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それは願ってもないことだったが、一つ問題があった。実力に差があるので、そこのバランスをどう取るかということだ。
アドリエンヌが不安そうなルシールを見つめていると、それを見たエメが言った。
「課題までまだ時間があります。ちゃんとそれまでサポート致します。それがチームになるということでしょう?」
それを聞いてアドリエンヌはルシールの手を取り見つめた。
「ルシール、私努力しますわ。手伝ってくださる?」
ルシールははっとしてアドリエンヌを見つめ返す。
「そんな、私こそ頑張ります!」
すると、無表情のままアトラスが言った。
「交渉成立だな。課題まで時間があるとはいえ、君たちはこの前のテストで二十八位だったろ? 早いところ訓練を始めよう。私もできるだけフォローする」
無表情で無愛想だが、アトラスは結構面倒見の良い人物なのかもしれないと思いながらアドリエンヌは微笑んだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
その時視線を感じそちらを見ると、アレクシがこちらを見つめていた。
私がチームを組もうと言うとでも思ったのかしら? もうそんな心配はありませんのに。
そう思い、アレクシに微笑んで返すとアレクシは目を逸らした。
なんなのよ!
アドリエンヌは心の中でそう呟くと気にしないようにした。
この日からアトラスとエメはアドリエンヌとルシールの特訓に付き合ってくれた。時々アトラスが強い言葉でルシールを責めることもあった。
アトラスはルシールを見つめ、ため息をつくと呟く。
「そうじゃない」
「アトラス様、ごめんなさい」
ルシールが恐縮してそう答えると、そこへアドリエンヌが割って入った。
「アトラス、貴方が優秀なのはわかっていますわ。でも私だって、これでも精一杯頑張ってますの! それにそんなに簡単に誰でもできるなら、学園なんて必要ありませんでしょう?!」
するとアトラスは少し怯んだあとに言う。
「別に責めたいわけじゃないんだ、申し訳なかった」
そこでエメが仲裁するように言った。
「アドリエンヌ、アトラスも言い方が悪かったけれどそんなに責めないであげて欲しい」
「わかってますわ。私もアトラスに言い過ぎですわね。アトラスが一生懸命教えてくださってるのは知ってますもの」
すると今度はアトラスが申し訳なさそうに言った。
「すまない。アドリエンヌ、ありがとう」
アトラスはそう言うとアドリエンヌをじっと見つめた。アドリエンヌはその視線に気づくと微笑み返す。
そんなふうに揉めても最終的には仲直りし、なかなか上手くやっていた。
こうしてぶつかり合いながらも一緒に特訓をするようになってから、アドリエンヌたちとエメたちは学園内で特訓以外でも一緒に行動することが増えていった。
だが、流石にアドリエンヌとルシールが帰りにお茶をしに行くのには、エメもアトラスもついてはこなかった。
そんなある日、いつものようにアドリエンヌはルシールを誘う。
「今日も訓練が終わったら城下町へお茶を飲みに行きませんこと?」
それに初めてエメが反応した。
「いいね。僕も行ってみたいんだけど、ダメかな?」
それに一番驚いたのはルシールだった。
「で、でも貴族の方が行くような場所ではありません!」
それに思わずアドリエンヌは異を唱える。
「あら、ルシール。私も一応貴族令嬢ですけれど?」
「えっ? あっ、そうだった」
そうルシールが答えると、四人して声を出して笑った。ひとしきり笑い合うとアドリエンヌは言った。
「貴族なんて関係ありませんわ。それにみんなで行ったらきっと楽しいはずよ?」
エメは頷く。
「じゃあ決まりだね。アトラス、君はどうする?」
アトラスはしばらく考えたあと答えた。
「今日はどうしても外せない用事があるんだ。また今度絶対に誘ってほしい」
「そうなんですの? じゃあまた今度」
正直硬派のアトラスがみんなでお茶をするなんて想像もつかなかったので、断られて当然だろうと思った。
こうしていつも行っているララのお店に三人で行く事になった。
アドリエンヌはここのお店の焼き菓子をとても気に入っていて、お土産で持ち帰り屋敷のコックに再現させようとしたが、やはりまったく同じ味を再現することはできなかった。
「アドリエンヌは本当にここの焼き菓子が好きよね」
「だって、本当に美味しいんですもの」
「そんなに美味しいのですか? それは楽しみだな」
そんな話をしながらいつものようにテラス席に座り、注文した焼き菓子とお茶が運ばれて来るのを待っていた。
「あら、今日はエメ様もご一緒ですのね」
背後からの声に振り向くと、シャウラが立っていた。
またでた!
そう思いながらアドリエンヌは作り笑顔をして見せた。
「こんにちは、シャウラ様」
「こんにちはアドリエンヌ様、エメ様、それとルシールさん。今日の特訓はもう終わりましたの?」
軽く会釈すると、エメが答える。
「えぇ。それでたまには息抜きを、と」
「そうですの、いいですわね。それに、アドリエンヌ様は特訓なんてしなくても、護衛のドミニクがいれば問題ありませんものねぇ。余裕ですわよね」
脅しのつもりだろうか。アドリエンヌはムカムカしながら答える。
「ドミニク? なぜドミニクが出てくるのかしら? 護衛は課題に関係ありませんでしょう? それに私が多少足を引っ張っても、エメやルシール、アトラスがフォローしてくださってるし、指導もとても上手ですもの。だいぶ助けられているし問題ありませんわ」
そこでエメが口を挟んだ。
「いや、アドリエンヌ。君たちはたいしたものだと思いますよ。この短期間にあれだけの上達を見せるのは凄いことですから。それにアドリエンヌには僕も学ぶことが多い」
アドリエンヌは少し恥ずかしく思いながら答える。
「そんな、エメやアトラスが教えてくれることの方が多いですわ」
するとエメは苦笑する。
「君は自然と素晴らしい行いをしている。自覚なしにね。それが凄いんですよ」
そう語るエメの横でルシールも頷く。
そんな様子を見てシャウラは急に不貞腐れた顔をした。
「あら、そうですの。楽しそうで良かったですわ。じゃあ私お邪魔みたいですから失礼致しますわね」
そして、立ち去ろうとしたが突然足を止めるとアドリエンヌに耳打ちした。
「まだ、お仲間にはばれてませんのね。ホッとしましたわ」
そう言うと微笑んで戻っていった。その様子を見ていたエメが不思議そうにアドリエンヌに訊いた。
「君たちの間にはなにかあるのですか?」
「いいえ、特には。彼女なにか誤解をしているみたいなんですの」
「そうなんですね。ところで、ブロン子爵令嬢は今度の課題、王太子殿下とたった二人でチームを組むようだけれどアドリエンヌ、君は気にならないのですか?」
アドリエンヌはそう言われて少し考えて答える。
「えぇ、本当に凄いですわよね。課題にたった二人で挑戦するだなんて」
するとルシールが苦笑しながらアドリエンヌに言った。
「アドリエンヌ、そうじゃなくてエメは婚約者が他の女性と二人きりで組むことについて訊いているのではないかしら?」
エメはルシールの方を見ると微笑んだ。
「ルシール、捕捉をありがとう」
「いいえ」
そこでアドリエンヌはハッとした。
「そう言うことですのね?! ごめんなさい気づかなくて」
アドリエンヌが不安そうなルシールを見つめていると、それを見たエメが言った。
「課題までまだ時間があります。ちゃんとそれまでサポート致します。それがチームになるということでしょう?」
それを聞いてアドリエンヌはルシールの手を取り見つめた。
「ルシール、私努力しますわ。手伝ってくださる?」
ルシールははっとしてアドリエンヌを見つめ返す。
「そんな、私こそ頑張ります!」
すると、無表情のままアトラスが言った。
「交渉成立だな。課題まで時間があるとはいえ、君たちはこの前のテストで二十八位だったろ? 早いところ訓練を始めよう。私もできるだけフォローする」
無表情で無愛想だが、アトラスは結構面倒見の良い人物なのかもしれないと思いながらアドリエンヌは微笑んだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
その時視線を感じそちらを見ると、アレクシがこちらを見つめていた。
私がチームを組もうと言うとでも思ったのかしら? もうそんな心配はありませんのに。
そう思い、アレクシに微笑んで返すとアレクシは目を逸らした。
なんなのよ!
アドリエンヌは心の中でそう呟くと気にしないようにした。
この日からアトラスとエメはアドリエンヌとルシールの特訓に付き合ってくれた。時々アトラスが強い言葉でルシールを責めることもあった。
アトラスはルシールを見つめ、ため息をつくと呟く。
「そうじゃない」
「アトラス様、ごめんなさい」
ルシールが恐縮してそう答えると、そこへアドリエンヌが割って入った。
「アトラス、貴方が優秀なのはわかっていますわ。でも私だって、これでも精一杯頑張ってますの! それにそんなに簡単に誰でもできるなら、学園なんて必要ありませんでしょう?!」
するとアトラスは少し怯んだあとに言う。
「別に責めたいわけじゃないんだ、申し訳なかった」
そこでエメが仲裁するように言った。
「アドリエンヌ、アトラスも言い方が悪かったけれどそんなに責めないであげて欲しい」
「わかってますわ。私もアトラスに言い過ぎですわね。アトラスが一生懸命教えてくださってるのは知ってますもの」
すると今度はアトラスが申し訳なさそうに言った。
「すまない。アドリエンヌ、ありがとう」
アトラスはそう言うとアドリエンヌをじっと見つめた。アドリエンヌはその視線に気づくと微笑み返す。
そんなふうに揉めても最終的には仲直りし、なかなか上手くやっていた。
こうしてぶつかり合いながらも一緒に特訓をするようになってから、アドリエンヌたちとエメたちは学園内で特訓以外でも一緒に行動することが増えていった。
だが、流石にアドリエンヌとルシールが帰りにお茶をしに行くのには、エメもアトラスもついてはこなかった。
そんなある日、いつものようにアドリエンヌはルシールを誘う。
「今日も訓練が終わったら城下町へお茶を飲みに行きませんこと?」
それに初めてエメが反応した。
「いいね。僕も行ってみたいんだけど、ダメかな?」
それに一番驚いたのはルシールだった。
「で、でも貴族の方が行くような場所ではありません!」
それに思わずアドリエンヌは異を唱える。
「あら、ルシール。私も一応貴族令嬢ですけれど?」
「えっ? あっ、そうだった」
そうルシールが答えると、四人して声を出して笑った。ひとしきり笑い合うとアドリエンヌは言った。
「貴族なんて関係ありませんわ。それにみんなで行ったらきっと楽しいはずよ?」
エメは頷く。
「じゃあ決まりだね。アトラス、君はどうする?」
アトラスはしばらく考えたあと答えた。
「今日はどうしても外せない用事があるんだ。また今度絶対に誘ってほしい」
「そうなんですの? じゃあまた今度」
正直硬派のアトラスがみんなでお茶をするなんて想像もつかなかったので、断られて当然だろうと思った。
こうしていつも行っているララのお店に三人で行く事になった。
アドリエンヌはここのお店の焼き菓子をとても気に入っていて、お土産で持ち帰り屋敷のコックに再現させようとしたが、やはりまったく同じ味を再現することはできなかった。
「アドリエンヌは本当にここの焼き菓子が好きよね」
「だって、本当に美味しいんですもの」
「そんなに美味しいのですか? それは楽しみだな」
そんな話をしながらいつものようにテラス席に座り、注文した焼き菓子とお茶が運ばれて来るのを待っていた。
「あら、今日はエメ様もご一緒ですのね」
背後からの声に振り向くと、シャウラが立っていた。
またでた!
そう思いながらアドリエンヌは作り笑顔をして見せた。
「こんにちは、シャウラ様」
「こんにちはアドリエンヌ様、エメ様、それとルシールさん。今日の特訓はもう終わりましたの?」
軽く会釈すると、エメが答える。
「えぇ。それでたまには息抜きを、と」
「そうですの、いいですわね。それに、アドリエンヌ様は特訓なんてしなくても、護衛のドミニクがいれば問題ありませんものねぇ。余裕ですわよね」
脅しのつもりだろうか。アドリエンヌはムカムカしながら答える。
「ドミニク? なぜドミニクが出てくるのかしら? 護衛は課題に関係ありませんでしょう? それに私が多少足を引っ張っても、エメやルシール、アトラスがフォローしてくださってるし、指導もとても上手ですもの。だいぶ助けられているし問題ありませんわ」
そこでエメが口を挟んだ。
「いや、アドリエンヌ。君たちはたいしたものだと思いますよ。この短期間にあれだけの上達を見せるのは凄いことですから。それにアドリエンヌには僕も学ぶことが多い」
アドリエンヌは少し恥ずかしく思いながら答える。
「そんな、エメやアトラスが教えてくれることの方が多いですわ」
するとエメは苦笑する。
「君は自然と素晴らしい行いをしている。自覚なしにね。それが凄いんですよ」
そう語るエメの横でルシールも頷く。
そんな様子を見てシャウラは急に不貞腐れた顔をした。
「あら、そうですの。楽しそうで良かったですわ。じゃあ私お邪魔みたいですから失礼致しますわね」
そして、立ち去ろうとしたが突然足を止めるとアドリエンヌに耳打ちした。
「まだ、お仲間にはばれてませんのね。ホッとしましたわ」
そう言うと微笑んで戻っていった。その様子を見ていたエメが不思議そうにアドリエンヌに訊いた。
「君たちの間にはなにかあるのですか?」
「いいえ、特には。彼女なにか誤解をしているみたいなんですの」
「そうなんですね。ところで、ブロン子爵令嬢は今度の課題、王太子殿下とたった二人でチームを組むようだけれどアドリエンヌ、君は気にならないのですか?」
アドリエンヌはそう言われて少し考えて答える。
「えぇ、本当に凄いですわよね。課題にたった二人で挑戦するだなんて」
するとルシールが苦笑しながらアドリエンヌに言った。
「アドリエンヌ、そうじゃなくてエメは婚約者が他の女性と二人きりで組むことについて訊いているのではないかしら?」
エメはルシールの方を見ると微笑んだ。
「ルシール、捕捉をありがとう」
「いいえ」
そこでアドリエンヌはハッとした。
「そう言うことですのね?! ごめんなさい気づかなくて」
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