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 教師たちと学園に戻ると改めて何があったのかを報告し、エメは刻印の入った石を提出した。

 教師たちの話ではある程度出現するモンスターの種類と数は調整されているそうで、アドリエンヌたちが歩いている場所にはモンスターが配置されていないはずだった。

 捕捉外の場所へデビルドラゴンが降って湧いたように出現したため、すぐに対応することができなかったとのことだった。

 護衛たちが足止めされていたことといい、なにか意図的なものを感じたがそこについては特に言及はなくこれから調べるのだろうと思った。

 事情説明から解放されたあと、色々あって疲れてしまったアドリエンヌたちは早々に屋敷に戻った。

「お嬢様、今日は大変でしたね」

わたくしより、ドミニクの方が大変だったと思うわ。ね、ドミニク」

 そう言ってドミニクに話をふると、ドミニクは苦笑して答える。

「確かに、ある意味そうかもしれません。では、私はこれで下がらせていただきます」

「そうね、ゆっくり休んで」

 アドリエンヌは嘘をつかせていることを申し訳なく思いながらドミニクの背中を見送ると、エミリアに向きなおり父親の予定を尋ねた。

「今日はお父様は?」

「はい、旦那様は今日は朝から狩りにでかけていらして帰りは遅くなるとのことでした」

「そう、なら今日は早めに休むから夕食は軽めのものを部屋に持ってきてちょうだい」

「はい、承知しました」

 そうして部屋で夕食をすませると、早々に寝台へ潜り込んだ。

 しばらく森は閉鎖と言っていたからもしも、もう一度課題をやり直しと言われてもそれが解除された後になるだろう。

 それまでは特訓をして……。

 そんなことを考えていたら、あっという間に眠りに落ちていた。

「おい、起きろ! おい! 起きないか!!」

 その声と共に、頬になにやら柔らかな物が触れる感触がして、アドリエンヌは重い瞼を開けた。すると、アドリエンヌの寝台に前足をかけて顔を覗き込む大きな獣がいた。

 アドリエンヌは自分が夢でも見ているのかと、しばらくその獣と見つめ合う。

「まだ寝ぼけているのか? 頭の悪そうな娘だ」

 獣は確かにそう言った。アドリエンヌは驚きパニックを起こしそうになったが、こんなことはあり得ないことだったので夢なのだろうと急に冷静になった。

 そうなると、落ち着いてその獣を観察することができた。暗闇で良く見えないが、その獣は真っ白い獅子のように見えた。

 モンスターだとしたらキメラかもしれない。そんなことを考えながら、その獣を撫でた。

「良く見ると、猫みたいで可愛いわね」

 そう言って獣を撫で続けていると、獣はその手を振り払った。

「気安く触るな! とにかく目覚めたなら、私の話を聞け」

「いや!」

「は?」

「だから、いやと言ったの」

「なんだと? お前、誰に向かってものを言っている」

「誰に? 誰にってわたくしの白い可愛い子猫ちゃんによ。一緒に寝ましょ。リオン……ブランカ……」

 そう言って寝返りを打ち背中を向けると、もう一度眠りに付いた。

 翌朝、目が覚めて思い切り伸びをすると昨日は変な夢を見たとしばらくぼんやり夢の内容を思い出していた。

「変な夢でしたわ。あんな精霊いたかしら?」

「夢ではない! お前、私をこのような姿に変えるとは!」

 その声に驚いて横を見ると、そこには真っ白な毛を逆立て「やんのか? こら」と、言わんばかりのポーズを取っている子猫がいた。

「なにこの子、凄く可愛いですわ! やんのかステップなんかしちゃって。大丈夫ですわ、恐くありませんよ~、どこから来たのかしら?」

 そう言って撫でようとするアドリエンヌの手に子猫はパンチした。

「やだ、猫パンチも可愛い!」

「可愛いではない!!」

「ひっ! 子猫がしゃべった!」

「だから私は子猫ではないと言っているだろう。私はこの世界の神の眷属だ。それを、このような姿に変えるなどあり得ん行為だ。貴様が神の子でなければ、すぐにでもはふっているものを、まったく忌々しい」

「姿を変えた? もしかしてあなた、昨夜夢に出てきた獅子ですの?」

「夢ではない。お前が私をこの姿に変えて寝てしまったのだ。まったく、さっしの悪い娘だ」

「変えた記憶はありませんわ。え? ちょっと待ってくださらない?! さっきわたくしが神の子だって言いまして?!」

「なんだ、自分が神の子だと言うことも知らんのか。お前は我らが主から特別に力をもらっただろう」

 まさか、あの時の?

 アドリエンヌは時間を逆行する直前のことを思い出す。

「でも、あれが本当に神だったのだとしても、そんな神の子だなんて大層な感じの話ではありませんでしたわ。確か『退屈しのぎで魔法を使えるようにしてやる』みたいなことを言われただけですもの」

「ふん! これだから人間は浅はかだと言われるのだ。いいか、よく聞け小娘。主がやることに意味のないことはない。たとえそれが気まぐれであってもな」

 そんなこと言われても、とアドリエンヌは困惑した。

「それで、その神の眷属であるあなたがなぜ私のところへ?」

「興味があった」

「はい?」

「だから、主から力をもらったお前がこれからどうするのか興味があったからな、見届けに来た」

「それって、ただの冷やかしですわよね?」

 冷ややな目付きで見つめていると、子猫は罰が悪そうに付け加える。

「そ、それだけが理由ではない。お前は我々と同じく神の眷属となったのだから、変な行動を取らないか見張る必要もある」

 とんでもないことを次から次に言われているが、すでに一度死にかけて時間を逆行するという体験をしたり、とてつもない力を手に入れているのだからアドリエンヌはこれ以上なにを聞いても驚かずに冷静に聞いていられた。

「それはわかりましたわ。それでもわたくしはただの人間に変わりありませんの。だから神の子と言われても、じゃあこれから神の子としてなにかを成し遂げよう!! なんて考えられませんし、崇高な目標も持てませんわ。わたくしは、ただ幸せに暮らせればそれでいいんですの」

 すると子猫は満足そうに言った。

「お前はそれで構わない。生きたいように自分の使いたいようにその力を使えばいい」

「でも、あなたはさっきわたくしを見張るって……」

「そうだ、それもまた私の意思であり主の意思だからな、それをとやかく言う権利はお前にはない。そういうことだ」
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