その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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引き寄せるのは、未来。 振り払うは、魔の手。

闇の源流 闇の中の光 (1)




 とりあえず、フルーリー様を小部屋から押し出して、簡易お風呂に飛び込んで、すっきりしたの。 ボサボサに成ってる髪を梳かし、用意されていた動きやすい部屋着のシャツと大き目の七分丈のズボンを着て、小部屋を出たのよ。

 作業机の前に、フルーリー様が待っていたわ。

 とても、そわそわしているの。 私の顔を見て、ちょっとドギマギして視線を泳がせているのは…… なんでだろうね。 




「いらっしゃいませ、フルーリー様。 ちょっと、驚いてしまいました」

「ご、ごめんなさいね。 事情が事情だったから…… まさか、あんな姿で寝ているとは、思ってなくて……」

「この頃、手持ちの服が少々キツく成りまして…… ゆっくり眠る時には、ああなっているのですよ。 幸い、この第十三号棟は、シルフィー達のお陰で、とても厳重に護られているので、安心して眠れますしね」

「い、いや、で、でも…… アレは…… アレは無いわ。 もし、他の人が…… 男の人だったら……」

「えっ? あぁ、わたくしの小部屋に入る事を許可している人は、数がとても少ないのですよ。 フルーリー様を含め、ほんの数名。 その中に男の人は含まれませんわ」

「そ、そうなの?」




 フルーリー様の視線がラムソンさんに向くの。 えぇぇぇ、ラムソンさんも、私の小部屋に入る事は無いわよ? それに、彼だって興味ないわよ。 一応ね、男性だからって、小部屋への入室は遠慮してもらっている感じだからね。




「ええ、だから、あの姿で眠っています。 ……それで、今日は何の御用でしょうか? とても、急いでらっしゃるようにお見受けいたしますが?」

「そうよ!! 大変な事なのよ!! 表にユーリが待っているの」

「ユーリ様? ユーリ=カネスタント=デギンズ助祭様のことですか?」

「ええ、そうよ。 とてもとても、大切な事を伝えに来たのよ。 私ではどうする事も出来なくて…… それで、急いでココに来たの。 ねぇ、助けて、” 薬師錬金術師リーナ ” 様!」




 この言い方…… 誰か、お怪我か病に倒れられたって事なの? なのよね…… それも、倒れたって事実を秘匿しなきゃならないような方って事よね。 判った。 じゃぁ、薬師装束を纏わないとね。




「とても、重要で緊急であると、感じました。 このままでは何も出来ないので、薬師装束に着替えてきます。 シルフィー準備を。 フルーリー様、暫しお待ちを」

「うん…… 判った」




 急いで小部屋に戻り、薬師装束に着替えるのよ。 黒のパンツ。 コットンの白シャツ。 濃い灰色の腹部軽装甲アンダーバストコルセット。 腰には山刀、クリスナイフ、それと魔法の杖。 コートには、薬師錬金術師と、リーナの紋章入りがしっかりと刺繍されているものを。

 準備を固め、腰のポーチの中に特殊な薬草箱が入っている事も確認したわ。 準備完了ね。




「お待たせしました」

「そんなには…… やはり、リーナさんはその姿が、とてもしっくりと来るわね」

「薬師錬金術師ですもの」

「では、参りしましょう。 お待ちの方が、相当イライラしてらっしゃるかもね」




 そういうと、ニヤリと笑みを浮かべるの。 ちょっと、黒いわよ、フルーリー様? 後の事をクレアさんとスフェラさんにお任せして、シルフィーとラムソンさんは私の護衛についてくれたの。 今度は外すなって、そんな気配が濃厚に伝わってきてたしね。

 何処に向かうのかも判らないし、相手は「青」に染まっているとはいえ、明確に聖堂教会の人だもの、用心に越した事は無いわ。 扉を出ると、そこに黒塗りの馬車が一台。 その前にジッと佇む助祭の式服を纏った男の人が一人、俯いて立っていたの。




「ユーリ! 来て貰えるわ!!」

「そ、それは、本当ですか、フルーリー様」

「ほら、こうやって連れ出せたんだもの、本当よ!」




 沈んだ表情のデギンズ助祭様の顔に明るい光が灯ったの。 パッと顔を挙げ、こちらを向いたのよ。 ひどく憔悴しているのはわかる。 そして、何かに縋る様なそんな表情。 えっと、何があったの?




「ココでは深くお話できません。 薬師リーナ殿。 お運びいただき、お会いして頂きたい方が居られます」

「ええ、承知いたしました。 何処へとは問いますまい。 秘匿されてしかるべき方なのでしょ?」

「ええ、ええ、その通りに御座います。 誠、お恥ずかしい事なれど、何卒、事情をお汲み取りくださいます事、お願い申し上げます」

「勿論です。 口外もしません。 見聞きした事は、秘匿いたします。 馬車に乗ればよいのですか? 護衛の者も?」

「その前に、仕えて居る方から、確認せよと申し付かっている事が有るのです」

「何なりと」

「薬師リーナ様におかれましては、以前お渡しした記章をお持ちなって頂きたいと」

童女アコライトの記章に御座いますか?」

「はい、左様に御座います」

「保管してあります。 何時でも取り出せるようにしてありますが、この場でつける事はちょっと……」

「理解しております。 お持ちであれば、問題は御座いません。 どうぞ馬車に。 お付の方々も…… といっても、小さな馬車です。 お一人は……」




 ラムソンさんが事も無げに言うの。 周囲を伺いながらね。




「俺は、馬車の外がいい。 シルフィー、【遠話】は繋げておけ」

「勿論ね。 周囲の脅威の排除は頼みましたよ」

「あぁ、任された」




 軽く視線を合わせる二人。 それぞれの持ち場と云うか、役割は多分最初から決めていたのよね。 そんな感じがするのよ。 よかったと、胸をなでおろしているのは、デギンズ助祭。 そして、助祭とフルーリー様、シルフィー、私の四人は、馬車に乗り込み第十三号棟を後にしたの。

 其れは…… 年も本当に押し詰まった、大晦日のお昼前の出来事だったのよ。

 えっと、つまり、私は…… 丸一日眠っていたって事?!?!

 いくらなんでも…… 一度も目が覚めなかったって…… 気が付いていなかったけれど、本当に疲れていたのね…… 異界の術式の意見交換もしたし…… 自分では自覚無かったけれど、消耗してたんだ。 気をつけよう。 本当に気をつけよう!



 ^^^^^^^^



 馬車はゴトゴトと、街中を走りぬけ…… 王都の端に向かって行ったの。 見覚えのある町並み。 そこは、かつてティカ様にも連れられてきた、王都の下町。 あばら家の様な家々が続く、そんな区画ね。 

 王城コンクエストムの北側。 魔道具とか、魔術用品が販売されている街角が有るのを思い出したの。 王城コンクエストムを取り巻く商業区の一画なんだけれども、ほかの地区とは違って、お店もお家もあまり裕福そうには見えない場所なの。 下町の端っこ…… そんな感じの場所。 スラム化していないのは、そこに住む人もちゃんとした職業を持っているから。 でも、お家が……ね。

 他の地区では二階建てとか、三階建ての建物ばかりなのに、此処では…… 平屋が主なのよ。 聞いた事があるの。 もし、どこかの国と戦争してね、王城コンクエストムに迫るとする。 その場合、城兵とか、軍の人が集まって、戦闘準備をしなくちゃならないの。

 その場所がね…… 王都ファンダル周辺には取れないのよ。 広く開けた場所は、王城コンクエストムから遠い。 迫りくる敵兵に対し、そんな遠い場所で集合しても、即応できない。 有事の際、この王城コンクエストムの北側の街は…… 潰されて広く開けた場所にする…… その為に、建築制限もあれば、地下下水道も敷設しない……


 だから、王都ファンダルでは、一番、煤けた街並みに成るのよ。


 雑多な商店街を抜けて、私が想像したとおりに、小さな教会に着いた。 本当に小さな教会。 孤児院も併設されていないような、そんな小さな教会の聖堂。 でもね、周囲に精霊様の気配が濃厚に漂っているの。 まるで、聖堂教会の大きな聖堂のようにね。

 一目見て、理解できた事が有るの。 

 ココは、繋がっているって。 多分…… 聖堂教会の地下と繋がっている。 王城コンクエストムの地下と繋がっていたあの雑貨屋さんと同じようにね。 でも、流石に聖堂教会の本聖堂と繋がっているだけはあるのよ。 それが、この濃厚な精霊様の気配。



 馬車は小さな教会の敷地の中の厩に止まり、そして、私たちは外へ出たの。




 大晦日の、蒼い蒼い空が、とても印象的だったの。






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