Slow Down

二色燕𠀋

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雷鳴

3

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 思わず息を呑んだ。
 ただ黙って真樹は先輩だろう5人に、ポケットに手を突っ込みながら対峙している。

 これは果たしてどう転ぶ。パターンは3パターンくらいあり得るなと二人は眺めてみる。

「あ?なんだお前」

 真樹は動じない。ただ黙って見上げている。それが却って相手を煽る。

「お前、どうした。え?」

 ふと真樹は先輩から視線を反らす。
 どこか、童顔のクセに妙に空虚で大人びている。真ん中でメンチ切っていたリーダーっぽい奴が喉を鳴らすほどに。

 しかし外野は「ビビってんのか一年」だの「こいつヒョロいっすよ」だの捲し立てる。
 それが頭に入ってこないくらいに先輩は真樹に魅入った。

 不思議で仕方なかったのかもしれない。

 ふとまた目が合った瞬間の、揺るがない茶色い綺麗な瞳。

 ほんのり、笑っているような気がしたそれに息が詰まった。

 だが真樹はそんなアホ面こいた先輩には構わず、右手を上げてしっしと、去るように、というかバカにしたように手を払うように降るもんだから。

「え?」

 別の唖然。

 ナトリはあちゃーと額に手を当て、文杜は笑いを堪えようにも出来ず、口元を押さえた。

「なっ、」
「てめっ、」
「なんだこのっ!」

 一人、リーダーの右にいた手下のような奴が手を伸ばし、真樹の襟袖を掴んだ。

 まじまじと対峙すれば、「なんだてめっ、」と、言葉を呑んでしまった。

 ダルそうにふと顔を反らしたその首筋が女ったらしい。男子校のご時世、少しばかり新鮮味がある景色。

 束の間。
 間があってからの衝撃。顎だか何処だかわからないが激痛。脳天まで達して思わず先輩は手を離し、蹲ってしまった。

 それから見た景色は、空虚に自分の右の小さな拳を眺めるチビ。なるほどストレート。
 視界にふと過って脳震盪。直下型地震のような感覚を最後に、リーダーっぽい先輩はその場でぶっ倒れて伸びた。

 綺麗な踵落としというものをその他先輩方も初めて見た。衝撃だった。

 待てよ、破天荒過ぎるだろなんだこいつは。こんな虫も殺せねぇような可愛らしい女みてぇな面してなんて凶悪なんだ。

 ゆらりと視線を先輩に向けたのが凶器的でラリってる。こんな時に使うのかと身の危険を察知し、「き、貴様ぁぁぁ!」と、向かっていってしまおうとしたのが先輩方の運の尽きだった。

「トゥルッストゥルットゥルットゥ♪」

 廻り廻るように文杜が跳ねるように、巻き舌で唄いながら厭らしく、というより瞳孔開ききって狂気じみた笑みを浮かべ、先輩に突進。
 思いっきり頭突きをかました。先輩、白目剥いて失神。しかし止まらない。

「シャブリナぁ・ベイベっ、しっぽを降ってぇ、ニャオ!」
「いやぁぁぁ!」

 生き残った三人、逃げようとするが、化け物並みの反射神経で文杜は先輩の襟袖キャッチ。

「ぇ衛星からマーキーヘぇ、ヴィーナスから4速へ、リぃヤシートからミルキー・ミルキーウェイ、ウェイ♪」

 句読点と共に鈍い撲音が聞こえて3、4人目が撲殺されたかのようにぶっ倒れた。物凄く楽しそう。しかし怖い。

 そんな中。

「真樹ぃ!」

 マーキーではなく真樹の元へ、ナトリの声がしてはっと文杜は我に返る。

 気付けば真樹は自分の袖を掴んでいない、つまり、文杜は真樹の存在を忘れて先輩をぶん殴っていたらしい。

 「邪魔だわ狂犬!」と、文杜はしまいにはナトリにすっ飛ばされてしまい、何事かとナトリを目線で追ってみれば。

 真樹が少し目の前で、最後の生き残った手下に口を塞がれ馬乗り状態で押し倒されていた。

「真樹!」

 まだ残り2人、意識があるから少し反撃が怖いとか言っていられない。今を打開せねばと流石の狂犬もたじろいだがその一瞬の隙で、組敷いていた手下に横っ面を殴られてしまった。
 ムカついて目を合わせてから3発連続で先輩の顔面にグーパン。多分相手の前歯1本くらいは逝ってしまった。

「い゛っ、」

 しかし。
 真樹を押し倒していた手下は、不意に塞いでいた手を振り払うように退けた。
 どうやら真樹が先輩の手を噛んだらしい。

「てめっ、のやろ…!」
 そのままその手を振りかざし、先輩は真樹をぶっ叩こうとする。流石にそれには真樹も顔を背けて目をきつく閉じるが。

「そいつ殴ったらEDにしてやる」

 パシッと背中でナトリが先輩の手を取った。

「平和条約結びませんか先輩っ?喧嘩、売ってきたのは、そっちでしょーが!日本の文化は売られた喧嘩は買う、ドゥーユーエンデステン?オーケ?」

 手を後ろに軽く捻り「痛い痛い痛い!」と喚いたところで解放してやった。

「あんたらがなんもせんと俺たちも別になんもせんから。わかる?台湾人は親日なんだよ。
 お前ら喧嘩っ早ぇなバカ!文杜!てめぇ楽しそうに殴ってんじゃねぇよ多分こいつら先輩だろバカ!お前の脳ミソ伸びたカップラーメンかよ唄うなぁ!さっき聴いたからってさぁ!怖ぇんだよいちいち!
 おい真樹!ビビんなら向かってくんじゃねぇよお前は頭が足りないんだよバカなの?文杜がお前のことになると頭ん中サウンドオブ殺人って知ってんだろ何押し倒されてんだよ写メるぞバーカ!」
「…君が一番どうかと思う」

 …よー口が回るばい…。

「なんか言ったか単車乗り!」
「なんでもないですクソ台湾」
「ハゲ…った、うるさ、バカ!」

 声が大して出ないが真樹はナトリに悪口が言いたかったらしい。
 言って咳込んだ後、「降りてバカ」と、八つ当たりの如く真樹は先輩の腹辺りを殴っていた。

 しかし体制的にも体力的にも微力だったらしい。ただ唖然とした生き残りの先輩は「あ、ごめんなさい」と、あっさり真樹から退いていた。

「はい、タバコ。おら行くぞチビ」

 ナトリは先輩を押して追い払い、真樹を背負い、寝転がった(伸びた)先輩たちを跨ぎながら文杜と共に、校舎の方へ歩き出した。

「なんじゃあれ…」

 あの三人少しおかしいかもしれない。そう、思ったのだった。
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