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出会いと、お別れの日々 (2)
ハンナさんの気持ち
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「百花繚乱」に行けない日。
御休みの日ね。 三日間あるの、週にね。 その時は、ダクレール男爵様の御邸に籠るの。 本来の私、” エスカリーナ ” になってね。 綺麗なドレスを纏って、優雅に洗練された立ち居振る舞いで、元貴族の似非令嬢を演じるの。
なんか、こちらの自分が、遠く感じるわ。
私が私を見つけ出してから…… 私はエスカリーナの印象を変えたの。 ボンヤリと薄い存在感に。 グリュック様のお許しを得て、「 家政 」からは手を引いたわ。 もう、私が居なくても十分に回るし。 それに、エルサ奥様も、ニーナ若奥様も復帰されてもんね。
あとは、官僚の方々と上手くやっていくだけでいいの。 そうね、高所、大所から、方向性を示すっていう、大切な御仕事なのよ。 諸所は官僚団の方々が上手くやって下さるわ。 そう云う風にしたもの。 「 領政 」 の方も、同じ。 色々と持ち込まれたけれど、家政とのつり合いを取りつつ、事に当たるべしっていう、大方針は変わらない。
あちらの官僚の方々も、家政の官僚の方々と上手く連携を取れるように、常時、「家政」の執務室にニ、三人詰める事にしたんだもの。 お話が混乱しない様にね。 今では、「家政」「領政」の区分もそう面倒な事ではなくなったわ。
小さな御領ですもの、ダクレール男爵領は。 だから、一本化した方が、何かと便利なんだものね。 その下地は作ったのよ。 たぶん、これからは、そういう風に成って行くわ。 私は何もしなくてもいい。 いえ、何もするべきではないものね。
だから、ダクレール男爵の御邸に居る時には、とても穏やかに、オトナシク、目立たない様に、お嬢様してたのよ。 元貴族? の御令嬢らしくね。 刺繍をしたり、御本を読んだり。 まぁ、刺繍って言っても、おばば様から頂いた、あのマントに、自分の紋章を刻み込んでいる訳だから、けっして無駄では無いんだ。
御本にしても、ダクレール男爵様から、閉鎖図書館の鍵を貸してもらえたから、書庫に入って古文書やら、ファンダリア王国に併呑される前の、ダクレール伯爵家の記録を読んだりね。 この領は海に面していて、貿易だって盛んなの。 よく整備された港町が、御領には四つもあるんだものね。
そこで私の「仕事」に関する事。
海を渡って入って来る、病気もまた、此処の記録にはきちんと記されているわ。 王侯熱、ハフレリア、猩々熱、赤斑病…… 流石に南部の御家柄ね。 初期症状から対応策、そして特効薬まで、きちんと記録されていたわ。 とても、勉強になるの。
そうやって、御仕事関連の知識を増やしながらも、面白そうな御本なんかも手に取れるのよ。 それは、それは、楽しい時間よね。
リーナの御休みの時間は、エスカリーナのお勉強の時間ね。
そんな中で、ハンナさんから昼餐のお誘いがあったの。
*******************************
「あの、エスカリーナ様…… ちょっと、ご相談したい事が在りまして……」
昼餐の席上、ハンナ様が私を見ながら言葉を紡がれたの。 なんかとても歯切れが悪い。 どうしたのかしら?
「ええ、実は…… あの方に晩餐にと…… お誘いを受けておりまして…… 領の中でも一番のレストランなのですが…… それも…… 貸し切りにしてと…… どうすればいいのでしょうか?」
えぇぇ~~~ なんで、其処で御答えを保留しちゃうのかな? わたしは、物凄くいい笑顔をしてね、お応えしたのよ。
「一番、ハンナ様らしく、矜持をもった美しい御姿になる、ドレスを用意されるのが良いと思いますわ」
「お、お話を…… う……受けるのですか?」
「感謝以上の、好意の現れですわよね、晩餐のご招待は」
「えっ…… ええ…… そ、そうですの」
「お嫌? あの方に逢う事や、お話する事は…… お嫌なのかしら?」
「め、滅相も御座いません。 で、でも、あの方は、ベネディクト=ペンスラ連合王国 第一王家 グランディアント家直下の「海運商会暁の水平線」の会頭を務められる様な御方です。 この南の海を縦横に行き来為される、とても強き御方…… 高々男爵家の行き遅れの私などとは…… つり合いが取れませんわ……」
えっと…… 何処から何を言っていいやら…… ベネディクト=ベンスラ連合王国の人達って、基本結婚は遅いよ? だって、やらなきゃならない事が一杯あるし、商いが国運を左右するんだもの。 まずは自分達の足元を固める事に専念するんだよ? 知ってるんじゃないの?
あちらの結婚適齢期って、ファンダリア王国の適齢期よりも、十歳は遅いの。 それは、男性も女性も変わりないもの。 それに、あちらでは、男女の性差に囚われず、商いの才によって、当主が決められちゃうようなお国柄なのよ? 当然、結構な御年の、独身の女性当主様達だって、一杯いらっしゃるもの。
えっと、ハンナさん、今幾つだっけ?
私がもう直ぐ十一歳でしょ? だから…… 確か…… 二十四歳ぐらいだよね。 あちらの適齢期ど真ん中だよね。 だったら、なにも、問題無いよね。 身分差とか考えてらっしゃるけど、末端とは言え、ハンナさんはこの男爵家の正当なお嬢様。 元を正せば、アレンティア王国、ダクレール伯爵家のお嬢様だよ?
相手は、大きな海運商会の会頭とはいえ、いわば庶民…… 十分につり合いは取れるよ。 まぁ、本当は、第一王家の王子様で、上級王皇太子候補なんだけど…… それを言ったら、絶対にお受けしないね…… 今でさえ、こんなんだもの。 それをお話するのは、もう少し後。 でないと、御自分のお気持ちに蓋をされてしまうのは目に見えているわ。
長年一緒に居たのは、伊達じゃないのよ。
ハンナさんが私の事を良く知っている様に、私も、ハンナさんの事を良く知っているもの。 だから、背中を押すの。 しっかりと、心の中を見詰めて貰うのも必須。 此処は、ハンナさんのお気持ち一つ。 状況や、思惑を全部度外視して、ハンナさんがどう想っているのかを、ご自身で見詰めて欲しいの。
そして、出した答えを、私は全力で支援するわよ!
固まっていたハンナさんが、ちょっとずつ、再起動し始めた。
「許されるのでしょうか?」
「ハンナさんは如何したいのでしょうか? 御心の内にある、愛しい影は、誰なのでしょうか? その方は、ハンナさんをどう見ているのでしょうか? 単にハンナさんを取り巻いている色々な権能を見られているだけでしょうか? それとも、そんな物が無くなっても、素のハンナさんを見られているのでしょうか? 判断は、お任せいたします。 でも、わたくしは思うのです。 確かめて見られるのも、良いかと」
「…………」
「私からは、此処までですわ。 お悩みになるのは、結構。 でも、自分に嘘を付くと、後悔いたしますわよ?」
「……それは、エスカリーナ様も?」
「ええ、常に、自分には嘘を吐きたくはありません。 大好きなハンナさんが幸せになって欲しいという願い。 真実の想いですもの」
ニッコリと一番いい笑顔をして、ハンナさんを見詰めるの。 ハンナさんも…… 戸惑いつつも、色々と思う事が有るのかしらね……
「考えてみます……」
「宜しいのでは?」
楽しい、午餐でした。 なにか有れば、呼んで下さい。 お気持ちが決まれば、行動に移してください。 もし、ダクレール男爵が、何か横槍を入れようとしたら、私が如何にかします。 いいですね、ハンナさん。 貴女は貴女の心に従うのが、良いと思うのですよ。
^^^^^^
数日後、御邸の中をウロウロしていた私に、クマの御顔のゴトリック様が、ニコニコしながら話しかけて来たのよ。 それは、もう嬉しそうな御顔でね。
「ハンナお嬢様に春が巡って来たようです」
「そうなのですか? それはとても素敵なお知らせ!」
「めかし込んだハンナお嬢様を見たのは、本当に久しぶりでした。 結い上げた髪もとても美しく……」
えっと、何を言っているのかな?
「ルフーラ様にエスコートされて、男爵家のあの優美な馬車で晩餐に向われましたよ。 男爵様の顔……とても複雑そうでしたね。 もう、お小さくはない、素敵な淑女なんですから、こういった事も覚悟しないとね」
物凄く、意地悪さんが此処に居たよ。 男爵様…… 御気の毒に。 でも、男爵様には可愛いお孫さんが御二人もいるし、いいよね。 それで、どうなったんだろ?
「あの店には、私の身内の遠い縁者がおりましてな。 降る様な星空の元、ルフーラ様がお嬢様の前に跪き、手にキスを落とされたと。 やはり、本気でしたな。 重畳重畳!」
「ハンナさんの御様子は? 嫌ではないようでしたが?」
「ははは、エスカリーナ様。 ご安心を。 次の日の執務は滞りがちになり、溜息を幾つもおつきに成っておられましたよ。 手を見詰めながら。 脈アリです。 間違いありません」
「……みさなんも、後押しを?」
「そうりゃそうです。 我らがお嬢様が幸せになれるかどうか。 御領内…… いや、王国内では、お嬢様の幸せはなかなかむつかしいモノが在りました。 海の向こうとはいえ、あちらでは十分に。 あんな初々しいお嬢様は…… ゴトリックも嬉しくありますよ」
「素敵ですね。 星空の元の誓いですか。 流石です」
「なんでも、ルフーラ様は、御親族にお嬢様を引き合わせたいと、思し召しの様です。 「テーベル」が治る頃にはと」
「そ、そうなのですか!! それは、また、急な……」
「あちらには魔法動力快速船が御座いますから…… きっと、もうお手配されておられますな。」
「……そう、なのですね」
ちょっと、考えこんじゃったよ。 第一王家、第二王子の御親族…… つまりは第一王家の陛下、及び、妃殿下…… 又は第一王子…… 下手すりゃ、上級王ご夫妻…… お、お忍びだよね…… 間違っても、国賓級の扱いじゃぁ無いよね…… 公として来られるなら…… 王都でも大騒ぎになるよ……
あちゃぁぁ…… あの殿下…… やる事は素早いんだけど…… ちょっと周囲の状況を見ていないわ。 釘刺さないと……
これは……
ホントに大事になる……
そして……
記憶の中にある惨劇が……
私の脳裏に浮かび上がったのよ……
御休みの日ね。 三日間あるの、週にね。 その時は、ダクレール男爵様の御邸に籠るの。 本来の私、” エスカリーナ ” になってね。 綺麗なドレスを纏って、優雅に洗練された立ち居振る舞いで、元貴族の似非令嬢を演じるの。
なんか、こちらの自分が、遠く感じるわ。
私が私を見つけ出してから…… 私はエスカリーナの印象を変えたの。 ボンヤリと薄い存在感に。 グリュック様のお許しを得て、「 家政 」からは手を引いたわ。 もう、私が居なくても十分に回るし。 それに、エルサ奥様も、ニーナ若奥様も復帰されてもんね。
あとは、官僚の方々と上手くやっていくだけでいいの。 そうね、高所、大所から、方向性を示すっていう、大切な御仕事なのよ。 諸所は官僚団の方々が上手くやって下さるわ。 そう云う風にしたもの。 「 領政 」 の方も、同じ。 色々と持ち込まれたけれど、家政とのつり合いを取りつつ、事に当たるべしっていう、大方針は変わらない。
あちらの官僚の方々も、家政の官僚の方々と上手く連携を取れるように、常時、「家政」の執務室にニ、三人詰める事にしたんだもの。 お話が混乱しない様にね。 今では、「家政」「領政」の区分もそう面倒な事ではなくなったわ。
小さな御領ですもの、ダクレール男爵領は。 だから、一本化した方が、何かと便利なんだものね。 その下地は作ったのよ。 たぶん、これからは、そういう風に成って行くわ。 私は何もしなくてもいい。 いえ、何もするべきではないものね。
だから、ダクレール男爵の御邸に居る時には、とても穏やかに、オトナシク、目立たない様に、お嬢様してたのよ。 元貴族? の御令嬢らしくね。 刺繍をしたり、御本を読んだり。 まぁ、刺繍って言っても、おばば様から頂いた、あのマントに、自分の紋章を刻み込んでいる訳だから、けっして無駄では無いんだ。
御本にしても、ダクレール男爵様から、閉鎖図書館の鍵を貸してもらえたから、書庫に入って古文書やら、ファンダリア王国に併呑される前の、ダクレール伯爵家の記録を読んだりね。 この領は海に面していて、貿易だって盛んなの。 よく整備された港町が、御領には四つもあるんだものね。
そこで私の「仕事」に関する事。
海を渡って入って来る、病気もまた、此処の記録にはきちんと記されているわ。 王侯熱、ハフレリア、猩々熱、赤斑病…… 流石に南部の御家柄ね。 初期症状から対応策、そして特効薬まで、きちんと記録されていたわ。 とても、勉強になるの。
そうやって、御仕事関連の知識を増やしながらも、面白そうな御本なんかも手に取れるのよ。 それは、それは、楽しい時間よね。
リーナの御休みの時間は、エスカリーナのお勉強の時間ね。
そんな中で、ハンナさんから昼餐のお誘いがあったの。
*******************************
「あの、エスカリーナ様…… ちょっと、ご相談したい事が在りまして……」
昼餐の席上、ハンナ様が私を見ながら言葉を紡がれたの。 なんかとても歯切れが悪い。 どうしたのかしら?
「ええ、実は…… あの方に晩餐にと…… お誘いを受けておりまして…… 領の中でも一番のレストランなのですが…… それも…… 貸し切りにしてと…… どうすればいいのでしょうか?」
えぇぇ~~~ なんで、其処で御答えを保留しちゃうのかな? わたしは、物凄くいい笑顔をしてね、お応えしたのよ。
「一番、ハンナ様らしく、矜持をもった美しい御姿になる、ドレスを用意されるのが良いと思いますわ」
「お、お話を…… う……受けるのですか?」
「感謝以上の、好意の現れですわよね、晩餐のご招待は」
「えっ…… ええ…… そ、そうですの」
「お嫌? あの方に逢う事や、お話する事は…… お嫌なのかしら?」
「め、滅相も御座いません。 で、でも、あの方は、ベネディクト=ペンスラ連合王国 第一王家 グランディアント家直下の「海運商会暁の水平線」の会頭を務められる様な御方です。 この南の海を縦横に行き来為される、とても強き御方…… 高々男爵家の行き遅れの私などとは…… つり合いが取れませんわ……」
えっと…… 何処から何を言っていいやら…… ベネディクト=ベンスラ連合王国の人達って、基本結婚は遅いよ? だって、やらなきゃならない事が一杯あるし、商いが国運を左右するんだもの。 まずは自分達の足元を固める事に専念するんだよ? 知ってるんじゃないの?
あちらの結婚適齢期って、ファンダリア王国の適齢期よりも、十歳は遅いの。 それは、男性も女性も変わりないもの。 それに、あちらでは、男女の性差に囚われず、商いの才によって、当主が決められちゃうようなお国柄なのよ? 当然、結構な御年の、独身の女性当主様達だって、一杯いらっしゃるもの。
えっと、ハンナさん、今幾つだっけ?
私がもう直ぐ十一歳でしょ? だから…… 確か…… 二十四歳ぐらいだよね。 あちらの適齢期ど真ん中だよね。 だったら、なにも、問題無いよね。 身分差とか考えてらっしゃるけど、末端とは言え、ハンナさんはこの男爵家の正当なお嬢様。 元を正せば、アレンティア王国、ダクレール伯爵家のお嬢様だよ?
相手は、大きな海運商会の会頭とはいえ、いわば庶民…… 十分につり合いは取れるよ。 まぁ、本当は、第一王家の王子様で、上級王皇太子候補なんだけど…… それを言ったら、絶対にお受けしないね…… 今でさえ、こんなんだもの。 それをお話するのは、もう少し後。 でないと、御自分のお気持ちに蓋をされてしまうのは目に見えているわ。
長年一緒に居たのは、伊達じゃないのよ。
ハンナさんが私の事を良く知っている様に、私も、ハンナさんの事を良く知っているもの。 だから、背中を押すの。 しっかりと、心の中を見詰めて貰うのも必須。 此処は、ハンナさんのお気持ち一つ。 状況や、思惑を全部度外視して、ハンナさんがどう想っているのかを、ご自身で見詰めて欲しいの。
そして、出した答えを、私は全力で支援するわよ!
固まっていたハンナさんが、ちょっとずつ、再起動し始めた。
「許されるのでしょうか?」
「ハンナさんは如何したいのでしょうか? 御心の内にある、愛しい影は、誰なのでしょうか? その方は、ハンナさんをどう見ているのでしょうか? 単にハンナさんを取り巻いている色々な権能を見られているだけでしょうか? それとも、そんな物が無くなっても、素のハンナさんを見られているのでしょうか? 判断は、お任せいたします。 でも、わたくしは思うのです。 確かめて見られるのも、良いかと」
「…………」
「私からは、此処までですわ。 お悩みになるのは、結構。 でも、自分に嘘を付くと、後悔いたしますわよ?」
「……それは、エスカリーナ様も?」
「ええ、常に、自分には嘘を吐きたくはありません。 大好きなハンナさんが幸せになって欲しいという願い。 真実の想いですもの」
ニッコリと一番いい笑顔をして、ハンナさんを見詰めるの。 ハンナさんも…… 戸惑いつつも、色々と思う事が有るのかしらね……
「考えてみます……」
「宜しいのでは?」
楽しい、午餐でした。 なにか有れば、呼んで下さい。 お気持ちが決まれば、行動に移してください。 もし、ダクレール男爵が、何か横槍を入れようとしたら、私が如何にかします。 いいですね、ハンナさん。 貴女は貴女の心に従うのが、良いと思うのですよ。
^^^^^^
数日後、御邸の中をウロウロしていた私に、クマの御顔のゴトリック様が、ニコニコしながら話しかけて来たのよ。 それは、もう嬉しそうな御顔でね。
「ハンナお嬢様に春が巡って来たようです」
「そうなのですか? それはとても素敵なお知らせ!」
「めかし込んだハンナお嬢様を見たのは、本当に久しぶりでした。 結い上げた髪もとても美しく……」
えっと、何を言っているのかな?
「ルフーラ様にエスコートされて、男爵家のあの優美な馬車で晩餐に向われましたよ。 男爵様の顔……とても複雑そうでしたね。 もう、お小さくはない、素敵な淑女なんですから、こういった事も覚悟しないとね」
物凄く、意地悪さんが此処に居たよ。 男爵様…… 御気の毒に。 でも、男爵様には可愛いお孫さんが御二人もいるし、いいよね。 それで、どうなったんだろ?
「あの店には、私の身内の遠い縁者がおりましてな。 降る様な星空の元、ルフーラ様がお嬢様の前に跪き、手にキスを落とされたと。 やはり、本気でしたな。 重畳重畳!」
「ハンナさんの御様子は? 嫌ではないようでしたが?」
「ははは、エスカリーナ様。 ご安心を。 次の日の執務は滞りがちになり、溜息を幾つもおつきに成っておられましたよ。 手を見詰めながら。 脈アリです。 間違いありません」
「……みさなんも、後押しを?」
「そうりゃそうです。 我らがお嬢様が幸せになれるかどうか。 御領内…… いや、王国内では、お嬢様の幸せはなかなかむつかしいモノが在りました。 海の向こうとはいえ、あちらでは十分に。 あんな初々しいお嬢様は…… ゴトリックも嬉しくありますよ」
「素敵ですね。 星空の元の誓いですか。 流石です」
「なんでも、ルフーラ様は、御親族にお嬢様を引き合わせたいと、思し召しの様です。 「テーベル」が治る頃にはと」
「そ、そうなのですか!! それは、また、急な……」
「あちらには魔法動力快速船が御座いますから…… きっと、もうお手配されておられますな。」
「……そう、なのですね」
ちょっと、考えこんじゃったよ。 第一王家、第二王子の御親族…… つまりは第一王家の陛下、及び、妃殿下…… 又は第一王子…… 下手すりゃ、上級王ご夫妻…… お、お忍びだよね…… 間違っても、国賓級の扱いじゃぁ無いよね…… 公として来られるなら…… 王都でも大騒ぎになるよ……
あちゃぁぁ…… あの殿下…… やる事は素早いんだけど…… ちょっと周囲の状況を見ていないわ。 釘刺さないと……
これは……
ホントに大事になる……
そして……
記憶の中にある惨劇が……
私の脳裏に浮かび上がったのよ……
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