逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー

文字の大きさ
29 / 41

29

しおりを挟む
 王宮に到着し、馬車を降りるとアラベルが先を歩いており他の令嬢と挨拶を交わしている。

 その時、オパールがアラベルに気づき笑顔で駆け寄って行く姿が目に入った。

 どういうことですの?

 オパールはアリエルとアラベルを見間違えたことは今まで一度もなかった。
 呆然としていると、向こうからエルヴェが歩い来るのが見えた。アリエルが軽く手を振ると、エルヴェはアリエルを無視して、アラベルを見ると満面の笑みでアラベルの方へ吸い寄せられるように歩いていった。

 呆然としていると、そんなアリエルに気づいたアラベルがこちらを見てにこりと微笑んだ。

 その時アリエルの脳裏に、一度目のあの惨めなお茶会でのことがよぎった。
 いたたまれなくなったアリエルは、踵を返すと人目のつかない場所へ隠れた。

 なぜ、どうして……? わたくしは人生を変えることができなかったということですの? 

 そう思いながら目の前にあったベンチに座り込むと、惨めでつらくて苦しくてとめどもなく涙が溢れた。そして、もう一度チャンスがほしいと言ったエルヴェを恨んだ。

 すると、遠くからオパールの声が聞こえどうやらこちらに向かっているようだと気づいた。
 アリエルはオパールとアラベルの会話を聞きたくもなかったし、今は顔を見るのもつらかった。

 それに以前のようにみんなの前で晒し者にされるつもりもない。

 アリエルは帰った方がよいと判断し、慌てて立ち上がると入り口の方へ足早に歩きだした。

 歩きながら涙を拭う。

 泣いている場合ではない、これからどうするのかを考えなければ!

 そうして突然ファニーのことを思い出した。

 ファニーに雇ってもらえないだろうか?

 突然屋敷へ行くのは気が引けたが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。

 ファニーのところでしばらく匿ってもらい、お針子として雇ってもらおう。

 そう決めるとアリエルは急いで馬車に飛び乗り、一度屋敷へ戻った。そして、この時のためにとっておいたサファイアの入った袋を手に取ると、突然帰ってきたアリエルに慌てふためくアンナを連れてファニーの屋敷へ向かった。

 ファニーの屋敷の前に到着したところで、冷静になり勢いで出てきてしまったものの、拒否されたらどうしようかと突然不安になった。

 ところが門のところで名前を告げると、あっさり中へ通される。

「レイディー! どうしたのさ!!」

 ファニーはエントランスでアリエルを見るととても驚いた顔をしたが、快く招き入れた。

「美しい顔が台無しじゃないか~! 可哀想に。それにそのドレスは? 僕がデザインしたドレスと違うじゃない?」

 アリエルは今までの経緯を説明し、妹のアラベルにおとしいれられ自分が窮地きゅうちに立たされていることも説明した。そして、しばらくのあいだ匿ってもらい、できることならお針子としてこの国を出たいと話した。

 ファニーは口を挟まず、最後まで真剣に話を聞くと口を開いた。

「レイディーの話はわかった。とりあえず落ち着いて! 何か勘違いかも知れないよ? とにかく今はここでゆっくりしてさ、今後のことは後で考えよう? それにしてもピンチの時に僕のことを思い出してくれるなんて嬉しいな~。頼ってくれてありがとう!」

 そう言って微笑んだ。

 そうしてしばらくは、ファニーがアリエルを匿ってくれることになった。ファニーにいくらかお礼をしようとしたが、ファニーはそれを受け取らなかった。

「僕は結構これでも稼いでるんだよ~? そんなのいらないって。それに好きな令嬢にはカッコいいところを見せたいでしょう?」

 そう言うとウインクして返した。そうして、アリエルたちが不自由ないように客人として最大限もてなしてくれた。

 アンナはアリエルが『屋敷を出る』と言った時なにも言わずについてきてくれたが、ファニーの屋敷へ来るとひとつだけアリエルに忠告した。

「お嬢様、旦那様には居場所は伝えなくとも、安全な場所にいることだけは伝えませんと」

「もちろんよ、安心してアンナ。お父様にはすぐに手紙を書いたし、その中で事情も説明したわ。お父様は絶対にわたくしを信じてくださると知ってるもの」

 それを聞いたアンナはほっとしたような顔をした。

 ファニーの屋敷でもてなしを受けているあいだも、アリエルはエルヴェのことを思いだしては胸がしめつけられた。そしてエルヴェを信じてしまったことを酷く後悔した。

 三日ほど部屋でぼんやりして過ごしていると、アンナに気晴らしに庭でも散歩するように促され、アリエルは気分転換にひとりで庭を歩くことにした。
 そうしてゆっくりしているうちに、木々の緑と花の香りでいくぶん癒されたような気がした。

 と、その時遠くから自分の名を呼ぶエルヴェの声が聞こえた気がした。

 まさか、と思いながら周囲を見ると向こうにエルヴェが立っているのが見える。アリエルは血の気が引いた。

 今捕まれば、また処刑されるかもしれない……。

 慌てて踵を返すと、ドレスの裾をつまんで全速力で走った。命がかかっているのだ恥も外聞もない。ヒールは脱げスカートの裾も捲れ上がっているが、そんなことは気にしていられなかった。

 逃げなければ、でもどこに?

 そう思っていると、突然後ろから腕をつかまれた。

「アリエル、ずっと探していた!」

「見逃してください!」

 そう言ってエルヴェから逃れようとするが、エルヴェはアリエルを後ろから抱き締める。

「アリエル、もう二度と離さない!」

「申し訳ありません! 目の届かぬ場所へ行き、二度と姿を現したりいたしませんから、今回はお見逃しください!」

 アリエルがそう懇願すると、エルヴェは驚いた顔でアリエルを見つめた。

「どういうことだ?」

わたくしお茶会で殿下がアラベルと親しくなさっているのを見ましたの。ですから、わたくしのことは捨て置いてください」

「違う! あれはアラベルが君のドレスを着ていたからだ。でなければあの悪魔のような女と君を間違えるはずがない。まさか君のドレスを奪ってまで着るなんて思いもしなかったんだ」

 アリエルは驚き振り向いてエルヴェを見つめた。

「なぜドレスのことを知ってますの?」

 エルヴェは苦笑した。

「やっと私の顔を見てくれたね? よかった」

 そう言うとエルヴェはアリエルを抱きしめる腕を少し緩め微笑んだ。

「なぜ知っているかって? 当然だ、あのドレスをプレゼントしたのは私なのだから」

 アリエルはエルヴェの顔をまじまじと見つめて言った。

「でも、あのドレスは商人に紹介されたファニーにデザインしてもらったものですわ」

「そうだ。そもそもファニーを差し向けたのは私だ。その商人は『ファニーは王宮直属のデザイナー』と言っていなかったか?」

「確かにそう聞いてましたけれど……」
 
 エルヴェはアリエルに優しく微笑んだ。

「どうしても君にドレスをプレゼントしたかったんだ。だが、君はなにを贈っても受け取ってはくれないだろう? だからこんな手の込んだことをさせてもらった」

「では殿下はあのドレスを見たことがあるのですね?」

「もちろんだ。ファニーと詳細にデザインについて話し合ったからな。もちろんオパールにも見立ててもらった。あのドレスを着た君を見るのを私も楽しみにしていたんだよ?」

「お茶会でアラベルに駆け寄る殿下を見てわたくしはてっきり……」

 アリエルがそう言って少し俯くと、エルヴェがアリエルの顔を覗き込む。

「てっきり、なんだい?」

 アリエルは自分が早とちりをしたことが恥ずかしくて顔を背けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...