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次の日、学校は午前休業。
乗り込むような気持ちで文杜が真樹に電話をすれば、出たのは変態非常勤だった。
『もしもし栗村だな』
「あんたがなんで出る」
『寝てるんでな。しかしお前ならまぁ、出なきゃならんかと。大方殴り込みにでも来る頃合いかと思ってな』
なんなんだこいつの読心術。
『いいぞ、来ても。
まぁ、今日は病院だがな。住む気になったか?』
「…あんた、なに考えてる」
『別に。気が向いた。それだけだ。
一緒になるなら丁度いい。まぁ来い。医院ちょ…』
電話の向こうの会話が途切れた。そして溜め息が聞こえる。微かに聞こえる耳障りな息遣い。
『真樹?』
『はぁ、うぅ、ふふっ、ねぇ貸して?だぁれ?』
それから少しの雑音と。
『はぁ、あっ、ぅみ…とぉ?あんた、はぁ、ろうしたって、ゆーん?』
なんだこの喘ぎ声みてぇな喋り方は。
「どうしたって、真樹、」
「あんたにゃぁ、きの、言ったらろ?嫌い。構わないで。はぁ、わからん?俺、いま、あっ、ううっ、はぁ、」
『喋んな真樹』
「うるしゃいわクソ医者ぁ!はぁ、てめぇの、せいで、息、で、出来ねぇわ、うっ、」
明らかにケータイが落ちた。それから。
「わかってるよ真樹。だから俺だって医者やってんだよクソガキがぁ!」
それからまた声がして。
『わりぃな栗村ぁ。そーゆーこった。変更だ。多分このままだと気絶させる。だから俺ん家にあっ、』
がしゃんと音がして通話が切れた。
「なんだってんだあのバカタレぇ…」
どうしてなんだ。
ただわかる。
あいつは結局一人じゃダメなんだよ。
「どーしたの文杜。凶悪だよより」
リビングでケータイをぶち壊さん勢いで握りしめる文杜を見て、朝風呂から上がったナトリが髪を拭きながら唖然として声を掛ける。その一言に漸く姿を確認して我に返る。
何をしている。
何を言う。
昨日見た赤い情景がチラついた。
それから相乗効果で思い出す、赤い炎に立ち尽くした自分。見上げた時、ぼんやりと隣に立ってタバコを吹かし、吸い殻をあの家に捨てたその涼しい横顔と、「やっちまったねぇ」の一言。
ナトリ、君っていつも、そーゆーやつだよ。
左にいた涼しい顔のナトリが微笑んで、「綺麗なもんだ」とけっけと笑ってくれた真樹に。
手に持ってたガソリンタンクもライターもその家にぶん投げたんだ、俺は。
三人で背を向けて家から去った時の「一緒に住むか」と、「類友だな」が、何より心強かったのに。
どうしていま、こうしているのか。
「ナトリ、」
「なんだよ」
「このままだと俺はまた」
「はいはい。行くか。
なんか知らねぇけど真樹だろ」
「…うん。
なぁ、ナトリ」
「なによ今度は」
「俺、あいつに嫌いって言われたの。でも凄く苦しそうで、なんか、どうしたらいい。感情のバランスが、コントロールが、俺ってヘタクソなのかも。
本当はぶっ飛ばしたい。けど本当はもっと」
抱き締めたい。もういいよと。君の空虚を愛したいのだと。
しかしそれは言ってしまえば終わるような気がしている。だってこれってアブノーマル。でもどうしよう。本当は好きで好きで愛しくて、それを掻き乱せる、本質を引っ張り出せるあの男が怖くも憎たらしくて、でも、良い人だと認めていて。
どうしたらいいかわからない。
「…好きにしろよ。お前は止まらないんだ。吐けるもん吐けや。それがあいつにはないお前の特権じゃね?」
「…ナトリぃ」
「なんだよ」
「俺きっと出会う順番さえ違ければお前に抱かれてた~‼お前って良い奴だな」
「よくわかんねぇよ。はい、行くよ。どっち?」
「家」
「はい、早くも引っ越しだ」
ケツ叩かれた気分。
そうそう。だから俺は結局、あいつのケツまで叩きに行って漸く循環するのかもしれない。
ねぇ真樹、君は今何が言いたかったのさ。君はそれでも世界を、受け入れようとするじゃないか。
錯乱の中のそれでも、研ぎ澄まされた君の渇望は誰にもわからない。でも多分、ならば。
「っしゃぁ、行くか」
「おぉお、どうした」
「気合い入れた。俺なーんも悪くねぇ」
「うん。うーん?」
「ナトリ」
「はい、はいなんでしょ」
唖然とするナトリに勢いよく抱きついてしまった自分の姿を一瞬想像したが、そこは敢えてやり場はなくなるが押さえて両手を掴み、けど言葉なんて陳腐なものは出てこなくて。
ただ、睨むように見てしまう自分の喧嘩屋根性が妬ましい。本気で喧嘩をやめよう。だから。
「…ベース、っとっ、て、くだしゃい」
何故か泣いてしまった。
それを見たナトリはすべてを察するも、「ぷっ、は、はい、」と、吹き出した。
「練習だな」
猫背のせいもありひどく文杜が小さく見える。何度も頷く友人の頭に撫でるでもなく手を置いて、ナトリは後ろに放った。
「2ケツしろよな。荷物は佐川さんだな」
「この足で…族行ってこようか、と」
「マジかーじゃぁ変態オカモト、足として召喚だな。さぁ着替えて行こー」
何を伝えたいのか、何をしたいのか。
バカはバカなりに見てやろうじゃないか、先生。薬とかんなん、実はなくても精神なんて、安定するんだと言ってやるわ、バカめ。
乗り込むような気持ちで文杜が真樹に電話をすれば、出たのは変態非常勤だった。
『もしもし栗村だな』
「あんたがなんで出る」
『寝てるんでな。しかしお前ならまぁ、出なきゃならんかと。大方殴り込みにでも来る頃合いかと思ってな』
なんなんだこいつの読心術。
『いいぞ、来ても。
まぁ、今日は病院だがな。住む気になったか?』
「…あんた、なに考えてる」
『別に。気が向いた。それだけだ。
一緒になるなら丁度いい。まぁ来い。医院ちょ…』
電話の向こうの会話が途切れた。そして溜め息が聞こえる。微かに聞こえる耳障りな息遣い。
『真樹?』
『はぁ、うぅ、ふふっ、ねぇ貸して?だぁれ?』
それから少しの雑音と。
『はぁ、あっ、ぅみ…とぉ?あんた、はぁ、ろうしたって、ゆーん?』
なんだこの喘ぎ声みてぇな喋り方は。
「どうしたって、真樹、」
「あんたにゃぁ、きの、言ったらろ?嫌い。構わないで。はぁ、わからん?俺、いま、あっ、ううっ、はぁ、」
『喋んな真樹』
「うるしゃいわクソ医者ぁ!はぁ、てめぇの、せいで、息、で、出来ねぇわ、うっ、」
明らかにケータイが落ちた。それから。
「わかってるよ真樹。だから俺だって医者やってんだよクソガキがぁ!」
それからまた声がして。
『わりぃな栗村ぁ。そーゆーこった。変更だ。多分このままだと気絶させる。だから俺ん家にあっ、』
がしゃんと音がして通話が切れた。
「なんだってんだあのバカタレぇ…」
どうしてなんだ。
ただわかる。
あいつは結局一人じゃダメなんだよ。
「どーしたの文杜。凶悪だよより」
リビングでケータイをぶち壊さん勢いで握りしめる文杜を見て、朝風呂から上がったナトリが髪を拭きながら唖然として声を掛ける。その一言に漸く姿を確認して我に返る。
何をしている。
何を言う。
昨日見た赤い情景がチラついた。
それから相乗効果で思い出す、赤い炎に立ち尽くした自分。見上げた時、ぼんやりと隣に立ってタバコを吹かし、吸い殻をあの家に捨てたその涼しい横顔と、「やっちまったねぇ」の一言。
ナトリ、君っていつも、そーゆーやつだよ。
左にいた涼しい顔のナトリが微笑んで、「綺麗なもんだ」とけっけと笑ってくれた真樹に。
手に持ってたガソリンタンクもライターもその家にぶん投げたんだ、俺は。
三人で背を向けて家から去った時の「一緒に住むか」と、「類友だな」が、何より心強かったのに。
どうしていま、こうしているのか。
「ナトリ、」
「なんだよ」
「このままだと俺はまた」
「はいはい。行くか。
なんか知らねぇけど真樹だろ」
「…うん。
なぁ、ナトリ」
「なによ今度は」
「俺、あいつに嫌いって言われたの。でも凄く苦しそうで、なんか、どうしたらいい。感情のバランスが、コントロールが、俺ってヘタクソなのかも。
本当はぶっ飛ばしたい。けど本当はもっと」
抱き締めたい。もういいよと。君の空虚を愛したいのだと。
しかしそれは言ってしまえば終わるような気がしている。だってこれってアブノーマル。でもどうしよう。本当は好きで好きで愛しくて、それを掻き乱せる、本質を引っ張り出せるあの男が怖くも憎たらしくて、でも、良い人だと認めていて。
どうしたらいいかわからない。
「…好きにしろよ。お前は止まらないんだ。吐けるもん吐けや。それがあいつにはないお前の特権じゃね?」
「…ナトリぃ」
「なんだよ」
「俺きっと出会う順番さえ違ければお前に抱かれてた~‼お前って良い奴だな」
「よくわかんねぇよ。はい、行くよ。どっち?」
「家」
「はい、早くも引っ越しだ」
ケツ叩かれた気分。
そうそう。だから俺は結局、あいつのケツまで叩きに行って漸く循環するのかもしれない。
ねぇ真樹、君は今何が言いたかったのさ。君はそれでも世界を、受け入れようとするじゃないか。
錯乱の中のそれでも、研ぎ澄まされた君の渇望は誰にもわからない。でも多分、ならば。
「っしゃぁ、行くか」
「おぉお、どうした」
「気合い入れた。俺なーんも悪くねぇ」
「うん。うーん?」
「ナトリ」
「はい、はいなんでしょ」
唖然とするナトリに勢いよく抱きついてしまった自分の姿を一瞬想像したが、そこは敢えてやり場はなくなるが押さえて両手を掴み、けど言葉なんて陳腐なものは出てこなくて。
ただ、睨むように見てしまう自分の喧嘩屋根性が妬ましい。本気で喧嘩をやめよう。だから。
「…ベース、っとっ、て、くだしゃい」
何故か泣いてしまった。
それを見たナトリはすべてを察するも、「ぷっ、は、はい、」と、吹き出した。
「練習だな」
猫背のせいもありひどく文杜が小さく見える。何度も頷く友人の頭に撫でるでもなく手を置いて、ナトリは後ろに放った。
「2ケツしろよな。荷物は佐川さんだな」
「この足で…族行ってこようか、と」
「マジかーじゃぁ変態オカモト、足として召喚だな。さぁ着替えて行こー」
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