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屋敷へ戻ると、シメオンがアメリを待っていた。
「アメリ、庭に行っていたのか? 私は君をあまり一人にはさせたくなかったのだが」
「シメオン様、大丈夫です。どうされたのですか? そんなに心配されるなんて」
すると、シメオンは苦い顔をして答える。
「いや、別に……」
どうしたのだろう? シメオン様らしくない。
そう思っていると、フィリップが早足にシメオンの下へやって来て言った。
「シメオン様、少しご報告したいことが……」
「どうした?」
フィリップはちらりとアメリの方を見て、声を潜めていった。
「さき……ブランデ侯爵令嬢……、せっ……」
アメリに聞き取れたのはそれだけだった。すると、シメオンは驚いた顔で叫ぶ。
「なんだって?!」
そう言ったあと、はっとした顔をしてアメリに微笑む。
「アメリ、私は少し用があって出かける。君は好きにしてくれて構わない。だが、屋敷からは出ないこと、いいね?」
「はい、わかりました」
アメリがそう答えると、シメオンとフィリップは急いでエントランスへ走って行った。
それを見届け部屋に戻ると、アメリはシメオンとリディのことばかり考えた。
さっきフィリップが報告にきた時、ブランデ侯爵令嬢と言ったのが聞こえたけれど、リディがシメオン様を追いかけてきたのかもしれない。
そうだとすれば、シメオン様はリディに会いに行ったのだわ。それにもしかすると、シメオン様が『屋敷からは出ないこと』と言ったのは、リディに私の存在を隠したかったからでは……?
そこまで考え、まさかシメオン様がそんなことをするはずがない。と考え直すが、でも、もしかしたら……。と、また考えては打ち消しを繰り返した。
日が傾いてきた頃、やっとシメオンが戻ってきたようだった。本来なら出迎えなければならないのだろうが、アメリはそんな気分になれず部屋にこもっていた。
どうせ、私が出迎えなかったからといってシメオン様が気にするはずがないもの。
そんな卑屈な気持ちに支配された。
部屋がノックされ、一瞬シメオンが来てくれたのかと思うが、まさか来るはずがないと自分自身でその期待を打ち消しドアに向かって返事を返す。
「はい、どなたでしょうか?」
「アメリ、開けてくれないのか?」
シメオンだった。アメリは驚いてドアを開ける。
「申し訳ございません。まさかシメオン様が私の部屋へ来るとは思いませんでしたので。それに、お出迎えも遅れてしまいました」
すると、シメオンは苦笑する。
「君らしくないな、寝ていたのか? それとも……何か悩みごとが? もしかして体調が悪いのか?」
アメリは心配そうに見つめてくるシメオンを見て、自分が情けなくなった。
シメオンは大切な人ができたからといって、もう用済みとばかりにメイドを邪険に扱うような人ではない。
そんなことは、自分自身がよく知っていることではないか。
そう考え、嫉妬から醜いことを考えてしまったことを後悔しながらほっとして明るく答える。
「本当に、シメオン様は心配し過ぎです! 私だって昼寝をして寝過ごすこともありますよ。それに、何時に帰るか仰らなかったじゃないですか、出迎えたくてもできなかったんですよ」
「そうか、ならいいんだが。最近忙しかったから疲れさせてしまったか?」
「いえ、そんなことは。それに、今は昼寝をしたのでとても元気ですよ?」
するとシメオンはアメリをじっと見つめて微笑み、手を取り指を絡める。
「夕食は?」
「まだですがシメオン様は?」
「もちろん、私もまだだ。なら、私の部屋で一緒に食べよう。少し話がしたい」
「承知しました」
アメリは笑顔でそう答えたが、シメオンがリディのことを話すのではないかと憂鬱な気分だった。
なんの話をされるのだろうと不安になりながらテーブルに着くと、なぜかシメオンは押し黙ってしまった。
アメリは気まずくなり、なにか話をしなければと黙り込むシメオンに話しかける。
「ワカナイは海が近いので、魚が新鮮でとても美味しいですね。干物以外の魚を初めて食べました」
「そうか、よかった」
「シメオン様は食べたことがあるのですか?」
「まあね」
「そうですか……」
シメオンが心ここにあらずといった感じだったので、アメリはますます不安になった。それが顔に出てしまったのか、シメオンが言った。
「すまない、少し考え事をしていた」
「いえ、大丈夫です。シメオン様はお忙しい方ですから」
すると、シメオンはなにかを思い出したように言った。
「そうそう、話さなければならないことがあったんだ。明日にはワカナイを出て屋敷へ向けて出発することになった。行きと違い、帰りは寄る場所もないから真っ直ぐ屋敷へ帰れる」
話したいこととは、このことだったのかと少しほっとしながら答える。
「急なのですね」
「まあね」
それを聞いてアメリはゲームの内容を思い出していた。確かシメオンルートだと、助けてくれたお礼にとシメオンがリディを屋敷へ招待するのだ。
もしかしたら、シメオンがこんなに急に屋敷へ戻らなければならない理由は、リディを屋敷へ招待したからかもしれないと思った。
そんなことを考えていると、シメオンがテーブルの上においていたアメリの手をそっと握り質問してきた。
「アメリ、君は旅の道中で運命を変えるかもしれない誰かとの出会いはあった?」
その質問に、アメリは驚き激しく動揺した。
「出会い……ですか? えっと、よ、よくわかりません」
「そうか」
そう答えてシメオンはアメリの手を更に強く握った。アメリは慌てて手を引っ込めると、何か言わなければと思い咄嗟に質問する。
「あっ! シメオン様。あのシメオン様の方こそ運命の人と出会いはありましたか?」
しまった、と思った。こんな質問をしてしまったら、シメオンの口から決定的ななにかを聞かされるに決まっている。
質問したことを後悔していると、シメオンは微笑んだ。
「私に出会い? あったかもしれない。確かに今回の出会いは私の運命を変えるだろう。それにしても『運命の人』か、ずいぶんロマンチックな言葉だね。そんな言葉を君が口にするなんて珍しいな。だがその言葉、私は嫌いじゃない」
そう言うと、嬉しそうにアメリを見つめた。
この時アメリは、やはりシメオンはリディと恋に落ちたのだろうと確信して酷く打ちのめされた。
「アメリ? なんだか具合が悪そうだが?」
「すみません。やはり少し疲れているのかもしれません」
「それは心配だ、では今日は早めに休むといい」
「お気遣いありがとうございます。では、これで失礼させていただきます」
アメリはまだ食事の途中だった。だが、それ以上シメオンと食事を食べる気になれず、すぐにでもその場を去りたい気持ちでいっぱいだったので、シメオンの申し出を有り難く思いながら席を立つ。
アメリがナプキンをテーブルに置くと、シメオンがそれに続いて立ちアメリの横へ来たので、アメリはシメオンがエスコートしてくれるのだと思った。
すると、シメオンはアメリの手を取り、素早く少しかがんでその手を自分の首にかけ、アメリの膝の裏へ腕を差し入れると横抱きに抱きかかえた。
「シ、シメオン様? なにをなさるのですか!」
顔を赤くしながらアメリが叫ぶと、シメオンはアメリの顔を覗き込み微笑む。
「具合が悪いのだろう? 部屋まで送ろう」
「アメリ、庭に行っていたのか? 私は君をあまり一人にはさせたくなかったのだが」
「シメオン様、大丈夫です。どうされたのですか? そんなに心配されるなんて」
すると、シメオンは苦い顔をして答える。
「いや、別に……」
どうしたのだろう? シメオン様らしくない。
そう思っていると、フィリップが早足にシメオンの下へやって来て言った。
「シメオン様、少しご報告したいことが……」
「どうした?」
フィリップはちらりとアメリの方を見て、声を潜めていった。
「さき……ブランデ侯爵令嬢……、せっ……」
アメリに聞き取れたのはそれだけだった。すると、シメオンは驚いた顔で叫ぶ。
「なんだって?!」
そう言ったあと、はっとした顔をしてアメリに微笑む。
「アメリ、私は少し用があって出かける。君は好きにしてくれて構わない。だが、屋敷からは出ないこと、いいね?」
「はい、わかりました」
アメリがそう答えると、シメオンとフィリップは急いでエントランスへ走って行った。
それを見届け部屋に戻ると、アメリはシメオンとリディのことばかり考えた。
さっきフィリップが報告にきた時、ブランデ侯爵令嬢と言ったのが聞こえたけれど、リディがシメオン様を追いかけてきたのかもしれない。
そうだとすれば、シメオン様はリディに会いに行ったのだわ。それにもしかすると、シメオン様が『屋敷からは出ないこと』と言ったのは、リディに私の存在を隠したかったからでは……?
そこまで考え、まさかシメオン様がそんなことをするはずがない。と考え直すが、でも、もしかしたら……。と、また考えては打ち消しを繰り返した。
日が傾いてきた頃、やっとシメオンが戻ってきたようだった。本来なら出迎えなければならないのだろうが、アメリはそんな気分になれず部屋にこもっていた。
どうせ、私が出迎えなかったからといってシメオン様が気にするはずがないもの。
そんな卑屈な気持ちに支配された。
部屋がノックされ、一瞬シメオンが来てくれたのかと思うが、まさか来るはずがないと自分自身でその期待を打ち消しドアに向かって返事を返す。
「はい、どなたでしょうか?」
「アメリ、開けてくれないのか?」
シメオンだった。アメリは驚いてドアを開ける。
「申し訳ございません。まさかシメオン様が私の部屋へ来るとは思いませんでしたので。それに、お出迎えも遅れてしまいました」
すると、シメオンは苦笑する。
「君らしくないな、寝ていたのか? それとも……何か悩みごとが? もしかして体調が悪いのか?」
アメリは心配そうに見つめてくるシメオンを見て、自分が情けなくなった。
シメオンは大切な人ができたからといって、もう用済みとばかりにメイドを邪険に扱うような人ではない。
そんなことは、自分自身がよく知っていることではないか。
そう考え、嫉妬から醜いことを考えてしまったことを後悔しながらほっとして明るく答える。
「本当に、シメオン様は心配し過ぎです! 私だって昼寝をして寝過ごすこともありますよ。それに、何時に帰るか仰らなかったじゃないですか、出迎えたくてもできなかったんですよ」
「そうか、ならいいんだが。最近忙しかったから疲れさせてしまったか?」
「いえ、そんなことは。それに、今は昼寝をしたのでとても元気ですよ?」
するとシメオンはアメリをじっと見つめて微笑み、手を取り指を絡める。
「夕食は?」
「まだですがシメオン様は?」
「もちろん、私もまだだ。なら、私の部屋で一緒に食べよう。少し話がしたい」
「承知しました」
アメリは笑顔でそう答えたが、シメオンがリディのことを話すのではないかと憂鬱な気分だった。
なんの話をされるのだろうと不安になりながらテーブルに着くと、なぜかシメオンは押し黙ってしまった。
アメリは気まずくなり、なにか話をしなければと黙り込むシメオンに話しかける。
「ワカナイは海が近いので、魚が新鮮でとても美味しいですね。干物以外の魚を初めて食べました」
「そうか、よかった」
「シメオン様は食べたことがあるのですか?」
「まあね」
「そうですか……」
シメオンが心ここにあらずといった感じだったので、アメリはますます不安になった。それが顔に出てしまったのか、シメオンが言った。
「すまない、少し考え事をしていた」
「いえ、大丈夫です。シメオン様はお忙しい方ですから」
すると、シメオンはなにかを思い出したように言った。
「そうそう、話さなければならないことがあったんだ。明日にはワカナイを出て屋敷へ向けて出発することになった。行きと違い、帰りは寄る場所もないから真っ直ぐ屋敷へ帰れる」
話したいこととは、このことだったのかと少しほっとしながら答える。
「急なのですね」
「まあね」
それを聞いてアメリはゲームの内容を思い出していた。確かシメオンルートだと、助けてくれたお礼にとシメオンがリディを屋敷へ招待するのだ。
もしかしたら、シメオンがこんなに急に屋敷へ戻らなければならない理由は、リディを屋敷へ招待したからかもしれないと思った。
そんなことを考えていると、シメオンがテーブルの上においていたアメリの手をそっと握り質問してきた。
「アメリ、君は旅の道中で運命を変えるかもしれない誰かとの出会いはあった?」
その質問に、アメリは驚き激しく動揺した。
「出会い……ですか? えっと、よ、よくわかりません」
「そうか」
そう答えてシメオンはアメリの手を更に強く握った。アメリは慌てて手を引っ込めると、何か言わなければと思い咄嗟に質問する。
「あっ! シメオン様。あのシメオン様の方こそ運命の人と出会いはありましたか?」
しまった、と思った。こんな質問をしてしまったら、シメオンの口から決定的ななにかを聞かされるに決まっている。
質問したことを後悔していると、シメオンは微笑んだ。
「私に出会い? あったかもしれない。確かに今回の出会いは私の運命を変えるだろう。それにしても『運命の人』か、ずいぶんロマンチックな言葉だね。そんな言葉を君が口にするなんて珍しいな。だがその言葉、私は嫌いじゃない」
そう言うと、嬉しそうにアメリを見つめた。
この時アメリは、やはりシメオンはリディと恋に落ちたのだろうと確信して酷く打ちのめされた。
「アメリ? なんだか具合が悪そうだが?」
「すみません。やはり少し疲れているのかもしれません」
「それは心配だ、では今日は早めに休むといい」
「お気遣いありがとうございます。では、これで失礼させていただきます」
アメリはまだ食事の途中だった。だが、それ以上シメオンと食事を食べる気になれず、すぐにでもその場を去りたい気持ちでいっぱいだったので、シメオンの申し出を有り難く思いながら席を立つ。
アメリがナプキンをテーブルに置くと、シメオンがそれに続いて立ちアメリの横へ来たので、アメリはシメオンがエスコートしてくれるのだと思った。
すると、シメオンはアメリの手を取り、素早く少しかがんでその手を自分の首にかけ、アメリの膝の裏へ腕を差し入れると横抱きに抱きかかえた。
「シ、シメオン様? なにをなさるのですか!」
顔を赤くしながらアメリが叫ぶと、シメオンはアメリの顔を覗き込み微笑む。
「具合が悪いのだろう? 部屋まで送ろう」
応援ありがとうございます!
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