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北の荒地 道行きと、朋友
覧古考新
しおりを挟むよし! 大体、把握した!
会話しつつも、城門全体に掛けれられた、強固な防御術式を解析していたの。 流石、おばば様。 もし、この城門が、最良の状態であったら、開門はなかなか難しい事になっていたわ。
でもね……
最盛期を遥かに通り越した、それに、整備が行われていない城門だもの、あちらこちらに綻びが出ているわ。 城塞自体も、長年軍役が課された人が配置される訳でも無かったものね。 不吉な場所なんだもの。 【保全】と、【不壊】の術式が打ち込んであるっていっても、それに供給される魔力が既に失われているのは、おばば様でも想定外だったでしょうね。
そう、ここは、放棄され、記憶の彼方に廃棄された『名も無き城塞』でもあるのよ。
誰も居らず…… ただ、「異界の魔力」を押し止め続けた、そんな場所。
たぶん…… もっと、早い段階で、浄化の方法を探るつもりだったのでしょうね。 でも…… 異界の魔法の法理を理解せねば、あの異界の魔力を浄化する事は出来ないわ。 今までに…… おばば様とティカさま以外に、一番それに近づいたのが、きっと……
エリザベート=ファル=ファンダリアーナ ファンダリア王国の先の王妃……
私の…… お母様……
だけだったのよ…… そう、異界の魔法について研鑽を積まれ、期せずして、異界の魔人様と契約を交わしてしまった、私のお母様だけだった。 でも、根本たる「異界の魔力」の浄化には、多分…… その知識をお使いに成らなかった。 だって、王都ファンダルは遥か南方。 そして、王妃たるお母様の務めは、王都ファンダルを護る、『ミルラス防壁』の保全と強化なんだもの……
その代わりに、精霊様の御意志で、その役目を負ったのは、私。
―――― 私だけなんだものね。
頑張らなくては。 開門には時間が掛りそう。 この城門を支える北伐城塞もある。 馬車移動ばかりで疲れてしまっている皆に、休息も必要なの。 出来れば、清浄な場所。 屋内。 そして、暖かく出来る場所がね。 全てが揃っている場所が目の前にあるんだもの。 使わないって選択肢は無いわ。
^^^^^^
「北伐城塞」の内部は広いわ。 錬石造りの強固な城塞ね。 王城コンクエストムの基礎部分にも匹敵するような、そんな造りなの。 いくつもの小部屋が整備され、いつまた使用しても良いように整えられていたわ。 とりあえず、この場所に拠点を設けて、皆に休んでもらったの。
――― 流石におばば様の術式で守られている場所。
北部領域のこんな北の端…… 国境を護る為の城塞で、こんなにも清浄な空気を保っていられるなんて…… すごい事なのよ。 そう、【浄化】の術式無しでね、この状態よ。 城塞内の空気は重く淀んではいたけど、多分、外とは繋がっていないわ。
きっと…… この空気は、遠く獅子王陛下の時代の空気そのまま…… 城塞内の空気を循環させることに依って、異界の魔力を含む空気の侵入を防いだ…… のよね。 おばば様の考える事は…… 本当にもう……
大規模な、【空気清浄】の術式が大きな魔石に接続されて、稼働を続けているの。 城塞自体が巨大な魔道具になっている感じね。 その上、あの門の【封印術式】…… 結界ともいえる複合された、術式の塊は、おばば様が一番強かった時代のモノ……
一通りは解析したけど、見れば見る程、惚れ惚れする術式群なのよ。
強固に、ひたすら、強固に……
なんですもの。
^^^^^
結界の術式解析を成し遂げるのに、丸三日…… 掛かってしまったわ。 皆には、ゆっくりと休んでもらって、私はひたすら術式解析をしていたの。 城塞の内部を歩き回って、おばば様の紡いだ術式を丹念に、丹念に追っていき、そして、全体像を掴む。
掴んだ、全体像から、欠けたる部分を探し出し、更に補完するための術式を紡ぎだしながら、打ち込んでいくの。 強固に、ひたすら強固に紡がれている、おばば様の結界術式を再生させるための時間が、それだけ必要だったの。
単に、城門を押し通るだけならば、そんなには難しくは無いわ。 でも、私がこの城門を抜ける際に穿つ、結界の穴は看過できない程に大きく広げられ、その結果、「異界の魔力」が大量にファンダリア王国に流れ出して来てしまう。
――― それが予想できるだけに慎重に成らざるを得ないわ。
丹念におばば様の紡ぎだした術式を追い、そして、理解する。 幾重にも、幾重にも厳重に施された結界の神髄は、まさしく、” 護る為 ” のモノ。
だから、私もそれに沿って、綻んでいる場所を丹念に丹念に補修するわ。 この城塞を起点とする、ファンダリア王国と、大森林ジュノーの間に、強固でどちらからも冒されない、結界を敷くの。
もう二度と、あんな悲劇を繰り替えさない様に。 そして、森の民との交流は穏やかに、人族と獣人族の蟠りを解消していく方向に迎える様に。 徐々に、徐々に、交流が重ねられるように……
祈りにも似た、そんな術式を、私はおばば様の意思を汲み取り、紡ぎだしていったの。 おばば様の結界は、何も「異界の魔力」の侵入を阻むだけのモノでは無いわ。 人の往来すら妨げる、そんな重結界なのよ。
延々と、北の国境沿いにその効力は続く。 ファンダリア王国の最前線を守護する守りの盾のようにね。 いえ、違う。 大森林ジュノーには二度と踏み込まないっていう、決意の表れかもしれないわ。
丹念に丹念に修復して、そして、起動の時を迎えたの。 おばば様から教えを受けた、俗に云う、” 上書き起動 ” ね。 現行の術式はそのままに、更に改変した部分を起動していく複雑な術式。
おばば様が戯れにお教えくださった、そんな、高度な魔法。 ここで、こんなにも重要な要素に成るとは、思ってもみなかった。
” リーナや。 この術式を駆使して、何かを成そうとする時は、気を付けるんだよ? 既に起動している魔法陣との親和性をよく読み解いて、確実に起動できるようにしなくちゃ、あんたに【返しの風】が吹き返してくる。 元の魔法陣が強固であればあるほど、それは強烈に成るんだからね。”
まるで、呪詛ね。
根っこは同じ事なのかもしれないわ。 ただ、私はおばば様の弟子。 おばば様の御手による、魔法陣や術式の ” 癖 ” は、きっとティカ様よりも知っている。
だから…… だから、きっと大丈夫。
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