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第十九話 スパルタカスの反省
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「お父様やお母様が領民との間に信頼を築いてくれていたので、私はその恩恵にあやかっているだけですの。それに、私にはかしこまる必要はありません。アルメリアと呼んでいただいて結構です」
スパルタカスは大きく頷く。
「前に出ない閣下のその奥ゆかしさが、そもそも素晴らしいのです。それに若輩ものの私が、閣下を名前で呼ぶなど、そんなおこがましいことはできません」
そう言って頭を下げると、話を続ける。
「私は、先日の自身についての行動をを省みました。閣下の仰った『部下に話をし間違っていることをしているならそれを正すのが上司の務め』という言葉は、私の心に響きました。まずはそこから己の行動を正すことにしたのです」
「そうですの」
微笑みながら、アルメリアは頷いた。それを見てスパルタカスも頷き話を続ける。
「パウエル侯爵令息に会いに行き、公私混同していないか尋ねたのです。するとパウエル侯爵令息は閣下の仰ったアドバイスの内容を私に話して聞かせ、今の騎士団に足りないのは閣下の考えてらっしゃるような革新的な考え方だと述べました。私はその話に感銘し、なぜパウエル侯爵令息が閣下を相談役として選んだのか理解したのです。そして、それらのことを知るにつれ、閣下は尊敬に値する御仁だと知ったのです」
アルメリアは、スパルタカスの変わりように驚きながら、それを隠して言った。
「完全に買いかぶりです」
すると、スパルタカスは目を見開く。
「なぜそう思うのです? 私の問題点を閣下は見事に見抜きました。私が閣下を見た目で判断し、思い込みで行動しているということを。奢っていた私には、はっきり言っていただく必要があったのです」
そう言って苦笑した。そして少し言うのを躊躇った様子を見せたあと、口を開いた。
「それと、パウエル侯爵令息に言われました『クンシラン公爵令嬢に対しての気持ちは、今のところ私の一方的な恋慕であって、クンシラン公爵令嬢と今はまだ、そういった関係にない。勘違いして失礼な態度はしないように』と。思い込みで行動していた私は、そう言われて返す言葉もありませんでした。ですが、そのとき同時に、二人がそのような関係ではないと知って、ほっとした自分がいたのです」
そう言うと照れ笑いをした。そして、早口で言う。
「とにかく、その、あんなことをしておいて許してもらえるかわかりませんが、今後は尊敬する閣下と良好な関係を築きたく、今日は弁明をさせていただいた次第なのです」
言い終わると苦悶表情をした。
「今回ほど己の先走った愚行を後悔したことはありません。後悔先に立たずとはこの事です」
そう言ってまた頭を下げようとするスパルタカスを、アルメリアは慌てて制した。
「謝罪する気持ちは伝わりました、それにこれ以上こちらも今回のことを追求するつもりはありませんわ。それ以上謝らないで下さい。私もどうしてよいかわからなくなってしまいますわ」
アルメリアが笑顔を向けると、スパルタカスは苦笑した。
「そうですね、こんな一方的な気持ち困るだけでしょう。閣下は気にしないでいただきたい。今日会っていただけで私は幸せ者です。願わくば、この先も私と会っていただければと、図々しくも思っております」
微笑んでしばらく見つめると、立ち上がった。
「本日は貴重なお時間をありがとうございました。閣下の貴重なお時間をこれ以上無駄にするわけにはいきませんので、私はこれで失礼致します」
そう言って深々と一礼し、部屋を去っていった。
アルメリアは呆気にとられ、ペルシックに尋ねた。
「ねぇ、爺、ちょっと理解が追い付かないのですけれど、どういうことなのかしら?」
ペルシックは頷く。
「愚かだった男が、ある女性の素晴らしさに気づいて改心し、その上その女性に思いを寄せてしまった。そう言うことでございましょう。お嬢様は暗闇を照す光。光に羽虫が寄るのは仕方のないことです。しかし、これ以上変な虫が寄るのは困ったことでございますね。もしも、お嬢様の邪魔をしたり害をなす虫がいれば私めが駆除致しますので、お嬢様は何も気にする必要はございません」
眉ひとつ動かさずにそう答えると、来客者のティーカップを下げた。
組織の細分化はだいぶ機能してきていた。これで領地の事業がアルメリアの手を離れれば、空いた時間でもっとイキシア騎士団に関わりを持ち、学校から卒業した優秀な人材をイキシア騎士団へ潜り込ませることも可能なのではないかと考えた。
アルメリアはシルを探すため、チューベローズ教の管轄下にある組織に介入したかった。それにはまず、国に資金援助と優秀な人材の供給をし、周囲を身内で固め時間をかけてでも包囲して行くことにした。そのためにも、まずはイキシア騎士団との繋がりを持つことは大切なことでもある。
そう考えたとき、先日スパルタカスと仲違いせずに済んだことは、アルメリアにとっては都合がよかった。
いずれはチューベローズ教と貴族たちのつながりを調べ、証拠を揃えなければならないだろう。アルメリアは焦る気持ちもあったが、それをぐっとこらえてとにかく自分の地位や足元を磐石にすることに力を入れた。
フランチャイズ展開に関しては、数件貴族から問い合わせがあり調整を始めたばかりだったので、アルメリアが抜けるわけにはいかず、これも時間を要した。早急にマニュアル化を進めつつ、後継の人材を育成することにも力をいれた。
フランチャイズ契約は、一件でも成功例があればそれでもかなりの利益になる計算なので、丁寧に対応し契約につなげるよう細心の配慮をした。
そんなとき、セコーニ村から流行り病の感染拡大を食い止めたと使いがあった。完全に終息するまでにはまだ時間はかかりそうだったが、これで一つ懸念が晴れほっと胸を撫で下ろした。
パウエル侯爵はなにも言ってこないが今回のことで、パウエル侯爵には大きな貸しができたし、アルメリアはこの成果に大満足であった。
医療班の働きが大きかったことは言うまでもない。医療班が帰ってきたら笑顔で出迎え、褒め称え報償金を出そう。彼らはそれだけ素晴らしいことをしたのだ。少なからず何人か犠牲も出たと聞いている。遺族年金を出さなければ。と、そんなことを考えた。
スパルタカスは大きく頷く。
「前に出ない閣下のその奥ゆかしさが、そもそも素晴らしいのです。それに若輩ものの私が、閣下を名前で呼ぶなど、そんなおこがましいことはできません」
そう言って頭を下げると、話を続ける。
「私は、先日の自身についての行動をを省みました。閣下の仰った『部下に話をし間違っていることをしているならそれを正すのが上司の務め』という言葉は、私の心に響きました。まずはそこから己の行動を正すことにしたのです」
「そうですの」
微笑みながら、アルメリアは頷いた。それを見てスパルタカスも頷き話を続ける。
「パウエル侯爵令息に会いに行き、公私混同していないか尋ねたのです。するとパウエル侯爵令息は閣下の仰ったアドバイスの内容を私に話して聞かせ、今の騎士団に足りないのは閣下の考えてらっしゃるような革新的な考え方だと述べました。私はその話に感銘し、なぜパウエル侯爵令息が閣下を相談役として選んだのか理解したのです。そして、それらのことを知るにつれ、閣下は尊敬に値する御仁だと知ったのです」
アルメリアは、スパルタカスの変わりように驚きながら、それを隠して言った。
「完全に買いかぶりです」
すると、スパルタカスは目を見開く。
「なぜそう思うのです? 私の問題点を閣下は見事に見抜きました。私が閣下を見た目で判断し、思い込みで行動しているということを。奢っていた私には、はっきり言っていただく必要があったのです」
そう言って苦笑した。そして少し言うのを躊躇った様子を見せたあと、口を開いた。
「それと、パウエル侯爵令息に言われました『クンシラン公爵令嬢に対しての気持ちは、今のところ私の一方的な恋慕であって、クンシラン公爵令嬢と今はまだ、そういった関係にない。勘違いして失礼な態度はしないように』と。思い込みで行動していた私は、そう言われて返す言葉もありませんでした。ですが、そのとき同時に、二人がそのような関係ではないと知って、ほっとした自分がいたのです」
そう言うと照れ笑いをした。そして、早口で言う。
「とにかく、その、あんなことをしておいて許してもらえるかわかりませんが、今後は尊敬する閣下と良好な関係を築きたく、今日は弁明をさせていただいた次第なのです」
言い終わると苦悶表情をした。
「今回ほど己の先走った愚行を後悔したことはありません。後悔先に立たずとはこの事です」
そう言ってまた頭を下げようとするスパルタカスを、アルメリアは慌てて制した。
「謝罪する気持ちは伝わりました、それにこれ以上こちらも今回のことを追求するつもりはありませんわ。それ以上謝らないで下さい。私もどうしてよいかわからなくなってしまいますわ」
アルメリアが笑顔を向けると、スパルタカスは苦笑した。
「そうですね、こんな一方的な気持ち困るだけでしょう。閣下は気にしないでいただきたい。今日会っていただけで私は幸せ者です。願わくば、この先も私と会っていただければと、図々しくも思っております」
微笑んでしばらく見つめると、立ち上がった。
「本日は貴重なお時間をありがとうございました。閣下の貴重なお時間をこれ以上無駄にするわけにはいきませんので、私はこれで失礼致します」
そう言って深々と一礼し、部屋を去っていった。
アルメリアは呆気にとられ、ペルシックに尋ねた。
「ねぇ、爺、ちょっと理解が追い付かないのですけれど、どういうことなのかしら?」
ペルシックは頷く。
「愚かだった男が、ある女性の素晴らしさに気づいて改心し、その上その女性に思いを寄せてしまった。そう言うことでございましょう。お嬢様は暗闇を照す光。光に羽虫が寄るのは仕方のないことです。しかし、これ以上変な虫が寄るのは困ったことでございますね。もしも、お嬢様の邪魔をしたり害をなす虫がいれば私めが駆除致しますので、お嬢様は何も気にする必要はございません」
眉ひとつ動かさずにそう答えると、来客者のティーカップを下げた。
組織の細分化はだいぶ機能してきていた。これで領地の事業がアルメリアの手を離れれば、空いた時間でもっとイキシア騎士団に関わりを持ち、学校から卒業した優秀な人材をイキシア騎士団へ潜り込ませることも可能なのではないかと考えた。
アルメリアはシルを探すため、チューベローズ教の管轄下にある組織に介入したかった。それにはまず、国に資金援助と優秀な人材の供給をし、周囲を身内で固め時間をかけてでも包囲して行くことにした。そのためにも、まずはイキシア騎士団との繋がりを持つことは大切なことでもある。
そう考えたとき、先日スパルタカスと仲違いせずに済んだことは、アルメリアにとっては都合がよかった。
いずれはチューベローズ教と貴族たちのつながりを調べ、証拠を揃えなければならないだろう。アルメリアは焦る気持ちもあったが、それをぐっとこらえてとにかく自分の地位や足元を磐石にすることに力を入れた。
フランチャイズ展開に関しては、数件貴族から問い合わせがあり調整を始めたばかりだったので、アルメリアが抜けるわけにはいかず、これも時間を要した。早急にマニュアル化を進めつつ、後継の人材を育成することにも力をいれた。
フランチャイズ契約は、一件でも成功例があればそれでもかなりの利益になる計算なので、丁寧に対応し契約につなげるよう細心の配慮をした。
そんなとき、セコーニ村から流行り病の感染拡大を食い止めたと使いがあった。完全に終息するまでにはまだ時間はかかりそうだったが、これで一つ懸念が晴れほっと胸を撫で下ろした。
パウエル侯爵はなにも言ってこないが今回のことで、パウエル侯爵には大きな貸しができたし、アルメリアはこの成果に大満足であった。
医療班の働きが大きかったことは言うまでもない。医療班が帰ってきたら笑顔で出迎え、褒め称え報償金を出そう。彼らはそれだけ素晴らしいことをしたのだ。少なからず何人か犠牲も出たと聞いている。遺族年金を出さなければ。と、そんなことを考えた。
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