いしますわ」

 そう指示を出すと、部下は頷き口を開いた。

「これからクンシラン領を案内させていただく、ギルと申します。不自由のないように誠心誠意尽くす所存です。どうかよろしくお願い致します」

 そう言って頭を下げた。それを見てアルメリアは、スパルタカスの方へ向き直った。

「忙しい身の上でしょうから、お時間に限りはあると思いますけれど、領地を見ていただければ少しでもわたくしの人となりを知る参考になると思いますわ。そのあとで相談役に不適合かどうか判断していただいても遅くはないと思いますの。どうぞ時間が許す限りゆっくりしてらしてください」

 そう言われたスパルタカスは、動揺したままクンシラン領へと連れていかれた。



  
「お嬢様、大丈夫でございましたか?」

 そう言ってペルシックはアルメリアにソーサーごとティーカップを差し出した。アルメリアはほっとしながらそれを受け取る。

「爺、ありがとう、大丈夫ですわ。これから先も同じような難癖をつけてくる人は沢山いるでしょうし、全てに腹を立てていてはきりがないですものね。それに下手に問い詰めると、意地になって自分の間違いを否定したり、酷ければ激昂することもありえましたから、あのような対応をするしかありませんでしたわ」

 そして、一息ついて話を続ける。

「スパルタカスは生粋の叩き上げですわ。実力の伴わない者がこねで昇進し、目の前で愚行を犯すのを何度も見てきたんでしょう。それが許せない気持ちもわからなくはないの。それにしても今回はあまりにもお粗末でしたけれど」

 そう言って、ひとくちお茶を飲むとティーカップを手に持っているソーサーに置き、ふっと笑う。

「それにしても、作ったばかりの営業マニュアルと育て上げた人材を、わたくしを嫌っている人物で試せるんですもの。こんなにラッキーなことはないかもしれませんわね。きっと彼なら遠慮なく意見を言ってくれるでしょうし、良いデータが取れそうですわ。まぁ、彼に案内したのは一番長い一週間のコースですから、契約する気のない物の営業を延々とされて、うんざりして途中で断って帰るのが関の山かもしれませんけれど」

 そう言ってアルメリアは、何事もなかったかのように自分の仕事へ戻った。

 スパルタカスの件は、彼のあの愚直な性格からしてアルメリアの悪い噂を流すようには思えず、特にそういった心配はしていなかった。それにこんな小娘にやり込められてしまったのだ、恥ずかしくて吹聴などできないだろう。
 そもそも、スパルタカスのことなど気にしてはいられないほど忙しかったのも確かで、アルメリアはスパルタカスの存在をすっかり忘れ、自分の仕事に没頭していた。

 今のままでは領地内での仕事が忙しすぎて相談役を兼任するなどできる状況ではない。なので、かねてから考えていたことを実行することにした。クンシラン領の事業の細かい細分化と組織化である。

 現在は事細かにアルメリアが指示を出しているが、細分化することによって各々の役割をしっかり与え、組織化し各部署のトップが独自に判断し指示を出すようにすれば、結果の報告だけアルメリアが受ければ良くなり、大分楽になる。
 これがうまくいけば、アルメリアがいなくとも問題に対処しうまく運営できるようになるだろう。

 アンジーのお店では、健康食品と銘打って糠漬けや味噌なども売るようにすると、市井で健康ブームが訪れた。そのお陰でアンジーのお店は売り上げを落とすことはなかった。
 そんな中、味噌漬けチーズを売り出すとそれが発酵塩レモンと並んでヒットしたことで、更に売り上げが上がることとなった。

 ちょうど以前設立した専門学校から優秀な人材が育ち始めたところだったのも、タイミングが良かった。これで優秀な人材も現場投入でき、組織化が更にスムーズに進んだのだ。

 もちろんアルメリアに相談したいことがあれば、いつでも聞ける体制は崩さないようにした。

 こうして事業がアルメリアの手から離れ、以前よりだいぶ余裕ができてきたそんなとき、思いがけない報告がペルシックからあった。

「お嬢様、城内統括が正式にお嬢様にお会いしたいと面会を申し込まれていますが、いかがなさいますか?」

 アルメリアはまさか向こうから会いに来るとは思ってもおらず、驚きながらも正式に抗議に来たのなら、少し厄介なことになってしまったかもしれないと思った。
 ペルシックは先日のことで心配している様子だった。だが、それでもアルメリアは逃げずに対峙し、クレームも、領地についての意見も全て聞きたかった。

「問題ありませんわ」

 そう言ってスパルタカスとの面会を許可し、予定を開けた。それにしても、以前はアポも取らずに突撃してきたことを考えると、段階を踏んで面会の予定を入れてきたことに、少しはなにか思うことがあったのかもしれない。そう思った。

 しばらくして、アルメリアの執務室にスパルタカスが通された。以前と同じく笑顔で迎え、ソファに座るように促す。

「本日はどのようなご用件で?」

 アルメリアが優しく言うと、スパルタカスは深く頭を下げた。

「本日はこんな私に時間をとってもらい、ありがとうございます。今日は先日の非礼の詫びと、その後の報告をさせてもらいに参りました」

 アルメリアは、彼にどういった心境の変化をもたらしたのだろうか? と、不思議に思いながら頷いて話の先を促す。スパルタカスは更に頭を下げソファに座った。

「閣下に先日図星をつかれ、クンシラン領の案内をされている間、愚かにも私は侮辱されたような気持ちになっていたのです」

 アルメリアは年端も行かぬ小娘にあんなに無下にされたのだから、それも当然だろうと思いながら黙って相づちをつく。
 スパルタカスは自嘲気味に微笑んだ。

「それでも、閣下の部下による丁寧な説明を受けているうちに冷静さを取り戻し、改めて真剣にクンシラン領の現状に目を向けたのです。私が滞在している一週間の間、何度か閣下が領地を訪れている姿、領民の素晴らしい幸せそうな表情、そうしてお互いが信頼している姿を見ました。そこで、この領地には幸せが循環しているということに気づいたのです。そうすることによって、この平和が保たれていることにも気づきました。まぁ、それは閣下が制定した領内での条令や掟、法整備にそれに伴い整ったインフラや、自警団組織などの整備等の基礎があってのことですが」

 流石に褒めすぎだと思ったアルメリアは苦笑した。
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