Slow Down

二色燕𠀋

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白昼夢の痙攣

※1

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 淀んだ空気だった。
 雨に湿って、空が暗くて。

 何日目だかわからない、張り付いた水蒸気が外を曖昧にしていて。

「はぁぁ、」

 狂ったような、湿ってざらついた舌触りも何日目だか、何時間目だかわからないけど。

「おぃ、クソガキぃ、」

 ぶっちゃけ最早、皮膚感覚はない。EDかもしれない。だって今自分は。

「なんかぁ、言ったらどがんねぇ?」

 目がラリってる。この男完璧にもう、イってしまっている。
 この、白髪混じりで無精髭の汚ぇ面したクソDV野郎。

「な゛っ、」

あ。
声が出ない。
そうか。

「ひっ、ひっひっひぃ、はっははははぁ!あぁ、そーか、てめえ、声出なかんか、ずっちあんあん泣いよったからなぃ!」

 うるさい。

「なんやそん、反抗的な目はぁ、あ?」

 自分の両足を掴んでいた男のその両手が離された。眉間に皺が寄っている。

 殴られる、そう思った瞬間。

「あぐっ、」

 呼吸が、呼吸気管が物凄い力で圧迫され、そこから再び、ゆらゆら動き出した男の、裸体。

「あ゛っ、まっ、」

殺してやる。
殺してやりたい。
ここには、ついこの前までそう、

「はは、あんおなごしっち同じ顔だ」

息が止まった。そして。

「や、め、」

 その、首に伸ばされた男の片腕を引っ掻くように掴めば、男は楽しそうに笑い、ふとテーブルを見て、そして。

「いっ、」

 カッターナイフを片手で掴み。
 その手で軽々と自分の腰を上げた、深く、深く欲望が踞って息が止まった。

 かと思えば冷たい感触。腹の左側、急な寒気が背筋を襲い、

「い゛っ、いぁぁぁぁ!」


 起き上がった。

 見慣れない天井、けど見慣れている。
病院だ。どうやら一人。

「はぁぁ、あぁ、」

 息は上がっている、動悸もしている。

 止めどなく涙が、蛇口の壊れた水道のように溢れて。
 しかし声は出ていかない。頭がそこまで着いていかない。

「うぅぅ、」

 こんなときに浮かぶのは皮肉にも、『真樹、静かに…大丈夫、大丈夫…』母親の、頭を抱え込んでくれた不安定で震える両手と堪え忍ぶ表情で。

「大丈夫、大丈夫…、」

 倒れ込むように再びベットに寝転んだ。
 体を小さく抱えるようにして、しかし少しの微睡みが。

 心底、どうでも良い。

 あん時死ななかったとか、んな排他的なことなんざぁ、今更どうでも良いんだよただどうしてこうも世界ってぼやけてんのかよくわかんねぇ。ダルい。ホントクソみてぇに滅菌されやがってこの箱みてぇな空間。俺は何だってんだよ、白点病はくてんびょうの金魚かよメチレンブルー?んなもんに浸け込まれてるあいつらの身にもなってみろよ気が狂ってくるくるくるくる、いつの間にか死んでんじゃねぇかよ、でも俺は死ねねぇ、なんだっつーんだ毎晩毎晩この野郎が。ああああぁ!

 寝ていられない。気が狂いそう。
 また起き上がってみたけど勢い余ったせいか目の前にステレオグラムのような景色が広がってくらくらした。その事情にまたぼんやりしてしまい、考えは止めどない。

 メチレンブルー、何故あんな色してんだ。空よりももっと青い、病的で忘れられない色。
 血の色と逆だ。これはまさしく。

 やっぱ2錠とか調子こいた事を言った自分が悪いな。効いてしまった。物凄く良い夢たくさん観れたじゃねぇか、よーちゃん。

よーちゃん、どうしてあんた、そう。

「はぁぁ、」

 大丈夫、大丈夫。

「ぁいじょぶあんかじゃねぇし…」

 母親ももしかすると俺にとっては。
 疾患だったのかもしれない、下手すると。そんな気がして仕方ない。じゃなけりゃこんなに、苦しいわけがないんだ。あれから1年経って、こうして。

 凄く綺麗だったんだ、でも痛々しかったんだ。
 最後までそれは変わらなかった。

 だけどいつも笑顔でいてくれようとした。ただ本当に男運がなかったんだよ、母さん。あんなクソ野郎と籍すら入れずずっといて、こんなクソ息子産んで一人で、一人で…。

 わかってなんてやれないよ。俺ならあんな男殺してやる、殺せなかったのは力だ。
俺ならこんなクソ息子、川に流して捨ててやる。
 何故愛せたの、どうしてなの。俺は自分がこうも嫌いで仕方がなくて。

『真樹は優しい子だから』

 何がなの。こんな気が狂っただけの擦れきったガキ、なんなの。やめてよ。いっそ捨てて欲しかった。けど母さん、『だから好きよ、大好き』その笑顔が忘れられないよ。

「うぅぅ…」

 誰も聞いていない真樹の嗚咽は滅菌される。響いて、外には、出て行かない。
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