そよ風の声

二色燕𠀋

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 毎度来る度に、客が皆洒落ていると感じる。

 後ろの通りは所謂薬屋等の、“生活必需品”を主に売っている感覚だ。
 こちらの通りに質屋が一件出来たことで随分と風通しが良く、生活のしやすさが生まれた。故に贅沢品…とは言っても庶民に寄り添った値の店を置くことで、“生活必需品長屋”の奥に存在する高級品長屋も潤うわけで。

 真庭はなんだかんだで、ここの肝を押さえている。

 質屋の暖簾をくぐると番台には、若い…良い物を着ているが、なるほど、これが噂の木工細工師の青年かと理解した。
 手元で器用というか機微に…米櫃を組み立ててはまたバラし彫刻刀で薄く彫り…と作業に夢中になっている。

 しかし彼は何故だか振袖を着ていて、そのくせ確かに作業には邪魔なんだろう、袖を結んでいる。

 側にある茶屋の連中やら客やらに狙われそうだな…と心配になるほど無防備で、何より美しい…化粧がなくてもまるで女子のようだ。一本後ろの通りで噂をされるのも頷けるが、随分異様な光景だと思えた。

 まるで彼だけ浮き彫りになったような景色。

 驚かないように、彼が彫刻刀を置いた隙に「すみません」と声を掛ければ「あっ」と道具を後ろへしまい「いらっしゃいませ」とたどたどしく頭を下げてきた。どうやら接客は慣れていないらしい。

「…こんにちは…いや、直接は久しぶりです…なのかな、覚えてないだろうけど…履物屋だった方…ですよね?」
「え、」

 …随分昔の話だけれど。
 この青年も、七五三ほどの頃に真庭の気紛れで質草しちくさ質流しちながれとして引き取られたらしい。
 今や、立派な職人になっているようだ。

「驚かせてすみません。私は真庭さんの知り合いの……木材屋でして」
「あっ、そうなんですね…!いつもお世話に」

 青年が喋る最中、奥の階段から不機嫌を感じるような足音がし、さっと現れた真庭は案の定「なんだよ」と迷惑そうに出てきた。

 そんな真庭に青年は少し後退るような…一気に場はヒリ付く。

 なるほど。大方裏の噂・・・には信憑性がありそうだ。

 「少し下がれ」と真庭が青年を威圧し、青年はそれに「…裏で作業をしてますね」と控えめに従う。

 栄は座って煙管に火を付けた。

「……随分と高圧的ですね」
「資材なら佐助が取りに行ってるだろうが、なんだその背のモンは」
「はい、こちらが本題ですよ」

 「急に押し掛けてすみませんね」と体裁的に言いつつ、栄は例の三味線を広げる。
 それを見た真庭は、眉を少し寄せた。

「少し前にこちらへお客様が来まして。朔太と名乗る男なのですが…」

 真庭は深く息を吸い「はぁ、」と番台の帳簿を眺めた。

「…三味線の取引は確かに一昨日あったようだな」

 真庭はふいっと奥を見、「ながれ、ちょっと」と声を掛ける。
 先程の青年が「はい」と現れ、軽く会釈をしてくれたが、三味線を見て「あっ…」と気まずそうにした。

「この取引に覚えがあるな?」
「はい…えっと…」
「これは新品に近い値段だが…丁度ここに詳しいのがいる。栄、」
「え、あ、はい…。
 新品に近い、という事でしたら…少し騙されたかもしれません。確かに、一見あまり使っていないようには見えるんですよ。
 この品ですと…棹の磨り減り具合ですね。ここが非常に古い。
 記憶が正しければ、貴方は木工細工に詳しい、と…」
「…お恥ずかしい限りです。すみませんその…」
「いえいえ、こちらは巧妙な手で…悪質ですね。
 まずは…木工を扱う際に漆塗りをなさるかと思うのですが、この…構えた際に一の糸巻…と呼ぶのですが、こちらが身体に対し上にくる。
 糸巻きが二本出ている…下の方を膝に…ここ、胴と呼ぶんですが、これが胴掛け。膝と面するので擦れが出るんですよ。この品は胴掛けにはあまり擦れがない。
 棹も同じく擦れる場所ですが、指掛けがこう、ね」

 試しに構えて弾いてみた。

「下の方が上より擦るんですよ。あとは…後ろかな。
 この品の棹は結構、こう…そのへんの漆が薄くなってますよね?」

 「あ、本当だ…」と素直な様子で聞いている。
 恐らくこういうことだろうと察し教えてみたが真庭が口を出して来ないので、正解なようだ。

「あとはこの糸巻きです。ここ、糸が巻いてある部分。随分磨損がありますよね…ここは漆は塗らないので…」
「…確かに、糸が食い込んでいるというか…なるほど…。
 …胴を見ればそうでもないのですが、棹を見れば随分使い込んである、ということですね」
「はい、そうですそうです。
 こちらの三味線がウチに…ウチは三味線の矯正もしているのですが、最近良くない業者が出入りし始めたんですよ。
 これは少し前に持ち込まれたもので…いま、一本向こうにある楽器屋さんにも声を掛け、部品等が盗まれていないかの確認も取って貰っています。恐らくは胴掛けの模様と音緒ねおの…編み方と言いますか、そちらがその店のものだと思います。
 あ、脱線してすみません」

 ついつい、子供に教える感覚になってしまったが、彼は彼で何かを考えたらしく、相槌のみになっている。
 しっかりと職人だな…と染み染みしそうになったが「盗品だとしても本店から盗んだものではないよな、それは」と真庭が漸く喋った。

「はい。ここからが真庭さんの話ですよね」
「最後に皮の話もこれに叩き込ん」
「いやぁ、それは流石に難しいでしょうよ。熟練の奏者や修理屋でもないと。
 まぁでも簡単なところで言えば…皮を割く前に軽く叩くでしょう?太鼓などより音が抜けて籠らないが薄く硬い…よく言うのは「鈴のような音」と称されるのが良い猫皮の三味線…としか…。
 こちらを持ち込んだ朔太という方は、薄い…子を成した事のある猫であろう伸びた皮を一緒にお持ちでした、とだけ」
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