二色短編集 2017~2019

二色燕𠀋

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まぼろし

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 浴槽に張った湯に自分の手首が飲み込まれてそれが真っ赤な絵の具を溶かしたように見え屡けど視界が酷く雲って悪い水蒸気が急激に体温を奪っていきくらくらくらくらしてそれでも満足できない自分に悔しさも全部消えて生理現象に涙をシャワーのお湯が流していくのにアルコールも吹っ飛んじゃったな。

 という瞬間が目に浮かんだとして。

 シャワーホースを首に巻いて案外太いしつるつるするし引っ張るのには力がいるじゃないかと引き戸の端にシャワーホースをなんかこうぶら下げてそこに首突っ込んでみたけど案外弛んでてどうしょもねえなとただ虚しくなっちまったな。

 という瞬間が目に浮かんだとして。

 ガス線外して睡眠薬飲んで低酸素に喘ぎ苦しもうかと思ったがそれよりライターで火をつけちまった方がいいんじゃねえかけど隣の住民になんの罪もねぇじゃねぇかと酸素薄いな朦朧としてきやがるし薬かどうかもわかんねぇよ不毛だなとガス線を閉めて結局外に出てみる。

 という瞬間が目に浮かんだとして。

 三日以上食わずに吐いて吐いて吐いて吐けなくて水を飲んでも吐けなくてただ吐こうとするからには胃液が溢れてる気がするし喉もひきつって苦しい苦しい頭が痛いなと便器で抱える。

 という瞬間が目に浮かんだとして。

 もうなんだっていいや上等なアルコールを吐きそう手前まで飲み続けてエチゾラムだのなんだのありったけを酒で流し込んでもその頃にはしょうもなく吐き出してこれって薬の硬貨どうなんだよとスポーツ飲料で飲んで吐いて薬模一緒に流し込んで朝までトイレで倒れて失神していた。

 という瞬間が目に浮かんだとして。

 ここって果てなく深いんじゃないかもうどうだっていいと寒い中手すりを跨いでワールドオブジエンドとかぼんやり思いながらフワッと浮いて終わったとあっさり思ったくせにその先の川が思ったより浅くて手ぇついて空しいままびしゃびしゃで立って引き返す。

 という瞬間が目に浮かんだとして。
 これだけで果たして何回死ねたのだろうと自慰的な気持ちで今日も変わらず生きている。
 ただ、
 目に浮かぶ瞬間は幻のように、ちかちかと現実を見せては、くれないようだ。歯を食い縛ってろ、しょーもねぇ。
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