その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

文字の大きさ
上 下
645 / 713
北の荒地 道行きと、朋友

事理明白

しおりを挟む


 それにね、この光の粒で出来た大きな柱。 天空に向かって吹き上がる、この『光の柱』が、生成されたって事は、” 抜け道 ” から、並々ならぬ量の「異界の魔力」が流れ出して来て居る事の証左。 さぁ、異界の教えに染まった、” 聖堂教会の神官様方 ” どう言い訳するつもりなのかしら?

 コレを危惧して、王宮高官の方々は、北伐軍道の城門の開門を拒否していたって事に成りかねないんだものね。 実際、汚染の侵攻は深く重いわ。 土地はおろか、地下水も、空気も…… 深く異界の魔力に犯されていたわ。 既に、その入り口の周辺は、強く汚染されれこの世界の理の元に生きづく者達が生きてはいけない環境に成ってしまっていたんですものね。 そして、それは、周辺に拡大して行った……



 ええ…… そうなのよ。



 北部辺境域の汚染の始まり口ともいえる場所に成っていたんですもの。 いくら、おばば様が頑丈に【結界】を張っていたって、大穴を開けていたんじゃ…… 意味無いわ。 でも、聖堂教会の神官さん達が開けた『穴』は、あそこだけじゃないのよ。 

 プーイさん曰く……




「街道沿いの国境に施されていた『結界』は、強い強度なんだ。 でも、やっぱり、綻びもある。 都合…… 十二ヶ所ほど、穴は開いていた。 でも、この場所以外の穴は、人一人がやっと通れるくらいの穴で、汚染だってそこまで酷くない。 他の場所より間隔を詰めるだけで対処できた。 けど、此処は違う。 全くね…… リーナ。 人族って、どうしてこんなにバカなんだい?」

「…………理念が最初と今では違うのでしょう。 だから、一概にすべてが悪行から…… と云う事は無いと思います。 ……思いたいですね、プーイさん」

「そんなもんかね? まぁ…… 贖罪したいってのは、何となくだけど…… まぁ…… 判るかな?」

「……自己満足ですけれどもね」


 抜け道の場所は、他の抜け穴とは違い、一番多くの「異界の魔力」が流れてくる場所には違いないわ。 此処を完全に抑え込めたのは、本当に奇跡的に幸運だったと思えるんだもの。 

 だって…… 
 これで…… 

 これで、やっと、ファンダリア王国の北部辺境域への「異界の魔力」の浸食は抑えられる。



 ―――― ええ、抑えられるのよ。



 私たち、第四〇〇特務隊が『北の荒地』に、侵入する際、そんな当て布をしたボロみたいな場所から、入るわけにはいかないわ。 辛うじて保って居るってだけなんですもの。 だから、私は決めたの。 この『北伐城塞』の ” 不開の城門 ” を、敢えて開門し、そこから、北の荒野に入るって。




 そして私たちは、『北伐城塞』に辿り着いたわ。

 ――――


 巨大な「北伐城塞」に到着して、まず目に入るのが、この名も無き城門。 連なる馬車の先頭に居る私の馬車キャリッジを止め、その城門をしっかりと確認するために、馬車キャリッジを出る。 シルフィーも後に続き、油断なく周囲を確かめているわ。

 ラムソンさんは、御者台の上で、周辺監視を行っている。 まぁ、後ろに沢山の馬車が連なっているし、そちらでも、同様に監視しているから、危険は無いって、判っているんだけど、ちょっと緊張の一瞬ね。


 目の前に聳える、名も無き門。 その威容に圧倒されつつも、じっくり観察を始めるの。 ここを抜けない限り、私には正当性が無くなる。 全ては、契約と約定に沿ったものでなくては、この世界の理に、抵触してしまう様な気がしてならなかったから。

 きっと、精霊様も、私の心の在り様など、お見通しなんだろうな。 この場に来て、その事を強く感じたの。 一歩一歩、足元を固める様に…… 前に進む。 その事が、とても大切な事だと…… この名も無き門を見て、確信に変わるの。

 この城門に施された多くの防御術式は、若き日のおばば様の手に依る物。 【完全鑑定】の術式で見るまでも無く複雑な術式が、城門に浮かび上がって私の目には見えているのよ。 傍にシルフィーが足音もさせず近寄り、そっと、耳元で囁くの。



「リーナ様…… この門から、あちらに? 門をお開きに成るのですか?」

「ええ、シルフィー。 そのつもりです」

「別の場所からでは、いけないのですか? 聖堂教会の連中が作った進入路が、有りますが?」

「いえ、あちらから侵入してしまいますと、聖堂騎士達に気付かれます。 注意を引いてしまい、戦闘になるかもしれません。 北の荒地…… 正確には大森林ジュノー、森の王国ジュバリアンに通じる門は、ファンダリア王国開闢かいびゃく以来、この門の在るこの場所以外には、存在しません。 かつて、ジュバリアンと、ファンダリア王国が交わした、公式文書にも記載されております。 それ以外に大森林ジュノーに入ることを禁じられておりますもの」

「もう既に滅亡した ” 獣人達の国 ” ですが?」



 私にとっては、胡乱気な事をシルフィーが口にする。 だって、それでは、獣人族の方々の在り様が、帰属場所が、無くなってしまうのではなくて? 彼らは、れっきとした、ジュバリアンの末裔。 今も確かに生きて居られる、かの国の国民。 ゆえに、国土が荒廃してしてしまっても、彼らの国は厳然として存在するわ。



「まだ、獣人族の皆さんは、生きて、暮らして居られます。 居留地の森ではありますが…… いえ、ブルシャトの森が増えましたね。 居留地の森に在住されていても、ブルシャトの森に暮らされていても、彼らは『ジュバリアンの民』。 私は……、思うのです。 『 国 』とは、民が居て初めて成り立つと。 王侯貴族が全ていらっしゃらなくなっても、その民は世代を重ね現在も存在しているのです。 だから、彼等との ” 誓約 ” ともいえる、公式な約定は、現在も生きていると。 だから、この城門を通らねばなりません」

「しかし…… まして、城門の向こう側は、先々代 獅子王陛下が閉じられてから、一度も観察された事は御座いません。 まして、異界の魔力が強い場所。 どのような様相になっているか、予想が付きません」


 シルフィーは何故か執拗に食い下がるの。 でもね、判らなくもない。 だって、この城門の北側の情報は、何も、本当に何も無いんだから。 心に危惧を持つのは、当たり前ね。 だけど、それでも、私には幾多の人の悔恨の思いが有るのよ。 

 そんな人々の、慚愧の念が、強く私の背中を押すのよ。 だってそれが、精霊様の御宸襟ともいえるのだもの。






「向こう側の状況が不明…… ですね。 しかし、その場所にしても、『浄化』の必要が有ると考えているのも、この城門を通り抜ける一つの理由です。 人の起こした禍つは、人の手で癒さねばなりません。 それが、大森林ジュノーの通行を認めて下さった、ジュバリアンの民へのせめてもの償いになりましょうから」









しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,409pt お気に入り:3,764

あなたに本当の事が言えなくて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:844pt お気に入り:2,469

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,858pt お気に入り:24,902

ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,420pt お気に入り:1,140

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。