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第九十七話 落ち込んでいるときは弱いもの
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翌朝目が覚めると、淡々と朝のルーティンをこなした。そして、登城のためエントランスに降りるとリカオンが立っている姿が目に入った。どうやら、屋敷までお迎えにきてくれたようだった。昨日のうちに、ペルシックがアルメリアが戻ったことを伝えてくれていたのだろう。
「あら、リカオン。おは……」
「手紙をくださるって仰いましたよね?」
アルメリアは挨拶を遮られるとそう言われ面食らったが、そんな約束をしていたことを思い出すと、すっかり忘れてしまっていたのを申し訳なく思った。
「そうでしたわね、ごめんなさい」
すると、リカオンは困ったように微笑み首を振る。
「違います。お嬢様が約束を違えるなんて珍しいことだったので、もしかして領地で何かあったのかと……。これでも心配したんです」
思わずアルメリアは押し黙ってしまう。確かに色々ありすぎて、自分に余裕がなくて手紙が書けなかったのは確かだった。思わずなんと答えてよいか困ってしまい、苦笑して返した。
そんな様子を見て、リカオンはなにかさっしたのか優しく言った。
「まぁ、とにかく僕としてはこうしてお嬢様が僕のもとへ無事に帰ってきてくれれば、それだけでいいです」
そして、微笑むと胸に手をあてお辞儀をした。
「お嬢様、お帰りなさいませ。長旅ご苦労様でした」
「ただいま、リカオン」
アルメリアがそう答えると、リカオンは手を差し出す。
「さぁ、行きましょう」
優しくされ泣きそうになり、目の奥がぎゅっと痛くなったが、それをこらえて深呼吸すると微笑む。
「ありがとう。行きましょう」
そう言って、差し出されたリカオンの手を取り馬車に乗った。
登城するといつもの見回りをこなし、城内の執務室へ戻ると一通り机の上の書類やメモに目を通す。二週間分を一気に読むと、順次対応できるようにスケジュールの調整をした。
そして、早急に対応せねばならない一ヶ月後に控えている演劇の台本制作に取りかかった。早く仕上げてしまわないと、練習する時間がなくなってしまうので優先順位を先にしたのだ。
演目はもう決めていた。前世の世界ではありきたりだろうが、シンデレラを演じることにした。この世界にはシンデレラという物語は存在していないので、孤児院の子どもたちも見飽きたということはないだろう。
男の子には面白くないかも知れなかったので、コメディ要素を入れるため、主人公はアルメリア以外に演じてもらうことにした。
物語を知っている上に、本当の劇場で演じるわけでもなかったので台本を書くことはそう難しくない。
アルメリアは夢中になって書き、昼食はサンドイッチなどの軽食にしてもらい、食事を食べる間も惜しんで熱中して書き上げた。そうしてなんとか書き上げると、最後に一通り目を通しペルシックに改稿をお願いして午後のアブセンティーの準備をした。
これで今日のアブセンティーで台本を見せることはできなくとも、配役は決めることができるだろう。
ドローイング・ルームへ入ると、ムスカリがすでにソファに座って待っているのに気づき、アルメリアは慌ててカーテシーをした。
「殿下、お久しぶりです」
ムスカリは微笑むと、立ち上がりアルメリアの前に立った。
「アルメリア、本当に久しいね。私は、君の顔を見たい。顔を上げてくれ」
そう言われ、アルメリアがゆっくり顔を上げるとムスカリは手を差し出し熱っぽく見つめた。
「会いたかった。さぁ、ソファに座ろう。そして、君が領地でどんなことをして過ごしたのか話して聞かせてくれ」
当然ムスカリならば、ありとあらゆる方法でアルメリアがヒフラでどのように過ごしたか、調べているに違いなかった。しかし、それだけでは情報不足なため、アルメリア本人にも話を訊いてその内容に違いがないか確認するつもりなのだろう。どこまで知られているかわからず、嘘をつくと逆に立場が悪くなるのはわかっていたので、アウルスのことは伏せてざっと話すことにした。
「我が領地に山賊がいましたので、それに対応してきましたわ。山賊たちは帝国の脱走兵だったようで、帝国に引き渡しました」
「そうか、大変だったのだね。私は君が少しばかり屋敷に籠もっていたと聞いているが、怖い思いをしたのではないのか?」
首を振るとアルメリアは答える。
「山賊たちと対峙して、少し怖い思いもしましたけれど大丈夫でしたわ」
その返答の真意を確かめるように、ムスカリは真剣な眼差しでアルメリアを見つめた。アルメリアは今目をそらしたりしては、変に思われてしまうのではないかとムスカリから目をそらさずじっと見つめ返した。
ムスカリはその様子を見て、ニコリと微笑んだ。
「そうか、なにもなかったんだね。それならよかった」
そうは言ったが、ムスカリはなにかをさっしたようだった。
殿下には嘘はつけそうにない。と、アルメリアは思ったが、すべてを正直に話すわけにはいかないので嘘をつくしかなかった。
そこで背後から声がした。
「アルメリア、本当にお久しぶりです」
振り替えるとそこにアドニスが立っていた。
「アドニス、お久しぶりですわね」
そう言って立ち上がり、アドニスの方へ行こうとするアルメリアの手をムスカリがしっかり掴んで止めた。驚いて振り返って見ると、先ほどと同じく作り笑いをしたままムスカリは言った。
「私の相手をしているのに、どうして他の者の出迎えをする?」
「も、申し訳ありません」
すると、ムスカリは苦笑して答える。
「いや、君を私に釘付けにできていない自分の不甲斐なさが悪いのだ。八つ当たりをして悪かった」
そんな台詞を言わせてしまい申し訳なくなったアルメリアは、慌ててムスカリの隣に座りなおす。
「とんでもないことでございます。私こそ殿下にはいつも温情をかけていただいておりますのに、失礼な態度をとり大変申し訳ございませんでした」
すると、背後からアドニスが口を挟む。
「殿下、私がいることもお忘れなく。それに、私は所要で城下から離れていた関係からアルメリアとはしばらく会えていないのですから、少しは殿下にもご配慮いただきたいですね」
それを聞いて、ムスカリは鼻で笑って言った。
「それは自身の実力不足の問題ではないか。私の知ったことではない」
「はいはい、わかりました」
「あら、リカオン。おは……」
「手紙をくださるって仰いましたよね?」
アルメリアは挨拶を遮られるとそう言われ面食らったが、そんな約束をしていたことを思い出すと、すっかり忘れてしまっていたのを申し訳なく思った。
「そうでしたわね、ごめんなさい」
すると、リカオンは困ったように微笑み首を振る。
「違います。お嬢様が約束を違えるなんて珍しいことだったので、もしかして領地で何かあったのかと……。これでも心配したんです」
思わずアルメリアは押し黙ってしまう。確かに色々ありすぎて、自分に余裕がなくて手紙が書けなかったのは確かだった。思わずなんと答えてよいか困ってしまい、苦笑して返した。
そんな様子を見て、リカオンはなにかさっしたのか優しく言った。
「まぁ、とにかく僕としてはこうしてお嬢様が僕のもとへ無事に帰ってきてくれれば、それだけでいいです」
そして、微笑むと胸に手をあてお辞儀をした。
「お嬢様、お帰りなさいませ。長旅ご苦労様でした」
「ただいま、リカオン」
アルメリアがそう答えると、リカオンは手を差し出す。
「さぁ、行きましょう」
優しくされ泣きそうになり、目の奥がぎゅっと痛くなったが、それをこらえて深呼吸すると微笑む。
「ありがとう。行きましょう」
そう言って、差し出されたリカオンの手を取り馬車に乗った。
登城するといつもの見回りをこなし、城内の執務室へ戻ると一通り机の上の書類やメモに目を通す。二週間分を一気に読むと、順次対応できるようにスケジュールの調整をした。
そして、早急に対応せねばならない一ヶ月後に控えている演劇の台本制作に取りかかった。早く仕上げてしまわないと、練習する時間がなくなってしまうので優先順位を先にしたのだ。
演目はもう決めていた。前世の世界ではありきたりだろうが、シンデレラを演じることにした。この世界にはシンデレラという物語は存在していないので、孤児院の子どもたちも見飽きたということはないだろう。
男の子には面白くないかも知れなかったので、コメディ要素を入れるため、主人公はアルメリア以外に演じてもらうことにした。
物語を知っている上に、本当の劇場で演じるわけでもなかったので台本を書くことはそう難しくない。
アルメリアは夢中になって書き、昼食はサンドイッチなどの軽食にしてもらい、食事を食べる間も惜しんで熱中して書き上げた。そうしてなんとか書き上げると、最後に一通り目を通しペルシックに改稿をお願いして午後のアブセンティーの準備をした。
これで今日のアブセンティーで台本を見せることはできなくとも、配役は決めることができるだろう。
ドローイング・ルームへ入ると、ムスカリがすでにソファに座って待っているのに気づき、アルメリアは慌ててカーテシーをした。
「殿下、お久しぶりです」
ムスカリは微笑むと、立ち上がりアルメリアの前に立った。
「アルメリア、本当に久しいね。私は、君の顔を見たい。顔を上げてくれ」
そう言われ、アルメリアがゆっくり顔を上げるとムスカリは手を差し出し熱っぽく見つめた。
「会いたかった。さぁ、ソファに座ろう。そして、君が領地でどんなことをして過ごしたのか話して聞かせてくれ」
当然ムスカリならば、ありとあらゆる方法でアルメリアがヒフラでどのように過ごしたか、調べているに違いなかった。しかし、それだけでは情報不足なため、アルメリア本人にも話を訊いてその内容に違いがないか確認するつもりなのだろう。どこまで知られているかわからず、嘘をつくと逆に立場が悪くなるのはわかっていたので、アウルスのことは伏せてざっと話すことにした。
「我が領地に山賊がいましたので、それに対応してきましたわ。山賊たちは帝国の脱走兵だったようで、帝国に引き渡しました」
「そうか、大変だったのだね。私は君が少しばかり屋敷に籠もっていたと聞いているが、怖い思いをしたのではないのか?」
首を振るとアルメリアは答える。
「山賊たちと対峙して、少し怖い思いもしましたけれど大丈夫でしたわ」
その返答の真意を確かめるように、ムスカリは真剣な眼差しでアルメリアを見つめた。アルメリアは今目をそらしたりしては、変に思われてしまうのではないかとムスカリから目をそらさずじっと見つめ返した。
ムスカリはその様子を見て、ニコリと微笑んだ。
「そうか、なにもなかったんだね。それならよかった」
そうは言ったが、ムスカリはなにかをさっしたようだった。
殿下には嘘はつけそうにない。と、アルメリアは思ったが、すべてを正直に話すわけにはいかないので嘘をつくしかなかった。
そこで背後から声がした。
「アルメリア、本当にお久しぶりです」
振り替えるとそこにアドニスが立っていた。
「アドニス、お久しぶりですわね」
そう言って立ち上がり、アドニスの方へ行こうとするアルメリアの手をムスカリがしっかり掴んで止めた。驚いて振り返って見ると、先ほどと同じく作り笑いをしたままムスカリは言った。
「私の相手をしているのに、どうして他の者の出迎えをする?」
「も、申し訳ありません」
すると、ムスカリは苦笑して答える。
「いや、君を私に釘付けにできていない自分の不甲斐なさが悪いのだ。八つ当たりをして悪かった」
そんな台詞を言わせてしまい申し訳なくなったアルメリアは、慌ててムスカリの隣に座りなおす。
「とんでもないことでございます。私こそ殿下にはいつも温情をかけていただいておりますのに、失礼な態度をとり大変申し訳ございませんでした」
すると、背後からアドニスが口を挟む。
「殿下、私がいることもお忘れなく。それに、私は所要で城下から離れていた関係からアルメリアとはしばらく会えていないのですから、少しは殿下にもご配慮いただきたいですね」
それを聞いて、ムスカリは鼻で笑って言った。
「それは自身の実力不足の問題ではないか。私の知ったことではない」
「はいはい、わかりました」
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