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こうして謎は残ったが、アドリエンヌたちは卒業式でのあの一件から何事もなく平和に過ごしていた。
アトラスは公爵の跡継ぎとして騎士団に入隊、ルシールはレディの称号を国王から賜り、アドリエンヌの話し相手として雇われることになった。そして、エメは跡継ぎとして領地へもどり頑張っている。
カミーユは自分の意思ではなかったとはいえ、ワーストのころの自分の行いが許せないと自身の罪を贖うために教会で牧師となった。
シャウラとブロン子爵だが、極刑であることは決定していたが処刑の日が先延ばしになっていた。それがやっと決まった。
取り調べに時間がかかり、それが済むまで処刑することができなかったからだ。だが、処刑日が決まったと知らされたアドリエンヌは、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
ところが処刑前日、シャウラが突然隠し持っていた結晶のようなものを飲み込み、姿を消すという事件が起きた。
当初、見張り役はシャウラが毒を飲んだと思い込み、処刑前に死なれては困るのでそれを吐かせるため慌てて医者を呼びに行ったそうだ。
その間に忽然とシャウラが消えてしまったとのことだった。
王宮では騎士団の騎士たちが、山狩りを行い徹底的に捜索したが見つからなかった。
アドリエンヌはアレクシと話した時に思い浮かんだ一つの可能性、あれが現実になったのではないかと思った。
シャウラは瘴気結晶から力を引き出すことができた。だから結晶を体内に入れそこから力を引き出して三百年前に飛んだのだろう。
それに気づいた今、アドリエンヌがそれを止めればこの世界の歴史が変わってしまうかもしれない。
そう考えると、過去へ行ってシャウラを止めてよいものなのか迷った。
だが、結局このまま見過ごすことはできないと考え、誰にも言わずに一人でシャウラの痕跡を辿り追いかけることにした。
シャウラは思っていたとおり三百年前に飛んでいた。
アドリエンヌ自身は時間を巻き戻すことができるが、流石にシャウラは禁術を用いても時を巻き戻すことはできず、三百年前に飛ぶことしかできなかったようだった。
アドリエンヌはシャウラを見つけると、その前に立ちはだかる。
「シャウラ、ワーストを産み出すなんて許しませんわ!」
シャウラは目を見開くとアドリエンヌを見つめ、追いかけて来たと知って怒りを露にして叫んだ。
「こんなところまで追いかけてくるなんて、あんたなんなのよ! あんただけは許さないから。そうよ、あんたに呪いをかけてあげる!!」
シャウラはそう言ってアドリエンヌに呪術をかけようとした。
だが、アドリエンヌはその前にシャウラが飲み込んだ瘴気の結晶やシャウラ自身を浄化し、自分の時代の牢獄へ飛ばした。
これで今まで瘴気結晶から力を得ていたシャウラは、なんの力も持たない平凡な令嬢へと戻っただろう。
アドリエンヌはシャウラに会いたくないばかりに、関わりを持たないようにしていたせいで今まで浄化しなかったことを少し後悔した。
そして、ある一抹の不安を覚える。歴史を変えてしまったかも知れない。
そう思いながら、恐る恐る自分ももとの時間に戻ると、そこにはなにも変わっていない日常がアドリエンヌをまっていて、ほっと胸を撫で下ろした。
処刑を予定していた当日に、消えた時同様にシャウラが現れそれはそれで少し騒ぎになったが、予定の変更はなくシャウラとブロン子爵とその支持者たちの刑は執行されることとになった。
もちろんアドリエンヌは見に行かなかった。
後日、アドリエンヌは対面に座り優雅にお茶を飲んでいるアレクシに思わず質問する。
「アレクシ殿下、ワーストはいましたわよね?」
アレクシは不思議そうにアドリエンヌに答える。
「確かにいたが、君が浄化した」
「そうですわよね」
そんなアドリエンヌの様子を見てアレクシは心配そうに言った。
「なにかあったのか? もしかしてこの前のシャウラの失踪と関係があるんじゃないのか?」
そう聞かれて、アドリエンヌは三百年前に飛んで自分がやったことを正直にアレクシに話した。
アレクシは少し悲しそうに微笑んだ。
「正直に言えば、行動を起こす前に少しでも相談して欲しかった」
「ごめんなさい」
「いや、君を攻めるつもりはないよ。ただ自分が不甲斐ないだけだ」
そう答えると苦笑した。そして、なにかに気づいたかのように言った。
「では、あの書物は過去に飛んだシャウラが未来の自分のために書いたものだったのだな」
「そのようですわ。でも、私がシャウラを見つけたとき、かなり瘴気に汚染されていてあんな呪術を使えば死んでしまってもおかしくない状態でしたわ」
「そうか、書物に書き記しどこかへ封印し、最後の力を振り絞ってカミーユに呪術をかけたということか」
そう答えると、少し考えてから話し始める。
「なぜ歴史が変わらなかったのかだが、王宮にある特別な書物の中に時間と空間についての書物がある。それによると世界は同じような世界がたくさんあるらしい。そして、時間を越える魔法を使うと自分のいる世界ではなく、まったくそっくりのもう一つの世界に行くそうだ」
「それ、どこかで読んだ記憶がありますわ。確か平行世界とか……」
「そうだ、それだ。君が行ったのはその平行世界なのではないか?」
それを聞いてアドリエンヌは納得する。
「そういうことでしたのね。私、今のこの世界をとても気に入ってますの。カミーユ様には申し訳ありませんけれど、歴史が変わってしまわなくてよかったですわ」
アレクシは優しい眼差しでそんなアドリエンヌを見つめると、しばらくしてから顔を覗き込む。
「不安はなくなったか?」
「ありがとうございます。不安はなくなりましたわ」
そう答えるとアレクシを見つめ返す。そして思う。自分はこの世界の今のアレクシが好きだ。
そう思った瞬間それを口に出していた。
「アレクシ殿下、私あなたのことが好きですわ」
するとアレクシは動きを止めてアドリエンヌの顔を見つめる。
「それは本当か?」
アドリエンヌが頷くと、アレクシは囁く。
「私もずっと昔から君を愛している……」
アトラスは公爵の跡継ぎとして騎士団に入隊、ルシールはレディの称号を国王から賜り、アドリエンヌの話し相手として雇われることになった。そして、エメは跡継ぎとして領地へもどり頑張っている。
カミーユは自分の意思ではなかったとはいえ、ワーストのころの自分の行いが許せないと自身の罪を贖うために教会で牧師となった。
シャウラとブロン子爵だが、極刑であることは決定していたが処刑の日が先延ばしになっていた。それがやっと決まった。
取り調べに時間がかかり、それが済むまで処刑することができなかったからだ。だが、処刑日が決まったと知らされたアドリエンヌは、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
ところが処刑前日、シャウラが突然隠し持っていた結晶のようなものを飲み込み、姿を消すという事件が起きた。
当初、見張り役はシャウラが毒を飲んだと思い込み、処刑前に死なれては困るのでそれを吐かせるため慌てて医者を呼びに行ったそうだ。
その間に忽然とシャウラが消えてしまったとのことだった。
王宮では騎士団の騎士たちが、山狩りを行い徹底的に捜索したが見つからなかった。
アドリエンヌはアレクシと話した時に思い浮かんだ一つの可能性、あれが現実になったのではないかと思った。
シャウラは瘴気結晶から力を引き出すことができた。だから結晶を体内に入れそこから力を引き出して三百年前に飛んだのだろう。
それに気づいた今、アドリエンヌがそれを止めればこの世界の歴史が変わってしまうかもしれない。
そう考えると、過去へ行ってシャウラを止めてよいものなのか迷った。
だが、結局このまま見過ごすことはできないと考え、誰にも言わずに一人でシャウラの痕跡を辿り追いかけることにした。
シャウラは思っていたとおり三百年前に飛んでいた。
アドリエンヌ自身は時間を巻き戻すことができるが、流石にシャウラは禁術を用いても時を巻き戻すことはできず、三百年前に飛ぶことしかできなかったようだった。
アドリエンヌはシャウラを見つけると、その前に立ちはだかる。
「シャウラ、ワーストを産み出すなんて許しませんわ!」
シャウラは目を見開くとアドリエンヌを見つめ、追いかけて来たと知って怒りを露にして叫んだ。
「こんなところまで追いかけてくるなんて、あんたなんなのよ! あんただけは許さないから。そうよ、あんたに呪いをかけてあげる!!」
シャウラはそう言ってアドリエンヌに呪術をかけようとした。
だが、アドリエンヌはその前にシャウラが飲み込んだ瘴気の結晶やシャウラ自身を浄化し、自分の時代の牢獄へ飛ばした。
これで今まで瘴気結晶から力を得ていたシャウラは、なんの力も持たない平凡な令嬢へと戻っただろう。
アドリエンヌはシャウラに会いたくないばかりに、関わりを持たないようにしていたせいで今まで浄化しなかったことを少し後悔した。
そして、ある一抹の不安を覚える。歴史を変えてしまったかも知れない。
そう思いながら、恐る恐る自分ももとの時間に戻ると、そこにはなにも変わっていない日常がアドリエンヌをまっていて、ほっと胸を撫で下ろした。
処刑を予定していた当日に、消えた時同様にシャウラが現れそれはそれで少し騒ぎになったが、予定の変更はなくシャウラとブロン子爵とその支持者たちの刑は執行されることとになった。
もちろんアドリエンヌは見に行かなかった。
後日、アドリエンヌは対面に座り優雅にお茶を飲んでいるアレクシに思わず質問する。
「アレクシ殿下、ワーストはいましたわよね?」
アレクシは不思議そうにアドリエンヌに答える。
「確かにいたが、君が浄化した」
「そうですわよね」
そんなアドリエンヌの様子を見てアレクシは心配そうに言った。
「なにかあったのか? もしかしてこの前のシャウラの失踪と関係があるんじゃないのか?」
そう聞かれて、アドリエンヌは三百年前に飛んで自分がやったことを正直にアレクシに話した。
アレクシは少し悲しそうに微笑んだ。
「正直に言えば、行動を起こす前に少しでも相談して欲しかった」
「ごめんなさい」
「いや、君を攻めるつもりはないよ。ただ自分が不甲斐ないだけだ」
そう答えると苦笑した。そして、なにかに気づいたかのように言った。
「では、あの書物は過去に飛んだシャウラが未来の自分のために書いたものだったのだな」
「そのようですわ。でも、私がシャウラを見つけたとき、かなり瘴気に汚染されていてあんな呪術を使えば死んでしまってもおかしくない状態でしたわ」
「そうか、書物に書き記しどこかへ封印し、最後の力を振り絞ってカミーユに呪術をかけたということか」
そう答えると、少し考えてから話し始める。
「なぜ歴史が変わらなかったのかだが、王宮にある特別な書物の中に時間と空間についての書物がある。それによると世界は同じような世界がたくさんあるらしい。そして、時間を越える魔法を使うと自分のいる世界ではなく、まったくそっくりのもう一つの世界に行くそうだ」
「それ、どこかで読んだ記憶がありますわ。確か平行世界とか……」
「そうだ、それだ。君が行ったのはその平行世界なのではないか?」
それを聞いてアドリエンヌは納得する。
「そういうことでしたのね。私、今のこの世界をとても気に入ってますの。カミーユ様には申し訳ありませんけれど、歴史が変わってしまわなくてよかったですわ」
アレクシは優しい眼差しでそんなアドリエンヌを見つめると、しばらくしてから顔を覗き込む。
「不安はなくなったか?」
「ありがとうございます。不安はなくなりましたわ」
そう答えるとアレクシを見つめ返す。そして思う。自分はこの世界の今のアレクシが好きだ。
そう思った瞬間それを口に出していた。
「アレクシ殿下、私あなたのことが好きですわ」
するとアレクシは動きを止めてアドリエンヌの顔を見つめる。
「それは本当か?」
アドリエンヌが頷くと、アレクシは囁く。
「私もずっと昔から君を愛している……」
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