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そう思った瞬間、自分自身でそんな考えを否定する。
「アドリエンヌ、どうしたの?」
そう言ってルシールはアドリエンヌの顔を覗き込んだあと、視線の先にあるカフスボタンに目を止める。
「あら! このイヤリング凄い素敵! サンタマリアアクアマリン? カフスボタンとペアになってるんだ」
そう言うと嬉しそうに言った。
「もしかして、殿下へのプレゼント?」
アドリエンヌは苦笑しながら答える。
「違いますわ。確かに王太子殿下に似合うとは思いましたけれど。それに、こんな安物きっと欲しがらないですわ」
「そんなことないよ! 贈られて喜ばないわけないよ」
「いいえ、殿下はそういう人ですわ」
そう言いながら、前回ペアで買ってプレゼントしたピアスをアレクシが一度もつけてくれなかったことを思い出して、そのカフスボタンを見つめ溜め息をついた。
それに無邪気にアレクシとアドリエンヌのことについて話しているルシールにも、いずれは婚約を破棄したいと思っていることをいつか話さなければならないと思った。
この日はこの後、一緒に新しくできた飲食店へ向かった。
お店はオープンまもなくということもあってかかなり混雑していた。
以前ならこんなに楽しい店だと知らずに庶民的な店に来ることはなかった。だが、今はルシールと行動することでこういった店こそ楽しくて味も良いことをアドリエンヌは学習していた。
「今日は天気がよいですもの、テラス席に座りませんこと?」
「そうね、風が気持ちいいもの。テラス席のほうがいいわよね!」
店員にテラス席を希望し、しばらく待っていると案内される。
「ここは焼き菓子がとても美味しいんですって」
「本当に?! 楽しみですわ!」
そうして注文した焼き菓子とお茶が目の前に運ばれてくるとそれを頬張った。
「とっても美味しいですわ」
「良かった~!」
そうして楽しんでいた時だった。横を一台の馬車が通りすぎたと思うと、その馬車は少し進んだところで止まった。
アドリエンヌが不意にその馬車に書かれている紋章を見ると、それはブロン子爵家の紋章だった。それに気づくと、アドリエンヌは嫌な予感がした。
その馬車をずっと見つめていると、馬車からシャウラが降りてきた。
アドリエンヌは思わず視線を逸らすが、そんなことはお構いなしにシャウラが声をかけてきた。
「こんにちわ、アドリエンヌ様。それに、確かあなたは……」
そう言って話しかけてきたシャウラに、ルシールは慌てて答える。
「こんにちわブロン子爵令嬢。私はルシールと申します」
「そう」
それだけ言うとシャウラはアドリエンヌに向きなおり微笑む。
「アドリエンヌ様、あなたは公爵令嬢ですわ。魔法が得意でないからって、こんな庶民の店でお茶をいただくなんて自身を自ら貶めるようなことをしなくてもよろしいんではないでしょうか。馬車で通りかかってアドリエンヌ様をこんなところで見つけて私本当に驚きましたわ」
アドリエンヌはムッとした。自分のことはどう言われてもかまわないが、遠回しにこの店を見下したように言われた気がして許せなかった。
それに、貶めると言うがそんなふうにしか考えられないことの方が貧しいことだと今は理解していた。
「聞き捨てなりませんわね。あなた、馬鹿にしてますの? 『自身を自ら貶める』ですって? それは今のあなたの言動にこそあてはまりますわ」
シャウラは悲しそうな顔をした。
「アドリエンヌ様、魔法があまり得意ではないと卑下していますの? でも、アドリエンヌ様なら本当は魔法をもっと上手に扱えるはずですわ。護衛の腕しだいで。自身で特訓しなくてもいいんですもの」
そう言うとクスクスと笑った。暗にアドリエンヌが自分で魔法を使っていないのだろうと脅しているのだろう。
アドリエンヌはムッとして立ち上がり、腕を組むとシャウラを蔑むように見つめながら言った。
「どういう意味かしら、貴女何がい言いたいの? それに、とても酷い言い方ですわ。私にもルシールにも謝ってちょうだい」
「アドリエンヌ、私は気にしてないわ」
ルシールが申し訳なさそうにそう言ったが、アドリエンヌは気が済まなかった。
「いいえ、ルシールが良くても私が許せませんわ」
するとシャウラはオーバーに怯えて見せた。
「こわーい。アドリエンヌ様、酷いですわ~。私はアドリエンヌ様のことを思って忠告してますのに。あまりに怖くて、私殿下に本当のことを話してしまうかも知れませんわ」
「は? なにを? 意味がわかりませんわ。勝手にすればよろしいのではなくて?」
アドリエンヌがそう答えると、シャウラは微笑んだ。
「アドリエンヌ様、冗談ですわ。私アドリエンヌ様と秘密を共有することで、特別な絆を感じてますの。それをおいそれと他人に言うわけありませんわ。それに、アドリエンヌ様が本当に楽しんでいるなら、私それに対して文句を言うつもりはありませんの。身分に関係なく、アドリエンヌ様にはここがお似合いということですものね。では、ごきげんようルシール、アドリエンヌ様」
そう言ってシャウラは一礼すると馬車に戻っていった。ルシールは不思議そうにアドリエンヌを見つめた。
「シャウラ様となにかあったの?」
アドリエンヌは困った顔で答える。
「いいえ、なにもありませんわ。実は私も、シャウラの言っていることがよくわかりませんの」
そう答えて苦笑し、椅子に座ると気を取り直して焼き菓子を頬張った。
「この焼き菓子本当に美味しいですわ。お土産で買って帰りましょう」
そう言って微笑んだ。
そうしてなぜかシャウラに絡まれることもあったが、アドリエンヌは適当に受け流しながらルシールと学園生活を楽しんでいた。
そうして課題に向けてルシールと特訓を重ね、いよいよテスト当日となった。
「アドリエンヌ、どうしたの?」
そう言ってルシールはアドリエンヌの顔を覗き込んだあと、視線の先にあるカフスボタンに目を止める。
「あら! このイヤリング凄い素敵! サンタマリアアクアマリン? カフスボタンとペアになってるんだ」
そう言うと嬉しそうに言った。
「もしかして、殿下へのプレゼント?」
アドリエンヌは苦笑しながら答える。
「違いますわ。確かに王太子殿下に似合うとは思いましたけれど。それに、こんな安物きっと欲しがらないですわ」
「そんなことないよ! 贈られて喜ばないわけないよ」
「いいえ、殿下はそういう人ですわ」
そう言いながら、前回ペアで買ってプレゼントしたピアスをアレクシが一度もつけてくれなかったことを思い出して、そのカフスボタンを見つめ溜め息をついた。
それに無邪気にアレクシとアドリエンヌのことについて話しているルシールにも、いずれは婚約を破棄したいと思っていることをいつか話さなければならないと思った。
この日はこの後、一緒に新しくできた飲食店へ向かった。
お店はオープンまもなくということもあってかかなり混雑していた。
以前ならこんなに楽しい店だと知らずに庶民的な店に来ることはなかった。だが、今はルシールと行動することでこういった店こそ楽しくて味も良いことをアドリエンヌは学習していた。
「今日は天気がよいですもの、テラス席に座りませんこと?」
「そうね、風が気持ちいいもの。テラス席のほうがいいわよね!」
店員にテラス席を希望し、しばらく待っていると案内される。
「ここは焼き菓子がとても美味しいんですって」
「本当に?! 楽しみですわ!」
そうして注文した焼き菓子とお茶が目の前に運ばれてくるとそれを頬張った。
「とっても美味しいですわ」
「良かった~!」
そうして楽しんでいた時だった。横を一台の馬車が通りすぎたと思うと、その馬車は少し進んだところで止まった。
アドリエンヌが不意にその馬車に書かれている紋章を見ると、それはブロン子爵家の紋章だった。それに気づくと、アドリエンヌは嫌な予感がした。
その馬車をずっと見つめていると、馬車からシャウラが降りてきた。
アドリエンヌは思わず視線を逸らすが、そんなことはお構いなしにシャウラが声をかけてきた。
「こんにちわ、アドリエンヌ様。それに、確かあなたは……」
そう言って話しかけてきたシャウラに、ルシールは慌てて答える。
「こんにちわブロン子爵令嬢。私はルシールと申します」
「そう」
それだけ言うとシャウラはアドリエンヌに向きなおり微笑む。
「アドリエンヌ様、あなたは公爵令嬢ですわ。魔法が得意でないからって、こんな庶民の店でお茶をいただくなんて自身を自ら貶めるようなことをしなくてもよろしいんではないでしょうか。馬車で通りかかってアドリエンヌ様をこんなところで見つけて私本当に驚きましたわ」
アドリエンヌはムッとした。自分のことはどう言われてもかまわないが、遠回しにこの店を見下したように言われた気がして許せなかった。
それに、貶めると言うがそんなふうにしか考えられないことの方が貧しいことだと今は理解していた。
「聞き捨てなりませんわね。あなた、馬鹿にしてますの? 『自身を自ら貶める』ですって? それは今のあなたの言動にこそあてはまりますわ」
シャウラは悲しそうな顔をした。
「アドリエンヌ様、魔法があまり得意ではないと卑下していますの? でも、アドリエンヌ様なら本当は魔法をもっと上手に扱えるはずですわ。護衛の腕しだいで。自身で特訓しなくてもいいんですもの」
そう言うとクスクスと笑った。暗にアドリエンヌが自分で魔法を使っていないのだろうと脅しているのだろう。
アドリエンヌはムッとして立ち上がり、腕を組むとシャウラを蔑むように見つめながら言った。
「どういう意味かしら、貴女何がい言いたいの? それに、とても酷い言い方ですわ。私にもルシールにも謝ってちょうだい」
「アドリエンヌ、私は気にしてないわ」
ルシールが申し訳なさそうにそう言ったが、アドリエンヌは気が済まなかった。
「いいえ、ルシールが良くても私が許せませんわ」
するとシャウラはオーバーに怯えて見せた。
「こわーい。アドリエンヌ様、酷いですわ~。私はアドリエンヌ様のことを思って忠告してますのに。あまりに怖くて、私殿下に本当のことを話してしまうかも知れませんわ」
「は? なにを? 意味がわかりませんわ。勝手にすればよろしいのではなくて?」
アドリエンヌがそう答えると、シャウラは微笑んだ。
「アドリエンヌ様、冗談ですわ。私アドリエンヌ様と秘密を共有することで、特別な絆を感じてますの。それをおいそれと他人に言うわけありませんわ。それに、アドリエンヌ様が本当に楽しんでいるなら、私それに対して文句を言うつもりはありませんの。身分に関係なく、アドリエンヌ様にはここがお似合いということですものね。では、ごきげんようルシール、アドリエンヌ様」
そう言ってシャウラは一礼すると馬車に戻っていった。ルシールは不思議そうにアドリエンヌを見つめた。
「シャウラ様となにかあったの?」
アドリエンヌは困った顔で答える。
「いいえ、なにもありませんわ。実は私も、シャウラの言っていることがよくわかりませんの」
そう答えて苦笑し、椅子に座ると気を取り直して焼き菓子を頬張った。
「この焼き菓子本当に美味しいですわ。お土産で買って帰りましょう」
そう言って微笑んだ。
そうしてなぜかシャウラに絡まれることもあったが、アドリエンヌは適当に受け流しながらルシールと学園生活を楽しんでいた。
そうして課題に向けてルシールと特訓を重ね、いよいよテスト当日となった。
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