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白昼夢の痙攣
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「あぁ、思い出しちゃった」
ふいに文杜が、言った。
正直、前屈みだし寝ているのかとナトリは思っていた。それくらいに文杜は微動だにしなかったのだけど。
「なんであんなリアルだったのかなぁって思ったら」
「…起きてたのかお前」
「寝れないよ。
ねぇ覚えてる?あの時のさ」
「どの時だよ」
「真樹が3日無欠したやつ」
「やめろよ、いまそれ」
「暇潰し。
あの時真樹の家行って、よかっなぁって今思っちゃったけど」
「うん」
「人でなしだよね」
俺が。
それは続けられなくて。
ナトリにも浮かんだ景色。
赤いカッターを握ってラリった父親に組敷かれた、制服を着ているのだか着ていないんだかわからない状態で、所謂犯されていた、死んだ目をした真樹。恐らくは気を失い掛けていて。腹から血を流していた。
そこで発覚したのだ、真樹の母親がいなくなっていること。
あれから、未成年であり他人であるナトリも文杜も真の真相は知らない。だが、母親殺人容疑で真樹の父親が逮捕された、それだけは確かで。
「あん時さ、あの野郎ぶっ飛ばした時、真樹さ、その、なんか、笑ってくれた気がしたの、ねぇ、でも、俺」
「うん、うん」
「すっごいなんかさぁ、真樹、これなに?って、なんか笑っちゃうくらい、もう」
「わかった、わかったから」
好きなのはわかったよ。
もう前からわりとわかってんだよこっちは。
「確かに、怖かったよな。多分真樹は、そうか死ぬのかって。
でもわかる気がする。死ぬ前の人って不思議と、綺麗に見えるけど、俺は嫌だった。まだ殺したくねぇって思ったから色々違うこと考えたさ。痣が痛々しいなとか、辛いだろうとか」
「ナトリは、なんて優しいの」
「まぁね。俺って半分優しさで出来てるってばあちゃんが」
「それバファリンだよ、鎮痛剤だよ」
「じゃぁ俺違うな。別に誰の鎮痛剤でもないからな」
なにそれ。
「すげえセンスある」
「あ?あそう?まぁね。俺ってそういうこと言われちゃうとブルース・リーにもなれちゃう気が」
「死ねば良いね」
「上げて下げた。飴と鞭。日本人の典型的な嫌なヤツ~!」
「お前露骨な台湾の楽天家~!でも毒舌!」
しかしまぁ。
おかげで鬱とかマジぶっ飛ばして山に埋めてやろうか、くらいの体力にはなったかも。眠いけど。お互いに眠いけど。
時間は午前1時を過ぎている。
一体、一之江の引き取り人兼、真樹の色々をどうやら引き受けてくれたらしい“サイトウヨシミ”なる人物、誰なんだ、いつ来るんだ。
「現地で本人から聞きますよ、叩き起こしてね…だそうです」と看護婦に言われたが。
一之江の彼女だったらぶっ飛ばすのは躊躇われる、と言うか女は殴ったらあかんと真樹の父親を見ても思うし、ナトリばあも言っていた。
ちなみに栗村家は暴力全面否定、というより暴力と無縁だったはずの家だった。
だから会社倒産して借金を負い突然のヤクザやらに対抗出来なかったのだけど。
「オカモト彼女遅いなぁ、」
まぁいい。
叩き起こす、とか言ってるくらいの女だ、なんとなく来たら起きるだろう。
そう踏んで二人はどちらともなく寝た。肩を寄せ合って。
しかしそれから間もなくだった。
パタパタと忙しない音がして。見れば、看護婦が駆けて行き。
「あぁ、遅くまで友人がすみません。死にました?」
と、肩幅広くがたいの良い、病院には似つかわしくないような派手なライブTシャツ、その上にペラペラなジャケットを羽織った“THE パンクロッカーのベース”みたいな黒髪癖っ毛な20後半くらいの男が、看護婦ににっこりと笑った。
まさかと思うがあれか?サイトウヨシミ。
「あの…」
「すみません、成田から急遽来たので遅くなってしまいました。見てくださいよこれ、ポール。ライブ帰りで。
あれ?知らない?ポール・マッカットニー。彼、かっこよかったなぁ、これ早く話したいので陽介のとこ、案内してください!」
やっぱり!
「あ、はい、あの…」
「あぁ、そっか!すみません!
友人のサイトウです。大丈夫です、彼の財産パクリに来たわけではないので。まぁ少しくらいはこの件ツケて会社建てるのに頂いちゃいますけどねぇ」
「あの~」
非常に会話に入って行きずらい中、ナトリは意を決して立ち上がり、立ち向かった。
ふと視線をずらしたサイトウが「うわぁ、お化け!」と漫画のようなリアクションを見せてくれた。
なんて失礼な。しかし。
「あれ?陽介?」
ちげーよ。
「なぁんだ居たの!ねぇねぇ見て見てポール!ってか元気そーじゃない、久しぶりぃ、ねぇ来てあげたんだから500万くらい貸してよー」
とか言ってサイトウヨシミ、ナトリの両肩バシバシぶっ叩いて。
「どう見てもちげーだろド近眼」
廊下に低い声がした。
声の方を向けば一之江が、入院患者用の浴衣姿でドアに凭れてタバコを吸っていた。
「一之江医院長っ、」と看護婦がそれを制するより早くサイトウ、跳ねるように膝蹴りを一之江にかまそうと突進して行った。
しかし一之江、「危なっ、」と、パシッと足を払い退けるようにタバコを持っていない左手でぶっ叩いて防御。
「陽介~ぇ!元気だったぁ!?」
「元気じゃねぇだろこれ。まぁ元気元気。お前ほどじゃないよよっちゃん」
文杜もナトリも驚愕。
なにこいつら。やべぇ。変人増えた。二人じゃ太刀打ちできない。
ふいに文杜が、言った。
正直、前屈みだし寝ているのかとナトリは思っていた。それくらいに文杜は微動だにしなかったのだけど。
「なんであんなリアルだったのかなぁって思ったら」
「…起きてたのかお前」
「寝れないよ。
ねぇ覚えてる?あの時のさ」
「どの時だよ」
「真樹が3日無欠したやつ」
「やめろよ、いまそれ」
「暇潰し。
あの時真樹の家行って、よかっなぁって今思っちゃったけど」
「うん」
「人でなしだよね」
俺が。
それは続けられなくて。
ナトリにも浮かんだ景色。
赤いカッターを握ってラリった父親に組敷かれた、制服を着ているのだか着ていないんだかわからない状態で、所謂犯されていた、死んだ目をした真樹。恐らくは気を失い掛けていて。腹から血を流していた。
そこで発覚したのだ、真樹の母親がいなくなっていること。
あれから、未成年であり他人であるナトリも文杜も真の真相は知らない。だが、母親殺人容疑で真樹の父親が逮捕された、それだけは確かで。
「あん時さ、あの野郎ぶっ飛ばした時、真樹さ、その、なんか、笑ってくれた気がしたの、ねぇ、でも、俺」
「うん、うん」
「すっごいなんかさぁ、真樹、これなに?って、なんか笑っちゃうくらい、もう」
「わかった、わかったから」
好きなのはわかったよ。
もう前からわりとわかってんだよこっちは。
「確かに、怖かったよな。多分真樹は、そうか死ぬのかって。
でもわかる気がする。死ぬ前の人って不思議と、綺麗に見えるけど、俺は嫌だった。まだ殺したくねぇって思ったから色々違うこと考えたさ。痣が痛々しいなとか、辛いだろうとか」
「ナトリは、なんて優しいの」
「まぁね。俺って半分優しさで出来てるってばあちゃんが」
「それバファリンだよ、鎮痛剤だよ」
「じゃぁ俺違うな。別に誰の鎮痛剤でもないからな」
なにそれ。
「すげえセンスある」
「あ?あそう?まぁね。俺ってそういうこと言われちゃうとブルース・リーにもなれちゃう気が」
「死ねば良いね」
「上げて下げた。飴と鞭。日本人の典型的な嫌なヤツ~!」
「お前露骨な台湾の楽天家~!でも毒舌!」
しかしまぁ。
おかげで鬱とかマジぶっ飛ばして山に埋めてやろうか、くらいの体力にはなったかも。眠いけど。お互いに眠いけど。
時間は午前1時を過ぎている。
一体、一之江の引き取り人兼、真樹の色々をどうやら引き受けてくれたらしい“サイトウヨシミ”なる人物、誰なんだ、いつ来るんだ。
「現地で本人から聞きますよ、叩き起こしてね…だそうです」と看護婦に言われたが。
一之江の彼女だったらぶっ飛ばすのは躊躇われる、と言うか女は殴ったらあかんと真樹の父親を見ても思うし、ナトリばあも言っていた。
ちなみに栗村家は暴力全面否定、というより暴力と無縁だったはずの家だった。
だから会社倒産して借金を負い突然のヤクザやらに対抗出来なかったのだけど。
「オカモト彼女遅いなぁ、」
まぁいい。
叩き起こす、とか言ってるくらいの女だ、なんとなく来たら起きるだろう。
そう踏んで二人はどちらともなく寝た。肩を寄せ合って。
しかしそれから間もなくだった。
パタパタと忙しない音がして。見れば、看護婦が駆けて行き。
「あぁ、遅くまで友人がすみません。死にました?」
と、肩幅広くがたいの良い、病院には似つかわしくないような派手なライブTシャツ、その上にペラペラなジャケットを羽織った“THE パンクロッカーのベース”みたいな黒髪癖っ毛な20後半くらいの男が、看護婦ににっこりと笑った。
まさかと思うがあれか?サイトウヨシミ。
「あの…」
「すみません、成田から急遽来たので遅くなってしまいました。見てくださいよこれ、ポール。ライブ帰りで。
あれ?知らない?ポール・マッカットニー。彼、かっこよかったなぁ、これ早く話したいので陽介のとこ、案内してください!」
やっぱり!
「あ、はい、あの…」
「あぁ、そっか!すみません!
友人のサイトウです。大丈夫です、彼の財産パクリに来たわけではないので。まぁ少しくらいはこの件ツケて会社建てるのに頂いちゃいますけどねぇ」
「あの~」
非常に会話に入って行きずらい中、ナトリは意を決して立ち上がり、立ち向かった。
ふと視線をずらしたサイトウが「うわぁ、お化け!」と漫画のようなリアクションを見せてくれた。
なんて失礼な。しかし。
「あれ?陽介?」
ちげーよ。
「なぁんだ居たの!ねぇねぇ見て見てポール!ってか元気そーじゃない、久しぶりぃ、ねぇ来てあげたんだから500万くらい貸してよー」
とか言ってサイトウヨシミ、ナトリの両肩バシバシぶっ叩いて。
「どう見てもちげーだろド近眼」
廊下に低い声がした。
声の方を向けば一之江が、入院患者用の浴衣姿でドアに凭れてタバコを吸っていた。
「一之江医院長っ、」と看護婦がそれを制するより早くサイトウ、跳ねるように膝蹴りを一之江にかまそうと突進して行った。
しかし一之江、「危なっ、」と、パシッと足を払い退けるようにタバコを持っていない左手でぶっ叩いて防御。
「陽介~ぇ!元気だったぁ!?」
「元気じゃねぇだろこれ。まぁ元気元気。お前ほどじゃないよよっちゃん」
文杜もナトリも驚愕。
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