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7.悪役令嬢、魅了する
しおりを挟むローゼリアを診察した治癒師の診断結果は、安定の健康体判定。
この結果を聞いたフェンリルは、ローゼリアの希望を叶えるべく、陛下への謁見依頼を出す為、王宮へ使いを出した。すると、今日これからいつでもどうぞと王族にしては腰の軽い返事がきた。
そして現在、ローゼリアはフェンリルと共に公爵家所有の馬車に乗り、王城を目指している。
「フェル様、私こんなに快適な馬車は初めてですわ!なぜこんなに揺れないのです?こんな馬車なら、アルカディア王国からの旅も少しは楽でしたのに……」
「あぁ、この馬車は特殊な魔術を使用した特別製なんだ。この技術は他国には知らせていないから、リアには辛い思いをさせたね…すまない。」
「まぁ、魔術!!素敵、どんな技術なのか興味があるわ!…でも、他国には知らせていないものなら、私も知ることは出来ないわね……(シュン…)」
「っ!…そうだな、今はまだ無理だが…近いうちに知ることが出来るようになるさ。
………君は自分の妻となるのだから。」
そう言ったフェンリルの顔は浅黒い肌で分かりづらいが、朱色に染まっていた。
どうやら、ローゼリアのことを自分の妻呼ばわりしたことに照れているようだ。
体の大きな男性が、どんな敵にも怯まず勇敢に戦うだろう騎士団を束ねる男が、ローゼリアのような小娘を妻と呼ぶだけで、照れている……
……可愛過ぎかよっですわよ!!
ハッ、なんだか、言葉が荒ぶってしまいましたわ。淑女がはしたない…反省しなくちゃ。
それにしても、この国は本当に興味深いわ!祖国にはもちろん、この国以外の者は魔術に対しての知識が殆どない。それというのも、アルジャン王国は最近まで鎖国しており、謎に包まれた国だったからだ。
なんでも、前国王が即位してから開国を決めたらしい。理由は不明だが、開国後、徐々に他国との交流を増やしていき、代替わりした現国王ライオネルに他国の姫が嫁いできてからは、更に交流が増えた。そして、今回、国王ライオネルが幼馴染みのガーネット公爵、つまりフェンリルにも他国から姫(ローゼリア)を取り寄せたという訳だ。
お取り寄せかよっ、ですわ!!
……ハッ、また。
反省したのに同じことを繰り返すなんて、本当に私は悪い子ね…困ったわ。
ほぉっと頬に手を当てるローゼリア。
そんな彼女をキョトンとしながら見ていたフェンリルだが、そろそろ王城に到着しそうだったので彼女に呼びかけた。
「リア?考え事をしているところ悪いんだが、そろそろ城に着く。準備はいいかい?」
「……え?あら、やだ、もう?!全然揺れないから気づかなかったわ。なんだか、緊張してしまいます…
フェル様、本当に陛下はお怒りではありませんか?私、嫌われてはいないかしら…」
私が今更ながら不安がっていると、とうとう馬車が王城の門をくぐり、到着してしまった。
フェル様が、大丈夫だよと安心させるように微笑み、手を引いて馬車から私を降してくれる。そのままエスコートされ長い廊下を二人で歩いていく。
緊張して、あまり周りを見る余裕がなかったけど、所々に自国では見たことがない物が置いてあり、ローゼリアの興味を引く。
壁に飾られた絵画の中にいる鳥が動いた気がするし、人が通ると明かりが勝手に灯る廊下や、扉を守る総鎧の兵士は、なぜか人ではないような気がする。
……息していないのってくらい動かないけど、人よね?
そんな不思議の数々に気を取られ、徐々に落ち着いてきたところで、とうとう謁見の間に到着してしまった。
緊張が振り返したが、気持ちを整える間もなく、扉を守る二人の騎士の口上が始まった。
「「ガーネット公爵様並びに隣国アルカディア王国より、マーガレット公爵令嬢ローゼリア様が到着されました」」
「よい、入室を許可する」
「「ハッ」」
中から威厳のある低く渋めの声が聞こえ、それに応えた兵士によって、バーンっと両開きの扉が開かれる。
そこにはアルジャン国王ライオネル陛下がいた。
獅子のたてがみのような黒髪に、ルビーのような紅玉の瞳を爛々と輝かせた、浅黒い肌の美丈夫が、こちらを見ている。
なぜか王座には居らず、扉の2メートル先位に仁王立ちしている。
はるか後方にある空の王座が物悲しく見えた。
ローゼリアはあまりの圧に絶句した。
隣のフェンリルも、扉の真ん前に陣取り待つという非常識な自国の王に絶句した。
そして、先に我に帰ったフェンリルは怒りのあまり威嚇するような声が出た。
「……へ い かぁぁああ゛(貴様、何してやがる)!?」
怒りの副音声が聞こえてくる。
それに、たいして気にした様子もなく、しれっとした態度でライオネル陛下は応えた。
「二人ともよく来た!!わしはアルジャン国王ライオネルだ。フェンリルとは幼馴染みでこのように飾らない間柄だ!ゆえに、ローゼリア嬢もそのつもりで楽にいたせ!ようこそ、我が国へ!歓迎するぞ!!」
と言い放ち、ニカっと太陽のような豪快な笑顔を見せた。
ローゼリアはその人懐こい笑みと歓迎の言葉に喜びで胸が一杯になった。なので、自然とその天使のような麗しい顔が満面の笑顔となった。
その場にいて、ローゼリアの微笑みを見た全ての人間が魅了された。
フェンリルはメロメロの骨抜きになって、ライオネルへの怒りを忘れた。
ーー効果は絶大だ。
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